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シーズン1/第一章
□癒しの天使 エンジェルフォール□②
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「神さま。私、ただ見守っているだけでなく、人間たちに直接手を差し伸べたいのです。人間たちが病や戦で死に往く姿をただ見ているだけというのが我慢ならないのです……」
そこは、天界。
天とはすなわち、上空だとか宇宙空間だとか『上』の概念ではなく。もっと高次元の世界である。
そこに在るのは物理的な空間でもなく、そこに存在する『彼ら』も人間が観測出来得る姿をしていないし、言語の概念も異なる。
したがってこれはあくまで抽象的なイメージとしての描写である。
「む。ハクティリカ、本気かね」
白髪に白鬚、白い装束で全身を包む老人が、驚いた様子で若い女性に言葉を返した。
女性は、頭の上に煌々と輝く輪っかを掲げ、背には純白の羽を生やし、絹のように滑らかで白い肌を、白いワンピースで包んでいる。それはまさしく『天使』らしい姿であった。
天使は、神の子だ。
天使たちは、下界で暮らす人間たちを見守るのが使命である。
例えば神をこの世界を造り上げたプログラマーだとするなら、天使はさしずめデバッガだ。世界に異変が生じていないか、とりわけ人間たちの動向に焦点を絞って、見守り、監視している。
直接、鑑賞することは天使の仕事ではない。
しかしそんな天使たちの中で、自身の立場を非常に歯痒く思う者が一人、いたのだ。
彼女の名はハクティリカ。
いささか恐縮しながらも、心を決めた強い眼差しで神様に申し立てるのである。
「人として下界に降りて、彼らと直接触れ合いたい……。病む者を、傷付いた者を、私の手で癒してさしあげたいのです」
胸の前で両手を組む彼女は、慎ましいながらも、力強い意志を感じさせる口調で言うのだ。
「一度でもその身を下界へ落とせば、もうここへは戻れぬぞ」
「――はい。承知しております」
「そうか……。ならば、よかろう。人に転じ、新たな生を受けるが良い、ハクティリカよ」
/
「君の頭の中に直接イメージとして送り込んだそれは、君が人としてこの外下界で生を受ける前に天界での一幕――君は元々、天使だったのだ」
「天界……天使……」
不思議な場所で、私と目の前のご老人と話す場面……そのイメージが私の頭の中に流れ込んできました。
外側から流し込まれたイメージ、のようでいて、奥底に眠っていた記憶のようにも感じられました。つまりそういうことなのでしょう。
私は、どうやら元々天使だったようです。
そして目の前のこのご老人は、神さまなのです。
常識的に考えれば、容易に信じられる話ではありません。でも、私はすでにそこに疑いを持っていませんでした。
突然のことで驚いてはいますが、でも当然のことのように受け入れられてもいるのです。
それはやはり、天使亜葵として生まれる前の――『ハクティリカ』としての記憶がわずかでも残っているからでしょう。
「そうでした。私は、――天使、だったのです。でも人間たちを天界から見守るだけではどうしても歯がゆくて、人として下界へ降りて彼らに直接手を差し延べたい、と、神さまにお願いをしたのですね。……そして天使亜葵として、生まれた……」
それを実感するのは、不思議な感覚でした。
「そうじゃ。お前は人として生きながら、ついに今、かつての天使の力を取り戻したのだ」
ご老人は――神さまは、仰いました。
「天使の力?」
「つい今し方、その手で傷付いた猫を癒してみせたはずじゃ」
「あ……」
そうです。
ついさきほど。私が手で触れた途端に、猫の怪我がみるみると治っていったのです。
今なら分かります。
あれは私の天使としての力。病や傷を癒す力です。
「名付けて、エンジェルフォース」
「な、名づける必要はあるんでしょうか……?」
「それはのう。具体的な名前を付けるかどうかで、気分がガラリと変わるもんじゃ」
そういうものでしょうか。
「君の母君の病状が回復していったのも、その力が徐々に目覚めていた影響じゃろう」
「そ、そっか……!」
お母さんのがん治療。
お医者さんが驚くほどの回復ぶりでしたが、どうやらそれは私の天使の力――エンジェルフォースが影響していたようです。
