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第108話 街にガウディ家の旗が掲げられ風にはためく

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 とうとう始まったナダイの街の開放戦。

 時を同じくして北の門でも同様に門が開かれてゴドール軍がナダイの街へ突入してる頃だろう。俺の目の前を隊列を組んだゴドールの兵達が次々に門を通り抜けてナダイの街へ突入していく。頼もしい姿だ。

 先頭を切って突入したカウンさんは俺の兄弟分で信頼出来る将であり武人だ。彼に任せておけば街の制圧は順調に進んでいくだろう。

 戦況を報告する伝令が定期的にやってきて状況を伝えてくる。

「エリオ様、ナダイの街の制圧は順調に進んでおります」

「報告ご苦労」

「エリオ様、建物内に潜んでいる青巾賊の炙り出しも順調です」

「報告ご苦労」

 多くの賊徒は野外で俺達と交戦しているが、中には建物内に潜んでいる者もいる。背後や側面から撹乱されないように慎重に制圧していかないとな。

「我軍が圧倒的優位に立って戦闘を進めております。やはり事前の情報通りにエルン地方の青巾賊は騒ぎに乗じて不満のはけ口として暴れまわりたくて集まってきた者達が青巾賊に吸収された烏合の衆という分析が正しいようです」

 元々この地を治めていたガデル家は武の家柄ではなく文官系の家柄だったので、武力的に弱いところを青巾賊に狙われてしまったというのが実情だ。漠然とした不満を持っていた連中がそれに便乗して一気に暴発したせいで、この地を治めていたガデル家は力及ばず滅んでしまった。

 暴発した連中も何かの目標や大義がある訳でもなく、金や物を寄越せと言うだけで自分の不満を他のせいにして暴れまわるような刹那的な連中も多く見受けられた。青巾賊といえども、平定後の労働力として懐柔して領民にそのまま組み入れたいところだが、そういう側面があるので見極めながら慎重にならざるを得ない。後に禍根を残さないためにも一定の限度を超えた連中には厳しい姿勢で望むのは仕方がないだろう。

「エリオ様に報告致します。ルネ殿とエリオ様の従魔の目覚ましい活躍もあって敵の青巾賊の防御線を難なく破る事が出来ました。ルネ殿の戦う姿はまさに戦乙女と呼ぶに相応しいもので味方でさえも惚れ惚れと見とれてしまう程の強さです。あと、それ以上に凄いのがエリオ様の従魔でして皆がその強さに呆気に取られています」

「そうか、報告ご苦労」

 ルネは大活躍しているみたいだな。天賦の才があるとしか思えないような資質を持ち、それに加えてスキルと称号を持っていれば戦乙女という二つ名で呼ばれるのも納得だ。彼女はその美しい容姿だけでなく強さも群を抜いている。

 最後にさらっと俺の従魔についての報告があったけど、ルネ以上に目立ってそうだな。コルとマナが戻ってきたらいっぱい褒めてやろう。

「エリオ様に報告です。北門から突入した第二軍と第三軍も順調に街中の制圧を進めており、北門側から来た伝令の報告によると問題なく青巾賊を制圧しているようです。街中に残っていた我々への内応者も挙兵したようで、青巾賊は大混乱をしている模様です」

 北門からの進撃も順調のようだ。攻撃に優れる第三軍と守備には定評のある第二軍のお互いの良いところを組み合わせているので相当な効果が期待出来る。

「報告ご苦労。休息を与えるから水分を補給してから戻れ」

 次々と嬉しい戦況報告が伝えられてくる。こちらに通じている内応者の存在も助けになっていて、圧倒的優勢のうちに戦いが進行しているのは確実だ。

「エリオ殿、ナダイの街の青巾賊制圧は上手くいっているようですな。この調子でいけば今日中に街の主要部はほぼ制圧出来るでしょう。後は隠れている敵を探し出していけば完全掌握が数日後には終わるでしょう」

