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第6話 二匹目の野良犬

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 今日も昨日に続いて上級薬の材料になる薬草採取に向かうつもりだ。

 俺がベッドから起き上がると、その気配に気がついたのかすぐ脇の床で寝ていたコルも目を覚まし、首を上げてまだ眠たそうな目で俺を見つめてきた。

「コル、おはよう!」

『わ、わうーん……』

 おいおい、まだ寝ぼけてるのか返事が頼りないぞ。
 コルの顔を見ると、瞼が下がってきてまた眠ってしまいそうだ。

「コル、目を覚ませ」

 そう言って俺はベッドから降り、コルの傍へ行き身体を撫でてやる。
 コルの身体を撫でてモフモフするのは結構楽しい。

 撫でてるうちにコルも目が覚めたのか、立ち上がって俺に飛びついてきた。

『わうー』

「コル、朝飯を食べたら昨日おまえを見つけた場所にまた行って薬草を集めるからな」

『わうっ』

 俺とコルは主と従魔という関係になった効果なのか、言葉は通じなくてもお互いの意思や気持ちはしっかりと通じている感覚がある。俺自身、初めて魔獣を従魔にしたということもあり凄く新鮮な感覚だ。まだコルを従魔にしてから日は浅いのだが、昔からのパートナーみたいな不思議な信頼感がある。

 魔獣を手懐けて使役する使役師という職業があるらしいが、俺の場合はそのようなスキルも経験もなく、行商人に貰った干し肉でコルを手懐けてしまったので、自分自身が使役師という感覚や認識は持っていない。コルがどんな魔獣なのか、どのような役に立つのか現時点では全くわからないが、暫く一緒に過ごせば役割分担も自然と出来ていくだろう。たぶん…

 朝食を食べ終わり、出かける準備をしたらコルを連れて昨日の薬草採取場所に向かう。ボーナス期間のうちにいっぱい稼いでおかないとな。

 俺みたいな何の取り柄もない底辺冒険者は、こういう特別な事でもないと大きな稼ぎを得られないんでね。中級以上の冒険者からすれば、薬草を集めるよりも賊を討伐したり護衛任務を引き受けたり、強い魔獣を倒して素材を集める方が桁違いに稼げるので、例えボーナス期間で薬草を普段より高く買い取ってくれても底辺がやるような薬草採取には見向きもしないのが現状だ。

「はあ…俺も冒険者らしい仕事で稼ぎたいな」

 歩きながら冒険者らしくない自分の底辺ぶりに思わず愚痴が出てしまうよ。

『わう?』

「ハハハ、コルに愚痴を聞かせても仕方ないよな。ゴメンゴメン」

 気を取り直して目的地に向かいながら従魔のコルを引き連れていく。
 昨日薬草を採取した群生地に到着。
 俺しか知らない場所なので昨日の状態のままだ。
 早速、採取作業を開始する。

「コル! 俺は暫く薬草を採取してるからおまえは自由にしていていいよ」

『わうわう!』

 これは了解の返事だな。
 俺は従魔を持ったばかりだし、従魔というものについてほとんど何も知らないが、このまま従魔とコミニュケーションを続けていって、いつかはお互いに言葉が通じるようになればいいな。たぶん何となくなれる気がする。

 さて、ボーナス期間だから俺はせっせと薬草を採取しよう。
 昨日と同じように薬草を取っていく。なるべく傷つけないように慎重に抜いていく。
 一心不乱に作業に集中して採取してると時間が経つのも早い。

 とりあえず必要十分な数を採取出来たので、腰を上げて周りを見渡してみるとコルの姿が見えないな。自由にしてろとは言ったがあいつどこまで行ったんだよ?
 困った奴だな。仕方ない、呼んでみるか。

「おーいコル! 戻ってこーい」

 すると、森の奥の方から「わうーん!」という鳴き声が聞こえてガサガサと草むらを掻き分けて走ってくる音がしてきた。
 コルよ、やっと戻ってきたか。
 コルが姿を見せたと思ったら何か違和感がある。よく見ると横にもう一匹コルに姿がそっくりな狼犬が居るじゃないか。

 なんで二匹も居るんだよ?
 俺の目が悪くなった訳でもなさそうだし、もしかしてコルが連れてきたのか?
 身を寄せてじゃれ合いながら近づいてくる二匹の狼犬。
 見た感じ、二匹はとても仲良しそうに見える。

「おい、コル。おまえの隣にいるのはコルの友達なのか?」

『わううう』

 むむ、惜しいけどちょっと違うようだな。
 はてさて、それならこの二匹はどういう間柄なんだろうか?
 うーん、もしかして…

「なあ、もしかしておまえら血が繋がってる肉親なのか?」

『わう!』

 おー、今度は当たりのようだ。
 そうかおまえらは肉親なのか。二匹ともまだ若い感じで親子には見えないし兄弟なのかな。

「おまえら兄弟なのか?」

『わう!わう!』

 どうやら兄弟で間違いなさそうだ。
 さてこの状況をどうしようか…

 コルは俺がうっかり手懐けて従魔にしてしまった。
 もう情も芽生えてるしコルと今更離れ離れになるのも嫌だしなぁ。
 ここまで来たら一匹も二匹も似たようなものだし、いっそのことコルが連れてきたこの兄弟っぽい狼犬を手懐けてしまうのもありか。
 幸いな事にあの干し肉はまだ残っている。
 今度も手懐けられるかどうかはわからないが試してみるか。

 俺はマジックバッグの中から流れの行商人のおっさんに貰った干し肉を取り出し、その干し肉を手に持ちながらコルが連れてきた狼犬に向かって差し出す。
 俺の差し出した干し肉を見て、最初はちょっと怪訝な表情を見せていた狼犬だったが、隣りにいるコルに食べろと促されて俺の手から干し肉を咥え取ってムシャムシャと食べ始めた。

 暫く見ていると、どうやら噛んだ肉をゴクンと飲み込んだようだ。
 それと同時に、俺の額とコイツの額に光の帯が繋がりこの狼犬ともコルと同じように絆が生まれた感覚が俺に舞い降りてきた。

「おい、どうだ?」

『わうわう!』

 もう一匹の狼犬も俺との絆が生まれたようで、それをこの狼犬が喜んでいる感覚が俺にも伝わってくる。コルと同じように絆が出来たので意思疎通が出来そうだ。

 ブンブンと尻尾を振って二足立ちになって立ち上がり、俺に戯れてくる狼犬。
 よく見ればコルと違ってアレがない。どうやらメスのようだ。

「おまえメスだったのか。ところでコルの妹なのか?」

『わうぅ』

「違うのか。じゃあ姉なのか?」

『わうわう!』

 おー、コルの姉さんだったのか。
 ならコイツにも従魔登録するのにそれっぽい名前を付けてやらないといけないな。
 さて、どんな名前がいいだろうか。そこで何となく頭にこの名前が閃いた。

「そうだ、おまえの名前は『マナ』でどうだ?」

『わう!わう!』

 おうおう、俺の名付けた名前を気に入って喜んでいるようだ。

「コル! マナ! 姉弟ともにこれから宜しくな」

 こうして二匹目の『野良犬』が俺の仲間になったのだ。
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