上 下
130 / 167

第130話 男同士で密談

しおりを挟む
 俺が領主館の執務室で書類と格闘していると、そこへラモンさんが今日の予定を済ませて帰ってきた。

「エリオ殿、只今戻りました」

「お帰りなさいラモンさん。ご苦労さま」

 なにげなく帰ってきたラモンさんの表情を見てみると、厳しい顔つきで何か考え込んでいるようだ。

「ラモンさんどうした?」

「先程までグラベンの街にある商会主達と会っていたのですが、クライス地方からの鉱石の購入取引が数日前から出来なくなっていると報告をうけましてな。その他にも今までクライス地方から買えていた品物が取引出来なくなっているらしいのです」

「それはたまたま重なったトラブルなのか、それとも意図的なものなのか。ラモンさんや情報部の分析はどうなんだ?」

「はっきり言いましょう。これはクライス地方のザイード家による意図的な品止めと見て間違いないでしょう」

「やはりそうか」

 この前、ザイード家からの公式な使者がこのゴドールに正式に訪問してきたのは覚えているだろう。その時の話し合いでザイード家の使者は、無謀で到底受け入れがたい要求を突きつけてきたので、使者と言い合いになり追い返す形で喧嘩別れに終わったのだったな。

 ザイード家とはあえて政治的な付き合いはしていなかったが、民間レベルの経済活動は両地方で行われているのが当然であり、品物の取引は普通に問題なく続けられていた。それがここにきてこの品止めとはな。俺は丁度グラベンに来ているカレルさんを呼び出す為に配下に指示を出して呼びに行かせた。そして、俺とラモンさんは奥の小部屋に向かって行った。

「それで、ラモンさん。その品止めによる影響はどれくらいありそうなんだ?」

「詳細は詳しく分析してみないとわかりませんが、鉱石関連は他の地域からの代替が出来るように進めておりましたので二割減くらいで収まりそうです。その他の穀物や食糧関係は、この前平定したエルン地方という穀物の大生産地があるおかげでほとんど影響はないと思われます」

「やはり、穀物や食糧関係はエルン地方の存在が大きいね。エルン地方を支配した青巾賊を住民達の要請を受けて討伐してうちの領地に組み込んでおいて良かったよ。それにこういう事態を想定して対応策を用意してきた甲斐があったというものだ。何かあった時の為に複数の手段や方法を確保しておくのは安心安全に繋がるからね」

「誠にその通りですな」

「それでラモンさん。こちらの方からは何が出来る?」

「そうですな。まず金関連は勿論ですが、その他には織物関係の品物の取引停止。それと水運を利用した後に陸路でクライス地方に運ばれる油と塩などの品止めですかな。ゴドールを経由していく油は、クライス地方で使用する油の七割ほどを占めていますので大きな影響があるはずです。その分は他の地方に売り先を斡旋するか、備蓄分として買い取っておきましょう」

「わかった。それでいこう」

『コン、コン、コン』

 俺とラモンさんが密談をしていると、執務室内の小部屋のドアが外から叩かれた。

「誰だ?」

「エリオの兄さん。俺だ、弟分のカレルだ」

「カレルさんか、入っていいよ」

 ドアを開けて部屋の中に入ってきたのは厳つい顔つきのカレルさん。俺の弟分でありここら一帯の水運を仕切っていて、何でも屋のような裏仕事も嫌な顔をせずにやってくれる頼れる存在だ。

「兄さんだけでなく、ラモン長官も居るって事は重要な話の途中かな?」

「ああ、その通りだ。そこでこの件でカレルさんに頼みたい事があるんだよ」

「エリオの兄さんの為ならどんな事でもやりますぜ」

 俺はカレルさんにクライス地方から入ってくるはずだった商品の品止めについて話し、その替えとなる品物の確保と安定供給をお願いした。それに加えて対抗手段としてこちらから品止めをする商品のリストを教えて、それらに必要な細かい手続きをラモンさんを交えて話し合った。

「へい、他の地方への斡旋は任せてください。商売柄、様々な地方との深い繋がりがありますのでね。この程度なら余裕で捌けますぜ。ザイードの連中の思い通りにはさせません」

「さすがカレルさん、頼もしいね」

「エリオの兄さんに頼られるなんて男冥利に尽きやすぜ」

「ああ、俺はいつだって頼りにしてるよ」

「ところで兄さん、こりゃどう見ても本格的な喧嘩になりそうですがどうするんで?」

「そうだね。最初のコンタクトから向こうはこちらの領土を狙っているのが丸分かりだったからね。向こうの言い分はこちらの一方的なデメリットにしかならないしふざけた内容だ。そもそも、俺は過去にガウディ家が最後に掴み損ねた栄光を出来るなら取り戻したいと思っている。その目的の為に必要ならばどんな相手でも戦うつもりだしその覚悟もある」

「わかりやした。俺はエリオの兄さんの覚悟が知りたかったんですよ。兄さんの本心というか、胸の内の覚悟が聞けて安心しました。俺はどこまでも兄さんの味方ですぜ」

「そう言ってもらえると嬉しいよ。ありがとう」

 以前、ロイズさんに招待を受けてサゴイに行く途中、人助けがきっかけでカレルさんと初めて会い、いきなり土下座されたり兄弟分になった出来事を思い出しながら、頼れる仲間達がいるのは俺にとって何ものにも代えがたい大きな財産だとしみじみと感じていた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

星詠みの東宮妃 ~呪われた姫君は東宮の隣で未来をみる~

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:319pt お気に入り:198

もう我慢しなくて良いですか?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,215pt お気に入り:96

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:205pt お気に入り:4,849

亡き妻を求める皇帝は耳の聞こえない少女を妻にして偽りの愛を誓う

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:6,497pt お気に入り:796

悪役令嬢と弟が相思相愛だったのでお邪魔虫は退場します!どうか末永くお幸せに!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:376pt お気に入り:3,902

大魔法師様は運命の恋人を溺愛中。〜魔法学院編〜

BL / 連載中 24h.ポイント:681pt お気に入り:4,462

僕はボーナス加護で伸し上がりました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,733pt お気に入り:262

手乗りドラゴンと行く追放公爵令息の冒険譚

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:4,843pt お気に入り:2,490

【毎日更新】元魔王様の2度目の人生

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:349pt お気に入り:92

処理中です...