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第57話 胸ぐらを掴まれる

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 カウンさんとラモンさんと一緒に本部の統括官室に到着すると、既に第二部隊長のタインさんと幹部の人達は先に来て待っていた。

 この前もそうだったけど、タインさん達はきっちりとしてるよな。タインさん以外の副隊長や幹部の人も、見た目からして実直で堅物そうに見えるけど、実は賊徒がコウトの街に襲来した時に街側の交渉役をやったのが第二部隊の副隊長のブラントさんなんだ。この人の演技に賊徒もコロッと騙されてしまったのだから凄い役者ぶりだ。むしろ実直な見た目だったからこそあの交渉役に適役だったとも言えるね。

「すみません、統括官、そして第二部隊の皆さん待ちましたか?」

「第三部隊長のエリオ君、それほど待ってはおらんので気にせずともいいよ。ところで、君が休暇中に話を聞いたという部隊員の住民に対する暴行だが、それが事実なら由々しき事態だね。それと事前にラモン君から草案を受け取っていて説明を受けた私は了承してるので話を進めてくれ」

「統括官殿、ありがとうございます。あと、俺は部隊員の暴行は事実ではないかと思っています」

「エリオ第三部隊長。君がここへ来る前に統括官から規則の草案を拝見させてもらった。さっき私の第二部隊の副隊長達とも話し合ったが同意を得られたので第二部隊は賛成という事だ」

「そうですか、タインさんありがとうございます。暴力沙汰をおこしているのがどの部隊員か判明してませんが、単純でも部隊規則があった方がそういった行為に対して歯止めが効くと思うんですよね。あと統括官には摘発や懲罰などを担当する監察執行官を設けて欲しいのです」

「そうだね。無いよりはあった方が効果はあるはずだ」
「この規則なら隊員達も受け入れてくれるだろう。監察執行官の件も承った」

「ほとんどのトラブルの原因が金銭問題や男女関係、それに暴力沙汰や賭け事、詐欺などで人を騙す事などに端を発しているので、基本的な部分だけ抑えておけば効果が見込めると思っています」

「確かにそうだ。これはどこの組織でも付いて回る頭の痛い問題だ。曖昧な部分があったのは私も認めるところであり放置する訳にもいかないからね」

 統括官と第二部隊長の同意は得られたようだね。後はまだこの場に姿を見せていない第一部隊の面々だが、彼らも既に統括官と第二第三部隊が了承している草案に異議を唱える訳にもいかないだろう。

 そしてこのタイミングで副隊長以下の部下を伴って第一部隊長のカモンさんが統括官室に姿を現した。俺達を眺め回した後、申し訳程度の態度で遅くなった事を詫びてきた。

「悪いな、少し待たせたか?」

「いや、君達はいつもの事だ。私は気にはしておらんよ」

 なにげに統括官も皮肉を言うんだな。

「それで俺達がここへ集められた理由は何だ? 規則がどうのこうのと聞いたが」

「うむ、どうやら部隊の誰かが街で住民に一方的に暴力を振るっているとの情報が入ってね。ここにいる第三部隊の面々がそれは良くないだろうとの考えで基本的な部隊規則を作ろうと提案してきたのだ。既に草案は出来上がっていてそこにあるから目を通してくれ」

 カモンさん達第一部隊の人達が草案を手に取って読み始めた。
 眉間に皺を寄せながら厳しい顔をしてるがどうしたんだろう。

「読んでみたけどよ、金に関して厳しくねえか?」

「いや、私はそれほど厳しいとは思わんぞ。身の程を弁えた金の使い方をすればいいだけだ」

 統括官も纏めにかかってるのでさっさと終わらせたいようだ。

「第一部隊も了承という事でよろしいかな?」

「まあ、仕方ねえ。俺達がこの規則を守れるかどうかわからねえがな」

「第一部隊の了承も得たので全部隊がこの規則に同意したものと見做す。では、それぞれの部隊長と統括官の私が用意した書類にサインをしてそれをもって決定事項とする」

 統括官と各部隊長が書類にサインをしてこの規則が正式に部隊規則になるのが決定した。俺も肩の荷が降りて安心したよ。

「それではこの会議を解散する!」

 統括官の宣言で、各部隊長と幹部が集まった規則を議題にした会議は終了した。俺とカウンさんとラモンさんは席を立って自分達の部隊に戻ろうと部屋から廊下に出た。少し歩くとそこには先に席を立って廊下に出ていた第一部隊のカモンさんとその部下が立っていて、俺達がその横を通り過ぎようとすると第一部隊長のカモンさんがいきなり俺の服の胸ぐらを掴んで壁に押し付けてきた。

「てめえ、余計な事をしやがって!」

 どうやら第一部隊長は俺が発起人となって部隊規則を作成したのが面白くなさそうだ。統括官室にいた時もイライラした顔で俺の方をチラチラと見ていたからな。

「兄者に何をする!」
「エリオ殿!」

 俺の胸ぐらを掴むカモンさんに向けて殺気を放ち近づこうとするカウンさんにラモンさん。その二人の前に第一部隊の副隊長と参謀が立ち塞がる。お互いに睨み合って一触即発の状態だ。

「大丈夫だよ、カウンさんラモンさん。心配はいらない」

 俺は空いている手で二人を制し、心配いらないと言って落ち着かせた。そして俺の服の胸ぐらを掴むカモンさんの右手を左手で掴み締め上げる。

「これはどういう事ですかカモンさん。何か気に障る事でもありましたか?」

「クソっ、痛てえ! 何て馬鹿力だ」

 俺に右手を締め上げられたカモンさんは忌々しそうな顔でその手を俺の胸元から離した。表情は俺に締め上げられた手首の痛さと怒りでいっぱいのようだ。

「あの規則とやらだ。まるで俺達を狙い撃ちするような規則を作りやがってこの野郎」

 狙い撃ち? カモンさんには何か心当たりでもあるのかな。

「いや、そんな事はないですよ。一般的なトラブルの原因を考えて基本的な規則にしただけです。狙い撃ちと言うからには何か心当たりでもあるんですか?」

「うるせえな、心当たりなんてねえよ。例えばの話に決まってんだろ!」

「ならば、心当たりがないのならこのような行為は止めてくれますか」

「チッ、気に食わない野郎だ。今日のところは勘弁しておいてやる。まあ、そのうち自分の愚かさを自分の身で思い知る羽目になるだろうがな」

 そう捨て台詞を吐いてカモンさん達第一部隊の面々はこの場から去っていった。

「兄者にあんな事をするとは許せませんな」

「まあまあ、殴られた訳じゃないし俺はあれくらい気にしてないよ」

「でも、エリオ殿。あの男には気をつけた方がよろしいですぞ」

「わかったよラモンさん。気遣ってくれてありがとう」

「さて、第三部隊の隊員にも報告しないといけないからね。二人とも行こう」

 俺はそう言うと、二人と一緒に第三部隊の施設へと足を向けたのだった。
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