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第20話 襲撃の結末は?

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 二頭目のバトラーベアーを仕留めようと動作を開始した瞬間に俺の左肩にどこからか飛んできた矢が突き刺さった。

 そしていきなりの事態で気が動転してしまい、バトラーベアーが攻撃を仕掛けてきた動きに一瞬だが対処が遅れてしまった。バトラーベアーの爪撃が俺の左足にヒットしてズボンと太腿の肉がグサッと抉られてしまう。

「ぐぉっ!」

 太腿を抉られた痛みで呻き声を上げて俺はその場に片膝をつく。
 まだ何が起こったのかわからないが、今の状況を何とかしないといけない。
 周囲を見渡してみると微かに人の気配がする。どこかに身を隠しているのだろうが復数の人の気配が感じられる。

 どうして俺に矢が刺さったのか?
 もしかして他の冒険者がこのバトラーベアーを仕留めようとした矢が誤って俺に当たったという可能性は?

 いや、どこからどう見ても俺がこの魔獣と戦ってる姿は確認出来るはずだ。
 そもそも声をかけずにいきなり戦闘中に横入りして攻撃を仕掛けるなんて行為は規則で禁じられていたと記憶している。

 だが、今はそれを考えても埒が明かない。まずはバトラーベアーをどうにかしよう。傷が痛むが何とか立ち上がり、バトラーベアーと対峙する。

 俺に傷を付けた事で自信を持ったのか、バトラーベアーは真正面から突っ込んでくる。左肩に矢が刺さったので片手でしか剣は持てないが、大幅に上昇した身体能力のおかげで剣は片手でも普通に振れそうだ。

「シッ!」

 突っ込んでくるバトラーベアーに対して半身を捻り、横方向から太い首に向かって剣を磨り上げる。そして狙い通りに首筋を相手の突っ込んでくる勢いを利用してズバッと斬る事が出来た。勢いがついていたバトラーベアーは暫く走った後、揺らっと右に傾いてそのまま地面に倒れ込む。

 しかし、安心する間もなく次の脅威が俺の身に降り掛かってきた。
 どこからか現れた二つの人影が剣を振りかざし、殺気を出しながら俺に向かって迫ってきていたのだ。

「死ねえぇえ!」
「おまえはここで死ぬんだ!」

 目の前に迫る一人目の剣を右手一本で持つ剣で渾身の力を出して払い除ける。
 剣と剣がぶつかり『ガキン!』と大きな音がして、俺は自分に迫ってきた初撃の剣を弾いた。そいつは剣が弾かれた勢いでバランスを崩し、更に地面のでこぼこに足を取られて派手に転がりながら倒れた。だが、気を抜く間もなくすぐに二人目の剣が目の前に迫ってきていた。

 俺は腰を落とし頭を低く下げ、自ら相手の懐に飛び込む形で身を屈めながら剣の柄を突き出して目の前の人影の鳩尾に叩きつける。息が一瞬止まったのか、俺を襲ってきた人影は呻きながらその場にガクッと蹲った。

 すぐに反撃したいところだが、とりあえず今は怪我を治したいので襲撃者から距離を取るのを先にする。俺は肉が抉れて痛む足を庇いながら後方に素早く移動して二人の人影から距離を取る事に成功した。

 何がどうなってるのか状況を確認しないといけない。
 それに、怪我をした部位を何とかしないとな。
 そういえば、さっき矢が飛んできた方向にも警戒が必要だ。
 矢の射線を遮るように木の裏側に回り込んでおく。

 まず、左肩に刺さった矢を抜こう。
 剣を軽く地面に突き刺し右手で刺さった矢を一気に引き抜く。
 強烈な痛みが体中を駆け抜けるがそれも一瞬の間だ。

 引き抜いた矢を放り投げ、自分の体全体にヒールをかけた後に地面から剣を引き抜く。
 傷ついた身体は左肩も太腿も次第に元通りになり俺は正常な状態に戻れた。

 それらの行為が終わったタイミングで転んでいた奴と息が詰まって蹲っていた奴が同時に起き上がり俺の方に顔を向けた。そこでようやく俺を襲ってきた人影をまじまじと見る事が出来たのだった。

「なんだと、おまえ達は……」

 なんと、俺を不意打ちで襲ってきた奴らの正体はガンツとバルクだった。
 何でコイツらがここにいるんだ。何で俺を襲ってくるんだ?
 コイツらがいるという事は矢を放ってきたのは仲間のゴイスだろうか?
 もしかして街から俺を尾行してたのか?

