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第110話 紹介状
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ナダイの街を開放して約一ヶ月後。
「エリオ様にご報告があります」
「うん、どんな報告かな。そこで話していいよ」
遠征中のエルン地方ナダイの街にある領主館跡で執務をしていた俺の元へ配下の者が駆け込んできた。さて、嬉しい知らせか悪い知らせのどちらだろうか?
「それではご報告致します。エルン北部に残っていた青巾賊残党の掃討が第一軍と第二軍の働きにより完了しました。これでエルン地方全域は我がゴドール軍によって完全に平定されました」
「「「おお!」」」
良かった、良い知らせの方の報告だったようだ。
ラモンさんを含めた執務室内にいた配下達からも大きな歓声が上がる。
「そうか、とうとうエルン地方は我らの手によって平定されたか。報告ご苦労だったな。下がっていいぞ」
「やりましたなエリオ殿。エルン地方の平定おめでとうございます」
「「「おめでとうございます」」」
「ありがとう。これも皆の働きによるおかげだよ」
実際のところ、今回のエルン平定戦では俺はまともに戦っていないからな。自分で何でもやろうとしないで、優秀な部下や配下を信頼して仕事や役割を任せる場面を意識的に多くした。将来を見据えれば自分や側近の数人だけで全てを動かすのでなく、より多くの人材に様々な運営に関わってもらって各々が責任と自覚を持ってもらう方が何かあった時の為の備えになる。それに簡単に見えるような仕事や役割でも実際にやってみると結構大変なものだというのを配下達に身をもって知ってもらいたいのもあるんだ。
最重要な決定は俺自らが判断を下すけれど、それ以外の配下の裁量範囲内で片付くような判断や決定などを一々俺にお伺いを立てるようでは、何かあった時に自分で判断が出来ずに臨機応変の対応が出来なくなるからね。
「これでエルン地方全域での復旧復興計画が本格的に始動出来ますな」
「そうだねラモンさん。この地方から脅威がなくなったのでゴドールから大量に資金を投入して復旧復興に力を入れる事が出来る。人員の手配や仕事の割り振り、そして住民達への支援や仕事の世話なども内政官達を総動員して進めてもらえるかな。安心と安全を提供すれば住民達も不安が消えて心強いと思う」
「このエルン地方で新たに登用した者にも役割りを与えましょう。その人材配置は私と内政官達に任せてもらってもよろしいですかな?」
「うん、頼むよ。必要な材料などはカレルさんに頼んで用意させる。お金も出し惜しみせずにどんどん使ってくれ。最初はこちらからの持ち出しばかりだろうけど、ここでの投資が将来は何倍にもなって帰ってくるはずだ。細かい指示はラモンさん達で出しておいてくれ」
すぐに部屋の中にいた内政官達に指示を出しているラモンさんを見ながら、俺も妊婦の妻達を置いてきたグラベンにすぐにでも帰還したいという想いは強いけれど、ここはあともうひと踏ん張りだと自分に言い聞かせるしかない。
とは言っても、細かいところは内政官達に任せておけば大丈夫だろう。俺の方だけど、今日は街中へ視察にでも行こうと思っている。街へはあちこちに避難していた住民が戻って来ていて活気が出てきているようだ。
直接街に出て自分の目で街の様子を眺めると何が足りてないのかとか、住民達が今何を望んでいるのかなど肌で感じられるだろうし。後は店などを見て回ってこの地域ではどういう物が好まれていつのかも確認してみたい。ついでに買い物もしよう。
という訳で、コルとマナの二匹の従魔を連れて街中へ視察に出る事にした。この二匹は俺の家族であり頼もしい護衛でもある。
『コル、マナ。街へ視察に行くぞ』
『わーい、主様とお出かけだ!』
『ふふ、今から楽しみですエリオ様。もしもエリオ様に絡んで来る者がいたら容赦なくやっちゃいますね』
二匹の毛並みを撫でながらそう言うとコルとマナは大喜びだ。ああ、家族同然の従魔との幸福感がたまらない。そんな可愛らしいコルとマナは俺の従魔というだけでなく、正式に俺の特別護衛という役職が付いているのだ。正式な役職を付ける事によってコルとマナの地位をしっかりと確立させている。特別護衛は親衛隊長と同等の役職だ。俺の従魔だから役職はあっても無給なんだけどね。