私がお母さんのそばにいたことで、お母さんのためになっていたのです。それは、看護師になって人の助けになりたい、と考えていた私にとっては何より誇らしいことです。
いえ、そもそも言えば、天使であった私が下界へ降りてきた動機もそれなのです。
自分の持つ特別な力を、人のために使えている。
それを実感すると、なんだか、得も言われぬ幸福感が沸き上がってきました。とっても、嬉しいのです。
「ふむ。ハクティリカよ、実に幸いだったのう」
「ええ、ホントに。お母さんがガンだと知らされたときは、それはもう落ち込んだのですが。少しずつでも回復してくれて、しかもそれが私の力だというならこれほど幸いなことは……」
「いや、そのことじゃない。幸いと言うのは、君のその力がまだ誰にも見咎められておらぬことじゃ」
「え?」
「母君に対しては、あくまで無自覚の緩やかな覚醒による力の行使じゃったからの。……始めから、先の猫のときのように派手に力を使ってしまったのであれば、君はもうこの世界にはいられなかったじゃろう」
「え、っと……、ど、どういう意味ですか?」
お母さんの病気に対して、派手に力を使っていたら、私はこの世界にいられなくなっていた……? 一体、それはどういうことでしょうか。
「君の力――エンジェルフォースは、決して人に知られてはいけないのじゃ」
「知られてはいけない……」
「そうじゃ。それは天界の住人の力。今や人間である君がそれを使えるのは、あくまで特例なのじゃ。じゃから、その力のことを、あるいは君が天使であるということを誰かに知られてしまっては、もうそれ以上君をこの世界に留めておくことはできなくなる」
この世界に留めておけない?
それって、つまり……、
「つまり、誰かに知られちゃったら、私は死んじゃうってことですか……?」
「死ぬ――まあ、そうじゃな。人間として言えばそうなる。ただ命が尽きるだけではない。存在自体を、なかったことにしなければならない。つまり、君がこの世界から消え、他の者達の記憶の中からも消えてしまう。世界の秩序を守るため、それは致し方ないことなのじゃ」
「…………」
消えてしまう……。
「確と胸に刻むのじゃ、ハクティリカ。その力は誰かにも見咎められぬようにしなさい。誰も彼も問答無用で癒せるわけではない。下界に降り、『人間』となってしまった以上――、それが君の現実じゃ」
…………
……
そうして、神さまは去っていきました。
ハッ、と気が付けば、私は道端にぽつんと立っていたのです。
そうだ。そもそも私はアルバイトからの帰りで、バス停へ向かう途中に傷ついた猫を発見したのでした。
猫に触れたら急に傷が治って、驚いていると突然天から光が差して来て、神さまが現れたのです。そして、私が天使だったという事実を知らされたわけでした。
神さまが去ると、まるで白昼夢から覚めたように、私は不意に現実に引き戻されました。
たった今、神さまと会い見えていたという事実を改めて思うと、妙な心地でした。
そんな調子でしばらくその場でぼうっとしていると、白いバン車両がやってきて、目の前に停車したのです。
保健所の車でした。
――あ、そうでした。
私は轢かれた猫を発見して、すぐに保健所へ連絡したのです。
でも、当の猫はもう傷が治って、どこかへ行ってしまったのです。血痕さえも消えてしまったので、猫が轢かれた形跡自体が全くありません。
これではただの勘違いの通報か、いっそいたずらにさえ思われかねません……。
私は保健所の職員さんに必死で謝りました……。
/
「亜葵。あなた、最近なんだか雰囲気変わった?」
お母さんが、ふと、私の顔を見てそんなことを言いました。
「えっ!? う、うそっ、どの辺が? 私、なんか変かなっ!?」
「いえ、別にただなんとなくそう思っただけよ。そんなに慌てなくても……」
私が、あまりに真に迫るような勢いで食い付いたものですから、お母さんは困った顔をしてしまいました。
いけません。これではかえって怪しいです。
「あはは、ごめん。――そ、それより、お母さんはどう? 体調!」
「ええ。あなたも知ってるじゃない、治療もすごく順調よ」
「そうだよね、うん、よかったね……!」
「…………」
