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第48話 奇襲は成功するか?

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「後衛部隊は攻撃後に賊徒で倒れている者や眠っている者を捕縛拘束。前衛部隊は前進しながらこちらに立ち向かって来る者を倒してくれ!」

 俺の号令を聞いた弓部隊と魔法部隊が、丘に陣取る宴会中の賊徒に向けて矢や魔法を放って攻撃を開始した。矢は放物線を描いて賊徒達に命中して突き刺さる。

「うわぁ! いきなり矢が降ってきたぞ」
「クソッ、どこから攻撃してやがるんだ!」
「敵だ! 敵襲だ!」

 さっきまで良い気分で酒を飲んでいた賊徒達に浴びせられる無数の矢。天国から地獄に一気に落とされるような状況になった賊徒達はおろおろと右往左往するばかり。

 そしてお次は魔法攻撃が賊徒に浴びせられる。

「賊徒よ、あたしの魔法を受けてみな!」

 リタやミリアム達の魔法隊も賊徒に向けて一斉に魔法を放ち始める。

「クソッ、今度は魔法攻撃が来たぞ!」
「うわぁ! 助けてくれ!」
「ひー、やめてくれ!」

 リタやミリアムの高レベルの魔法はそれぞれの魔法が組み合わさって相乗効果を生む。火炎に竜巻が組み合わさったり、竜巻と土礫が混合したりで威力を大幅に増した魔法が賊徒達に当たると、ある者は斬り裂かれそしてある者は業火に焼かれたりと、その威力を遺憾なく発揮して賊徒に大きなダメージを与えるのに成功した。そして先制攻撃の役割を終えた弓隊と魔法部隊は後方に下がっていく。その後は後方から進みながら倒れている賊徒の捕縛拘束と前衛部隊への支援に役目が切り替わる。

 この先制攻撃でかなりの数の賊徒を倒せたようだ。
 俺達の部隊に不意打ちを食らった賊徒達は酔った足でふらふらとその場に立ち上がったが、まだ混乱していて何が起こってるのか正確に掴めていない。そんな状況を利用して畳み掛けるように攻め込む為に俺は肺に深く息を吸い込んだ後、それを一気に吐き出して大きな声で突撃の合図を下した。

「近接部隊、突撃せよ!」

 俺の号令を今か今かと待っていた近接部隊が森を出て一目散に飛び出していく。
 右翼はカウンさん率いる小隊、そして左翼はゴウシさん率いる小隊だ。そして中央が俺が自ら率いる本隊で、駆け出していく俺の横にはコルとマナがおり、その後ろにはベルマンさんにバルミロさん、そしてロドリゴやソルン達が続いている。

「賊徒よ、覚悟しろ!」

 まず、一番最初に賊徒にぶち当たったのは隊長の俺だった。目の前にいる酒に酔った賊徒達に俺の長柄武器、暗黒破天の長い柄を横薙ぎに叩きつけて勢いよく振り回すと、その勢いで高く放り投げられた賊徒達は宙を舞いながら向こうへ飛んでいく。

「「「ウオォ!!!」」」

 いきなりの派手な攻撃で、それを見た第三部隊の隊員達は歓声を上げ大きく士気が上がる。そして、俺の称号効果もあるので皆の能力も上がってるはずだ。

 俺に続いてバルミロさん達が敵中へ突っ込んでいく。
 バルミロさんが素早い剣捌きで敵を捉え攻撃を行い、ベルマンさんは大盾で賊徒達をまとめてふっ飛ばしている。ロドリゴは得意の槍で多くの敵を相手取り倒していく。その横ではソルンも槍を器用に使って敵を倒していた。

 左右のカウン小隊とゴウシ小隊も、二人の豪傑を先頭に敵の真っ只中を突き進む。
 どちらも酒に酔った賊徒など相手にならないとばかりにすごい勢いで獅子奮迅のごとく進んでいく。あの二人は戦い慣れているのか実戦でもやっぱり強さが並外れているな。こりゃ俺達も負けていられないな。

