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シーズン1/第二章
□あくあついんず□⑱
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「はあっ、はあっ……」
街灯は点々と距離をおいて設置されており、中にはチカチカと明滅しているものや電灯の寿命が切れたまま交換の為されていないものさえあるので、暗い夜道を照らすには非常に心許ない。
人気もなく、少女が一人で歩くにはいささか恐怖しそうな道であるが……水帆には、恐怖心など片鱗もなかった。
薄暗い公園の中も、一層闇の濃い路地裏の道も、果ては墓地のそばさえも、特に臆することなく力強い足取りで駆けていくのである。
それは、彼女が生来お化けや幽霊などといったものに対して、全くと言っていいほど恐怖を抱かない性質であるからだ。虫には異常な拒否反応を示す水帆だが、反してオカルト的なものやこういった暗い場所などに対して恐怖心はない。
水帆の胸中を満たすのは、ただ水萌への物案じ。
水萌が、部屋からいなくなっていた。しかも、どういうわけか窓から外へ出たらしい。
もし玄関から出たなら、音で分かるはずだ。一ノ瀬家の玄関扉はかなり音が鳴る。どうやらドアクローザーのネジが緩んでいるらしく、なんとかしてほしいと父に頼んでいるところである。
おそらく、外出を悟られないように窓から外へ出たのだろう。
一体なんのために……?
そもそも水萌は今日、体調が優れなかったと聞いていた。部活を休み、帰宅後もどこか様子が変だった。それが、こっそりと家を出たことに関係があるのか?
分からない。
考えても仕方ない。
とにかく、心配だ。
水帆は居ても立ってもいられず、両親に水帆の不在を知らせることもなく一人で家を飛び出してきてしまった。気が逸っていたのもあるが、なんとなく、自分一人で水萌を探したほうが良いかとも考えた。
あの妹は、姉である自分に何か隠し事をしているのではないか? ――そう、直感した。
もうすっかり夜のとばりが降りてきた中、水帆は町中を必死に駆け回った。だが、水萌の姿はない。
(水萌ちゃん、どこにいるの……っ!?)
胸騒ぎがする。
たった今、水萌がなにか危険な目に遭っているのではないかと、そんな予感がする。
/
「うそ、そんな――……」
水萌はその光景を見て、ぞっ、と背筋に悪寒が走るのを感じた。
巨大な蠕虫様のバケモノ――『海蟲』を半自動小銃で見事撃ち抜いた。頭部が潰れ、どろりと濁った海水を溶け出しながら倒れたはずだ。
だが……その濁水が、ずるずると動き出し、欠けた頭部に戻っていく……。
銃で頭を撃ち抜かれた巨大蟲は、再生し、また起き上がった。それに伴い、子らである多足の蟲たちもまた、動き始める。
いや、それだけではない。
足を持つ蟲たちは、揃って妙な動きを始めた。思いっきり頭部を持ち上げて、そのまま背を反らしていき……やがて頭と尾をくっつけてしまう。
体を裏側に丸め、そしてふらりと浮き出す。
水萌はそれを見てハッとする。失念していた。そういえば、始めの夜の戦いであのバケモノが形態を変化させたのを見ていた。宙に浮くバケモノは、裏向きに丸まったダンゴムシのような状態……そして、外に向いた腹面に、メリと亀裂が入る。中から大きな眼球が覗く。
巨大な単眼と蠢く多足。
巨大蠕虫である『海蟲』が産んだ子らであるバケモノの群れが、一斉におぞましい第二形態へと姿を変えた。妙に人間じみた巨大な瞳が、いくつも並び、少女を見据える。
水萌は、その顔を絶望に染めていた。
それは、すでに幾度か上塗りされた絶望だ。
海から現れた黒い卵の蟲を先制攻撃によって倒した。
そこで一息かと思いきや、巨大な芋虫のようなバケモノが海から現れたのだ。
その上、そいつは黒い卵を三十近くも産み出した。
明らかな多勢に無勢、いよいよ追い詰められたかと思ったところで、なけなしの力を振り絞り、親蟲の頭を撃ち抜いて倒した。親である『海蟲』を倒したので、子蟲の群れも同様に倒れていく。そこでようやく、ああ、ついに敵生物を倒して窮地を脱したと、思ったのだ。
だが、勝利を喜ぶ中、突如、不穏な気配を感じて振り返ったところでこの光景である。
離れた位置でのそりと頭を持ち上げる『海蟲』。
そして、一斉に携帯を変化させた子蟲の群れ。
『まさか、そんな……【海蟲】に再生能力があったなんて』
オスティマも、目の前の事態が信じられないといった様子で唖然としている。敵生物が再生能力を有しているなどとは、彼の得ていた事前情報にはなかったらしい。
「――――っ」
水萌は、息を呑む。
もはや冷静ではいられなかった。
ようやく勝ったと思ったのに。
自分の出し得る力を出し切り、勝ったと思った。
それなのに、敵は平然としてまたにじり寄って来る。すぐにでも、蟲の群れが攻撃を仕掛けてくるだろう。
水萌は、すぐに『術』を発動させた。
少女の目の前に水が渦巻く。即座に、機関銃の形を成した。そして水から金属へと。水萌はすぐさま銃口を多足の蟲の群れに向け、弾丸を発射した。
「――っ、うああああああ……っ!」
どどどどどどど、――と、地鳴りのような音とともに弾幕が張られる。ただ我武者羅に銃身を振り、三十近くもの子蟲の群れに雑多に銃弾を浴びせた。
狙いも何もあったものではなく、まともにヒットしない。
しかも銃弾が当たるのはせいぜい群れの前面にいる数体のみ。まともに弾丸を喰らった棘足が数本、吹き飛んで宙を舞い、少し離れた岩陰の辺りに落ちる。
だがバケモノがそれだけで怯むことはない。一挺の機関銃だけではこの数を圧倒するには火力不足なのだ。
そして何より。
――ばしゃん、と。少女の眼前に浮揚していた銃器は、数秒と持たずに水へと帰化した。
だめだ。
やはり、武器の造形を長く維持できない。未だ、水萌は力を完全に引き出しきれていないのだ。これでは、この数を相手にするのは不可能である。
すると、待っていましたと言わんばかりに、蟲たちが棘足を少女へ向かってぐんと伸ばしてきた。棘の連なった足が何十本と束になって迫って来る。
『ミナモっ!』
オスティマが叫ぶ。
間一髪、水のシールドを展開させられた。……だが、少女とぬいぐるみを球状に覆う水膜はそれまでよりもいくらか不安定で弱々しい。