これでは、なんだか挙動不審です。うう、お母さんが私のことを変な目で見ています……。
でも、こんなときでも思います。
こうしてお母さんと何気なく話していること――それをふと意識すると、じんわりと、幸せが湧き上がってくるのです。
思い返せば、お母さんがガンだと知らされたときは、もう絶望の淵に立たされたような心地でした。でも、今はもう打って変わって希望に溢れた日々なのです。
自分が、天使の生まれ変わりだと知った、あの日以来――。
私はお母さんのそばにいて、お母さんに『その力』を使っています。エンジェルフォース――傷や病を癒す天使の力です。
気を付けなければならないのは、全開で力を使ってしまわないこと。
今やその力のことを完全に自覚した私には分かります。加減してこの力を使わないと、私が天使であることがすぐにバレてしまいます。
一気に全開させると、天使として完全覚醒してしまい、姿さえ変えてしまいます。
頭の輪っかとか、背中の羽とか……天界にいた頃の姿を取り戻してしまって、それはもう見るからに明らかに天使になってしまうのです。
そうなればもう私はここにはいられなくなります。
天使亜葵としての人生が終えられるだけでなく、存在自体が消えてしまう。
お母さんやお父さん、お友達や、アルバイト先で知り合った方々――みんなの記憶の中から、私と言う存在が消えてなくなってしまうのです。それはすごく、悲しいことです。
だから、私はお母さんの手に触れながら、ゆっくりと治癒の力を流しいれるのでです。
本当なら、お母さんの体に巣食うガン細胞なんてすぐに一掃してやりたいところです。加減せずに力を使えばそれも可能だと思いますが、そうはいかないのです。
でも、少しずつであれお母さんの体は良くなっているわけですから、嘆くようなことはありません。
自分の持つ特別な力を、お母さんのために使えている。
その事実が、とっても嬉しいのです。
――ただ、こんな幸せな日々の中でも、一つだけ、私の胸の中には居心地の悪い違和感が渦巻いていたのです……。
/
「あの、えっと……、ちょっと恥ずかしいんですけど」
私は、隣の市の喫茶店でアルバイトをしています。
本日は、10月31日。
世に言う、ハロウィンです。
私が勤めているのはごく普通の喫茶店ですが、せっかくだからウチもそのイベントにあやかろう、とマスターが言い出しまして。ハロウィンと言えば、コスプレ。
「亜葵ちゃん、めっちゃ似合ってるよ」
先輩が、私をまじまじと見て言うのです。
桃山さんという彼女は、まあ年齢で言えば年下なのですが、しかしここのアルバイトとしては先輩です。なにかこう、姉御気質のような雰囲気があって、私から見て年下だろうと違和感なく目上の人として接していますし、彼女も私を後輩として見ています。
そんな桃山先輩は、衣装に着替えた私を見ると、嬉々としてケータイを取り出して、パシャパシャと写真を撮るのです。
渡された衣装は、メイド服というやつでした。
今日だけ、女性スタッフはお揃いでその衣装に着替えて接客をすると言うのです。先輩はノリノリですが、私はちょっと恥ずかしいのです。
「恥ずかしがることないよ。すっごい可愛い」
「ほ、ほんとですか……?」
「まじまじ。可愛い! 苗字の通り、天使みたい」
「えっ!? て、天使みたい!?」
「なんでそんな慌てるの?」
「あ……、すみません、なんでもないです」
天使のようだと言われて、つい過敏に反応してしまいました。
メイドの格好で客前に出るのは、始めはもう恥ずかしくて堪りませんでしたが、次第に落ち着いていきました。
慣れとは怖いもので、むしろこの衣装でお客さんに応対するのがしっくり来てしまいました。自分が本当にメイドさんになったようで、ちょっぴり愉しいのです。
自分でも驚くほどノリノリで働いて、もう半日も過ぎた頃でした。
とあるお客さんが、新聞を広げて眺めておられました。
その方にコーヒーのおかわりをお出しするとき、ふと、その新聞の記事の見出しが、一瞬、目に入ったのです。……その瞬間に、どっ、と心臓が大きく鳴りました。
まさかお客さんが読む新聞を横から覗き見るわけにもいかないので、平静を装って、すぐに身を引きましたが……。
私の胸には、居心地の悪い違和感が強く渦巻いていました。
今、不意に目に入った新聞記事――それは、某国で今なお続く、戦争についての記事でした。