『コル、マナ、行くぞ!』

『『はい!』』

 俺は暗黒破天を豪快に振り回して視界に入る青い布を被った賊徒を片っ端から次々に吹っ飛ばしたり薙ぎ払ったりしながら倒していき、コルとマナは目にも留まらぬ速さで強烈な体当たりを賊徒に繰り出していく。夜間でも焚き火に浮かび上がる賊徒の青い布が目印になるので同士討ちの心配もほぼない。俺達が倒した賊徒達は後衛の捕縛拘束組に任せてどんどんと前進していく。

『コル、マナ、その調子だ!』

『主様にもっと褒めてもらえるように頑張ります!』
『エリオ様の負担を私と弟で出来るだけ減らしますね』

 千を超える数の賊徒達も酒に酔って奇襲を受けてしまえば、たった二百しかいない俺達の攻撃の前には為す術もなく倒されていくしかなかった。

 だが、このような有利な状況になれたのも、事前に俺達が策を巡らしてこうなるように仕向けたからこそで、一つでも上手くいかなければ苦戦は免れなかったであろう。これは俺だけの功績ではなく、協力してくれた人達全ての功績なのだ。

 と、ここまで武器を持つ暇もなく俺達に倒されていた賊徒達だったが、回復薬で酔を回復したのか一部の賊徒達が反撃の刃を俺達に向けてきた。その中には賊徒の精鋭が含まれているようで苦戦する隊員も出てきたようだ。

「皆、頑張れ! 今が踏ん張りどころだ!」

 俺達の勢いをここで止められてしまう訳にはいかない。
 苦戦している隊員のフォローには俺とコルとマナが分担して対応し、精鋭らしき賊徒をゴリゴリと倒していく。

「隊長、ありがとうございます!」
「隊長の手を煩わせてしまって申し訳ありません!」

「皆を助けるのも俺の仕事だ。気にしなくていいぞ!」

 部隊の仲間を助けるのも今回はおれの役割だ。周りを見渡してみると、こちらの優位は動いてない。目視でざっと眺めてみたが賊徒の数は半数にまで大幅に減っているようだ。そろそろ作戦も第二段階に移るべきだろう。

 俺は右手を空に向けて呪文を唱える。

『光弾!』

 空に聖なる光の玉を生み出しそれを空中で眩く光らせて拡散させる。夜の闇に包まれていた空が辺り一面昼間のように明るくなり地上を照らし出す。本来は違う目的に使うが今回は合図目的で使用した。

 俺の放った魔法は街で待機している部隊への合図だ。
 その光を石壁の上から確認した隊員が大きな声で待機している部隊に伝える。

「合図の魔法が打ち上がったぞ! 第三部隊の奇襲は成功だ!」

 待機していた第二部隊隊長のタインさんも奇襲の成功に安堵の表情を浮かべ、すぐにその報告を受けて指示を出した。

「門を開けよ! 我らも打って出るぞ!」

 コウトの街に待機していた第二部隊の二百人が、開かれた門を潜って正面の丘に向けて殺到していく。反対側からは第三部隊が賊徒を倒しながら怒涛のように押し込んで来ており、第二部隊が街を出て出陣した事によって賊徒を挟撃する形になった。

 賊徒達はいきなりの奇襲で大打撃を受け、今も次々と仲間達が倒されている状況で新手の部隊の攻撃を受けたものだからたまったものではない。

「何をしている! 敵を食い止めろ! 我ら義挙団がこんなところで負けていいのか!」

 賊徒の首領は必死に味方を鼓舞するが、味方の多くが倒れて既に挽回の余地がなくなった今の状況ではただの虚しい叫びでしかなかった。

「賊徒の首領はあそこだ!」

 俺は賊徒の首領を見つけ、コルとマナを引き連れて立ちはだかる賊徒を蹴散らしながら進んでいく。首領からしたら漆黒の武器を振りかざし、漆黒の装備を身に着けて迫ってくる俺の姿はさながら死神のように見えただろう。

 そして、とうとう賊徒の首領のところに俺は辿り着いた。

「おまえが賊徒の首領だな! 覚悟しろ!」
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