「ぅあ……、だめっ!」
太く絡み合って襲い来る棘足。それらを、受け止めることが出来なかった。
ばちぃいぃっ、と甲高い音が響いたのと同時、少女の体は後方へ吹き飛んだ。……シールド自体は破られることはなかったが、その衝撃を受け止めきれず、少女とぬいぐるみ諸共弾き飛ばされたのだ。
そのまま、少し離れた岩に激突する。ばしゃん、と水膜が弾け、殺され切れなかった勢いのまま背中を打ち付けられる水萌。
「ぅぐ――っ」
『ミナモ、大丈夫か!?』
「はあっ、はあ……」
大丈夫かなどと問われても、そんなものは答えるまでもない。
大丈夫じゃない。
もうおしまいだ。
自分はきっと、ここで死ぬのだ――水萌は、そう確信した。
水帆のために戦う。そう決心した。
その想いこそが、水萌の原動力だ。
だが、それを自覚した今でもなお、力を完全に引き出すことが出来ていない。始めの夜には術を完璧に扱えたのだから、自分の中にはそれだけのエネルギーは確かにある筈なのだ。それなのに、この窮地に至ってもなお――水帆のためにと心を焚きつけてもなお、力を発揮できない……。
自分の意思の力が足りないのだろうか。
それとも、もっと根本的ななにかが足りないのか……。
自分一人ででは、分からない。
ただ分かるのは、もうそんなことを考えていても仕方がないということ。――見える、自分を吹き飛ばした棘足の群れが追撃を加えようと迫ってきている。
もうなすすべはない。水膜のシールドを張ろうという意思さえ湧かない。
オスティマが懸命になにか叫んでいるような気がする。でももう、聞こえない。死への絶望感が水萌の心を溢れんばかりに満たし、周囲の音が耳に入ってこない。
死んでしまうのか。
残念だ。
輪廻だとかそういうものってあるのだろうか。
ここで死んでも、またどこかで生まれ変わったりできるのだろうか。
たとえこことは全く違う時代とか――あるいはまったく違う世界で生まれ変わったとしても。
それでも、水帆とはまた会いたい。
そう思い、彼女の顔を頭に思い浮かべた。自分に似た顔なので、思い描くのは容易である。……そう、毎朝洗面台の前に立ったときの様子と同じ。ただ髪を長くするだけで良い。ほら、こんなにも鮮明に描ける。
水帆――……。
「水萌ちゃんっ!」
あまりにも鮮明に思い描きすぎたのだろうか。声まで聞こえる。水帆が自分の名を呼んでいる。
「水萌ちゃんっっ!!」
ガッ、と、肩を掴まれた。
その手はしっかりと五本指の温かみのある手で、ぬいぐるみであるオスティマの手でないことは明らかだ。
ふと見ると、目の前に、自分の顔があった。
なぜだろう、こんなところに鏡が?
死を覚悟していたためか、ずいぶんと顔色が悪い。すっかり血の気が引いて青ざめている中、しかし力強い熱意がこもった眼をしている。
妙だ。自分はもう戦意などなく、意思はすっかり冷めきっていたものと思ったが……。
「水萌ちゃん、しっかりしてッ!」
……いや、違う。
鏡面に映った自分ではない。
水帆だ。
「…………、水帆?」
懸命に自分の肩を揺する姉。その向こう、水帆の背には束となって差し迫る棘足。――水帆はハッと、我に返った。
「水帆! あぶないッ」
そう叫ぶと同時、すでに水萌は球状の水のシールドを展開させていた。
もうすっかり消えてしまっていたと思ったが、水帆の顔を見た途端に、胸中に宿るエネルギーは瞬時に沸き上がる。
ばしゃあああああん、――激しい水音。
水萌は踏ん張り、その衝撃を耐えた。今度は吹き飛ばされることはなく、なんとか多足の攻撃を受け止める。
「ふうっ……」
と一息ついたところで、ようやく疑問が湧く。
「…………、水帆が、なんでここに……?」
当然の疑問を口にするが、その問いへの答えを言う前に、水帆はいきなり膝から崩れ落ち、へた、と地面にしりもちをついてしまう。
「水帆っ?」
「――う、だ、だって、すぐ後ろに、バケモノがいっぱい……! だめ、怖くて振り向けないよ」
カタカタと肩を震わせて言う水帆。
そうだ、水帆は虫が苦手である。
足つき蠕虫のような奇怪な怪物の群れに、さらに後方に控えるのは巨大な芋虫。今は背を向けて直視しておらずとも、近くにそんな生物がいるという状況だけでも、彼女にとっては耐えがたい。
「わ、私の方こそ、水萌ちゃんに聞きたいこといっぱいあるし……。この状況が一体どういうわけなのか、さっぱり分からないよ。水萌ちゃんが部屋にいないのに気づいて、あわてて探しに出たの……」
恐怖で話すのも一杯一杯なのか、水帆は一度深く呼吸を挟んで、また言葉を続ける。
「そ、それで、ようやく見つけたと思ったら、なんかおっきい虫みたいなバケモノに囲まれててっ……。――こ、怖かったけどっ。でも、いてもたってもいられなくって、飛び出してきちゃってっ……!」
「水帆……」
その光景を目にしていながらも、水萌の身を案じ、意を決し飛び出した……おぞましい蟲の群れの前へ。
水萌で例えるなら、真夜中、心霊スポットとして有名な暗いトンネルに単身乗り込むようなものか。ああ、想像しただけでも背筋が凍りそうになる。
そんな恐怖を堪え、水帆は自分のもとへ駆け寄ってきてくれたのだ。
『ミナホ、大丈夫かお前』
「うわっ!? ぬいぐるみが――ドラコが喋った!?」
彼の声を初めて聴いて、ぎょっと驚く水帆。
双子姉妹とぬいぐるみをまとめて囲う水のシールド。
それを取り囲み、棘足を中空に漂わせて、小さな獲物たちが姿を出すのをじりじりと待つバケモノたち。
さらに後方に控えていた本体の『海蟲』も、少々しびれを切らし始めたか、ゆっくりと水萌たちの方へ近づいて来る。のそり、のそりと身をくねらせて岩肌の意地面を這う巨体。
今なお危機的状況は続くが、ひとまず水膜内では水帆への状況説明が行われていた。
ドラコの中にはオスティマという海底人の魂が宿っていて、その故郷、海底帝国には地上侵略を目論む悪しき集団がいる。そして自分たちを狙っているこのバケモノどもこそが彼らが放ってきた刺客。水萌はオスティマに手を貸し、それを戦う覚悟を決めた。
その力というのが、幼い頃に触れたあの不思議な石――『海龍のウロコ』の力である。という話。
かなりかいつまんで話したが、実際にこの状況を見れば疑う余地もなく、水帆はすんなりとその話を受け入れた。水萌がなぜスク水姿なのかは大きな疑問として残るが。