戦争。
その言葉を頭に浮かべると、途端に胸が苦しくなりました。
だって、私は――……。
そのとき、でした。
ふと気づけば、周囲の景色が、ピタリ、と、止まりました。
突然時間が停止したように、店内にいる人たちの動きが止まって、音も聞こえなくなり、やがて辺りは暗がりに包まれていきます――その中で、目の前に差す一条の光。
突然の出来事でも、二度目ともなればさすがに困惑しませんでした。
光の中に人影が浮かび、やがて神さまが現れたのです。
「神さま……。一体、どうされたのですか?」
「ふむ」
突然現れた神さまは、何も言わず、ただ腕を組んで私のことをまじまじと見ているのです。一体、どうしたのでしょうか……。
「って、あ。……えっと、この格好はですね、その、今日はハロウィンというイベントの日でして。普段とは違う衣装を着るならわしなのですよ。これはメイドっていって、つまり女中の格好なのですけど、わわ、私の趣味っていうワケじゃなくてっ、……いえ確かにちょっと気に入っていたりもするんですが、その……」
「いや、その格好のじっくり見ていたわけじゃなくての」
「えっ? ああ、そうなんですか。私てっきり……」
もしかして、私がこの格好をしているのがおかしくて、じっくりと見るためにわざわざ天界から降りてきたのかと思いました。
「今、君の心を見ていた」
「私の、心っ……?」
「そうじゃ。心が少しばかり乱れておるな。……どうやら君は、ようやく気づいたようじゃな」
神さまは心を読めるのですか。確かに、神ならばそれぐらいできても不思議ではないかもしれません。
でも、心を覗き見られるというのは妙に気恥ずかしい感じがします。……というのは、いかにも『人間らしい』感慨でしょうか。
「君は元々天使じゃろ。天使は、この世界のことを、とりわけ人間達の動向を見守るのが仕事じゃった。しかし君は、人間達が争い、傷付き、病に侵されていくその様をただ見守るだけというのに耐えられんかった。彼らに直接救いの手を差し伸べたいと思い、下界へ降りる決心をしたわけじゃな」
「え、ええ。そうです。天使だったころにそう思ったことを、今ではちゃんと思い出せます」
「じゃが、こうして人間になった今。――気付いたじゃろう、その志とは人間の手には余るものだということを」
「あ……」
神さまが、わざわざいらっしゃったのは、そのことを私に諭すため
そうです、私は気付いたのです。
……私は元々、天使でした。
世界を見守る中で、傷付いたり、病に侵されたりする人たちを見て、彼らに救いの手を差し伸べたいと願い、人として下界へ降りました。
しかし、人間となった私には、世界はあまりにも広かったのです。
「天界にいる我々は、大きな範囲で物事を見る。ちっぽけな人間達のことなどは、まるでこの手一つですべてまとめて掬い上げられるかのようだ。
……しかし、彼らに干渉するためその身を堕とした君には、そうはいかない。
たとえ人を癒す力――エンジェルフォースを持っていても、すべての人間を癒せるわけではない。人間となった君には、その手の届く範囲はあくまで人間のそれなのじゃ。君は、その事実に気付き、憂いておったじゃろう」
「…………、ええ、そうですね」
ここ数日、私の胸の中に巣食っていた、居心地の悪い違和感の正体は、それです。
つい今、目にした、どこかの国の戦争について新聞記事。
そこでは、多くの人たちが傷つき、苦しんでいます。……でも、私に彼らを救うことはできません。
実際にこの手で触れれば、傷を癒すことはできます。
でも、それは叶いません。私はせいぜい、小さな島国の中の小さな田舎町に暮らすちっぽけな人間だからです。
天使の力をこの手に有していようとも、あくまで私は人間なのです。
「君を苦しめたかったわけではない。ただ、天使でありながら彼らに触れることを望んだ君には、その現実と向き合ってもらわねばならなかった。――そしてもう、君を天界へ戻すことはできない。君はもう、人間なのじゃ」
「そんな……」
「さらばじゃ、ハクティリカ。――いや、天使亜葵。ワシは君を見ておるよ。しかし、見ることしかできぬ。天に身を置くワシには、君に直接手を差し伸べることができないのじゃ。すまぬな」
そう言って、神さまは去っていきました。
