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第71話 カモンの抵抗、そして結末

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 この事件を解決させる為に第二部隊にも話を通し、下準備を着々と進めて包囲網を狭めていく。後は本部に詰めているラモンさんが段取りを終えるのを待つだけだ。

 タインさんとの話し合いを終えて第三部隊の執務室へ戻ってくると、そこには副隊長のカウンさんを始めゴウシさんやベルマンさん、そしてバルミロさんやロドリゴ達が俺を待っていた。

「兄者よ、夜中に襲われたと聞きましたぞ。でも、怪我なく無事で良かった」
「エリオの兄貴よ、襲ってきた奴を返り討ちにしたんだってな」
「ガッハッハ、エリオが簡単にやられる訳がないよな」
「フッ、さすがエリオだな。おまえの無事な姿を見て安心したぞ」

「ハハ、正直びっくりしたけど返り討ちに出来て良かったよ。最後は従魔達に倒してもらったけどね」

「エリオの兄貴よ、そんな奴は殺してしまえば良かったのによ。おいらならすぐに殺したのにな」

「ハハ、俺も最初はそうしようかなと思ったけどね。でも、今回の事件は単純ではなく根が相当深そうだったからさ。そいつから本当の黒幕の情報を聞き出す為に生かしておいたんだよ」

「それで兄者よ、この一連の事件の黒幕は第一部隊長のカモンだと聞いたが本当なのか?」

「うん、間違いないと思う。今ラモンさんが裏取りして証拠固めをしてるところなんだ。証拠が固まり次第カモンの捕縛拘束に向かうつもりだ。カウンさんやゴウシさん達にその役目をやってもらうつもりだからよろしく頼む」

「わかり申した。兄者よ、その役目お任せあれ」
「兄貴、おいら頑張るぜ」

 その時、執務室のドアが開いてラモンさんが部屋の中に入ってきた。

「皆集まってるようですな。押収した証拠資料の裏取りが終わりましたぞ。首謀者はカモンで間違いありません。一味と見られる仲間はこの自治部隊に雇われる以前からカモンと行動を共にしていた連中ですな。副隊長やエリオ殿が返り討ちにした参謀もそれに当て嵌まるようです。他にも復数人いる事が確認されています。今回のエリオ殿への襲撃もカモンの指示があったとエリオ殿を襲った第一部隊の参謀からの証言が得られました。収監された四人を毒殺したのもカモンの指示があったようです。現在カモンと副隊長の男はまだ自宅にいて部隊には来ていません。カモンと副隊長の男の家は隣同士であり、監視の者が見張っておりますので家を出てもすぐに追跡出来る体制です。外に本部の監察官も待機しております。エリオ殿、準備は出来ていますのでいつでも行けますぞ」

「ラモンさん、報告ご苦労さま。それでは今から第一部隊長及び副隊長の拘束に向かう。ロドリゴは第二部隊長のタインさんに知らせてくれ。両部隊の選抜部隊が揃い次第行動開始だ。リタとミリアムは留守を頼む」

「「「応!!!」」」

 それぞれ装備に身を固め武器を持ち部屋から出ていく。外で待っていた部隊員や監察官達と合流して暫く待つと、第二部隊から選抜された部隊員を引き連れたタインさんが姿を見せて俺達と合流した。

「我々第二部隊はこれよりエリオ特別監察執行官の指揮下に入る。皆の者、エリオ第三部隊長の命令に従うように」

「タイン第二部隊長、部隊員の派遣ありがとうございます」

「いや、これは職務として当然だから君は気にしないでいいよ」

「それでは第二、第三、及び監察官の合同部隊はこれより容疑者拘束の為の作戦行動を開始する。皆、俺に続け!」

 第一部隊長達を拘束する為の作戦行動が始まった。総勢三十名程の合同部隊と俺の従魔が、先導してくれる監察官に続いて第一部隊長カモンの自宅を目指して街の中を駆けていく。そして監察官に案内されたのはこの前四人を拘束した隠れ家からそれほど離れていない場所だった。

 見張りをしていた者がこちらへ駆け寄ってきて俺達に状況を伝える。

「対象の者はまだ家の中にいると思われます。事前に調べた情報によりますと、対象はいつも部隊への出勤時間は昼近くと遅いのでこの時間は家に在宅中なのはほぼ確実です。左側の家が第一部隊長の家で右側が副隊長の家です」

「ご苦労、こちらの部隊へ合流して後方待機してくれ」

 まだ家の中にいるのか。常識の枠外の図太い神経の持ち主なのか知らないが人を襲わせておいて優雅なものだな。おそらくカモンは参謀の男の実力を信頼して俺への襲撃の成功を疑ってないのだろう。

「タイン第二部隊長。第一部隊副隊長の方の担当を第二部隊に任せていいですか?」

「わかった、任せてくれ」

 俺達第三部隊の対象は第一部隊長のカモンだ。

「よし、五名ほど裏手に回ってくれ。ベルマンさんバルミロさん頼んでいいか?」

「ガハハ、俺に任せておけ」
「フッ、蟻一匹逃さん」

 ベルマンさんが裏手に回ったのを確認したので俺達はカモンの家に向かって歩いていく。解錠担当の者も招集済みだ。そして解錠担当がドアに近づいて作業を始めようとしたところ、内側からドアが開かれて拘束対象のカモンが武器を片手に現れた。周りを見渡して俺の姿を見つけると、残念そうな顔をしながら喋りだした。