「水萌ちゃんは、一人で、あんなバケモノと戦ってたんだね……」
「だって、水帆はあんなのに正面切って太刀打ちできない、でしょ? あたしはオバケとか怖いけど、水帆はああいう虫っぽいのとか絶対ムリってタイプじゃん。だから……」
「…………」
確かに。
申し訳なく感じるが、水萌の言うことは正しい。
今、背中に気配を感じるだけでも落ち着いていられない。正直、一目散に逃げだしてしまいたいが、水萌を置いてそんなことはできない。
ならば……。
「でもっ、水萌ちゃんが一人で戦うなんて、そんな……。――わ、私も、戦う! だって、子供の頃に触ったあの石の力なら、私だって持ってるわけでしょ!? だったら……!」
『だめだ。力を引き出すには海底人との魂リンクの儀式が必要だ。俺は水萌と儀式を交わしたから、お前とはもうできない』
すなわち、水帆は戦うすべを持てない。
彼女の中には水萌と同じ力は眠っているが、海底人と魂のリンクを果たさなければ、それを引き出すためのカギを開けないのだ。そのエネルギーは水帆の心の中に留まるだけで、表へ引き出して術を行使することができない。
「そんな……」
力自体は持っていても、使えない。水萌が一人で戦ってくれて、ついに追い詰められて危機的状況だというのに。
その事実を突きつけられ、切なげな表情を浮かべる水帆。
……悲痛な思いは、水萌も同じだった。
「……あたしだって、本音を言えば……水帆の力を借りたいよ。自分一人で戦うって、決心したのにさ。あたしじゃ、力不足だったみたい……」
「え?」
「だって、ここまで追い詰められて、戦わなくちゃいけない状況なのに……それなのに、あたしはまだ完全に力を引き出せないんだもん。水帆のために戦うんだ、って思ったのに。水帆がそばにいてくれている今でも、……だめなの。自分でもわかる。やっぱり、100%のパワーが出てこないの。あたし一人じゃ、どうしても……」
水萌は、そんな自分を情けなく思う。
ここへ至ってもまだなお力が発揮できない。自分の意思の力が足りないのだろうか。それとも、もっと根本的ななにかが足りないのか……。
そのとき。
ずい、と。水帆がいきなり顔を寄せてきた。
驚く間もなく、柔らかな感触が頬に押し付けられた。
水帆が右頬を水萌の左頬へと触れさせた。
目じりが重なる。
それは、お互い対象の位置に付いている『泣きボクロ』。
二人のそばで浮揚しているオスティマは、何も言わず黙っている。黙って、二人が頬を重ねるのを見た。
その意味は理解できなかったが、それが二人にとってとても大事な行いであることは察せられた。言葉なくそう察せられるほど、暖かな空気に包まれていたのだ。
だから、この緊迫した状況の中で二人が語り合おうと、それを止めはしない。
「大丈夫だよ、水萌ちゃん」
そっ、と顔を離し、水帆は言う。
「正直、私まだこの状況よくわかんないけど。あんなバケモノがすぐ後ろにいるなんて思うと気を保つのもやっとだしなんなら現実だって信じられないくらいだし、あと水萌ちゃんがどうしてスク水着てんのかも分かんないけど、だけど……これだけは分かるよ」
水萌の肩に手を添えながらつらつらと言う水帆。
水萌は、姉をまっすぐ見据えながら、彼女の言葉を聞く。
「水萌ちゃんなら、きっとやれるよ! 水萌ちゃんは、私の自慢の妹だもん。ここ最近さ、水萌ちゃんが部活とかですっごい活躍してるの、とっても誇らしいんだよ。もう自分のことみたいに! ――ううん、だって私と水萌ちゃんは双子だもんね、二人で一つ、だもんね。だからもう、本当に『自分のこと』のように、誇らしいわけ」
「…………」
「そんな『私の自慢の』水萌ちゃんだもん――あんなバケモノなんて、きっとやっつけられるよ! 私が、応援してるからっ!」
ぐっ、と、肩を掴む手に力を込める。
水帆自身が言ったように、確かに彼女はさきほどの雑な説明だけではこの状況は理解できていないだろうし、何より依然として背後に控えるおぞましいバケモノの存在を肌で感じていて、血の気は引いたまま、気を張っていなければ意識を手放してしまいそうな様子だ。
だが、弱音や不安などは口にしない。水萌を元気づけようと、前向きな言葉をかける。
「水帆……」
水萌の中で、ふと、何かがカチリと嵌るような感覚があった。
ああ、そうか。
そうだった。
自分はずっと、『水帆のために』と考えて、自分一人で戦おうと気を張って来た。
水帆のために――確かにそれは重要な意思だ。
実際、その想いを募らせればこそ胸の奥底から力が漲って来たのだ。
だが、それだけでは不十分だったのだろう。そのうえで、しかしどれほど意識を振り絞っても、力を100%引き出すには至らなかったのだ。
それも当然だ。
自分が、水帆のために戦おうと思っても、所詮それはただ独りよがりな考え。一方通行というか、自己完結というか……。
いつだって自分たちは一緒だった。
双子として、いくらいがみ合って競い合ってこようとも、――それはむしろ心の持ち方が一緒だからこそ、競争心も絶えなかったのだ。
虫かオバケかという違いこそあれ、二人とも同じく怖がりであるし、
そして二人とも負けず嫌いだ。
性格の不一致からなる衝突ではなく、同じ二人だからこその真っ向の対立をしていた。そんな二人、水萌と水帆は、唯一無二の双子なのだ。
心はいつも同じである。
それはいっそ、オスティマと交わした『魂リンク』の儀式の様に――水萌と水帆は常に、心をリンクさせ、生きてきた。
(あたしは、水帆のために戦う。――そして、水帆はそんなあたしを応援してくれる、力をくれる。そっか……あたしは、どうして一人で戦おうなんて思ったんだろう)
始めに、オスティマから『儀式の制約上、戦うことになるのはどちらか一人』と聞いたとき、水萌は言っていた。
……自分たちは双子なのだから、このような場合、二人で共に戦うというのが『ありがち』だと思う、と。
どちらか一人だけが戦うというのは、漫画やアニメなどではあまり見ないなあ、と。自分たちの場合、そういったセオリーに則ることにはならないようだと。
だが、違った。やはり自分たちにも、そのセオリーは当てはまっていた。
始めから、二人で共に戦うべきだったのだ。――ただしそれは、それぞれが力を発揮して戦うとか、二人で共に力を補い合いながら戦闘を行うということじゃない。
