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第59話 脅し取られている

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 賊徒の脅威が去った今、コウトの街周辺は平穏な日々が続いている。下流にあるサゴイの街の情報も入ってくるが、今のところは何も起きておらず平穏が保たれていて大丈夫との報告を受けている。

 だが、西の大国であったキルト王国が崩壊してからは、旧王国領のあちこちで不安定な状態になっており、旧王都を占拠した反逆者の将軍の勢力、それを心良く思わない勢力などの存在があり、当然ながら賊徒の存在も忘れてはならない。今もどこかで見えない火種があちこちで燻っているのは確実だ。

 おさらいになるが、存在していた時は大国であったキルト王国ではあるけれど、その広大な領土は全て王の直接的な支配下という訳ではなく、統治者達は自分の治める領内では独自の統治を行っていた。そういう事情もあって王でさえ力のある統治者に対しては及び腰で対応が難しかったのだ。それがキルト王国という存在がなくなり、求心力や権威の後ろ盾が全てなくなった各領は今や独立状態になっている。勿論、この地域も例外ではない。


 さて、今日の勤務も終わり俺は部隊の施設を出たのだが、ラモンさんに急遽用事を頼まれて、家に帰る途中に寄り道をしてとある商会に向かっている。いつも第三部隊に備品の品物を納入してくれている商会があるのだが、その商会に他の客からもどうしても断れない注文が入ってしまい、一時的にその備品の在庫がなくなってしまったようなのだ。それで同じ品物を取り扱っている別の商会に俺が直接出向いて買い付けに行くところなのだ。まあ、ラモンさんが困ってたので丁度帰るところだった俺が自ら手を上げたんだけどね。

『コル、マナ。仕事とはいえ寄り道に付き合ってくれてありがとうな』

『いえ、主様と一緒に歩くのは楽しいですから』
『これくらいの事、私には大した事ではありませんわ』

 よく出来た子達だ。おまえ達には後で何か買ってあげよう。

 ラモンさんに教えられた場所を目指して行くと、前方にお目当ての商会らしき建物が見えてきた。茶色い壁が目印らしいと言ってたからここで間違いないだろう。ラモンさんもたまたまこの商会の存在を誰かから聞いていただけで、直接自分で出向いた事はないらしい。勿論、俺も初めて来る商会だ。

 正面玄関と見られる扉は開いているのでまだ営業中のはずだ。
 横の壁に掛けられた看板を見るとモリソン商会と書いてあるな。

 俺は商会の建物の中に入り、人の気配がする部屋の扉に近づいていった。たぶんここが事務室だろうと思ったからだ。扉の前に立ってノックをする。すると、部屋の中から人が椅子から立ち上がるような音が聞こえて足音が扉に近づいてきた。

 扉が静かに開いて中年の男が顔を見せる。

「はい、何でございましょうか?」

 俺はその男に向かって来訪の目的を伝える前にまず最初に自己紹介をした。

「すみません。俺は街の自治部隊に所属している者で名前はエリオと言います。本日は用があってこちらの商会に伺わせてもらいました。商会主か交渉担当の方とお話をしたいのですが」

 すると、俺の自己紹介を聞いていた男の顔が見る見るうちに怯えの表情に変わり始めた。

「も、申し訳ありません。今、急いで商会主を呼んできますのでこちらの応接室でお待ち下さい!」

 俺は中年男に促されて従魔と一緒に隣の応接室に案内された。豪華な調度品に囲まれた応接室はこの商会の財力の高さを誇っているように見えなくもない。そういえば、俺達の活動費も街の商会や工房などから上がってくる税から運用されてるんだよな。ありがとうございます。

 暫くすると、応接室のドアが開き先程の中年男と一緒に老人がこの応接室に入ってきた。おそらくこの人が商会主なのだろう。俺は商会主らしき老人に挨拶をしようと椅子から立ち上がって老人に顔を向けた。すると、驚いた事に商会主らしき老人と中年男が二人一緒に床に膝を着いて頭を下げ始めたではないか。

「「つい先日、要求に応えたばかりではないですか。どうかお慈悲を!」」

 俺は二人の仕草に驚いてしまい、隣に座っているコルとマナを見つめながらおろおろとするしかなかった。そもそも、どういう訳でこの二人は俺にお慈悲をなんて言ってくるのだろうか。俺はただ部隊に必要な品物の買い付けにきただけなのに。

 とりあえず、どうして俺にこのような態度をとるのか詳しい事情を聞かなければいけない。俺は怖がられないように出来るだけ優しい声で二人に向かって語りかけてみた。

「いきなりそんな態度をとられても困りますよ。まるで俺があなた達を困らせている悪役みたいじゃないですか?」

「はっ、申し訳ございません! そんなつもりはなかったのです。どうかお許しを!」

 あれ、何だか余計に怖がらせてしまったような気がする。どうしてなのかな?

「ちょっと待ってください。とりあえず落ち着きましょうよ」

「すみません、至急お金を持って参ります。今回はどれくらいの金額を用意すればよろしいのでしょうか?」

 何だか話が噛み合わないな。この人達は俺を恐れてるし、お金を用意して持ってくると言っている。まるで俺がこの人達を脅して金を巻き上げてるような状況になってるぞ。どうしてこの人達はこのような態度になるのだろう。これは確かめる必要があるな。

「いや、俺はお金を貰いに来た訳ではなくてあなたの商会から品物を買い付けに来たんですよ。むしろお金を払うのは俺の方です。ですが、あなた達は俺にお金を渡そうとする。これには双方に大変な思い違いや行き違いがあると思うのですが、良ければ俺に詳しい事情を話してくれませんか?」

「すみません、こちらからお聞きしてもよろしいですか? あなたはこの街の自治部隊の方ですよね?」

「はい、俺はこの街の自治部隊に所属しているエリオと申します」

「自治部隊の貴方様は私の商会にまた脅迫を手段にして金の無心に来たのではないですか?」

 脅迫による金の無心? つまり、俺がこの商会を脅迫して無理矢理に金を脅し取りに来たと言いたいのか。何でそういう話になるんだ? しかも、またというからには過去にもこの商会は金を脅し取られているんだな。

「いえ、もう一度言いますが俺は脅迫を手段にしてこの商会に金の無心に来た訳ではありません。でも、あなたがそう思ったという事は過去に自治部隊を名乗る者から脅迫されて金を脅し取られているのですか? もしそうならば俺はそれをどうにかしたいのです。よろしければ俺に正直に話してくれませんか」

 俺の問いかけに対して間が空く。正直に答えて良いかどうか考えてるのだろう。俺は商会主が自分から口に出すまで根気よく待ってみた。暫く経つと商会主は覚悟を決めたのかゆっくりと話し始めた。

「はい、私どもの商会は自治部隊に脅迫されて大金を脅し取られております。あなたもそれが目的でここへ来たと思ったのです」

 これは由々しき事態だぞ。
 どうにかして商会主に詳しい事情を話してもらわないとな。
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