普段着で背中に大剣を担いで建物の玄関に向かうと、俺に気がついた親衛隊員が敬礼をしてくる。
「ちょっと街中へ出かけてくるからね。何か緊急事態が起きた時は担当の者にすぐに合図を出すように伝えといて」
「了解しました」
何か問題が起こった時には領主館の屋根の上に昼間は赤い旗を出して、同時に鐘をガンガンと鳴らして街中へ緊急事態だと知らせるように決めてある。
『コル、マナ。最初はこの街のギルドの様子を見に行ってみよう』
『『はい』』
俺が最初に向かうのはこの街のギルドだ。街の整備や物資の輸送護衛に人手が足りないので、ギルドに依頼を出して人員を集めている。
街の中心からちょっと外れた場所にギルドの建物はあり、俺がギルドの入り口から中を覗くと多くの人達の姿が見えた。ギルドも活動を再開させたようだな。
そうだ、俺の名前で出している仕事の依頼の受注状況はどうなんだろうか? 通常よりも高めに依頼料を設定してるはずだが、もし人の集まりが悪いようだったらもっと依頼料を上げるのも考えないとな。
掲示板のある場所まで歩いて行って、集まってる人達の後ろでなにげなく様子を見てみた。貼られている依頼の紙を真剣に眺めて、その依頼を受けるかどうか検討しているみたいだな。そして、彼らが見て検討している依頼はどんなものなんだろうかと知りたくなったので、掲示板に近寄ろうとしたら後ろから声をかけられた。
「おーい、そこのあんた。この街の者か?」
声のした方を振り向くと、見た目は俺よりも年上で貫禄のある男が俺の顔を見ていた。俺に何か用でもあるのかな?
「いや、正確にはこの街の者ではないけど、大きな意味ではこの街の者だよ」
「何だそれ? まあ、いいか。俺は出来れば軍に仕官出来ないかと思ってこの街に来たのだが、ギルドではそっち方面は受け付けていないらしくてな。建物を出ようとしたら地元の人間っぽい普段着のあんたが見えたので、軍の駐屯地への詳しい行き方を聞こうと思って声をかけてみたんだ」
確かにそうだ。ギルドに出している依頼は街の労働力としての依頼であって、仕官目的で来た人は軍の駐屯所に来てもらうようにしている。ちょっとわかりにくいかもしれないから後で改善するようにしよう。
「へー、あなたはこの街の軍に仕官目的で来たんだね。軍の駐屯所の場所なら知ってますよ。ところであなたには何か得意分野とか実績とかありますか? それによってはすぐに軍に採用されるかもしれないですよ」
「あんたに聞いて正解だったようだな。それに色々と詳しそうだ。ここだけの話だが腕には自信がある。以前は百人の部隊を率いてた事もあるんだ」
これはなかなかの人材だ。この人の言ってる事が本当なら、性格に問題がなければすぐにでも採用したいものだ。そうだな、採用担当の者への紹介状を書いてあげようか。
「それは凄いですね。俺は軍関係者に知り合いがいるので紹介状を書いてあげますよ」
「本当か? あんた軍に知り合いがいるなんて顔が広いんだな。初対面で会ったばかりなのにそこまでしてもらって申し訳ない」
「これくらい構わないよ。この街では有能な人材は喉から手が出るほどに欲しいですからね。ところで名前は?」
「俺の名前はガイナルだ」
男の名前を聞いた俺は紙とペンを取り出して紹介状を書いてあげた。えーと、この人の名前はガイナルか。紹介者は俺の名前でエリオット・ガウディでいいんだな。俺のサインを書いてこれで紹介状は完成だ。俺は出来上がった軍への紹介状をガイナル氏に渡してあげた。
「この紹介状を軍の駐屯所に持って行けばすぐに面接が受けられると思いますよ。期待してますから頑張ってくださいね」
「おう、そうだな。あんたの期待に答える為にも見事に採用を勝ち取ってくるよ。えーと、あんたの名前はエリオットというのか。エリオットさんありがとうな」
ガイナルという名前の仕官目的の男は俺に手を振りながらギルドの建物を出ていった。紹介状を書いてあげた俺としては彼が合格して採用されるように願っておこう。
「エリオ様にご報告があります」
「うん、どんな報告かな。そこで話していいよ」
遠征中のエルン地方ナダイの街にある領主館跡で執務をしていた俺の元へ配下の者が駆け込んできた。さて、嬉しい知らせか悪い知らせのどちらだろうか?