『二人分』の力を使って、敵と戦うということだ。
実際に力を振るうのがどちらか片方だとしても。一人が『二人分』の力を発揮するのだ。すなわち文字通り『力を合わせる』ということ。同じ心を持つ二人ならば、それができる。
水萌は、ようやく理解した。
『こ、これは……』
ずっと黙って二人を見ていたオスティマが、水萌の様子を見て口を開く。
『……感じるぜ、ミナモ。お前の中の力が、どんどん湧き出てきてる。力の引き出し率が上がってるぜ。92%、95%、99%……100%! いや、もっとだ。一気に上がってる……120%!? こ、こんなのあり得ねえ!』
彼が言う力の引き出し率とは、文字通り、水萌がその身に秘めるエネルギーをどれだけひきだせているか、の割合だ。オスティマはそれを肌で感じることが出来る。
持ち得る力をすべて引き出せたなら、100%。
それを超えることは元来あり得ないはずだ。
オスティマは唖然としているが、当の水萌はさも当然だと言わんばかりに平然としている。
「あり得ない? そんなことないでしょ。むしろ当然だね」
『な、なんでだ……?』
「だって、あたしたちは双子だからね。二人の心は通じ合ってるんだもん。水帆が、あたしに力をくれるんだ。あたしだけの力じゃない、『二人分の力』なんだから。十割を超えたって不思議じゃないでしょ」
自信に満ちた表情でそう言う水萌。ついさきほどまで死を覚悟し絶望していたとは思えない。
「私が応援してるから、頑張ってね――水萌ちゃん!」
「うん。応援してくれるから頑張れる、ありがとね――水帆!」
コクと、目を合わせながら頷く双子。
水萌は、水帆の横を通り過ぎ、前へ出た。
水帆とは背中合わせの格好になる。
そのまま、静かに右手を上げ、ふい、と払うような動きをした。
ぱしゃん、と、ドーム状の水膜が消える。
『ミナモっ!? シールドを解除するなんて、何のつもりだ!?』
慌てた様子のオスティマに対し、水萌と、そして水帆は実に落ち着いている。
当然、ようやく好機が訪れたと、多足のバケモノの群れは一斉にその棘足を伸ばし来る。だが、それは分厚い水の壁によって即座に遮られる。
水萌は、水のシールドを解除してすぐ、異なる盾を展開させた。
自分を中心にドーム状に覆うシールドではなく、自分たちと敵の群れを完全に隔てる分厚い水の壁だ。ばしゃばしゃ、と激しい水音を立てながら縦横に広がる壁。
幅は、単眼多足の子蟲の群がりの範囲よりも広く、そして高さは、素の群れの後ろに控える親の巨大蟲――本体たる『海蟲』よりも高い。
そこまで広がった壁はすぐに、かくん、と直角に曲がる。
『海蟲』の背後まで至ると、また直角に曲がって合流する。――水の壁は大きな直方体となり、すべての敵生物を完全に閉じ込めた。
束となった棘足が壁を何度も叩いているが、ばしゃんばしゃんと飛沫を上げるだけでびくともしない。
水萌は、敵を閉じ込める水の壁を造り出した。
だが、『水精錬金』の神髄たるは水の操作ではない。
『おいミナモ、どうするつもりだ? 水の匣造って閉じ込めたところでどうにもならんじゃないか? ……攻撃手段になってねえし、それにあのデカブツは再生能力を持ってやがるし』
「うん、わかってるよ。でもまあ、そういうのって漫画やアニメでありがちだけど、『再生が追い付かないぐらい攻撃すればいい』って相場だよね」
『お、おお』
「まあ見てなよ。……って、ああ、水帆は見なくていいかんね」
ふふん、と笑ってそう言うと、水萌は大きな水の壁にじっと目線を向けた。
意識を集中させる。
壁の内側に、にゅ、と水が筒状に迫り出した。かなり口径の大きな筒が形成されると、たちまち水から金属へと変質されていく。――それは、大砲の砲身だ。重々しい榴弾砲である。
六面体の水壁に囲まれた蟲たちへ、その短めの砲身を向けているが、まだ砲弾は発射されない。
さらにその隣に、同じ形のモノが並んで形成された。
ぱしゃん、ぱしゃん、と水音を立てながら、次々と大砲が象られていき、形を成したそばから鉄へと錬金されていく。
それまで、一つの銃器を生成させるので精いっぱいだった水萌だが、今は同時にいくつもの重火器を造り出していながら消耗しているような様子でもなく余裕の表情。
さらに、すでに一つ目が形成されてから十秒ほど経過しているが、綻びを見せることもない。
力を九割しか引き出せなかったうちにはせいぜい数秒の維持が限界だった。今は水帆から力を受け取って、十割さえ超えている。始めの夜以上に力が漲っているのだ。
水萌は、二十門もの榴弾砲を造り出した。
水によって形成された、直方体の檻。その内側の壁に所狭しに並ぶ重々しい大砲。
まるで城門砲が内側についているかのようである。
狙うは、壁内に捕らわれるバケモノたち。巨大な蠕虫様の生物兵器『海蟲』と、そいつが産み出した三十体近くの子生物。
「――よし、」
水萌は一息置いて、叫ぶ。
「ってぇぇぇぇぇええええ!」
号令などせずとも、砲弾を打ち出すのは彼女自身の意思なのだが。
水の匣の中で、榴弾が斉射された――。
街灯は点々と距離をおいて設置されており、中にはチカチカと明滅しているものや電灯の寿命が切れたまま交換の為されていないものさえあるので、暗い夜道を照らすには非常に心許ない。
人気もなく、少女が一人で歩くにはいささか恐怖しそうな道であるが……水帆には、恐怖心など片鱗もなかった。
薄暗い公園の中も、一層闇の濃い路地裏の道も、果ては墓地のそばさえも、特に臆することなく力強い足取りで駆けていくのである。
それは、彼女が生来お化けや幽霊などといったものに対して、全くと言っていいほど恐怖を抱かない性質であるからだ。虫には異常な拒否反応を示す水帆だが、反してオカルト的なものやこういった暗い場所などに対して恐怖心はない。
水帆の胸中を満たすのは、ただ水萌への物案じ。
水萌が、部屋からいなくなっていた。しかも、どういうわけか窓から外へ出たらしい。
もし玄関から出たなら、音で分かるはずだ。一ノ瀬家の玄関扉はかなり音が鳴る。どうやらドアクローザーのネジが緩んでいるらしく、なんとかしてほしいと父に頼んでいるところである。
おそらく、外出を悟られないように窓から外へ出たのだろう。
一体なんのために……?
