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第106話 快進撃

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 セナイ村で村人達からの歓待を受けた俺達ゴドール軍。

 村人からの情報やエルン地方に送り込んでいた諜報員の情報を元に作戦会議を開いた。セナイ村だけでなく青巾賊の支配を快く思わない人達から俺達への協力の申し出がひっきりなしにあり、このエルン平定戦の前途は明るいと感じられた。

 元冒険者や元傭兵など、腕に覚えのある住民達の義勇軍も編成されつつあるようで、南部の村々から続々とゴドール軍へ合流したいとの要請が届き始めている。青巾賊はエルン地方のあちこちに小さな拠点があるらしく、差し当たっての目標はその拠点を潰していきながら大元の本隊への支援を弱体化させていくという事に決定した。

 そして、このセナイ村も大勢の村人から義勇軍として参加したいとの申し出があり、各軍における補助部隊としての参加を認めた。軍の食糧は豊富に用意してあり、戦力が例え倍になっても数ヶ月は楽に戦えるので兵糧が尽きる心配はない。

 義勇軍にはこちらから食べ物を与えて食事の待遇は正規軍と同じ扱いにした。なんてったってこのエルン地方を平定した後は、俺が治める住民になるのだからぞんざいには扱えない。当然、食料の保管も警備が付いて警戒を怠らないようにしてある。

「カウン将軍率いる第一軍は俺と共に中央地域を通って元領都であり青巾賊最大の拠点であるナダイの街を目指してくれ。第二軍のラッセル将軍は右側の地域の制圧をしながら北上。第三軍のゴウシ将軍は左側の地域を制圧しながら同じく北上するように」

「わかりました兄者。中央地域の制圧はお任せあれ」
「エリオ様、吾輩にこのような大役を与えてくれて心から感謝致します」
「エリオの兄貴よ、おいらがちゃちゃっと青巾賊を倒すから大船に乗ったつもりでいてくれよ」

「ゴウシよ、油断は禁物だぞ」
「わかってるってカウンの兄貴よ。つい場を和ませる為に言ったんだよ」

「ゴウシさん、カウンさんの言う通りだ。油断しないように頼む」

「カウンの兄貴だけでなく、エリオの兄貴にも小言を食らっちまったか。二人ともすまねえ。例え冗談でもおいらが悪かった」

「昔のゴウシならこんなに素直ではなかったのだが、兄者の弟分になってからはこうして素直に謝れるようになってきました。これも兄者の人徳ですな」

「とにかく、皆油断をしないように頼むぞ。俺は皆が無事に帰ってくる姿が見たいんだ」

 相手が烏合の衆の集まりとはいえ油断は大敵だ。どこで足元を掬われるかわからないからな。例え兄弟分でもここでビシッと引き締めておくのが必要だ。

「エリオ殿、全軍の出発準備が整ったようですぞ」

「ラモンさん了解した」

 本格的なエルン平定戦がこれより始まる。義勇軍を加えた俺達ゴドール軍の強さの真価が問われる戦いだ。だが、俺は自信を持っている。豊富な装備と鍛え上げられた我が軍の強さは自己評価ではあるが比類なきものだと思っている。

「皆の者、エルン平定の戦いに挑むぞ! 全軍進め!」

「「「応ッ!!!」」」

 セナイ村を出発したゴドール軍は三方向に分かれてエルン南部にある青巾賊の拠点を制圧しながら電光石火の勢いで北上していく。青巾賊から開放された村や集落の住民は俺達を大歓声で迎えてくれるのでありがたい。住民達からの支持が後の統治の支えになるからな。

 俺達の快進撃に刺激されたのか、各地から続々と義勇軍として参加したいとの申し出があり、選抜をするのが大変だと嬉しい悲鳴が上がっているくらいだ。さすがに全員を義勇軍として帯同させる訳にもいかないので、選抜して一定のレベル以上の者だけを受け入れるようにしている。その理由としては、ある程度のレベルや技量がないと軍の統制や統率が取れないし、下手をすればただの足手まといになってしまうのでね。

 だが、前に俺が旅をしている途中、とある集落を訪れてリタ達と初めて会うきっかけになった青巾賊討伐の依頼のように、義勇軍として志願してきた人達や雇われ兵の中には在野に埋もれていて掘り出し物とも言えるような優秀な人材が多数いる。そういう人材を見つけ出すのも一つの仕事だ。

 そのような人材はエルンを平定した後の領地運営に必要な人材なので、我々の説得に応じた者は正式に採用する運びになった。優秀な人材は多ければ多いほど助かるかのが俺の紛れもない本音だ。武術は苦手でも文官として優秀な人材も同時に採用するようにしている。統治を行う上で文官の仕事はいくらでもあるのがその理由だからだ。

 そのような諸々の対応や処理をこなしながら快調に進撃するゴドール軍は、エルン南部の制圧が済んだ後、少しの休息時間を設けて中央地域を制圧しながら北上をしていた。

「ラモンさん、戦況報告を頼む」

「エリオ殿、今のところ我がゴドール軍は問題なく快進撃を続けていますな。エリオ殿もご存知のように南部は既に制圧済みです。当初の予定よりもかなり早くエルン平定が進んでいます。これも我先にと住民達が我々に協力をしてくれるからです。そして中央地域はエルン第一の規模を誇る領都であったナダイの街がありますが、ここに青巾賊が最大の拠点を構えております」

「第二軍と第三軍の状況は?」

「はい、左ルートも右ルートも南部の制圧が終わった後は、ナダイの青巾賊を孤立させる為に街の後方に回り込んで包囲をする作戦が順調に進行中です」

「そうか、ナダイの街の内応者との連絡はどうなってる?」

「我々に寝返っている青巾賊内の内応者達と、食糧輸送の関係で街への出入りが許可された我々の息がかかっている商人が密かに連絡を取っており、ナダイの街の内部状況を知らせてきております。我がゴドール軍の包囲が完了すれば合図と共に内応者達が内側から門を開く予定になってます」

「青巾賊には降伏勧告の使者を送ってみるつもりだが、奴らが降伏勧告に応じなければ当初の予定通り街が戦いの場になるだろう。出来るだけ街の中を破壊したくないのだが、ある程度の損害が出るのはやむを得ないか」

「そこらへんは仕方ありませんな。上に立つ者は時としてそのような苦しい決断をしなければなりません。その代わり、街の復興や住民達への補償は手厚くしてあげましょう」

「そうだな、やっぱりラモンさんのような人が近くにいると、迷った時にも自分を信じて進んでいける。改めてお礼を言うよ」

「私ごときにはもったいないお言葉ですな」

「いや、本心からラモンさんを頼りにしてるのでこれからもよろしくお願いするよ」

 領主と参謀役の間柄であると同時に、ラモンさんは俺の義父でもあるからな。俺にとってはなくてはならない存在の人物だ。そんなラモンさんとの話し合いを終え、他の者達とも意見交換をして今後の方針の再確認をしたゴドール軍は連携を取りながらナダイの街へ向かって進んでいった。
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