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第25話 西の大国は崩壊していた

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 街道脇の森の中の朽ちた建物から宝玉を見つけて吸収したその後も、俺は旅を続けて多くの距離を歩き西の方へと旅を進めていた。

 新しく得た称号【武の達人】の効果は凄まじく、単純計算で剣術レベルが9相当に跳ね上がった俺は並の魔獣程度では何の問題もなく簡単に倒せるようになっていた。

 持っていない武術系スキルにもしっかり効果があるのか、試しに折れて落ちていた手頃な太さの硬い木の枝の小枝を払い、杖に見立てて魔獣と戦ってみたが、今まで杖術なんてどんなものかも知らなかった俺なのに、体が自然に動いてかなりの技量を発揮する事が出来たのも驚きだった。

 もう一つの称号【統治統率者】だが、道中でコルとマナに魔獣と戦わせて効果を検証してみたけど、元々この二匹は強いので並の魔獣相手ではどれだけ従魔の能力が上昇しているのかはっきり言ってよくわからなかった。

 さて、ダムドの街を出発してから長い距離をひたすら歩いてきた。
 小さな国を一つ間に入れてその次の国を通過して国境の峠も越えたし、もう西の大国領内に入っているはずだ。確か条約で国境間の関が無くなってるんだよな。昔聞いた情報でうろ覚えだが、西の大国はとても安定した国で都市や街も栄えているらしい。想像するだけで希望が湧き期待に胸が膨らむ。昨日は野宿で過ごしたが、今日はどこかの街や集落の宿に泊まりたいものだ。

 次に街や集落を見つけたらこの国の詳しい情報を聞いてみよう。
 そして歩くこと数時間、直角に右方向に分かれていく道があり、その奥には小さいけど街らしいものが見えている。小さな街だがそこそこまともな宿もあるだろうからゆっくりと休めそうだ。

「コル、マナ。小さそうだけど街があるみたいだぞ」

『『ワオン!』』

 俺に合わせて喜んでくれているけど、コイツらは元々野生の魔獣だった訳で、街であろうが何だろうが大して気にしてなさそうだ。

 おや、徐々に街が近づいてくるけど何となく雰囲気がおかしい。
 街の入り口には武装した人達が数人立っていてこちらを警戒しているようだ。
 そして、その内の一人が俺達に向かって大声で叫んできた。

「そこの者、止まれ!」

 念の為に後ろを振り向くけど誰もいない。
 どうやら声をかけられたのは俺達で間違いないようだ。
 何を警戒してるのかわからないが、ここは素直に聞いておこう。

「止まりましたよ!」

「よし。そのままの位置で両手を上に上げていてくれ」

 言われた通りにその場で両手を上げて待っていると、武装した数人がこちらへ近づいてくる。さすがに俺も無抵抗ですぐそばに近づけさせる訳にはいかないので、ある程度の距離になった時点でこちらから話しかけてみた。

「そちらもそこで止まってください。何を警戒してるのか知りませんけど俺は従魔を従えた普通の旅人ですよ。見ればわかるでしょ。それともここらへんでは従魔連れは街に近づいては駄目なんですか?」

 向こうは俺と従魔を交互に見て何やら小声で話している。
 そして最初に俺に叫んできた人が警戒しながらも俺に問いかけてきた。
 見た感じ、年齢は三十代で何となく強そうだ。

「その前にあんたはどこから来たんだ? 正直に言ってくれ」

「俺ですか? 俺はここからは東の方向のシウベスト王国にあるダムドという辺境の田舎街からやって来ました。西にある大国を目指して旅をしてきたんです。身分を疑うのならギルドカードも見せましょうか?」

