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第91話 グラベンに向けて出航

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 レイモン統括官達の元を辞去した俺は、カレルさんに手配してもらったグラベン行きの船便に乗る為に、俺を呼びに来たラモンさん、そして二匹の従魔と一緒に皆が待っているガリン河の船着き場にある桟橋に向かっていた。

「すみませんラモンさん。つい挨拶が長引いちゃって」

「いえいえ、お気になさらずに。それよりもエリオ殿と一緒にグラベンに行きたいと懇願していた部隊員などが結構おりましたが三十人に絞った理由は?」

「ああ、それね。まだ現地の様子もこの目で実際に見た訳じゃないし、グラベンにも人数は少ないが自衛の部隊があるらしい。最初から大勢で押しかけて軋轢を生むのは避けたかったのと、ゴドールは貧乏なのがわかっているし向こうの詳しい事情も知らずに赴任する前から部隊を大幅に増強するのはどうかと思ったからなんだ。」

「確かに。ゴドール地方が裕福だという話は全く聞こえてきませんからな。地味で特徴もなく財政基盤が脆い地方だというのが一般的な認識のようです」

「でしょ。だからグラベンに着いたらそこらへんを把握してから本格的に行動しようと思ってるんだよね」

「それは賢明な判断ですな。私も向こうに着いたら私なりに調べておきましょう」

「あと、他に誰もいない今のうちにラモンさんに言っておくけど、ミリアムは大事にするつもりだから心配しないでおくれ」

「ハッハッハ、その事ですか。ミリアムはもう大人ですから心配はしておりません。わたしは娘の希望通りにさせてあげて陰ながらちょっとだけ助けるだけです。こちらこそ娘を頼みますぞエリオ殿。あと、お義父さんと呼ばれるのは恥ずかしいので今まで通りで頼みますからな」

「わかったよ、ラモンさん」

 ラモンさんとそんな話をしながら歩いていたら、ようやく前方にガリン河の船着き場が見えてきた。船着き場には俺と一緒にゴドール地方にあるグラベンの街へ行く者達が俺の来るのを待っている姿が確認出来る。

 大柄なカウンさんにゴウシさん、それにカレルさんやベルマンさんは遠くからでも目立つ風貌だ。大きく手を振っているのはリタとロドリゴの姉弟だろう。

「やあ、お待たせ。少し待たせちゃったかな?」

「あたしはそんなに待ってないよ。だから気にしないで」

「どうもエリオさん。ようやく姉貴を引き取ってくれて僕も嬉しいっすよ。もうね、家の中でもエリオさんの話ばかりで僕も正直呆れてたんでね。どうか姉貴をよろしくっす」

「うるさい! どうしてロドリゴは家でのあたしの普段の振る舞いを喋っちゃうんだよ! 恥ずかしいだろ」

「ハハ、今度は俺がロドリゴにリタの普段の振る舞いを報告する役になるのか」

「たぶん、それは姉貴の惚気話ばかりになると思うっすよ」

「ああ、そうだな。きっとロドリゴの言う通りになりそうだ」

 リタは膨れっ面をして今にも怒り出しそうな表情をしながら俺とロドリゴを睨みつけている。これは不味いぞ、これくらいでやめておこう。

「エリオの兄さんが来るのを待ってやしたぜ。これで全員揃ったようです。皆が乗る船は桟橋の手前側に停まっている船ですぜ」

「カレルさん、俺達だけの貸し切り船を用意してもらってありがとう。本当に代金は払わなくていいの?」

「兄さん、何を言ってるんですか? 俺と兄さんの間柄なんですから代金に気を使うなんてそれこそ水臭いですぜ」

「わかったよ。ありがとう恩に着るよ」

「エリオの兄貴。カレルも話して見ると結構いい奴だぜ。俺はすっかり気に入ったよ」

 おいおい、ゴウシさん。この前の一触即発の事態がまるで嘘のようではないか。どういう心境の変化なんだよ。

「兄者よ、ゴウシはカレルに酒を驕ってもらって飲み明かしたらコロッと気が変わったようだ。まあ、同じ弟分同士で仲が悪い訳にはいかないので、ゴウシとカレルが仲良くなってそれがしも安心しましたぞ」

 ハハ、酒で懐柔されたって訳か。

「エリオ、俺達が乗るのはこの船か?」
「フッ、たぶんそうだろう」

「ベルマンさんにバルミロさん。この船で間違いないと思いますよ」

「ガッハッハ、向こう側にも船が停まってるからどっちなのかと思ってな」
「フッ、おまえと違って俺の勘は最初からこっちの船だと告げていたぞ」

「ベルマンさんとバルミロさんの二人とは最初に出会ったあの街以来の付き合いですけど、会えて本当に良かったと思ってます。出来ればこれからも俺を支えてください」

「ガッハッハ、こんな俺で良かったらいつでも頼ってくれ」
「フッ、この男よりも俺の方が頼りになるぞ。エリオは当然わかってるはずだ」
「なんだと! バルミロよりも俺の方が頼りになるぞ」
「フッ、口では何とでも言えるさ」

「ちょっと待ってください。俺は二人とも同じように頼りにしてますんで喧嘩しないでくださいよ」

 全く……この二人は仲が良いのに変なところで反目して意地を張るんだよな。素直じゃないというか、お互いに癖が強いというか、これだけは困ったもんだ。でも、この二人は俺と最初に仲間になった戦友みたいなものだ。本当に頼りにしているんだ。

「エリオさん、船員さんがそろそろ出航時間なので船に乗船してくださいって言ってますよ」

「わかったよミリアム。今すぐ行く」

 とうとう出航の時間か。
 俺は皆と一緒にグラベンへ向かう船に乗り込んで行く。
 今回乗る船は交易用の船荷を積んでいないので船内はかなりの余裕がある。船員も含めて五十人ほどが乗り込んでも全く問題がないな。他に一般客がいないので俺と従魔もテントではなく道中は船室での移動だ。まあ、大部屋で雑魚寝みたいなものだけどね。

 もうすぐ出航だが、俺は従魔と一緒に船室から甲板に出てきた。
 何となく離れゆくコウトの船着き場を眺めていたくなったんだ。俺が大きく飛躍するきっかけをくれた街だからな。

 出航の合図の鐘が鳴り、俺の乗った船は静かにコウトの船着き場の桟橋を離れていく。その様子を眺めていた俺は胸の奥がジーンときたのだった。
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