光の筋が消え、代わりに暗がりだった景色に明かりが戻ります。
でも、私の心はまだ、暗く沈んだままでした。
そこは、天界。
天とはすなわち、上空だとか宇宙空間だとか『上』の概念ではなく。もっと高次元の世界である。
そこに在るのは物理的な空間でもなく、そこに存在する『彼ら』も人間が観測出来得る姿をしていないし、言語の概念も異なる。
したがってこれはあくまで抽象的なイメージとしての描写である。
「む。ハクティリカ、本気かね」
白髪に白鬚、白い装束で全身を包む老人が、驚いた様子で若い女性に言葉を返した。
女性は、頭の上に煌々と輝く輪っかを掲げ、背には純白の羽を生やし、絹のように滑らかで白い肌を、白いワンピースで包んでいる。それはまさしく『天使』らしい姿であった。
天使は、神の子だ。
天使たちは、下界で暮らす人間たちを見守るのが使命である。
例えば神をこの世界を造り上げたプログラマーだとするなら、天使はさしずめデバッガだ。世界に異変が生じていないか、とりわけ人間たちの動向に焦点を絞って、見守り、監視している。
直接、鑑賞することは天使の仕事ではない。
しかしそんな天使たちの中で、自身の立場を非常に歯痒く思う者が一人、いたのだ。
彼女の名はハクティリカ。
いささか恐縮しながらも、心を決めた強い眼差しで神様に申し立てるのである。
「人として下界に降りて、彼らと直接触れ合いたい……。病む者を、傷付いた者を、私の手で癒してさしあげたいのです」
胸の前で両手を組む彼女は、慎ましいながらも、力強い意志を感じさせる口調で言うのだ。
「一度でもその身を下界へ落とせば、もうここへは戻れぬぞ」
「――はい。承知しております」
「そうか……。ならば、よかろう。人に転じ、新たな生を受けるが良い、ハクティリカよ」
/
「君の頭の中に直接イメージとして送り込んだそれは、君が人としてこの外下界で生を受ける前に天界での一幕――君は元々、天使だったのだ」
「天界……天使……」
不思議な場所で、私と目の前のご老人と話す場面……そのイメージが私の頭の中に流れ込んできました。
外側から流し込まれたイメージ、のようでいて、奥底に眠っていた記憶のようにも感じられました。つまりそういうことなのでしょう。
私は、どうやら元々天使だったようです。
そして目の前のこのご老人は、神さまなのです。
常識的に考えれば、容易に信じられる話ではありません。でも、私はすでにそこに疑いを持っていませんでした。
突然のことで驚いてはいますが、でも当然のことのように受け入れられてもいるのです。
それはやはり、天使亜葵として生まれる前の――『ハクティリカ』としての記憶がわずかでも残っているからでしょう。
「そうでした。私は、――天使、だったのです。でも人間たちを天界から見守るだけではどうしても歯がゆくて、人として下界へ降りて彼らに直接手を差し延べたい、と、神さまにお願いをしたのですね。……そして天使亜葵として、生まれた……」
それを実感するのは、不思議な感覚でした。
「そうじゃ。お前は人として生きながら、ついに今、かつての天使の力を取り戻したのだ」
ご老人は――神さまは、仰いました。
「天使の力?」
「つい今し方、その手で傷付いた猫を癒してみせたはずじゃ」
「あ……」
そうです。
ついさきほど。私が手で触れた途端に、猫の怪我がみるみると治っていったのです。
今なら分かります。
あれは私の天使としての力。病や傷を癒す力です。
「名付けて、エンジェルフォース」
「な、名づける必要はあるんでしょうか……?」
「それはのう。具体的な名前を付けるかどうかで、気分がガラリと変わるもんじゃ」
そういうものでしょうか。
「君の母君の病状が回復していったのも、その力が徐々に目覚めていた影響じゃろう」
「そ、そっか……!」
お母さんのがん治療。
お医者さんが驚くほどの回復ぶりでしたが、どうやらそれは私の天使の力――エンジェルフォースが影響していたようです。
私がお母さんのそばにいたことで、お母さんのためになっていたのです。それは、看護師になって人の助けになりたい、と考えていた私にとっては何より誇らしいことです。
いえ、そもそも言えば、天使であった私が下界へ降りてきた動機もそれなのです。
自分の持つ特別な力を、人のために使えている。