「ガンツ、バルク! なぜ俺を襲った! 死ぬところだったぞ!」

 俺は理不尽な攻撃をしてきたガンツ達を大声で問いただす。
 だが、俺の疑問には答えず怒りに顔を染めたガンツが大声で叫んできた。

「クソッ! 一撃で殺すはずだったのによ!」

「ガンツ。殺すって俺をか?」

「エリオ! おまえ以外に殺したい奴がここにいる訳ねえだろうが!」

「それが冗談じゃなくて本当だとしたら俺もそれ相応の対応をしなくちゃいけないぞ。今ならまだギリギリ冗談で済ませてやる余地がある。もう一度聞くがおまえらが俺を殺しに来たというのは本当か?」

「ああ、何度でも言ってやるぜ。俺はおまえを殺したい。底辺のおまえが俺と同じランクになったのが憎いし許せねえ! おまえごときがこの俺と同格ぶるなんてとてもじゃないが我慢が出来ねえんだよ! だからまずは手始めに気に食わないおまえの家に火を付けて燃やしてやったのさ。ハハハ、よく燃えただろ!」

 何だと…俺の家に火を付けたのはやはりガンツだったのか。
 コイツは精神が壊れている。

「バルクや隠れてるゴイスもガンツと同じように俺を憎んでいて殺したいのか?」

 ガンツの隣にいるバルクと隠れてるであろうゴイスにも大声で問いかける。

「ああ、俺もガンツと同じでおまえが気に入らねえ。殺したいくらいにな。俺より下で底辺のおまえを虐めて憂さ晴らしをしてたのによ。それが出来なくなるくらいならいっその事おまえを殺した方がすっきり出来ていいもんな。さっきはまぐれで躱されたが今度は確実に殺してやる。おまえがいなくなっても次の虐める奴を見つければいいだけだ。ゴイスも普段からおまえを殺したいって笑いながら言ってたぜ。そうだよな、ゴイス!」

 返事はないが、隠れているのはやっぱりゴイスで間違いないようだ。

「ガンツ、おまえらはここまで俺の後を尾行してきたのか?」

「フン、尾行なんかしなくてもおまえがギルドで掲示板から剥がして受付に持っていった依頼の紙は何日も前から貼り出されてた依頼だったからな。俺もその依頼の紙に目を通していたから尾行するまでもなくおまえがどこに向かったのかお見通しって訳だ。場所がわかっているからおまえがギルドを出てから少し時間をずらしてここに来たのさ。おまえの連れていた犬っころも今ここに居ないみたいだしな。一人で寂しく死にやがれ!」

 コイツらはどこまでも腐ってやがる。それなら俺も覚悟を決めたぞ。

「よくわかった。俺はおまえらを許さないから覚悟しろ。おまえらが俺を殺しに来たのだったら、俺に返り討ちにされて殺される覚悟も出来てるんだろうな?」

「ああ、だが殺されるのはエリオ、おまえの方だ! 死ねえ!」

 ガンツとバルクが連携しながらこちらへ向かってくる。
 バルクは盾を取り出して俺の攻撃を受け止める役割りか。
 どの程度防げるのか試しに一撃当ててみよう。

「シッ!」

 俺は足を踏み出し盾を構えるバルクに横合いから強烈な一撃を浴びせる。
 剣は盾にガン!と音をさせて当たりその勢いでバルクの体勢を大きく崩した。
 よし、これならいけそうだ。

