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第43話 小言を言おうと思ったら緊急事態が

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 家を借りた翌日、部隊に俺が住んでいる借家の場所を届け出ておいた。
 いざって時に俺を呼びに来ないといけないからね。

 そんな訳で俺の借家暮らしが始まった訳だが、数日後、たまたま急な仕事が入ったので直接関係のないリタやミリアムは残業をさせずに先に帰宅させた。ようやく残業勤務が終わった後、部隊駐屯所から家に帰る道すがら、空き家だと思っていた俺の住む借家の道を挟んだ右斜め前の家と左斜め前の家の二階の窓から明かりが漏れているのを見つけた。

 商会の主人の話では両方の家は空き家で誰も住んでいないと聞いてたんだけどな。もしかしたら部隊関係者でも入居したのかもな。

『コル、マナ。二匹とも今日も頑張ったな』

『主様、褒めてもらえて嬉しいです』
『ありがとうございますエリオ様』

 この子達は賢いから平時は部隊の連絡要員として働いている。書類の入った持ち手のゆったりしたカバンを器用に首にかけて執務室と他の場所の行き来をしているのだ。他の隊員からも可愛がられてちょっとした人気者だ。

 鍵を開けて家の中に入ると、コルとマナはお気に入りの一階の居間に行き、俺は二階にある自室に装備を外して服を着替える為に向かった。窓のカーテンが半分開いている部屋のランプに火を灯し身につけている装備を外していく。

 ふと外を見ると、さっき明かりが漏れていた右斜め向かいと左斜め向かいの窓のカーテンも半分開いていて、部屋の中で動いている人影が俺の目に入ってきた。

 よく見ると右斜め前の家の人物はリタで左斜め前の家の人物はミリアムに見える。いや、まさかそんなはずはない。たぶん疲れているからそう見えるのだろう。

 もう一度、恐る恐る斜め向かいの二軒の家の窓を見てみると……
 やっぱり、どう見てもリタとミリアムだ。しかも、リタの方は丁度服を着替えてるところじゃないか!

 部屋の明かりのせいで逆光になってるのではっきりとは見えないが、胸の形はしっかりと確認出来る。遠目から見ても理想的とも思える素晴らしい形だ。だが、このままだと俺はただの覗き野郎になってしまうので、ここは無理やり強い意思を発揮して自室のカーテンを閉める事に成功した。しかし、あの形が目に焼き付いて意識から消そうとしてもなかなか離れないぞ。

「何でリタとミリアムが斜め向かいの家にいるんだ?」

 俺は訳がわからなくて明日になったら二人に確認してみようと思った。

 翌日、出勤した時にリタとミリアムに何となく聞いてみたように装って今二人はどこに住んでるんだと聞いたら、二人とも目を逸しながら俺の斜め向かいの家に引っ越したばかりだと打ち明けてきた。

 二人は俺が家を借りて住み始めるまでの行動をチェックしていたそうだ。俺の借りた家の住所を秘書官として把握していたのもあり、俺が利用した同じ商会に行ってみたら、たまたま偶然なのか斜め向かいの二軒が借りられるのを知ってすぐに契約したんだってさ。しかも、俺が借りた家と同じように家具なども備えつけですぐに入居出来たらしい。そのうちに俺に打ち明けるつもりだったとさ。

「ラモンさんやロドリゴは承知してくれたの?」

「父は私のわがままをいつも聞いてくれますので大丈夫でした」
「むしろ、ロドリゴはあたしの為に自ら進んで協力してくれたよ」

 親馬鹿ラモンさんと、俺を義兄さんと呼ぶ計画が進行中のロドリゴの奴め。
 二人とも、今日俺と部隊で顔を合わせていながら黙っていたな!

「家賃は大丈夫なの?」

「私の家はエリオさんの家みたいに家も庭も大きくないので家賃は安くそれほど負担にはなりません。それに家賃は父と私で折半にしてるから十分余裕がありますよ」
「あたしもロドリゴと家賃は半分ずつ出し合ってるからね。ミリアムの家と同じサイズで家賃も同じだからお金の心配はいらないよ」

 なるほど、無理はしてなさそうだな。
 借りた動機はどうであれ、正当な手続きを経てたまたま空いていた俺の家の斜め向かいの家を借りたのだから、俺がとやかく言う訳にもいかないか。

「そうか、二人ともご近所さんとしてよろしくな」

「「こちらこそ」」

 疑問が解けたのでこの話は終了だ。ラモンさんは外出中なので後で帰ってきたらとっちめてやろう。俺は通常業務に戻り報告書などの書類のチェックを始める。暫くの間、その作業に没頭していたら執務室のドアが開いてラモンさんが部屋の中に入ってきた。

 よし、俺の家の斜め向かいに引っ越してきたのに黙っていた事を問い質してやるぞと俺が声をかけようとしたら、それよりも早くラモンさんの方から俺に声をかけてきた。

「エリオ殿、至急お話したい事があります。その後、私と一緒に本部の統括官の元にご同行願います。カウンも呼びに行かせたので、向こうで落ち合う予定になってます」

 軽く小言を言おうと思ったら、何やらそれどころではない雰囲気だ。
 執務室内にいるリタやミリアム、そしてもう一人の有能部隊員にも緊張が走る。
 とりあえず、そっちは置いといてラモンさんの報告に集中しよう。

「何かあったのですか?」

「はい、賊徒の集団がコウトの北に現れました。小さな街を襲って蹂躙した後このコウトの街の方向へ向かう素振りを見せています」

「それは本当ですか!?」

「はい、賊徒は目立たないように少人数ごとに移動して、一気に集合した後に蜂起したそうです。全員が青い布を頭に巻いている事から例の賊徒で間違いないようです」

「賊徒の戦力はどれくらいですか?」

「物見の報告によると、その数は千人を超えるのではないかと」

 賊徒はその全てが戦闘が専門でないにしろ千人という数は脅威だ。
 だが、幸いな事にこのコウトの街は俺達がいる。

 街に籠もりながら応戦するのが定石なんだろうが、出来れば賊徒はここで完全に殲滅しておきたい。賊徒に恐れをなして街に引き籠もって出てこなかったと周囲に喧伝され、一気に勢いを増した賊徒が仲間を更に増やして勢力が膨れ上がると手に負えなくなる。コウト周辺の地域を賊徒達に暴れ回られてしまうと籠城して今だけ防いでも意味がない。

 まあ、いい。とりあえず今は統括官の元へ行くのが先だ。
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