「それではご報告致します。エルン北部に残っていた青巾賊残党の掃討が第一軍と第二軍の働きにより完了しました。これでエルン地方全域は我がゴドール軍によって完全に平定されました」
「「「おお!」」」
良かった、良い知らせの方の報告だったようだ。
ラモンさんを含めた執務室内にいた配下達からも大きな歓声が上がる。
「そうか、とうとうエルン地方は我らの手によって平定されたか。報告ご苦労だったな。下がっていいぞ」
「やりましたなエリオ殿。エルン地方の平定おめでとうございます」
「「「おめでとうございます」」」
「ありがとう。これも皆の働きによるおかげだよ」
実際のところ、今回のエルン平定戦では俺はまともに戦っていないからな。自分で何でもやろうとしないで、優秀な部下や配下を信頼して仕事や役割を任せる場面を意識的に多くした。将来を見据えれば自分や側近の数人だけで全てを動かすのでなく、より多くの人材に様々な運営に関わってもらって各々が責任と自覚を持ってもらう方が何かあった時の為の備えになる。それに簡単に見えるような仕事や役割でも実際にやってみると結構大変なものだというのを配下達に身をもって知ってもらいたいのもあるんだ。
最重要な決定は俺自らが判断を下すけれど、それ以外の配下の裁量範囲内で片付くような判断や決定などを一々俺にお伺いを立てるようでは、何かあった時に自分で判断が出来ずに臨機応変の対応が出来なくなるからね。
「これでエルン地方全域での復旧復興計画が本格的に始動出来ますな」
「そうだねラモンさん。この地方から脅威がなくなったのでゴドールから大量に資金を投入して復旧復興に力を入れる事が出来る。人員の手配や仕事の割り振り、そして住民達への支援や仕事の世話なども内政官達を総動員して進めてもらえるかな。安心と安全を提供すれば住民達も不安が消えて心強いと思う」
「このエルン地方で新たに登用した者にも役割りを与えましょう。その人材配置は私と内政官達に任せてもらってもよろしいですかな?」
「うん、頼むよ。必要な材料などはカレルさんに頼んで用意させる。お金も出し惜しみせずにどんどん使ってくれ。最初はこちらからの持ち出しばかりだろうけど、ここでの投資が将来は何倍にもなって帰ってくるはずだ。細かい指示はラモンさん達で出しておいてくれ」
すぐに部屋の中にいた内政官達に指示を出しているラモンさんを見ながら、俺も妊婦の妻達を置いてきたグラベンにすぐにでも帰還したいという想いは強いけれど、ここはあともうひと踏ん張りだと自分に言い聞かせるしかない。
とは言っても、細かいところは内政官達に任せておけば大丈夫だろう。俺の方だけど、今日は街中へ視察にでも行こうと思っている。街へはあちこちに避難していた住民が戻って来ていて活気が出てきているようだ。
直接街に出て自分の目で街の様子を眺めると何が足りてないのかとか、住民達が今何を望んでいるのかなど肌で感じられるだろうし。後は店などを見て回ってこの地域ではどういう物が好まれていつのかも確認してみたい。ついでに買い物もしよう。
という訳で、コルとマナの二匹の従魔を連れて街中へ視察に出る事にした。この二匹は俺の家族であり頼もしい護衛でもある。
『コル、マナ。街へ視察に行くぞ』
『わーい、主様とお出かけだ!』
『ふふ、今から楽しみですエリオ様。もしもエリオ様に絡んで来る者がいたら容赦なくやっちゃいますね』
二匹の毛並みを撫でながらそう言うとコルとマナは大喜びだ。ああ、家族同然の従魔との幸福感がたまらない。そんな可愛らしいコルとマナは俺の従魔というだけでなく、正式に俺の特別護衛という役職が付いているのだ。正式な役職を付ける事によってコルとマナの地位をしっかりと確立させている。特別護衛は親衛隊長と同等の役職だ。俺の従魔だから役職はあっても無給なんだけどね。
普段着で背中に大剣を担いで建物の玄関に向かうと、俺に気がついた親衛隊員が敬礼をしてくる。