そもそも水萌は今日、体調が優れなかったと聞いていた。部活を休み、帰宅後もどこか様子が変だった。それが、こっそりと家を出たことに関係があるのか?
分からない。
考えても仕方ない。
とにかく、心配だ。
水帆は居ても立ってもいられず、両親に水帆の不在を知らせることもなく一人で家を飛び出してきてしまった。気が逸っていたのもあるが、なんとなく、自分一人で水萌を探したほうが良いかとも考えた。
あの妹は、姉である自分に何か隠し事をしているのではないか? ――そう、直感した。
もうすっかり夜のとばりが降りてきた中、水帆は町中を必死に駆け回った。だが、水萌の姿はない。
(水萌ちゃん、どこにいるの……っ!?)
胸騒ぎがする。
たった今、水萌がなにか危険な目に遭っているのではないかと、そんな予感がする。
/
「うそ、そんな――……」
水萌はその光景を見て、ぞっ、と背筋に悪寒が走るのを感じた。
巨大な蠕虫様のバケモノ――『海蟲』を半自動小銃で見事撃ち抜いた。頭部が潰れ、どろりと濁った海水を溶け出しながら倒れたはずだ。
だが……その濁水が、ずるずると動き出し、欠けた頭部に戻っていく……。
銃で頭を撃ち抜かれた巨大蟲は、再生し、また起き上がった。それに伴い、子らである多足の蟲たちもまた、動き始める。
いや、それだけではない。
足を持つ蟲たちは、揃って妙な動きを始めた。思いっきり頭部を持ち上げて、そのまま背を反らしていき……やがて頭と尾をくっつけてしまう。
体を裏側に丸め、そしてふらりと浮き出す。
水萌はそれを見てハッとする。失念していた。そういえば、始めの夜の戦いであのバケモノが形態を変化させたのを見ていた。宙に浮くバケモノは、裏向きに丸まったダンゴムシのような状態……そして、外に向いた腹面に、メリと亀裂が入る。中から大きな眼球が覗く。
巨大な単眼と蠢く多足。
巨大蠕虫である『海蟲』が産んだ子らであるバケモノの群れが、一斉におぞましい第二形態へと姿を変えた。妙に人間じみた巨大な瞳が、いくつも並び、少女を見据える。
水萌は、その顔を絶望に染めていた。
それは、すでに幾度か上塗りされた絶望だ。
海から現れた黒い卵の蟲を先制攻撃によって倒した。
そこで一息かと思いきや、巨大な芋虫のようなバケモノが海から現れたのだ。
その上、そいつは黒い卵を三十近くも産み出した。
明らかな多勢に無勢、いよいよ追い詰められたかと思ったところで、なけなしの力を振り絞り、親蟲の頭を撃ち抜いて倒した。親である『海蟲』を倒したので、子蟲の群れも同様に倒れていく。そこでようやく、ああ、ついに敵生物を倒して窮地を脱したと、思ったのだ。
だが、勝利を喜ぶ中、突如、不穏な気配を感じて振り返ったところでこの光景である。
離れた位置でのそりと頭を持ち上げる『海蟲』。
そして、一斉に携帯を変化させた子蟲の群れ。
『まさか、そんな……【海蟲】に再生能力があったなんて』
オスティマも、目の前の事態が信じられないといった様子で唖然としている。敵生物が再生能力を有しているなどとは、彼の得ていた事前情報にはなかったらしい。
「――――っ」
水萌は、息を呑む。
もはや冷静ではいられなかった。
ようやく勝ったと思ったのに。
自分の出し得る力を出し切り、勝ったと思った。
それなのに、敵は平然としてまたにじり寄って来る。すぐにでも、蟲の群れが攻撃を仕掛けてくるだろう。
水萌は、すぐに『術』を発動させた。
少女の目の前に水が渦巻く。即座に、機関銃の形を成した。そして水から金属へと。水萌はすぐさま銃口を多足の蟲の群れに向け、弾丸を発射した。
「――っ、うああああああ……っ!」
どどどどどどど、――と、地鳴りのような音とともに弾幕が張られる。ただ我武者羅に銃身を振り、三十近くもの子蟲の群れに雑多に銃弾を浴びせた。
狙いも何もあったものではなく、まともにヒットしない。
しかも銃弾が当たるのはせいぜい群れの前面にいる数体のみ。まともに弾丸を喰らった棘足が数本、吹き飛んで宙を舞い、少し離れた岩陰の辺りに落ちる。
だがバケモノがそれだけで怯むことはない。一挺の機関銃だけではこの数を圧倒するには火力不足なのだ。
そして何より。
――ばしゃん、と。少女の眼前に浮揚していた銃器は、数秒と持たずに水へと帰化した。
だめだ。
やはり、武器の造形を長く維持できない。未だ、水萌は力を完全に引き出しきれていないのだ。これでは、この数を相手にするのは不可能である。
すると、待っていましたと言わんばかりに、蟲たちが棘足を少女へ向かってぐんと伸ばしてきた。棘の連なった足が何十本と束になって迫って来る。
『ミナモっ!』
オスティマが叫ぶ。
間一髪、水のシールドを展開させられた。……だが、少女とぬいぐるみを球状に覆う水膜はそれまでよりもいくらか不安定で弱々しい。
「ぅあ……、だめっ!」
太く絡み合って襲い来る棘足。それらを、受け止めることが出来なかった。
ばちぃいぃっ、と甲高い音が響いたのと同時、少女の体は後方へ吹き飛んだ。……シールド自体は破られることはなかったが、その衝撃を受け止めきれず、少女とぬいぐるみ諸共弾き飛ばされたのだ。
そのまま、少し離れた岩に激突する。ばしゃん、と水膜が弾け、殺され切れなかった勢いのまま背中を打ち付けられる水萌。
「ぅぐ――っ」
『ミナモ、大丈夫か!?』
「はあっ、はあ……」
大丈夫かなどと問われても、そんなものは答えるまでもない。
大丈夫じゃない。
もうおしまいだ。
自分はきっと、ここで死ぬのだ――水萌は、そう確信した。
水帆のために戦う。そう決心した。
その想いこそが、水萌の原動力だ。
