うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人

文字の大きさ
上 下
17 / 171

第17話 火事の原因は放火だった

しおりを挟む
 大きな炎と黒煙を上げて燃えさかる自分の家の姿をみて呆然とその場に立ち尽くす俺。近所の人達がバケツに水を汲んで持ってきて消火活動をしてくれているが、それも火勢の勢いには焼け石に水の状態だ。

 既に火の手は家全体を覆い尽くし、手の施しようがないのは誰の目にも明らかだった。今朝まで普通に寝起きをして住んでいた我が家が、今は見るも無惨に燃えさかる火によって消し炭になろうとしている。

 何で俺の家が燃えているんだ?
 今朝、家を出る時までは火の元の確認もしたし何も異常はなかったはずなのに。
 次から次へと疑問が湧き上がるが目の前の火事は夢ではなく現実の出来事だ。

 おろおろする俺の足元でコルとマナも燃える家をじっと見つめていた。
 暫くの間は気が動転して放心状態だった俺だが、徐々に意識が現実を直視出来るようになってきた。

 そうだ、俺も消火活動を手伝わなきゃ。
 この火事が他の家に燃え広がるのだけは絶対に避けなければいけない。
 自分の家だけならまだしも、他の家に燃え広がったら謝罪だけでは済まないからな。

「皆さん、俺の家が火事を起こして申し訳ない! 俺も消火を手伝います!」

 俺の声に反応した人達がこちらを振り返った。
 その顔ぶれを見ると、消火活動をしてるのは知った顔が多い近所の人達だった。

「おお、帰ってきたか。おまえさんの家が燃えているぞ!」
「俺が最初に火事を発見したんだが、もうその時は火の勢いが凄くてこの有り様だ」

「すみません、俺も手伝います!」

 近所の人達の中に入って、俺もバケツリレーを手伝う。
 井戸で組み上げた水をバケツに汲み、流れ作業で燃える家にかけていく。
 俺の家はもう手遅れで無駄だとわかっていても、他の家に燃え移るのだけは防がなくちゃいけない。なので、俺は「申し訳ない、申し訳ない」と、うわ言のように呟きながら近所の人達と一緒に必死で消火作業を続けたのだった。

 ◇◇◇

 懸命の消火作業の甲斐があって火事は他の家に燃え広がることもなくようやく鎮火した。辛うじて黒く炭のようになった柱や燃え残りの壁が残っているが、家の裏手は火の勢いが強かったのか壁も柱も全部崩れ落ちていた。改めて全体を眺めてみると見るも無惨になった家の跡が残るだけで辺りは焦げ臭い匂いが充満していた。

 駆けつけた街の衛兵が野次馬達をこの火事の現場に近づけないように立ち塞がり道を封鎖している。別の衛兵達は燃えた家の周りで火事の原因の調査をしているようだ。

 その中から責任者らしき人がこちらに向かって歩きながら近づいてきた。

「火事の火元の住人と発見者、そして消火活動をしてくれた人達に話を聞きたいんだがこちらへ来てもらえるかな」

 俺と何人かの人が手を上げて責任者らしき人の元へ歩いて行く。

「燃えた家の持ち主は俺です」
「俺が第一発見者だ」
「私は消火活動をした者だ」
「あたしもバケツに水を汲んで手伝ったよ」

「そうか、まず第一発見者のあんたに聞きたい。最初に火事を発見した状況を教えて欲しい」

「ああ、いいぞ。俺は肉屋で買い物をして帰る途中で立ち話をしていたら空に向かって黒い煙が上がってるのを見てこの火事を発見したんだ。俺が駆けつけた時には家の裏手の方から轟々と火の手が上がっていて既に勢いが強くなっていた。俺に疑いをかけるのは尤もだが、火事を見つける前まであそこの家のご隠居さんと立ち話をしていたから俺が火付けをしてないのはそのご隠居さんが証明してくれるはずだ」

「ほう、家の裏手が火元か。そのご隠居さんとやらの家を教えてくれ。部下に聞き込みに行かせるのでな」

「おう、あそこの黒い屋根の家がそうだ。ご隠居さんの名前はヘイゾさんだ」

 すると、責任者の人は近くにいた衛兵を呼んで指示をした。

「よし、おまえはあそこの家に行って聞き込みをしてこい」

「わかりました!」

 指示を受けた衛兵はその場で右手を上げて敬礼すると足早にその黒い屋根の家に向かって駆け出していく。

「次は火元の家の住人に話を聞きたい。この燃えた家の持ち主は誰だ?」

「俺です」

「おまえさんが火元の住人か。では、正直に答えてくれ。火事の原因に心当たりはあるか? こちらで現場を調べて火事の原因を調査するが、もし心当たりがあるなら今のうちに言ってくれ」

「そう言われても…俺も何が何だかわからないんです。ギルドの依頼で街の外に出かけていて、帰ってきたら街の中から黒い煙が上がってるのを見つけました。俺の家がある方向だなと心配になって駆けつけたら自分の家が燃えてたんです」

