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第140話 敵の司令官を討ち取っていた

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 敵のザイード軍の残党の追討もほぼ終了して、戦場に散らばっていた我々の軍が俺のいる場所に向かって集結してきた。

 武装を解除されて俺達の軍に囲まれて歩いてくるのは、降伏して我が軍の捕虜になったザイード軍の兵士達だろう。敵に勝利して晴れやかな顔をした俺達の軍の兵士に比べて、ザイード軍の兵士達は顔を下に向ける者が多く表情に生気がない。この戦いで敵の軍は大損害を受け、軍としての形はほぼ壊滅に近い状況になっているからな。

 我々の作戦が上手くいったのがその最大の理由だが、それだけでなくお互いの軍の練度や士気の高さなどを比べると、我が軍の方が数段上だったというのもここまで大きな差がついた理由ではないだろうか。

「カウン将軍とゴウシ将軍、ベルマン将軍が戻ってまいりました。ジゲル将軍はそのまま現場に残って掃討の指揮を取っています」

 我が軍が誇る将軍達が報告に戻ってきたようだ。

「兄者よ、それがし只今戻りましたぞ」
「ヘヘ、エリオの兄貴よ。おいら戻ってきたぜ」
「ガッハッハ。大変だったけど俺も頑張った甲斐があったぜ」

「皆、よくやってくれたな。事前の作戦段階ではきっと上手くいくだろうと予想が出来ても、実際に戦ってみるまではどうなるか正直わからなかった。でも、皆の奮闘のおかげでザイード軍を粉砕撃滅するという、これ以上はない程の見事な戦果を上げる事が出来た。心から礼を言わせてもらおう。ありがとう」

「兄者よ、礼には及ばないですぞ。それがし達は自分達の役目を果たしただけです。それも兄者の為ならと、皆が兄者の下で結束して立ち向かったからこそのこの勝利ですからな。そもそも、面と向かって兄者に礼を言われるとそれがしは照れ臭くてかなわん」

「カウンの兄貴の言う通りだ。礼なんて言われたらおいらも照れ臭くなるぜ」

「ガッハッハ。ゴウシでも照れ臭いという感情があるんだな」

「おい、ベルマン。それはちと言い過ぎだろうが。おいらだってそれくらいの分別は持ってるぜ。全くおいらを何だと思ってるんだ!」

「礼の気持ちは俺の本心からだから素直に受け止めてくれ。ところで、簡単でいいから戦果報告を頼むよ」

 これからの行動を決める上でも戦果を把握しておかないといけないからな。そして最初に手を挙げて報告を始めたのはカウンさんだ。

「兄者よ、まずそれがしから報告させてもらおう。山を降りて敵の本体の横っ腹に騎馬隊で突撃した成果は素晴らしく、慌てふためいた敵の兵達は混乱状態になり申した。その後は騎馬隊の攻撃に少し遅れて歩兵達も敵に攻撃を始めたので、終始有利に戦う事が出来ました。ゴウシやジゲル、ベルマンにロドリゴなどの奮戦もあり、追撃も含めたら敵の多くを倒したと思われます」

「おお、それは凄いな」

「エリオの兄貴、次の報告はおいらでいいかい?」

「そうだな。報告を始めてくれゴウシ将軍」

「あらましはカウンの兄貴が言った通りで間違いないや。ところで、おいら達の軍が追撃をかけた時に、護衛達に囲まれた身分の高そうな奴が逃走しようとしてたのが見えたんで追っかけて討ち取ったんだよ。周りの護衛が司令官とかカムダン様とか言ってたんだ。そいつを倒してきた証に家名が入った盾と短剣を持ってきたんだが、本当にそいつが司令官みたいな身分の高い奴だったのかザイード軍の捕虜に聞いて欲しいんだけどな」

 敵の司令官らしき人物か。生け捕ってきてこちらの陣営に加わる事になった将軍ならきっとわかるだろう。

「おーい、俺達に降ったブンツを呼んできてくれ。あそこに居る一団の中にいるはずだ」

 親衛隊の隊士に命じてブンツを呼んできてもらう。ゴウシ将軍が倒したのが敵の軍団を率いていた司令官なら華々しい戦果だからな。

 暫くすると、ブンツが隊士に伴われてこちらへやってきた。さっき俺達に降って暫定的ながら仲間になるのが決まったのに、またすぐに理由も知らされずに呼び出されて不安気な表情をしているな。

「呼ばれたのでこちらに赴きましたが用とは何でござろうかエリオ殿」

「ハハ、心配しなくていい。ちょっと確認してもらいたい用件があったので呼び出したのだ。ついでにもう一度ブンツを戦場から戻ってきた俺の軍の将軍達に紹介しようと思ったんだよ。ここに居るのが我が軍の第一軍、第三軍、第六軍をそれぞれ率いるカウン将軍、ゴウシ将軍、ベルマン将軍だ」

「そうでございましたか。私は本日よりエリオ殿の配下になったブンツと申します。エリオ殿に勧誘されてザイード軍を離れ、本日よりエリオ殿の忠実な配下になる事を決めました。先程までは敵と味方で分かれて戦っていたので、皆様には私に対して何かと思うところがありましょうが、此度より仲間共々エリオ殿の配下の末席に加わりましたのでどうかよろしくお願い申す」

「兄者が自らお主を誘って我が陣営に加えたのならそれがしも喜んで受け入れるだけだ。兄者は器が大きくて魅力溢れるお人だからな。お主もこれからは我が陣営の一員として我々と同様に兄者に忠誠を尽くしてくれ」

「カウンの兄貴の言う通りだぜ」
「ガッハッハ。俺はベルマンだ。よろしくな!」

「皆様ご配慮忝ない。エリオ殿を主と仰いだからには忠誠を尽くすのが配下の役目。末席ながら皆様のお役に立てるように頑張る覚悟です」

「さて、顔合わせも済んだ事だし本題に入ろう。ブンツよ、俺の配下のゴウシ将軍がザイード軍の司令官らしき者を討ち取ったらしいのだが、それの真贋をおまえに確かめて欲しいのだ。ここにその倒した男から剥ぎ取ってきた盾と短剣があるので確かめてもらえないか?」

 俺に促されたブンツが配下から手渡された盾と短剣を手に取り詳細に確かめる。

「討ち取った方にお聞きしたい。その人物の特徴は?」

「おいらが倒した相手は太っていて口ひげを生やした偉そうなおっさんだったぜ」

「それなら間違いありません。これはザイード軍を率いていたカムダン司令官の物です。前に何かの機会で自慢気に見せてもらった事がありますのでよく覚えております。確かにこの戦場に来る時もこの短剣を腰に付けているのを確認しております。有能かどうかは別にして、カムダン司令官はザイード軍の中枢を担う人物でしたので、彼がいなくなったのはザイード軍にとっては大きな痛手になるでしょう」

 やっぱりそうだったか。ゴウシ将軍が倒したのは司令官という立場の人物で間違いなかったのだな。ほぼ完勝とも言える結果に俺は再度喜んだのだった。
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