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第37話 怪物みたいな奴が使うような武器を手に入れる

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『コル、マナ。おはよう』

『主様、おはようです』
『エリオ様、おはようございます』

 おお、朝の挨拶を従魔と念話とはいえ言葉で交わせるなんて素晴らしい。

『おまえ達とこうして念話で会話出来て俺は嬉しいよ』

『僕もです。いつでも主様とお話出来るので嬉しくて仕方ありません』
『エリオ様。私もエリオ様と会話を出来るのがまるで夢のようです』

 さて、まだ合格発表まで少し間があるので、俺は新しく獲得した土魔法を戦闘で試すべく、コルとマナを連れてコウトの街の外へ行って魔獣や魔物が出る場所でちょっとした訓練をするつもりだ。

 まず、仲間達との連携以前に自分と従魔で何が出来るのか練習しておきたいからね。今日の目的は土魔法に慣れるのと念話を使って従魔との連携かな。皆には個人行動してくると言ってあるので問題ない。リタとミリアムには一緒に魔術師がいた方がいいんじゃないかと言われたが、今回は一人で行動させてくれ。

 コウトの街のギルドに寄って魔獣が出る場所を教えてもらい、街から離れた林の中に入っていく。ここらへんでは群れで活動している猪型の魔獣がいるらしい。林に分け入っていくと復数のそれらしい姿を確認出来た。

『コル、マナ。あの魔獣をこっちに追い込んできてくれ』

『主様、僕に任せて』
『エリオ様、行ってきます』

 今回の作戦はこうだ。
 従魔達に魔獣を誘導してもらいこちらへ引き寄せる。
 向かってきた魔獣を土魔法で掘った溝の穴に落とす。
 落とした穴の底の地面を泥濘ませて自由な動きを封じる。
 そこへ俺と従魔がとどめを刺していく。

 対人にも応用出来るだろうから試しておこうと思ったんだ。まあ、対人だと相手は武器もあるし魔法もあるので、そこは魔獣ほどの効果はないかもしれないが、それでも何もしないよりは大きな効果はあるはずだ。

 十頭程の数の魔獣の群れの後方へ向けて、コルとマナは足音一つさせずに近づいていく。我が従魔ながらいつ見ても凄いとしか言いようがない。

『エリオ様、後ろに回り込んだのでこれからコルと一緒に追い込みます』

『うん、頼んだぞ』

 存在感を消していたコルとマナが強烈な殺気を放つと、驚いた魔獣の群れは慌ててコルとマナとは逆方向、つまり俺の方へ向かって一目散に走り出した。待ち構える俺はタイミングを計って魔法を唱える。

 よし、今だ!

『アースフォーム!』

 魔獣達の目前に溝状の穴を出現させると、面白いようにその溝の穴の中に魔獣達が頭から突っ込んでいく。

『アースマッド!』

 すかさず底の地面を泥濘ませる。
 思うように身動きが出来なくなった魔獣達は為す術もなく穴の中でもがいていた。

『首を地面から上に出している魔獣はコルとマナで仕留めてくれ。俺は横たわって身動きが出来ない魔獣に剣でとどめを刺していく』

『『わかりました!』』

 強烈な威力の爪撃で魔獣を仕留める二匹の従魔を横目に見ながら、俺も剣を突き刺して魔獣にとどめを刺していく。一頭単位で戦うよりも効率的に倒せたのではないだろうか。あと、やっぱり長い武器が欲しいな。せっかく槍術を覚えたのだから、買うかもしくは鍛冶屋で作ってもらおうか。

『コル、マナ。ご苦労さん』

『主様の役に立てて嬉しいです』『エリオ様、お見事でしたわ』

 その後、魔力を使った後の自分の体調変化を確認しながら何回か魔獣相手に同じような戦闘をしてみた。これくらいまでは何とか使えそうだ。納得した俺はコウトの街に帰ってきた。とりあえず、武器屋に行ってどんな武器があるのか見に行こう。ロドリゴの使っているのは穂先の刃が十字になってる槍だったっけ。

 俺はどちらかというと薙ぎ払う事も出来る長い武器が欲しい。そういえば、この前試験会場で会ったカウンさんがそれっぽい武器を持っていたな。俺もカウンさんみたいな武器を探してみるか。何だかコルとマナを連れていると、そういう物が運良く見つかる気がしてくるぞ。

 コウトの街に戻ってきた俺は一旦宿に寄って防具を外した後、先日行った武器屋や防具屋が軒を連ねている地区に向かった。あそこらへんはとんでもない掘り出し物が眠っている気がするんだよね。俺の勘がそう告げているんだ。