だが、それを自覚した今でもなお、力を完全に引き出すことが出来ていない。始めの夜には術を完璧に扱えたのだから、自分の中にはそれだけのエネルギーは確かにある筈なのだ。それなのに、この窮地に至ってもなお――水帆のためにと心を焚きつけてもなお、力を発揮できない……。
自分の意思の力が足りないのだろうか。
それとも、もっと根本的ななにかが足りないのか……。
自分一人ででは、分からない。
ただ分かるのは、もうそんなことを考えていても仕方がないということ。――見える、自分を吹き飛ばした棘足の群れが追撃を加えようと迫ってきている。
もうなすすべはない。水膜のシールドを張ろうという意思さえ湧かない。
オスティマが懸命になにか叫んでいるような気がする。でももう、聞こえない。死への絶望感が水萌の心を溢れんばかりに満たし、周囲の音が耳に入ってこない。
死んでしまうのか。
残念だ。
輪廻だとかそういうものってあるのだろうか。
ここで死んでも、またどこかで生まれ変わったりできるのだろうか。
たとえこことは全く違う時代とか――あるいはまったく違う世界で生まれ変わったとしても。
それでも、水帆とはまた会いたい。
そう思い、彼女の顔を頭に思い浮かべた。自分に似た顔なので、思い描くのは容易である。……そう、毎朝洗面台の前に立ったときの様子と同じ。ただ髪を長くするだけで良い。ほら、こんなにも鮮明に描ける。
水帆――……。
「水萌ちゃんっ!」
あまりにも鮮明に思い描きすぎたのだろうか。声まで聞こえる。水帆が自分の名を呼んでいる。
「水萌ちゃんっっ!!」
ガッ、と、肩を掴まれた。
その手はしっかりと五本指の温かみのある手で、ぬいぐるみであるオスティマの手でないことは明らかだ。
ふと見ると、目の前に、自分の顔があった。
なぜだろう、こんなところに鏡が?
死を覚悟していたためか、ずいぶんと顔色が悪い。すっかり血の気が引いて青ざめている中、しかし力強い熱意がこもった眼をしている。
妙だ。自分はもう戦意などなく、意思はすっかり冷めきっていたものと思ったが……。
「水萌ちゃん、しっかりしてッ!」
……いや、違う。
鏡面に映った自分ではない。
水帆だ。
「…………、水帆?」
懸命に自分の肩を揺する姉。その向こう、水帆の背には束となって差し迫る棘足。――水帆はハッと、我に返った。
「水帆! あぶないッ」
そう叫ぶと同時、すでに水萌は球状の水のシールドを展開させていた。
もうすっかり消えてしまっていたと思ったが、水帆の顔を見た途端に、胸中に宿るエネルギーは瞬時に沸き上がる。
ばしゃあああああん、――激しい水音。
水萌は踏ん張り、その衝撃を耐えた。今度は吹き飛ばされることはなく、なんとか多足の攻撃を受け止める。
「ふうっ……」
と一息ついたところで、ようやく疑問が湧く。
「…………、水帆が、なんでここに……?」
当然の疑問を口にするが、その問いへの答えを言う前に、水帆はいきなり膝から崩れ落ち、へた、と地面にしりもちをついてしまう。
「水帆っ?」
「――う、だ、だって、すぐ後ろに、バケモノがいっぱい……! だめ、怖くて振り向けないよ」
カタカタと肩を震わせて言う水帆。
そうだ、水帆は虫が苦手である。
足つき蠕虫のような奇怪な怪物の群れに、さらに後方に控えるのは巨大な芋虫。今は背を向けて直視しておらずとも、近くにそんな生物がいるという状況だけでも、彼女にとっては耐えがたい。
「わ、私の方こそ、水萌ちゃんに聞きたいこといっぱいあるし……。この状況が一体どういうわけなのか、さっぱり分からないよ。水萌ちゃんが部屋にいないのに気づいて、あわてて探しに出たの……」
恐怖で話すのも一杯一杯なのか、水帆は一度深く呼吸を挟んで、また言葉を続ける。
「そ、それで、ようやく見つけたと思ったら、なんかおっきい虫みたいなバケモノに囲まれててっ……。――こ、怖かったけどっ。でも、いてもたってもいられなくって、飛び出してきちゃってっ……!」
「水帆……」
その光景を目にしていながらも、水萌の身を案じ、意を決し飛び出した……おぞましい蟲の群れの前へ。
水萌で例えるなら、真夜中、心霊スポットとして有名な暗いトンネルに単身乗り込むようなものか。ああ、想像しただけでも背筋が凍りそうになる。
そんな恐怖を堪え、水帆は自分のもとへ駆け寄ってきてくれたのだ。
『ミナホ、大丈夫かお前』
「うわっ!? ぬいぐるみが――ドラコが喋った!?」
彼の声を初めて聴いて、ぎょっと驚く水帆。
双子姉妹とぬいぐるみをまとめて囲う水のシールド。
それを取り囲み、棘足を中空に漂わせて、小さな獲物たちが姿を出すのをじりじりと待つバケモノたち。
さらに後方に控えていた本体の『海蟲』も、少々しびれを切らし始めたか、ゆっくりと水萌たちの方へ近づいて来る。のそり、のそりと身をくねらせて岩肌の意地面を這う巨体。
今なお危機的状況は続くが、ひとまず水膜内では水帆への状況説明が行われていた。
ドラコの中にはオスティマという海底人の魂が宿っていて、その故郷、海底帝国には地上侵略を目論む悪しき集団がいる。そして自分たちを狙っているこのバケモノどもこそが彼らが放ってきた刺客。水萌はオスティマに手を貸し、それを戦う覚悟を決めた。
その力というのが、幼い頃に触れたあの不思議な石――『海龍のウロコ』の力である。という話。
かなりかいつまんで話したが、実際にこの状況を見れば疑う余地もなく、水帆はすんなりとその話を受け入れた。水萌がなぜスク水姿なのかは大きな疑問として残るが。
「水萌ちゃんは、一人で、あんなバケモノと戦ってたんだね……」
「だって、水帆はあんなのに正面切って太刀打ちできない、でしょ? あたしはオバケとか怖いけど、水帆はああいう虫っぽいのとか絶対ムリってタイプじゃん。だから……」