 そう言うと、俺は手を動かすぞと断って服の内側からギルドカードを取り出し、目の前にいる人に見えるように差し出した。

 相手はゆっくりとこちらへ近づいて来て俺のギルドカードを確認すると、ほっとしたように大きく息を吐き出して俺に声をかけてきた。

「どうやらあんたはあちこちで街を襲ってる賊徒ではないようだ。疑ってすまない」

「ああ、別に気にしなくていいですよ。ところで街を襲っている賊徒って何ですか?」

「何だ、あんた賊徒の事を知らんのか? あんたの言っている西の大国とはキルト王国の事を指しているのだろうがもうそんな国はないぞ。ここも以前はキルト王国を構成する一部だった。だけど、つい最近だが一人の大将軍によってクーデターが起こされて主だった王族達は軒並み殺されたという話だ。国が崩壊して滅んだ影響で一気に地域全体が不安定になり各地の有力者がお互いに睨み合いや小競り合いをしてるんだ。そういう訳で統治者達の統治が軒並み疎かになって各地の治安が悪化傾向でな。その隙を狙って元から不満を溜めていた連中が青い布を旗印に集まり賊徒化して、力のない統治者の治める地域などで住民を殺したり、略奪や暴行凌辱などをしながら各地を荒らし回ってるという連絡が来たのでこうして警戒していたんだ。そして、とうとう隣の街が賊徒達に襲われたという報告がつい最近あったのだよ」

「えっ……西の大国は既に滅んでるなんて。それに今はそんな不安定な状況になっているんですか!?」

「ああ、キルト王国は確かに大国ではあったが王権が直接及ぶのは王の直轄地だけでな。他の広大な領土は貴族や有力者が治めていて、それぞれ独立領のような形で独自のやり方で統治をしていたのだ。その内の一人で王国に何人か存在する大将軍職を賜っていた者が王族達が王都に集まるタイミングを狙って今回の反乱を起こしたという訳だ」

「なるほど。だからこの街では外から訪れる者を警戒してたのか」

「ところでものは相談だが暫くの間この街を守る手助けをしてくれないか。もちろん報酬は払う。あんたがどのくらい強いのかわからんが、一人で遠くから長い距離を旅をしてきたからにはそれなりに強いのだろう。兵をよこしてくれるように依頼したのだが、うちのような小さな街には無理だと言われて派遣される見込みはなさそうなのだ。どうか頼まれてくれないか」

 こんな俺にも声をかけるのだからこの街は猫の手も借りたいというところか。
 たぶん、今の俺とコルとマナの強さを合わせればそこらへんの賊くらいならかなりの数を相手に出来るだろう。引き受けても良いとは思うが問題は相手の人数とこちらにどれくらいの強さがあるかだな。俺以外にこの街にどんな戦力があるのかもわからない。もうちょっと詳しい話を聞いてから判断しよう。

「返事をする前にこの街の戦力がどのくらいなのか確認させてくれませんか。それを確認してから決めたいと思うので。もしその結果断る事になっても恨まないでくださいよ」

「確かにその通りだ。これから私と一緒に街の中に来てくれないか。この街を守る連中を紹介したい」

「わかりました。コル、マナ、行くぞ」

 歩きながらお互いに自己紹介をする。
 責任者らしき人の名前はエルケナーさんで、この街のギルドに所属している人のようだ。

「ここは街とはいえ小さくてな。ギルドに所属してる連中は傭兵の依頼を受けて各地に行く者もいれば、冒険者としてこの街周辺で活動している者もいる。今現在この街で戦える戦力は三十人より少し多いくらいだ。街から要請があり私は責任者としての役目を引き受けた。その他にたまたまこの街を訪れてた外部の六人と委託契約を結んでいる。あんたが引き受けてくれれば外部委託組は七人目だ」

 今この街には専門で戦える戦力が三十人ちょっとか。他に街の住人でまともに戦える人はそれほどいないだろう。俺を含めて全員足せば職業として戦えるのは四十人くらいの戦力になるな。そうなると外部の六人というのが気になる。どんな連中なんだろうか。

「外部の六人が気になりますね。それと賊徒の人数はどれくらいなんですか?」

「正確な人数はわからないが、報告によると八十人から百人くらいじゃないかと思われる」

 八十人から百人か…おそらく全員が戦いの熟練者という訳ではないだろう。賊徒の人数は多いがこちらの面子次第では何とかなるかもしれない。あの称号が役に立つかもな。

 エルケナーさんに案内されてギルドにやってきた。
 ギルドが対賊徒守備隊の待機所になってるようだ。
 エルケナーさんに続いてコルとマナを連れギルドの建物に入っていく。

 建物の中には十五人程の人達が座っていて入り口から入ってきた俺達に一斉に顔を向けてきた。

「交代でギルドに詰めているので今はこの人数だ。後は街の外に出て偵察をしている者も数名いる。街と契約している六名もこの場にいるぞ」

 そう言われて改めてギルド内を見渡して見ると……
 あ、確かに特別な雰囲気を醸し出している見るからに強そうな人達が何人かいるぞ。あの人達が街と契約している六人かもな。
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