 鎧や鉄の筒を買った店を通り過ぎ、木製の看板に武具屋と書かれている店にとりあえず入ってみよう。

「こんちは、誰かいますか?」

「お客さんかな? 今行くから待っててくれ」

 店の奥からこの店の主人らしい壮年の男性が姿を見せた。

「おお、従魔連れとは珍しいな。従魔使いは武術が苦手なタイプが多いからな。襲われた時にとっさに身を守る護身用の短刀でも欲しいのかい?」

 短刀か、それも欲しいけど今は長い武器を手に入れるのが目的だからな。

「いや、長い武器で突いても薙ぎ払っても戦えるような武器が欲しいんです。重量が重くてゴツくても扱うのは大丈夫だと思うのでそういう武器はないですか?」

「はあ? おまえさん従魔使いなんじゃねえのか? おまえさんが希望したような武器はバリバリの武闘派が使うような代物だぞ」

「ああ、従魔連れと見た目で誤解されがちなんですけど、俺は剣や槍が本業なんですよ。槍術を覚えたので本格的に長い武器も使ってみようかなと思って」

「うーん、そうは言うけどなぁ。うちの店の裏にちょっとした練習場があるからそこでおまえさんの武技を見せてくれねえか? ほら、合いそうな武器を提案するのにおまえさんの実力が知りたいもんでな」

 なるほど、俺に合った武器を見繕うにも実力がどの程度かわからないとオススメしようがないもんな。俺の実力を疑ってる訳じゃなくてどんな武器が合いそうなのか見極めたいのだろう。

「いいですよ。槍か何かの武器を貸してくれませんか」

 俺は店の主人の提案を受け入れて店の裏にあるという練習場に案内された。練習場には丸太や厚い木の板などが置かれていて、武器の斬れ味や破壊力をテストするのだろう。

「そこにちょっと重たいけど頑丈な槍があるからそれを使ってくれ」

 店の主人に教えられた場所には頑丈そうな槍が立てかけてあったので、それを片手でヒョイッと持ち上げて頭上でくるくる回してみる。おお。槍術9のスキルは伊達じゃないな。武の達人の効果が上乗せされているから、スキルの上限と言われている10のレベルを実質的に超えている俺は簡単に苦もなく小枝を振るようにひらひらと扱えてしまうぞ。

 とりあえず、武技を見せながら練習場に置かれている丸太や木の板を破壊すればいいのだろうか。口で言うよりはやってみる方が早いので早速やってみよう。

 スキルのおかげで体が覚えてくれている槍術の武技を体術と織り交ぜながら練習場全ての敷地を利用して披露していく。だけど、槍術は覚えたばかりなので技と体の動きに若干のぎこちなさがあるのは仕方ないか。なので、その場で動きを止めて地に根が張るが如く踏ん張りをきかせて一気に厚い木の板を穂先で突く。斬れ味が抑えてあったのか、スパッと突き抜けずに突いた時の衝撃で木の板はこなごなになってしまった。

 木の板を壊してしまって怒られるかなと、店の主人の顔を恐る恐る伺ったら主人の目が点になっていた。あー、これは弁償しないといけないかもな。

「え、えーと、おまえさんは何者なんだ?」

「すみません、木の板を壊してしまって。弁償するから許してください。あと、俺は剣士で槍術士で従魔使いの普通の人間ですけど…」

「……ま、まあ、いい。おまえさんがそう思うのならたぶんそうなんだろう。弁償とかいらないから気にしなくていい。ところで、そんなおまえさんにうってつけの武器がある事はある。どうだ見てみるかい?」

 やったぞ、俺に合った武器を見繕ってもらえそうだ。
 断られるかと思ったけど、この店の主人は丁寧だし誠実で良い人だな。

 主人に店の倉庫に案内され、埃にまみれた細長い木の箱の目の前に連れてこられた。この中に入っているのが俺にうってつけの武器候補なのかな?

 店の主人が箱の蓋を開けるとそこには黒くて太い柄を持つ見るからにゴツい武器が横たわっていた。穂先があって一見して槍のように見えるが、その下側には外側に張り出す細長い半円状のゴツい刃が両側に付けられていて、柄は真っ黒の金属で出来ていた。

「これなんだけどさ。ずっと前に俺の道楽で特別に注文した物なんだよ。怪物みたいな奴が持つような武器を作ってくれってね。売れるかなと思って店に置いていたけど、さすがにこれを使いこなせるような怪物はいなくてお蔵入りになっていたんだ。ちょっとネーミングが恥ずかしいが『暗黒破天』と名付けた武器なんだけどさ。おまえさんちょっとこの武器を振ってみてくれないか?」

 主人にそう言われて箱の中からこの武器を握って持ち上げてみる。確かに普通の人には到底扱えない重さだろうが俺なら軽く感じるし余裕で振れそうだ。さっきの練習場に戻って振り回してみると、ブンブンと空気を切り裂く音を立てながら難なく使いこなせる事が出来た。確かにネーミングが恥ずかしいが、俺が求めていたような武器だ。

『主様、格好いいです!』『エリオ様の勇姿に惚れ惚れしちゃうわ!』

 おっ、コルとマナも喜んでくれているようだ。

「おまえさんもの凄いな。まさに怪物じゃないか。こんな化け物武器を軽々しく使いこなせる奴がいるなんて驚いたよ。売ってあげるとかじゃなくて是非ともこいつを使ってくれ。在庫整理も出来るしお代はいらねえからよ」

「いや、お代は払いますよ。ただって訳にはいかないし」

 そう俺に言われて店の主人が提示した金額はとても安いものだった。それでいいからと、押し付けるようにこの武器を渡された俺は恐縮するしかなかった。厄介払いじゃないよね?

「毎度あり」

 まるで憑き物が落ちたように清々しい顔をした店の主人に送られて、俺は新しく手に入れた武器を持って従魔達と一緒に宿へと帰っていった。
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