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第42話 条件にぴったり

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 部隊編成と部隊長就任の日から十日程が経過した。
 ようやく部隊も運営が軌道に乗り始め、歯車が徐々に噛み合ってきた。

 ゴウシさんには部隊の武術の指南役をお願いして、ベルマンさんとバルミロさんには部隊員達の相談役をお願いした。この二人は口では張り合っているけど、結構仲が良くて他の人への面倒見も良いからな。本人達はあまり自覚がないみたいだけど、人の上に立つ器と能力を持っている。

 ラモンさんは今のところ折衝業務や管理業務などを担当。部隊員の中からそれ系の才能のある人を探してきて自分の部下にしている。副隊長のカウンさんと参謀のラモンさん、それと部下になった人が有能なので俺のやることはかなり減ってきた。あと、リタとミリアムは俺とカウンさんの秘書官的な立場だ。

 余談だが第三部隊の中にカウンさん達の知人が偶然いたらしい。そいつは男で歳は俺より下でロドリゴと同じ。名前はソルン・ジール。笑顔が眩しい青年だ。すぐにロドリゴと仲良くなったみたいだな。

 そして今日は休日だ。部隊関連の職務は副隊長のカウンさんと二人でやってるので、休みは結構取れる計算になっている。各部隊の輪番制もあって期間ごとに担当部隊も変わる。三つあるうちの二つの部隊がその月の職務を担当して残りの一つは予備部隊となる。予備部隊は交代で半分ずつの完全休暇が貰える。部隊員は夜間など当番制で街中の警備や街の外の巡回の為に専用施設に詰めているが全員ではない。勿論、不測の事態が起こった時やそれらが予測される時はその限りではない。

 俺の今日の予定だが借家を契約する為に商会を訪ねる予定だ。
 未だに俺は宿暮らしだったのでね。

 部隊には立派な官舎が用意されていて、希望者は低額な料金で居住出来るようになっている。食事も付いているのでかなりお得だ。募集に応じた人達の中にはこれを目当てに応募した人もいるらしい。コウトは街の財政が豊かなんだろうね。だからこそ、今は平和でも目を付けられる事態を想定しないとな。

 それで官舎があるのに何で俺は借家を探しているかというと、俺の連れている従魔達の事を考えてだ。コルとマナは官舎で過ごすよりも普通の一軒家で過ごす方が気分的に楽なのは間違いない。ただでさえ勤務中の部隊の執務室は人の出入りが多いし、官舎も大勢の人の気配が常にあるような状況だ。俺一人なら大丈夫だけど、従魔達にはあまり良い環境とは思えない。部隊駐屯所のすぐそばには隊員向けに借りられる家や下宿が結構あるらしいので、今日はその家を紹介してもらって契約するつもりだ。

 ベルマンさんとバルミロさんは官舎暮らしを選択した。
 二人に聞くと、どうせ寝るだけだから飯付きの官舎で十分なんだそうだ。時間さえ守れば休みの日に飲みに行ったり色街に行くのも問題ないからさっさと官舎住まいを選択したようだ。羽目を外しすぎないようにね。

 同じ理由でカウンさんとゴウシさんも官舎住まいを選んだ。傭兵稼業が長いので家を借りて住むよりは、面倒な掃除や手入れがないので気楽でいいのだそうだ。

 そして、リタやロドリゴ。ラモンさんやミリアムは考え中らしい。
 どういう選択をするのだろうか。

『コル、マナ。おまえ達が気に入るような良い家が見つかるといいな』

『主様、僕と姉ちゃんの為にありがとうございます』
『エリオ様は優しくて大好きですわ』

 フフフ、人目を気にせずモフ分補給が出来るので俺の為でもあるのさ。
 俺と従魔達は家を借りる目的の為に宿を出て商会へと向かう。

 そんな微笑ましいエリオと従魔達の姿。
 だが、物陰からその微笑ましい姿をこっそりと窺い見ている者がいるなんてエリオ達は知る由もなかった。

 エリオは家の売買や賃貸を専門にしている商会に到着した。
 ドアを開けて中に入ると商会の主人が出てきたので、駐屯所近くに借家を探していると話して希望の条件を伝える。

 棚から資料を漁って何軒かの物件候補を選んでくれたので、商会の主人に案内されてその候補に上がった家に向かう事になった。

 まず、候補一軒目の家に到着。
 庭があって二階建ての家で敷地の大きさもそこそこある。

「どうですかお客さん。庭もあって敷地も広いですよ」

「確かに俺が言った広い庭付きの条件に合っていますね。家の中も見せてもらえますか?」

「よろしいですよ。こちらへどうぞ」

 主人が家のドアの鍵を開けてくれたので俺は中に入って見る。
 家の中には家具など何もなくてガランとしている。一通り家の中を歩き回った俺はすぐに契約を決めずに他の物件も見てからにしようと思い主人にそう伝えた。

「他の家も見てみたいのでお願いします」

「よろしいですよ」

 主人は嫌がる事もなく応じてくれた。そして次に紹介された家に到着すると、その家も二階建てで一軒目の家より建物も庭も大きくて広かった。ただ主人の話によると建物自体が古いのでそのせいで割安で借りられるらしい。

「家の中を見せてください」

「どうぞ」

 確かに家は古いが、見ると頑丈な柱があるおかげで建物自体はガッチリしてそうだ。あと、備え付けで家具などの調度品があってすぐに住めるのでこれは良さそう。部屋の数も多いし庭も広いしで、家の古さを気にしなければ俺の条件にぴったりの家だな。

『コル、マナ。この家でどうだ?』

『僕はこの家でいいと思います』
『エリオ様がよろしければ私もこの家でいいと思います』

『そうか、ならこの家に決めよう』

 商会の主人に契約の意思を伝えないとな。

「この家が気に入ったので契約させてもらいます」

「おお、そうですか。ありがとうございます。細かい契約は商会に戻って行いましょう。この家は定期的に掃除などの手入れをしておりますのですぐに住めますよ」

 家具付きの家は一から揃える手間が省けるから便利だよね。
 これだけ庭も広ければコルとマナも自由に走り回れるので、運動不足の心配をしなくても良さそうだ。

 商会に戻って正式な契約を済まし、予備も含めて家の鍵を受け取った俺は滞在中の宿に一旦寄ってチェックアウトの手続きをした後、新しく賃貸契約を結んだ借家に無事に入居する運びとなった。

 借家とはいえ、久しぶりの一軒家暮らし。
 鍵を開けて家の中に入り二階へ上がって窓を開ける。そこからは駐屯所の大きな建物も見えて、何かあればすぐに駆けつけられる距離だ。見晴らしもいいのでぼんやりと外を眺めるのも良さそうだな。

 窓から下を眺めるとコルとマナが庭に出てニコニコしながら俺を見上げていた。
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