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第138話 ゴドール軍が攻勢に転じる、そして生け捕り成功

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 いきなり頭上から降り注いできた弓矢の攻撃に、ザイード軍の司令官のカムダンは何が起こったのかわからなかった。

 味方の兵が目の前でどんどん倒れていく。矢が放たれた方向を見ると、山の斜面を騎馬に乗った兵士達が次々に駆け下りて来ている姿が見えた。ただでさえ混乱しているザイード軍に騎馬隊の突撃を食らったらと思うと、背筋に戦慄が走っていくのがはっきりと感じられた。

「な、なんて事だ……誰かあの敵を食い止めよ!」

 そう叫んでみたものの、カムダンの周りにいる者達も冷静さを失っており、その声にすぐに反応出来るような者は居なかった。

 ◇◇◇

 よし、カウンさんとゴウシさんの突撃は大成功だ。戦場を見渡せる位置から山を駆け下りてくる味方の軍の動きを眺めていた俺はそう確信した。その証拠に敵のザイード軍は何も出来ないまま味方の騎馬隊の前に蹂躙されている。

 今こそ一気に反転攻勢を仕掛ける時が来た。俺は前方に展開している味方の軍に向かって大声で指示を出した。

「全軍進め! ここが勝負どころだ!」

「「「応ッ!!!」」」

「ルネ! おまえも参戦してこい。もしも敵の将らしき者がいたら生け捕りにしてきてくれ。既にロドリゴにも同じ内容を伝えているからおまえはロドリゴとは別の方向へ向かえ。カウンさんとゴウシさんに敵の将が討ち取られる前にな。多少傷つけても構わないぞ!」

「承知しました!」

「そうだ、ルネは少し待っていろ」

『コル、マナ。おまえ達にも役目をやろう』

『はい、主様』
『エリオ様、何でしょうか?』

『コルはロドリゴの補佐だ。ロドリゴが敵の将を見つけて戦いだしたら周りに邪魔されないように敵を片付けてくれ。こちらの兵士は体のどこかに白い布を巻いてるから敵味方の区別はつくはずだ』

『わかりました! ロドリゴさんを助けてきます』

『マナはルネの補佐をしてこい。役目はコルと同じようにルネが敵に邪魔をされないように補佐をしろ。頼んだぞ!』

『はい、ルネさんに近づいてくる敵を倒せばいいんですね。私には簡単な事です』

 ハハ、たぶん俺の従魔に任せても敵の将を簡単に生け捕りに出来るだろうが、それだと配下の者達が戦功を上げられないからな。コルとマナには縁の下の力持ちの役割をお願いしよう。

「ルネ。おまえには護衛としてマナを付ける。雑兵はマナに任せていいから、おまえは敵の将を探して生け捕ってきてくれ」

「エリオ様、ご配慮忝ない。マナ殿よろしく頼む!」

「よし、行って来い!」

 俺がそう言うと、ルネとマナは翔ぶように駆けていった。戦っている敵味方の兵士達に紛れてすぐにその姿が見えなくなっていく。だが、おそらくルネとマナの攻撃を受けた敵の兵士達だと思うが、断続的に宙を舞って飛ばされているので大体の位置はわかる。

 ルネ達とは別の方向に目を転じてみると、大きく長い黒槍がくるくると振り回されている場所の近辺でも敵の兵士達が飛ばされている姿が見えるので、たぶんロドリゴとコルがあそこにいて敵を蹴散らしているのだろう。

「ラモンさんの目から見てこの戦いの決着のつけ方とその先をどうするべきだと思う?」

 俺の傍らにいて戦況確認と分析をしているラモンさんに、この戦いとその先について率直な意見を問いかけてみた。俺の質問に対して暫く無言で考えていたラモンさんだったが、考えが纏まったのかその口を開いて自分の考えを語りだした。

「そうですな。私の見るところ十中八九この戦いは我が軍の勝利になるでしょう。ただ、エリオ殿が局地的な勝利を望むのか、それとも戦略的な勝利を望むのかでこの先の対応が違ってきます。エリオ殿には何かしらの考えがあると思いますが、私はそれを聞きたいですな」

「そうだね。ただこの場で敵を撃退するだけでなく、余勢をかってこちらから逆にクライス地方に攻め込もうと思っている」

「向こうから攻めて来てくれたおかげで我らとしては逆に今がクライス地方に攻め込む好機ですからな。攻め込むだけの理由をあちらが用意してくれましたしな。それを見越して兵糧と物資はたっぷり用意しておりますのであと数ヶ月は余裕で戦えますぞ」

「ああ、カレルさんと優秀な内政官の働きのおかげで物資は潤沢にあるからね。戦略上の兼ね合いから一気に敵の戦力を大きく削ぐのが目的にあったので、ラモンさんには無理を言ってそれに相応しい場所と作戦を共同で考えてもらったという訳だ。それも強くて信頼出来る我が軍の存在があってこそだけどね」

「天候や地形、兵の強さや士気、戦いに必要な十分な備えなどがあれば何とかなるものですな」

「ラモンさん。まだ完全に勝った訳じゃないから油断は禁物だよ」

「これは申し訳ない。確かにその通りですな」

 俺はラモンさんに戒めのような言葉を言ってみたものの、戦いの趨勢が決しようとしてるのは誰の目から見ても明らかな状況になっていた。左右の山から駆け下りて攻撃を開始した第一軍と第三軍の参戦は、この戦いの行方を決定づけるほどの打撃をザイード軍に与えていて、崩れ出したザイード軍は我が軍に一方的に狩られるだけの的になっていた。

「敵の将を生け捕ったっす!」

「「「うおおお!」」」

 敵味方の兵士達がひしめき合う戦いの場からロドリゴの叫ぶ大きな声が聞こえてきた。どうやら敵の将を生け捕ったようだ。ロドリゴの声に反応した味方からは大歓声が沸き起こる。

「私も敵の将を生け捕ったり!」

「「「うおおお!」」」

 今度は別の場所からルネの大きな叫び声が聞こえてきた。おー、こちらも敵の将を生け捕ったのか。ルネの声に反応した味方がさっきと同じように大歓声を上げて囃し立てる。

 自分達の将が生け捕りにされて、敵の士気が見るからにガクッと落ちているのがここからでも確認出来る。ここは一気に畳み掛けるべきだ。

「皆の者、敵の士気はどん底だ! 攻めて攻めて攻めまくれ!」

「「「応ッ!!!」」」

 激しく攻勢に出た俺達の軍は一方的に敵を駆逐していくのだった。
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