それを実感すると、なんだか、得も言われぬ幸福感が沸き上がってきました。とっても、嬉しいのです。
「ふむ。ハクティリカよ、実に幸いだったのう」
「ええ、ホントに。お母さんがガンだと知らされたときは、それはもう落ち込んだのですが。少しずつでも回復してくれて、しかもそれが私の力だというならこれほど幸いなことは……」
「いや、そのことじゃない。幸いと言うのは、君のその力がまだ誰にも見咎められておらぬことじゃ」
「え?」
「母君に対しては、あくまで無自覚の緩やかな覚醒による力の行使じゃったからの。……始めから、先の猫のときのように派手に力を使ってしまったのであれば、君はもうこの世界にはいられなかったじゃろう」
「え、っと……、ど、どういう意味ですか?」
お母さんの病気に対して、派手に力を使っていたら、私はこの世界にいられなくなっていた……? 一体、それはどういうことでしょうか。
「君の力――エンジェルフォースは、決して人に知られてはいけないのじゃ」
「知られてはいけない……」
「そうじゃ。それは天界の住人の力。今や人間である君がそれを使えるのは、あくまで特例なのじゃ。じゃから、その力のことを、あるいは君が天使であるということを誰かに知られてしまっては、もうそれ以上君をこの世界に留めておくことはできなくなる」
この世界に留めておけない?
それって、つまり……、
「つまり、誰かに知られちゃったら、私は死んじゃうってことですか……?」
「死ぬ――まあ、そうじゃな。人間として言えばそうなる。ただ命が尽きるだけではない。存在自体を、なかったことにしなければならない。つまり、君がこの世界から消え、他の者達の記憶の中からも消えてしまう。世界の秩序を守るため、それは致し方ないことなのじゃ」
「…………」
消えてしまう……。
「確と胸に刻むのじゃ、ハクティリカ。その力は誰かにも見咎められぬようにしなさい。誰も彼も問答無用で癒せるわけではない。下界に降り、『人間』となってしまった以上――、それが君の現実じゃ」
…………
……
そうして、神さまは去っていきました。
ハッ、と気が付けば、私は道端にぽつんと立っていたのです。
そうだ。そもそも私はアルバイトからの帰りで、バス停へ向かう途中に傷ついた猫を発見したのでした。
猫に触れたら急に傷が治って、驚いていると突然天から光が差して来て、神さまが現れたのです。そして、私が天使だったという事実を知らされたわけでした。
神さまが去ると、まるで白昼夢から覚めたように、私は不意に現実に引き戻されました。
たった今、神さまと会い見えていたという事実を改めて思うと、妙な心地でした。
そんな調子でしばらくその場でぼうっとしていると、白いバン車両がやってきて、目の前に停車したのです。
保健所の車でした。
――あ、そうでした。
私は轢かれた猫を発見して、すぐに保健所へ連絡したのです。
でも、当の猫はもう傷が治って、どこかへ行ってしまったのです。血痕さえも消えてしまったので、猫が轢かれた形跡自体が全くありません。
これではただの勘違いの通報か、いっそいたずらにさえ思われかねません……。
私は保健所の職員さんに必死で謝りました……。
/
「亜葵。あなた、最近なんだか雰囲気変わった?」
お母さんが、ふと、私の顔を見てそんなことを言いました。
「えっ!? う、うそっ、どの辺が? 私、なんか変かなっ!?」
「いえ、別にただなんとなくそう思っただけよ。そんなに慌てなくても……」
私が、あまりに真に迫るような勢いで食い付いたものですから、お母さんは困った顔をしてしまいました。
いけません。これではかえって怪しいです。
「あはは、ごめん。――そ、それより、お母さんはどう? 体調!」
「ええ。あなたも知ってるじゃない、治療もすごく順調よ」
「そうだよね、うん、よかったね……!」
「…………」
これでは、なんだか挙動不審です。うう、お母さんが私のことを変な目で見ています……。
でも、こんなときでも思います。
こうしてお母さんと何気なく話していること――それをふと意識すると、じんわりと、幸せが湧き上がってくるのです。
思い返せば、お母さんがガンだと知らされたときは、もう絶望の淵に立たされたような心地でした。でも、今はもう打って変わって希望に溢れた日々なのです。