「クソっ、おまえがそこにいるという事はあいつは失敗したのか。それで俺を捕まえに来たって訳だな」

「ああ、その通りだ。あんたが首謀者で黒幕なのは既に判明している。自供も取れたし証拠も俺を襲った奴の家から押収した。俺達が拘束していた四人の毒殺もあんたが指示したのも調べがついている。もうあんたは逃げられない。それと、何であんたは脅迫を手段に商会から金を脅し取らせたんだ?」

「ハハハ、そんなの決まってるだろ。酒と博打と女遊びには金がいくらあっても足りねえんだよ。街の人間が筆頭隊長の俺の為に遊ぶ金を出すのは当たり前だろ。そのせいで誰が苦しもうが死んでしまおうが俺の知った事ではないわ!」

「そうか、話しても無駄のようだな。ところで俺達に大人しく捕縛拘束されるつもりはあるか?」

「フン、野暮な事を聞くなよ。俺は俺のやりたいようにやるだけだ。この俺がおまえ達に大人しく膝を屈するなんて出来るかよ!」

「そうか、それは残念だな」

 素直に従うとは思っていなかったしこうなるのは予想していた。

「ハッハッハ、人数さえ多けりゃ俺を何とか出来ると思ってるのなら大間違いだぞ。そっちから来なければこちらから行くぞ!」

 カモンは手に持っている柄の長い大斧をブン!と振り回しながら周りを囲んでいた部隊員の一人に攻撃を仕掛ける。その威力は絶大で大斧の攻撃を槍の柄で弾こうとした部隊員を後方に吹っ飛ばした。

「ハハハ、その程度で俺を捕まえるつもりか! 笑わせるな!」

 さすが武力で部隊長選抜試験を勝ち抜いただけはある。実績に怪しいところがあるとはいえその武力は正真正銘本物だ。奴は包囲の壁の隙を破って道に躍り出る。

「待てい! このゴウシが相手をする!」

 見るに見兼ねたゴウシさんが名乗りを上げてカモンの行く手を塞ぎ対峙する。

「ほう、おまえがゴウシか。噂くらいは聞いておるぞ。だが、俺に勝てると思ってるのなら笑止千万!」

「何だと! おいらの攻撃を受けてみろ!」

『ガン!ガン!ガン!』

 凄い。お互いに武器を激しく打ち合っているので重い衝撃音が周りに伝わってくる。あの大斧をいとも簡単に振り回すカモンと、長くてゴツい刃の大槍を豪快に操るゴウシさん。だが、よく見るとゴウシさんが少しずつ押され始めてきているな。

「チィッ! おいらが押されるなんてコイツは化け物か!」

「ゴウシ、それがしと代われ!」

「すまねえカウン兄貴。どうもおいらは調子が悪いみてえだ」

 あのゴウシさんでも苦戦するとは。このカモンという男は大言壮語するだけあって常人離れした強さだ。しかも、まだそれほど疲れを見せていない。今回は俺が矢面に立たずに部下達に手柄を立てさせようと任せる予定だったのだが、もしかしたら俺が相手をする事になるかもしれないな。

「ハハハ、次はカウンが相手か! 相手にとって不足はないぞ」

「よろしい。それがしが貴様を倒してあげましょう」

『ガン!ガン!ガン!』

 今度はカウンさんの大きな刃が付いた長柄武器とカモンの大斧の打ち合いだ。武器と武器が激しくぶつかり合い火花を散らしている。しかし、今度はカウンさんの方が若干押してるように見える。

「俺様を押し込んで来るとはなかなかやるな貴様!」

「先程のゴウシとの打ち合いを見ながらそれがしなりに対策を立てたのだ。お主の攻撃が見切れるようになったのは先におまえと戦ったゴウシのおかげでもあるのだ」

「クソっ、まだ負けねえぞ!」

 打ち合いを見る限り、もうカウンさんの優位は動かなそうだ。カモンはカウンさんの攻撃を凌ぐのが精一杯。そしてその時がやってきた。

「これでどうだ!」

 カウンさんが素早く振った武器がカモンの脇腹を捉えて傷をつける。傷を負いよろめくカモン。よし、あとは捕縛拘束するだけだ。

「「おお!」」

「クソっ、これまでか……おまえらに捕まるくらいなら!」

 すると、カモンは懐に手を入れて何かを取り出し、それを口に入れて飲み込むと見る見るうちにカモンの顔面が蒼白になっていく。そして、糸の切れた操り人形のように立つ力を失ってその場に膝から崩れ落ちて倒れていった。

 戦いの間、息を呑んで見守っていた部隊員達も呪縛から解けたように動き出す。

「もしかして即効性の猛毒を飲んだんじゃないか?」

 隊員の一人が何気なく呟いたが言われてみればそうかもしれない。すぐさま倒れているカモンの元に隊員の一人が駆け寄って状態を確認したが、「既に事切れております」と力なく首を振ってきた。おそらく、追い詰められた時の事を考えて毒を用意していたのだろう。生きたまま捕縛拘束出来なかったのは残念だが仕方がない。とりあえず、どんな結果であれカモンと戦った兄弟分のカウンさんとゴウシさんを労っておかないとな。

「カウンさん、見事な戦いぶりだった。ゴウシさんも負けず劣らずの戦いぶりだったぞ。最期はこんな結果になってしまったが二人とも本当にご苦労さん」

 俺が二人に労いの言葉をかけていると、横の家の方でも大きな歓声が上がった。どうやらあっちもケリが付いたようだ。見るとタインさんがほっとした顔で俺達の方へ顔を向けて手を上げてきた。俺は片手を上げてそれに答える。

 まだ色々と後処理が残っているが、ようやくこの一連の事件の結末が見えてきたのだった。
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