「…………」
確かに。
申し訳なく感じるが、水萌の言うことは正しい。
今、背中に気配を感じるだけでも落ち着いていられない。正直、一目散に逃げだしてしまいたいが、水萌を置いてそんなことはできない。
ならば……。
「でもっ、水萌ちゃんが一人で戦うなんて、そんな……。――わ、私も、戦う! だって、子供の頃に触ったあの石の力なら、私だって持ってるわけでしょ!? だったら……!」
『だめだ。力を引き出すには海底人との魂リンクの儀式が必要だ。俺は水萌と儀式を交わしたから、お前とはもうできない』
すなわち、水帆は戦うすべを持てない。
彼女の中には水萌と同じ力は眠っているが、海底人と魂のリンクを果たさなければ、それを引き出すためのカギを開けないのだ。そのエネルギーは水帆の心の中に留まるだけで、表へ引き出して術を行使することができない。
「そんな……」
力自体は持っていても、使えない。水萌が一人で戦ってくれて、ついに追い詰められて危機的状況だというのに。
その事実を突きつけられ、切なげな表情を浮かべる水帆。
……悲痛な思いは、水萌も同じだった。
「……あたしだって、本音を言えば……水帆の力を借りたいよ。自分一人で戦うって、決心したのにさ。あたしじゃ、力不足だったみたい……」
「え?」
「だって、ここまで追い詰められて、戦わなくちゃいけない状況なのに……それなのに、あたしはまだ完全に力を引き出せないんだもん。水帆のために戦うんだ、って思ったのに。水帆がそばにいてくれている今でも、……だめなの。自分でもわかる。やっぱり、100%のパワーが出てこないの。あたし一人じゃ、どうしても……」
水萌は、そんな自分を情けなく思う。
ここへ至ってもまだなお力が発揮できない。自分の意思の力が足りないのだろうか。それとも、もっと根本的ななにかが足りないのか……。
そのとき。
ずい、と。水帆がいきなり顔を寄せてきた。
驚く間もなく、柔らかな感触が頬に押し付けられた。
水帆が右頬を水萌の左頬へと触れさせた。
目じりが重なる。
それは、お互い対象の位置に付いている『泣きボクロ』。
二人のそばで浮揚しているオスティマは、何も言わず黙っている。黙って、二人が頬を重ねるのを見た。
その意味は理解できなかったが、それが二人にとってとても大事な行いであることは察せられた。言葉なくそう察せられるほど、暖かな空気に包まれていたのだ。
だから、この緊迫した状況の中で二人が語り合おうと、それを止めはしない。
「大丈夫だよ、水萌ちゃん」
そっ、と顔を離し、水帆は言う。
「正直、私まだこの状況よくわかんないけど。あんなバケモノがすぐ後ろにいるなんて思うと気を保つのもやっとだしなんなら現実だって信じられないくらいだし、あと水萌ちゃんがどうしてスク水着てんのかも分かんないけど、だけど……これだけは分かるよ」
水萌の肩に手を添えながらつらつらと言う水帆。
水萌は、姉をまっすぐ見据えながら、彼女の言葉を聞く。
「水萌ちゃんなら、きっとやれるよ! 水萌ちゃんは、私の自慢の妹だもん。ここ最近さ、水萌ちゃんが部活とかですっごい活躍してるの、とっても誇らしいんだよ。もう自分のことみたいに! ――ううん、だって私と水萌ちゃんは双子だもんね、二人で一つ、だもんね。だからもう、本当に『自分のこと』のように、誇らしいわけ」
「…………」
「そんな『私の自慢の』水萌ちゃんだもん――あんなバケモノなんて、きっとやっつけられるよ! 私が、応援してるからっ!」
ぐっ、と、肩を掴む手に力を込める。
水帆自身が言ったように、確かに彼女はさきほどの雑な説明だけではこの状況は理解できていないだろうし、何より依然として背後に控えるおぞましいバケモノの存在を肌で感じていて、血の気は引いたまま、気を張っていなければ意識を手放してしまいそうな様子だ。
だが、弱音や不安などは口にしない。水萌を元気づけようと、前向きな言葉をかける。
「水帆……」
水萌の中で、ふと、何かがカチリと嵌るような感覚があった。
ああ、そうか。
そうだった。
自分はずっと、『水帆のために』と考えて、自分一人で戦おうと気を張って来た。
水帆のために――確かにそれは重要な意思だ。
実際、その想いを募らせればこそ胸の奥底から力が漲って来たのだ。
だが、それだけでは不十分だったのだろう。そのうえで、しかしどれほど意識を振り絞っても、力を100%引き出すには至らなかったのだ。
それも当然だ。
自分が、水帆のために戦おうと思っても、所詮それはただ独りよがりな考え。一方通行というか、自己完結というか……。
いつだって自分たちは一緒だった。
双子として、いくらいがみ合って競い合ってこようとも、――それはむしろ心の持ち方が一緒だからこそ、競争心も絶えなかったのだ。
虫かオバケかという違いこそあれ、二人とも同じく怖がりであるし、
そして二人とも負けず嫌いだ。
性格の不一致からなる衝突ではなく、同じ二人だからこその真っ向の対立をしていた。そんな二人、水萌と水帆は、唯一無二の双子なのだ。
心はいつも同じである。
それはいっそ、オスティマと交わした『魂リンク』の儀式の様に――水萌と水帆は常に、心をリンクさせ、生きてきた。
(あたしは、水帆のために戦う。――そして、水帆はそんなあたしを応援してくれる、力をくれる。そっか……あたしは、どうして一人で戦おうなんて思ったんだろう)
始めに、オスティマから『儀式の制約上、戦うことになるのはどちらか一人』と聞いたとき、水萌は言っていた。
……自分たちは双子なのだから、このような場合、二人で共に戦うというのが『ありがち』だと思う、と。