「なるほど。ところでこの家で煮炊きする為の竈の位置はどこだったんだ?」

「竈の位置ですか? 家に入ってすぐ左側で家の表側です」

「それを証明出来るか?」

「それならあたしが証明出来るよ。前にこの家に用があって家の中に入った事があるけど竈の位置はエリオの言う通りさ」

 良かった、近所のおばさんが俺の証言を裏付けてくれた。

「俺、いつも家を留守にする時は火の元の確認を念入りにしてるんで竈から失火はないと思います。俺自身、何で燃えたのか知りたいくらいですよ」

 そこへ原因の調査をしていた衛兵の一人が責任者の人に近づき何やら耳打ちする。

「うーん、今報告を受けたが調査の結果、おそらく家の裏手が火元で間違いないだろう。だとすると、竈が火元ではないようだ」

 思案顔の責任者の元へご隠居さんに聞き込みの行った衛兵が戻ってきたようで、責任者の耳元に顔を寄せ報告する。

「証言にあったご隠居さんを聞き込みした結果、第一発見者のあんたの証言の裏付けが取れたようだ。発見者のあんたを疑って申し訳ない」

「ああ、気にすんな。それよりちょっといいかい? 思い出したことがあるんだ」

 声を出したのは第一発見者の人だ。

「あんた何を思い出したんだ?」

「俺が火事を見つけてこの家の前に駆けつけて来た時に、燃えている家の物陰から出てきて俺の姿を見ると慌てて向こうへ走っていく人影を見たんだ。服装はどこにでもいるような感じだったが体つきは男だった。フードを被っていたから顔はよく見えなかったが、あんたらの調査の結果だと火の気がない家の裏手が火元らしいからそれが気になってな」

「ふむ、火事の現場にいかにも怪しい人影か。まだ断定は出来ないが目撃証言と調査の結果から火事の原因は放火でほぼ間違いないだろう。後で詳しくその男の特徴を教えてくれ」

 原因は放火だって?
 これは誰かの付け火だというのか?
 何で俺の家がそんな目に遭わなきゃいけないんだ。
 まさか……いや、憶測は良くない。

 俺は忸怩たる思いで責任者のその言葉をただ聞くしかなかった。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

追放された最弱ハンター、最強を目指して本気出す〜実は【伝説の魔獣王】と魔法で【融合】してるので無双はじめたら、元仲間が落ちぶれていきました〜

里海慧
ファンタジー
「カイト、お前さぁ、もういらないわ」  魔力がほぼない最低ランクの最弱ハンターと罵られ、パーティーから追放されてしまったカイト。  実は、唯一使えた魔法で伝説の魔獣王リュカオンと融合していた。カイトの実力はSSSランクだったが、魔獣王と融合してると言っても信じてもらえなくて、サポートに徹していたのだ。  追放の際のあまりにもひどい仕打ちに吹っ切れたカイトは、これからは誰にも何も奪われないように、最強のハンターになると決意する。  魔獣を討伐しまくり、様々な人たちから認められていくカイト。  途中で追放されたり、裏切られたり、そんな同じ境遇の者が仲間になって、ハンターライフをより満喫していた。  一方、カイトを追放したミリオンたちは、Sランクパーティーの座からあっという間に転げ落ちていき、最後には盛大に自滅してゆくのだった。 ※ヒロインの登場は遅めです。

スキルが全てを決める世界で、俺のスキルがビームだった件。ダークファンタジー世界をビームでぶち抜く。

あけちともあき
ファンタジー
スキルがすべてを決める世界。 意味不明なスキル、ビームを持って生まれたオービターは、居所なしとして村を追放された。 都会で成り上がろうと旅立つオービターは、世界から迫害されるという魔女に出会う。 この魔女がとても可愛く、オービターは彼女が好きになってしまう。 「好きです!!」 「いきなり告白するのはどうなの? でも君、すごい才能を持ってるわね!」 彼女に教えを受け、スキル:ビームの真価に目覚めるオービター。 それは、あらゆる行動をビームに変えてしまう最強のスキルだったのだ。 このまま二人でスローな生活もいいかなと思った矢先、魔女狩りが襲いかかる。 「魔女は世界を破壊するのだ! 生かしてはおけぬ!! そこをどけ小僧!!」 「俺の純情と下心を邪魔するのか! 許せねえ!! ぶっ倒す!!」 魔法がビームに、剣がビームに、石を投げたらそれもビームに。 棒を握って振り回したら、戦場をビームが薙ぎ払う。 「わははははは! 人が! ゴミのようだ!」 村を襲う盗賊団を薙ぎ払い、大発生したモンスターの群れを薙ぎ払い、空から落ちてくる隕石を撃ち落とす。 やがて、世界から集まる、世界の敵と目された仲間たち。 オービターの下心から始まった冒険は、世界を巻き込んでいくことになるのである。 これは、一人の男が世界を変える、愛と勇気の物語……!

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

処理中です...