「そうだね、ラモンさん。俺もこんなに上手くいくとは思ってなかった。このまま順調に街を制圧出来そうで人的な損失が少なくなるのは正直ありがたいね」

「そうですな。周到な準備と敵情の把握による分析の相乗効果と、何よりも住民達が我らの味方になって尽力してくれたのが大きかったと思います。民を味方につけた方が優位に立てますからな」

「その通りだと思う。青巾賊はその見せかけの理想とは裏腹に内情は違うからね。住民達からの支持を得られなかったのが敗因だと思うよ」

 前もコウトで青巾賊を討伐した時も、大層な事を言っていたが本質はならず者の集まりという印象だった。あれでは住民達も怖がってしまうだけだ。

「エリオ様、報告があります。カウン将軍の第一軍が青巾賊の主力が占拠していた領主館を制圧致しました。領主館に立て籠もって抵抗していた青巾賊の首領と思われる人物とその側近達を討ち取ったとの事です」

「おお、領主館に立て籠もっていた青巾賊の首領を討ち取ったのか!」

「エリオ殿、カウンがやってくれましたな。見事な働きぶりです」

「ああ、これで後は街中に残っている青巾賊の残党を掃討するだけだ。あと、街中に青巾賊の首領を討ち取ったと伝え回ってくれ。降伏の意思を示す者は捕らえて捕虜にするように。まだ抵抗を続ける者に対しては容赦なく厳しくあたっていいぞ」

「承知しましたエリオ殿。すぐに指示を出しましょう」

 エルン地方最大の青巾賊の拠点であるナダイの街の制圧は成功だ。残党の掃討が終わればこの街は完全に開放される事になるだろう。

「俺も街の中に入る。誰か領主館まで案内してくれ」

「はい、エリオ様。私が案内致します」

 報告に来た伝令に領主館への案内を頼んで俺は側近や護衛達と共にナダイの街へ入っていった。街中は至るところに戦闘の爪痕が残っていて、ついさっきまで激しい戦いがあったのが容易に想像出来る。

 まだ完全に戦闘が終了した訳でなく、残党の掃討が続いているので俺の護衛達も周囲の警戒に余念がない。俺の周りを固めているのは精鋭揃いなので安心して任せられる。

「エリオ様、あの建物がこの街の領主館です」

 伝令が手を向けて示した先には、壁の一部が壊れ建物の壁も傷ついた白い大きな建物があった。これがこのナダイの街の領主館なのか。建物の軒先にはこの街を開放した証である盾をバックに向かい合う狼犬の紋章が描かれたガウディ家の旗が掲げられて風によって大きくはためいている。

 俺が領主館の敷地内に入ると、建物の中から第一軍の将軍であるカウンさんと副将のバルミロさん達が出てきて俺を出迎えてくれた。

「兄者よ、青巾賊の首領を筆頭に主だった者達は討伐しましたぞ」

「ご苦労だった。さすがカウンさんと言うべきかな」

「ハハハ、今回の一番の手柄はそれがしではなく副将のバルミロです。バルミロが青巾賊の首領を討ち取ったのです」

「バルミロさんが首領を討ち取ったのか! 凄いじゃないか!」

「フッ、たまたまだよエリオ。倒した相手がたまたま首領だったようなものだ」

「いやいや、青巾賊の首領を討ち取ったのは紛れもない大手柄だよ。それがバルミロさんだなんて俺は本当に嬉しいんだ」

「フッ、エリオよ俺をそんなに持ち上げるな。照れるだろ」

「ハハ、バルミロさんらしいや。でも、後でしっかりその手柄に報いるから期待していてくれ」

「フッ、無理しなくていいからな。労いの言葉だけで十分だ」

 俺は今猛烈に嬉しい。旅の途中で立ち寄った村で出会って縁を結び、その時から今まで苦楽を共にして俺をずっと支えてくれていたバルミロさんが大手柄を立てたのが純粋に嬉しかったのだ。照れながら頬をポリポリと掻いているバルミロさんがちょっと可愛かった。
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