「ちょっと街中へ出かけてくるからね。何か緊急事態が起きた時は担当の者にすぐに合図を出すように伝えといて」
「了解しました」
何か問題が起こった時には領主館の屋根の上に昼間は赤い旗を出して、同時に鐘をガンガンと鳴らして街中へ緊急事態だと知らせるように決めてある。
『コル、マナ。最初はこの街のギルドの様子を見に行ってみよう』
『『はい』』
俺が最初に向かうのはこの街のギルドだ。街の整備や物資の輸送護衛に人手が足りないので、ギルドに依頼を出して人員を集めている。
街の中心からちょっと外れた場所にギルドの建物はあり、俺がギルドの入り口から中を覗くと多くの人達の姿が見えた。ギルドも活動を再開させたようだな。
そうだ、俺の名前で出している仕事の依頼の受注状況はどうなんだろうか? 通常よりも高めに依頼料を設定してるはずだが、もし人の集まりが悪いようだったらもっと依頼料を上げるのも考えないとな。
掲示板のある場所まで歩いて行って、集まってる人達の後ろでなにげなく様子を見てみた。貼られている依頼の紙を真剣に眺めて、その依頼を受けるかどうか検討しているみたいだな。そして、彼らが見て検討している依頼はどんなものなんだろうかと知りたくなったので、掲示板に近寄ろうとしたら後ろから声をかけられた。
「おーい、そこのあんた。この街の者か?」
声のした方を振り向くと、見た目は俺よりも年上で貫禄のある男が俺の顔を見ていた。俺に何か用でもあるのかな?
「いや、正確にはこの街の者ではないけど、大きな意味ではこの街の者だよ」
「何だそれ? まあ、いいか。俺は出来れば軍に仕官出来ないかと思ってこの街に来たのだが、ギルドではそっち方面は受け付けていないらしくてな。建物を出ようとしたら地元の人間っぽい普段着のあんたが見えたので、軍の駐屯地への詳しい行き方を聞こうと思って声をかけてみたんだ」
確かにそうだ。ギルドに出している依頼は街の労働力としての依頼であって、仕官目的で来た人は軍の駐屯所に来てもらうようにしている。ちょっとわかりにくいかもしれないから後で改善するようにしよう。
「へー、あなたはこの街の軍に仕官目的で来たんだね。軍の駐屯所の場所なら知ってますよ。ところであなたには何か得意分野とか実績とかありますか? それによってはすぐに軍に採用されるかもしれないですよ」
「あんたに聞いて正解だったようだな。それに色々と詳しそうだ。ここだけの話だが腕には自信がある。以前は百人の部隊を率いてた事もあるんだ」
これはなかなかの人材だ。この人の言ってる事が本当なら、性格に問題がなければすぐにでも採用したいものだ。そうだな、採用担当の者への紹介状を書いてあげようか。
「それは凄いですね。俺は軍関係者に知り合いがいるので紹介状を書いてあげますよ」
「本当か? あんた軍に知り合いがいるなんて顔が広いんだな。初対面で会ったばかりなのにそこまでしてもらって申し訳ない」
「これくらい構わないよ。この街では有能な人材は喉から手が出るほどに欲しいですからね。ところで名前は?」
「俺の名前はガイナルだ」
男の名前を聞いた俺は紙とペンを取り出して紹介状を書いてあげた。えーと、この人の名前はガイナルか。紹介者は俺の名前でエリオット・ガウディでいいんだな。俺のサインを書いてこれで紹介状は完成だ。俺は出来上がった軍への紹介状をガイナル氏に渡してあげた。
「この紹介状を軍の駐屯所に持って行けばすぐに面接が受けられると思いますよ。期待してますから頑張ってくださいね」
「おう、そうだな。あんたの期待に答える為にも見事に採用を勝ち取ってくるよ。えーと、あんたの名前はエリオットというのか。エリオットさんありがとうな」
ガイナルという名前の仕官目的の男は俺に手を振りながらギルドの建物を出ていった。紹介状を書いてあげた俺としては彼が合格して採用されるように願っておこう。
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