自分が、天使の生まれ変わりだと知った、あの日以来――。
私はお母さんのそばにいて、お母さんに『その力』を使っています。エンジェルフォース――傷や病を癒す天使の力です。
気を付けなければならないのは、全開で力を使ってしまわないこと。
今やその力のことを完全に自覚した私には分かります。加減してこの力を使わないと、私が天使であることがすぐにバレてしまいます。
一気に全開させると、天使として完全覚醒してしまい、姿さえ変えてしまいます。
頭の輪っかとか、背中の羽とか……天界にいた頃の姿を取り戻してしまって、それはもう見るからに明らかに天使になってしまうのです。
そうなればもう私はここにはいられなくなります。
天使亜葵としての人生が終えられるだけでなく、存在自体が消えてしまう。
お母さんやお父さん、お友達や、アルバイト先で知り合った方々――みんなの記憶の中から、私と言う存在が消えてなくなってしまうのです。それはすごく、悲しいことです。
だから、私はお母さんの手に触れながら、ゆっくりと治癒の力を流しいれるのでです。
本当なら、お母さんの体に巣食うガン細胞なんてすぐに一掃してやりたいところです。加減せずに力を使えばそれも可能だと思いますが、そうはいかないのです。
でも、少しずつであれお母さんの体は良くなっているわけですから、嘆くようなことはありません。
自分の持つ特別な力を、お母さんのために使えている。
その事実が、とっても嬉しいのです。
――ただ、こんな幸せな日々の中でも、一つだけ、私の胸の中には居心地の悪い違和感が渦巻いていたのです……。
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「あの、えっと……、ちょっと恥ずかしいんですけど」
私は、隣の市の喫茶店でアルバイトをしています。
本日は、10月31日。
世に言う、ハロウィンです。
私が勤めているのはごく普通の喫茶店ですが、せっかくだからウチもそのイベントにあやかろう、とマスターが言い出しまして。ハロウィンと言えば、コスプレ。
「亜葵ちゃん、めっちゃ似合ってるよ」
先輩が、私をまじまじと見て言うのです。
桃山さんという彼女は、まあ年齢で言えば年下なのですが、しかしここのアルバイトとしては先輩です。なにかこう、姉御気質のような雰囲気があって、私から見て年下だろうと違和感なく目上の人として接していますし、彼女も私を後輩として見ています。
そんな桃山先輩は、衣装に着替えた私を見ると、嬉々としてケータイを取り出して、パシャパシャと写真を撮るのです。
渡された衣装は、メイド服というやつでした。
今日だけ、女性スタッフはお揃いでその衣装に着替えて接客をすると言うのです。先輩はノリノリですが、私はちょっと恥ずかしいのです。
「恥ずかしがることないよ。すっごい可愛い」
「ほ、ほんとですか……?」
「まじまじ。可愛い! 苗字の通り、天使みたい」
「えっ!? て、天使みたい!?」
「なんでそんな慌てるの?」
「あ……、すみません、なんでもないです」
天使のようだと言われて、つい過敏に反応してしまいました。
メイドの格好で客前に出るのは、始めはもう恥ずかしくて堪りませんでしたが、次第に落ち着いていきました。
慣れとは怖いもので、むしろこの衣装でお客さんに応対するのがしっくり来てしまいました。自分が本当にメイドさんになったようで、ちょっぴり愉しいのです。
自分でも驚くほどノリノリで働いて、もう半日も過ぎた頃でした。
とあるお客さんが、新聞を広げて眺めておられました。
その方にコーヒーのおかわりをお出しするとき、ふと、その新聞の記事の見出しが、一瞬、目に入ったのです。……その瞬間に、どっ、と心臓が大きく鳴りました。
まさかお客さんが読む新聞を横から覗き見るわけにもいかないので、平静を装って、すぐに身を引きましたが……。
私の胸には、居心地の悪い違和感が強く渦巻いていました。
今、不意に目に入った新聞記事――それは、某国で今なお続く、戦争についての記事でした。
戦争。
その言葉を頭に浮かべると、途端に胸が苦しくなりました。
だって、私は――……。
そのとき、でした。
ふと気づけば、周囲の景色が、ピタリ、と、止まりました。
