創作単発BL集

月猫いぬば

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くろすおーばっ!

隣のチャラ男の春 後

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「やった…!!遂に誘ったぞー!!!」

「レスうるさい」

ジタバタと悶える僕、に双子の弟が嫌な顔をする。

僕は、レスという。ムーン王国の第一王子で猫獣人のハーフの王族だ。

最近の僕らはずっと猛アタックしていたお姉ちゃんを諦め、他の女の子と遊ぶようになった。何故かと言うと、お姉ちゃんがやっと婚約したからである。

それで気持ちにケリがつき、こうなりゃ花嫁探しだー!!と意気込んでいる。
もちろん、面白い商品の開発は忘れておらず、今日もローリー先生に追いかけられてきた。

だが…僕らには一つ問題があった。
それは、僕ではなく弟のラスの方がモテ期を迎えたことである。

結果いつも一緒に行動しているラスに女の子が偏り、僕のほうには1人も寄り付いてこない有様。悲しい。

その最中出会ったのが、さっきの美少女だ。
薄いフローラルピンクに先の方が茶色の髪。可愛らしいピンクの瞳は今にもハートマークでも浮かんできそうだった。

花びらのようなドレスを着ていたから、学園祭で演劇をやる他の学年だろう。

あーちょっと思い出すだけでも気分盛り上がってきた。抱きついた時、いい匂いしたなー!!髪の毛もふわふわで柔らかそうだったし、僕より身長ちっちゃくて小柄なのに柔らかい体してたなー!!

思い返すだけでデートに誘ったあの子の事が気になって仕方ない。

待ち合わせの場所までの時間を計算して、少し早めに行こうと僕は部屋を出た。



――


人が多すぎる。
思わずため息を吐いた。

このカフェも、いつも空いているわけじゃないんだけど、今日はなんの不運かいつにも増して人が多い。

人酔いしそうだし、目的の男の子は見つけられないしで私はもう既に帰るという選択肢が脳の片隅に出ていたところだった。

「…あ!君ー!!やっと見つけた!」

割と大きい声で呼ばれて、私が呼ばれた可能性が無くても辺りを見回して声の主を探してしまう。

「…あ、あなたは…!」

人混みをかき分けてこっちまでやって来る彼は、やはり待ち合わせたあの人だった。

そのまま彼は隣まで駆け寄り、軽く挨拶を交わすと私の肩を抱いて、人にぶつからないように建物の入口までエスコートしてくれた。

カウンターで注文を済ませると、あまり人が入っていないふたり席に案内された。

学校の敷地が良く見える大きな窓がついた席は、夕暮れ色に染まる空に相反するような魔力の電灯に照らされた道がよく見える。

注文したものが届くまで、私は彼といろんな話をした。

出だしはさっきはぶつかってごめん、と。ローニー先生にちょっかいを出して逃げてきた所にたまたま私がいたんだという。

彼の名前は、レス、といった。子供っぽい笑い方の17歳。そういえば、教科書で見たムーン国王もこんな見た目だったなーなんて思いながら話してみると、すごくいい人だというのがすぐわかった。

気の合う先輩。でも彼は私に敬語を許さず、「タメの方がやりやすいから」と笑顔で肩をすくめた。

飲み物と料理が出てくると、レスくんは行儀よく口にものが入っている時は決して喋らず、私が話すと食事の手を止めて聞いてくれていた。

「紅茶って…パンケーキに合うの?」

「うん。美味しいよ、紅茶とパンケーキ」

私の前にはノンシュガーのレモンのハーブティーと、はちみつにメープルシロップがたっぷりかかっていて、アイスクリーム風のクリームが乗った暖かいパンケーキがあった。

レスくんの所には炭酸ジュースにサンドウィッチ。美味しそうな匂いに釣られて見ていると、「食べてみる?」と誘われた。でも、人のものは貰っちゃ悪いので丁寧にお断りさせていただいた。

「すみませーん、お会計お願いしますー」

食事が終わってテーブルを立つと、ラスくんが真っ先にお会計を始めてしまった。
それを見て私も追いかけることにする。

「す、すみません。あの、お会計別にして下さ…」

「いや、一緒でいいです」

きっぱりと断って、彼は自分のお財布から二人分の食事代を払ってしまった。
その意味を、後で私が自分の分の一人分を払えばいいと捉えたので、カフェを出るとすぐさま合計金額を思い出してお財布を出そうとした。

「ちょ、待ってよ、そういうつもりじゃないから」

そう止められる。つまり…レスくんは私に奢ってくれた…ってこと?

初めての経験に戸惑っていると、それを察したのか当たり前のように声をかけてくれた。

「ほら…女の子にお金払わせるの、男としてカッコ悪いからさ」

きょとん、としてしまった。
…女の子に、……ね。
レスくんの思いをやっと理解したら、途端に発作的な笑いがこみ上げてきた。
お腹を抱えてヒーヒーいっているとレスくんが挙動不審になり始めたので、深呼吸して一息つくと、勘違いしている事を告げた。

「私ね、女の子じゃないの。病弱で成長が遅くって。……そうだよね。ごめんね、騙すみたいなことして」

そう言いながら、私は自分のお財布からさっきの分を取り出してレスくんに差し出した。

「……いや、いい」

少し気の抜けた声でレスくんは、もう1度受け取りを拒否した。

そして、ゆっくりと私の目を見て話し出した。

「実を言うと、僕もさ…下心があって君を誘ったんだよ。可愛くて、真面目そうで……僕、あんまりモテなくって、誘えたことに浮かれてた。だから、僕は君に奢らなきゃいけない。男でも女でも」

申し訳なさそうに、反省した口ぶりで銀色の猫耳を垂れた。

私は…。そうは思わなかった。正直で、他人のことが気づかえて…ちょっとナルシスト気味な所もあったかもしれないけど。

そうだ、決めた。

私よりざっと30センチは高い身長のレスくんに抱きつく。「えっ…!?」という小さな声をあげたレスくんをほおって置いて、レスくんの体温を感じた。

平均より…高い?
ああ、健康体温とか言うんだっけ。高めの、病気になりにくい体温。

「合格っ」

満足げに声を上げて、私はレスくんから離れた。疑問を抱えた顔の彼に、私はこう告げた。

「今日ね、すごく楽しかった!だから、今度また行こうよ!!……その時は、ちゃんと……で」

ぼそぼそと呟いた所に気づいてしまったのか、レスくんは顔を真っ赤にして、でも飛び上がりそうなくらいに嬉しがって
うん、と返事をくれた。

隣人に春が来た、とお姉ちゃんが愚痴り始めたのは次の日からだった。
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