「クソッ、コイツ凄い力だぞガンツ!」

「バルク、何とか踏ん張れ。おい、ゴイス! 弓でエリオを狙え!」

 まず一人をどうにかしよう。
 俺はガンツ目掛けて走り出す。だがこれはバルクを釣り出す為のフェイントだ。剣を構えガンツに斬りつけると思いきや、自分への攻撃ではないと思い込み防御に隙を見せたバルクの足に向けて俺はしゃがみこんで足払いをかける。

 盾が視界を邪魔して一瞬おれの姿を見失ったバルクに見事に足払いが決まった。
 そしてこれで終わりだとばかりに、仰向けに倒れたバルクに剣先を下に向け突き刺そうとしたのだが、そのタイミングで隠れていたゴイスから放たれた矢が俺に向けて飛んできた。

 ゴイスの確実な位置を把握してなかったので俺は不意を突かれた形になったが、矢があっちの方向から飛んでくるのはある程度予想していたので、剣の面の部分で弾き落とす事に成功した。その隙にバルクは立ち上がりガンツと合流する。

 飛び道具はちょっと面倒だな。
 ゴイスを何とか出来ないものかと短い時間の間に考えていたら、視線の片隅にこちらへ向かってくるコルとマナの姿が見えた。向こうも俺に気付いたようだ。

 二匹をこの戦闘に巻き込むかどうか、素早く頭を回転させて俺は結論を出す。
 二匹の戦闘の実力は不明だが、コルとマナなら邪魔や陽動くらいは出来るだろう。

「コルとマナ! おまえらはそっちの方向から隠れて矢を放ってくるゴイスを何とかしてくれ。倒せるなら倒してくれ!」

 指差しをして隠れていそうな方向を指し示すと、二匹は心得たとばかりに『『ワウ!』』と大きく一声吠えてその方向へと駆け出していった。

 よし、これでガンツとバルクに集中出来るぞ。

「ガンツ、バルク、次で終わりだ。おまえ達、この世に何か言い残す事はないか?」

「何で底辺のおまえが俺に勝つ前提なんだ! 死ぬのはおまえの方に決まってる!」
「ふざけるな! 二人で同時にかかればおまえだって防げねえはずだ!」


 そう叫びながら今度はバルクも剣を構え二人で戦闘態勢を取って俺に向かい合う。
 俺はそれを見ながら息を大きく吸い込み、ゆっくりと静かに吐きながら向かい合う二人にこう告げた。

「俺のこれからの攻撃でおまえらとの長かった因縁も終わるだろう…そして永遠にさよならだ」

 足を鋭く強く踏み込み全速力を出して前方へ飛び出していく。
 俺の全身の筋肉が躍動してその力を俺に与えてくれる。

 ガンツもバルクも攻撃のモーションに入っているが俺の速さはそれを遥かに上回っている。ガンツの剣を弾き上げ体を脚で蹴り飛ばし、剣を振り下ろしてくるバルクの攻撃を躱しながらその胴に向けて剣を横薙ぎに一閃する。

 まずは一人目!

「グァアアア!」

 深々と胴を俺の剣で斬られたバルクは立つ力を失って足元から崩れていく。焦点が虚ろなその目はまるで今の自分の身に起きている事が信じられないとでも言いたげだ。

「クソッ! バルクをやりやがったな!」

 バルクがやられて頭に血が上ったガンツは闇雲に剣を振り回し俺に突っ込んできた。そして、冷静さを失ったその攻撃はどこもかしこも隙だらけだ。そろそろガンツにも引導を渡す時が来たようだ。

「あばよ………ガンツ」

 俺は剣を上段に構え、溜めた力を一気に開放して振り下ろし、突っ込んでくるガンツの体を斜めに斬り裂いた。

 ガンツの目からは急速に光が失われていく。
 そして最期の言葉を発する事も出来ずにそのまま前のめりに倒れていった。
 これが俺に会うたびに底辺の落ちこぼれと蔑み罵り、今まで散々馬鹿にしてきた男達の最期だった。
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