突然時間が停止したように、店内にいる人たちの動きが止まって、音も聞こえなくなり、やがて辺りは暗がりに包まれていきます――その中で、目の前に差す一条の光。
突然の出来事でも、二度目ともなればさすがに困惑しませんでした。
光の中に人影が浮かび、やがて神さまが現れたのです。
「神さま……。一体、どうされたのですか?」
「ふむ」
突然現れた神さまは、何も言わず、ただ腕を組んで私のことをまじまじと見ているのです。一体、どうしたのでしょうか……。
「って、あ。……えっと、この格好はですね、その、今日はハロウィンというイベントの日でして。普段とは違う衣装を着るならわしなのですよ。これはメイドっていって、つまり女中の格好なのですけど、わわ、私の趣味っていうワケじゃなくてっ、……いえ確かにちょっと気に入っていたりもするんですが、その……」
「いや、その格好のじっくり見ていたわけじゃなくての」
「えっ? ああ、そうなんですか。私てっきり……」
もしかして、私がこの格好をしているのがおかしくて、じっくりと見るためにわざわざ天界から降りてきたのかと思いました。
「今、君の心を見ていた」
「私の、心っ……?」
「そうじゃ。心が少しばかり乱れておるな。……どうやら君は、ようやく気づいたようじゃな」
神さまは心を読めるのですか。確かに、神ならばそれぐらいできても不思議ではないかもしれません。
でも、心を覗き見られるというのは妙に気恥ずかしい感じがします。……というのは、いかにも『人間らしい』感慨でしょうか。
「君は元々天使じゃろ。天使は、この世界のことを、とりわけ人間達の動向を見守るのが仕事じゃった。しかし君は、人間達が争い、傷付き、病に侵されていくその様をただ見守るだけというのに耐えられんかった。彼らに直接救いの手を差し伸べたいと思い、下界へ降りる決心をしたわけじゃな」
「え、ええ。そうです。天使だったころにそう思ったことを、今ではちゃんと思い出せます」
「じゃが、こうして人間になった今。――気付いたじゃろう、その志とは人間の手には余るものだということを」
「あ……」
神さまが、わざわざいらっしゃったのは、そのことを私に諭すため
そうです、私は気付いたのです。
……私は元々、天使でした。
世界を見守る中で、傷付いたり、病に侵されたりする人たちを見て、彼らに救いの手を差し伸べたいと願い、人として下界へ降りました。
しかし、人間となった私には、世界はあまりにも広かったのです。
「天界にいる我々は、大きな範囲で物事を見る。ちっぽけな人間達のことなどは、まるでこの手一つですべてまとめて掬い上げられるかのようだ。
……しかし、彼らに干渉するためその身を堕とした君には、そうはいかない。
たとえ人を癒す力――エンジェルフォースを持っていても、すべての人間を癒せるわけではない。人間となった君には、その手の届く範囲はあくまで人間のそれなのじゃ。君は、その事実に気付き、憂いておったじゃろう」
「…………、ええ、そうですね」
ここ数日、私の胸の中に巣食っていた、居心地の悪い違和感の正体は、それです。
つい今、目にした、どこかの国の戦争について新聞記事。
そこでは、多くの人たちが傷つき、苦しんでいます。……でも、私に彼らを救うことはできません。
実際にこの手で触れれば、傷を癒すことはできます。
でも、それは叶いません。私はせいぜい、小さな島国の中の小さな田舎町に暮らすちっぽけな人間だからです。
天使の力をこの手に有していようとも、あくまで私は人間なのです。
「君を苦しめたかったわけではない。ただ、天使でありながら彼らに触れることを望んだ君には、その現実と向き合ってもらわねばならなかった。――そしてもう、君を天界へ戻すことはできない。君はもう、人間なのじゃ」
「そんな……」
「さらばじゃ、ハクティリカ。――いや、天使亜葵。ワシは君を見ておるよ。しかし、見ることしかできぬ。天に身を置くワシには、君に直接手を差し伸べることができないのじゃ。すまぬな」
そう言って、神さまは去っていきました。
光の筋が消え、代わりに暗がりだった景色に明かりが戻ります。
でも、私の心はまだ、暗く沈んだままでした。
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