どちらか一人だけが戦うというのは、漫画やアニメなどではあまり見ないなあ、と。自分たちの場合、そういったセオリーに則ることにはならないようだと。
だが、違った。やはり自分たちにも、そのセオリーは当てはまっていた。
始めから、二人で共に戦うべきだったのだ。――ただしそれは、それぞれが力を発揮して戦うとか、二人で共に力を補い合いながら戦闘を行うということじゃない。
『二人分』の力を使って、敵と戦うということだ。
実際に力を振るうのがどちらか片方だとしても。一人が『二人分』の力を発揮するのだ。すなわち文字通り『力を合わせる』ということ。同じ心を持つ二人ならば、それができる。
水萌は、ようやく理解した。
『こ、これは……』
ずっと黙って二人を見ていたオスティマが、水萌の様子を見て口を開く。
『……感じるぜ、ミナモ。お前の中の力が、どんどん湧き出てきてる。力の引き出し率が上がってるぜ。92%、95%、99%……100%! いや、もっとだ。一気に上がってる……120%!? こ、こんなのあり得ねえ!』
彼が言う力の引き出し率とは、文字通り、水萌がその身に秘めるエネルギーをどれだけひきだせているか、の割合だ。オスティマはそれを肌で感じることが出来る。
持ち得る力をすべて引き出せたなら、100%。
それを超えることは元来あり得ないはずだ。
オスティマは唖然としているが、当の水萌はさも当然だと言わんばかりに平然としている。
「あり得ない? そんなことないでしょ。むしろ当然だね」
『な、なんでだ……?』
「だって、あたしたちは双子だからね。二人の心は通じ合ってるんだもん。水帆が、あたしに力をくれるんだ。あたしだけの力じゃない、『二人分の力』なんだから。十割を超えたって不思議じゃないでしょ」
自信に満ちた表情でそう言う水萌。ついさきほどまで死を覚悟し絶望していたとは思えない。
「私が応援してるから、頑張ってね――水萌ちゃん!」
「うん。応援してくれるから頑張れる、ありがとね――水帆!」
コクと、目を合わせながら頷く双子。
水萌は、水帆の横を通り過ぎ、前へ出た。
水帆とは背中合わせの格好になる。
そのまま、静かに右手を上げ、ふい、と払うような動きをした。
ぱしゃん、と、ドーム状の水膜が消える。
『ミナモっ!? シールドを解除するなんて、何のつもりだ!?』
慌てた様子のオスティマに対し、水萌と、そして水帆は実に落ち着いている。
当然、ようやく好機が訪れたと、多足のバケモノの群れは一斉にその棘足を伸ばし来る。だが、それは分厚い水の壁によって即座に遮られる。
水萌は、水のシールドを解除してすぐ、異なる盾を展開させた。
自分を中心にドーム状に覆うシールドではなく、自分たちと敵の群れを完全に隔てる分厚い水の壁だ。ばしゃばしゃ、と激しい水音を立てながら縦横に広がる壁。
幅は、単眼多足の子蟲の群がりの範囲よりも広く、そして高さは、素の群れの後ろに控える親の巨大蟲――本体たる『海蟲』よりも高い。
そこまで広がった壁はすぐに、かくん、と直角に曲がる。
『海蟲』の背後まで至ると、また直角に曲がって合流する。――水の壁は大きな直方体となり、すべての敵生物を完全に閉じ込めた。
束となった棘足が壁を何度も叩いているが、ばしゃんばしゃんと飛沫を上げるだけでびくともしない。
水萌は、敵を閉じ込める水の壁を造り出した。
だが、『水精錬金』の神髄たるは水の操作ではない。
『おいミナモ、どうするつもりだ? 水の匣造って閉じ込めたところでどうにもならんじゃないか? ……攻撃手段になってねえし、それにあのデカブツは再生能力を持ってやがるし』
「うん、わかってるよ。でもまあ、そういうのって漫画やアニメでありがちだけど、『再生が追い付かないぐらい攻撃すればいい』って相場だよね」
『お、おお』
「まあ見てなよ。……って、ああ、水帆は見なくていいかんね」
ふふん、と笑ってそう言うと、水萌は大きな水の壁にじっと目線を向けた。
意識を集中させる。
壁の内側に、にゅ、と水が筒状に迫り出した。かなり口径の大きな筒が形成されると、たちまち水から金属へと変質されていく。――それは、大砲の砲身だ。重々しい榴弾砲である。
六面体の水壁に囲まれた蟲たちへ、その短めの砲身を向けているが、まだ砲弾は発射されない。
さらにその隣に、同じ形のモノが並んで形成された。
ぱしゃん、ぱしゃん、と水音を立てながら、次々と大砲が象られていき、形を成したそばから鉄へと錬金されていく。
それまで、一つの銃器を生成させるので精いっぱいだった水萌だが、今は同時にいくつもの重火器を造り出していながら消耗しているような様子でもなく余裕の表情。
さらに、すでに一つ目が形成されてから十秒ほど経過しているが、綻びを見せることもない。
力を九割しか引き出せなかったうちにはせいぜい数秒の維持が限界だった。今は水帆から力を受け取って、十割さえ超えている。始めの夜以上に力が漲っているのだ。
水萌は、二十門もの榴弾砲を造り出した。
水によって形成された、直方体の檻。その内側の壁に所狭しに並ぶ重々しい大砲。
まるで城門砲が内側についているかのようである。
狙うは、壁内に捕らわれるバケモノたち。巨大な蠕虫様の生物兵器『海蟲』と、そいつが産み出した三十体近くの子生物。
「――よし、」
水萌は一息置いて、叫ぶ。
「ってぇぇぇぇぇええええ!」
号令などせずとも、砲弾を打ち出すのは彼女自身の意思なのだが。
水の匣の中で、榴弾が斉射された――。
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