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第34話 中古の鎧と錆びた鉄の筒

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 あの二人と別れた後。

「こんなにいっぱい滞在費を貰ったし、まだ日暮れまでには時間があるから宿に直接帰らずにあたしはこの街の店で服でも買おうかな」
「リタさん、それいいですね。私も一緒について行っていいですか?」

 女性陣は連れ立って服を買いに行くようだ。

「おい、バルミロ。飲み屋で軽く一杯やってくか?」
「フッ、おまえにしては良い提案だ。一緒に付き合おう」

 おっさん二人は飲み屋で一杯か。

「僕は靴を新調したいので靴屋を探すっす」
「私はこの街の情報を集めに行きますかな」

 ロドリゴとラモンさんも自分の目的があるようだ。

「なら、俺は…良さそうな防具がないか見て回ろうかな」

「ふふふ。エリオ、あたしがいないからって迷子になっちゃ駄目だよ」

「あのね、リタ。俺は子供じゃないってば」

 全く、人を何だと思ってるんだよ。まあ、それぞれの目的も決まったようだしな。

「じゃあ、行きますか」

 目的の商店に向かう者、飲み屋街に向かう者など、それぞれ目星を付けた方向へ歩いて行く。途中まではリタ達と一緒だったが、通りすがりの人に道を尋ね目的の場所がある場所を教えてもらった後、リタ達とも別れて俺は武器屋や防具屋の店が何軒も並んでるという場所に向かっていく。

 ちなみにこの街は道が規則正しく作られているから迷いにくくわかりやすい。そして暫く歩くとお目当ての武器屋や防具屋が軒を連ねている通りが見えてきた。とりあえず、手前の店から入ってみよう。

「こんちは。ちょっと防具を見せてもらってもいいですか?」

 声をかけると奥からこの店の主人が顔を出してきた。

「あいよ。どんな防具が欲しいのかな?」

「軽くて強度があって体の動きを妨げないようなのってあります?」

「ハハハ、お客さんは皆そう言うんだけどね。なかなか全てが揃ってるのはなくてね。あと、うちの店は見ての通り重戦士用の鎧がメインでね。申し訳ないけどお客さんの希望の鎧は置いてないんだよ」

「そうですか…なら仕方ないですね。何だか冷やかしみたいになっちゃって申し訳ありません」

「いや、気にしなくていいよ。その代わり、あんたの知り合いでうちの店にあるような鎧が欲しい人がいたら連れてきてくれよな」

「わかりました」

 一軒目のお店には俺が希望するような鎧はなかったか。まあ、そんなに簡単に見つからないよな。気を取り直して次の店に行こう。

「コル、マナ。次の店に行くぞ」

『『ワウ!』』

そして隣にある防具屋の店へ。

「こんちは。防具を見に来たんですけど」

「お客さん、何が欲しいんだい?」

「一応希望を言いますけど、軽くて強くて動きやすい鎧とかあるかなって……」

「軽さと強度を両立するのはなかなか難しくてね。素材次第になってしまうんだよ。うちの店にもそういうのはたまにしか入って来ないからね」

「そうですよね…」

「悪いねぇ……いや、ちょい待てよ。そういえば、かなり前に古い家の蔵から出てきた中古の鎧を引き取ったっけな。すっかり忘れてたよ。ちょっと探して取ってくるからそこで待ってな」

 主人が店の奥に引っ込み、ガタゴトと音を立てながら何かを探しているようだ。そのうちに何かを箱から取り出すような音が聞こえてきた。暫くすると主人が真っ黒な鎧と一緒に別の物も抱えて俺の前に戻ってきた。

「これなんだけどさ。随分昔に引き取ったはいいけど、素材がわからないし何よりも真っ黒で陰気臭くて薄汚れた中古品の鎧だろ。一時期店に展示して置いてたんだけど客に見向きもされなくってな。鎧自体はおそらく良いものだと思うんだけどさ。一緒に箱に入っていたガントレットと膝当てなどの付属品も付けるから買わないか?」

 そう言われてみれば見るからに真っ黒で陰気臭い鎧だ。ずっと仕舞われていたのか薄汚れて色艶がくすんでいるけど磨けば艶が出そうな感じだな。持って見ると軽いし手で叩いてみても硬質な音がして強度はかなりありそうだ。デザインが少し古めかしいのもこの鎧に陰気臭い印象を与えてるのだろう。付属品のガントレットと膝当てもこの鎧とセットなのか真っ黒だよ。

 店の主人に断って試しに試着してみる。装備してみたらまるで測ったかのように俺の体にぴったりだな。前の持ち主も俺と同じような体型だったのかな? ガントレットと膝当ても可動部は柔らかいが本体はとても硬質な印象だ。

「コル、マナ、どう思う?」

 コルとマナに鎧を見せてあげると二匹は少し眺めた後で『ワオン!』と吠え、それでいいんじゃないとばかりに後ろ足で立ち上がり鎧に前足をトントンと当ててきた。

「そうか、おまえらこの鎧を気に入ったのか」

 そして店の主人に値段を尋ねると、俺も忘れていたような売れ残りだからお安くしておくと言われ、ここまでなら出せると用意していた予算よりもだいぶ安く鎧と付属品を手に入れる事が出来た。

「毎度あり」

 売れ残りを処分出来てホクホク顔の主人に見送られて店を出る。さて、用事は済んだし宿に帰ろうかと思ったがついでだから別の店も覗いてみるか。少し先にも武具と防具の店があったのでそこに行ってみる。店に入ると入り口の横に大きな箱が置いてあり、箱の中には使い古されてぼろぼろの武器や防具などが無造作に突っ込まれていた。もしかしてこれも売り物なのかな?

 中に入っている物をよく見ると矢筒のような蓋付きの丸い錆びた鉄の長い筒があり、何となくそれを見ていたらコルとマナがいきなりその筒を前足でガシガシと触り始めた。

「おまえらもしかしてこの錆びた鉄の筒を気に入ったのか?」

『『ワウ!』』

 そうか、ならこれも買っていくか。何でコルとマナがこんな物を欲しがるのかわからないが、自分達の遊び道具にしたいとか何かしら理由があるのだろう。店の主人を呼んでこの錆びた鉄の筒が欲しいと言うと、この筒はどこかの家から引き取ったガラクタの中に混じっていたそうだが、錆びついて蓋が固着しているので全然開かないらしい。中に何か入っていて重さはそこそこあるがどうせガラクタが中に入ってそうなので、こんなに錆びついた品物はまともに売れないだろうから酔狂な客が買ってくれるなら儲けもんだと思ってこの箱の中に入れていたそうだ。

「毎度ありがとう」

 よし、色はちょっと陰気臭いけど掘り出し物の鎧が予定していた予算よりも安く買えたので大きな成果があったな。買い物も満足出来たし宿に帰ろう。
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