【現行世界ヒーロー達→異世界で集結】『×クロスワールドエンカウンター』

喜太郎

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シーズン1/第一章

ロームルスの秘剣⑨(『奥の手』)

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【マルス街道――魔人・セドーと、満身創痍まんしんそういの剛太郎】


 四本腕の魔人、セドー・ストゥグ・ネルゼルと対峙する剛太郎は、もう幾筋も剣を受けていて、出血も多い。
 まさに満身創痍だ。
 それでも、決して退こうとはせず、その眼の闘志は絶えないどころか一層に燃え上がっている。

 もはやいつ死ぬとも分からない状況なのに全く逃げようとしない。相対する魔人と、――そして彼に助けを求めた少女であるミアは、そんな剛太郎に対して疑念を抱いていた。

 なぜ、無関係の彼がここまでして戦うのか。


《私にはわかる。だって、あなたは他人のためなら喜んで無茶をするバカなんだもの。誰かのために戦って、それで死ぬなら本望とさえ思ってるんだもんね》

 かつて聞いた、彼が戦いに臨む上で抱く思い。それで思い返し、ミュウは感慨深そうに言う。


 幼い頃、兄に助けられて命を得た剛太郎。
 その経験から、彼自身も誰かのために命をなげうつことに躊躇いを持たぬようになった。

 トラックに轢かれそうになっている子供を助けようと、道路に飛び出した時もそうだった。自分が死ぬかもしれない、などという恐怖は、一切なかったのだ。実際、あのときミュウが衝突していなければ、彼は子供と一緒にトラックに轢かれていただろう。

 そんな彼だからこそ。

 今のこの、魔人との命がけとの戦闘の中でも、決して、怯んだり弱音を吐いたりしない。ましてや、ミアのことを放ってここから逃げるなど言語道断なのである。

 他人のためなら喜んで無茶をする、バカだから。
 だから、剛太郎には一切の迷いがない。


「……ちっ、なにを余裕の表情をしてるんだ、お前は」
 魔人が、苛立ったように言う。

「これだけ言っても諦めねえんなら、仕方ねえ。もう一思いに殺してやるよ」
 そう言って、ゆっくりと構えを取るセドー。


 対峙する二人を、もう今にも泣き出しそうな表情で見るミア。
 護衛を、と頼んだものの、もう彼は今にも殺されそうだ。しかし、非力な自分には戦いに割って入ることなどできない。ただ、見守ることしかできないのだ。


「ゴウタロウさん、だめ、逃げて……! 殺されちゃう」
 懸命に訴えるミア。

 剛太郎は、そんなん少女の方をちらと見て、わずかに微笑んで言う。

「……安心しろ、ミア。殺されやしない」
「え……?」

「何を言ってんだ。今までちょこまかと逃げ回っていやがったが……そんなにボロボロの体じゃあ、もう次は避けられねえぞッ、今度こそ殺してやる!」

 半ば怒鳴るような勢いでそう言ったセドーが、剛太郎に向けて駆け出そう――と、足に力を込める。


 その瞬間。

 剛太郎は、右腕を振りかぶり、そしてすぐさま打ち抜いた。

 セドーはまだ剛太郎に向かって駆け出そうとしていたところ。二人の間には、十メートル弱の距離がある。――そんな距離を隔てて振りぬかれた剛太郎の拳。


「ぐはッ」
 そんな声を上げて、後方に吹き飛んだのは、魔人・セドー。

「――え?」

 その光景を見ていた少女は、思わず目を見開いた。

 なにかが、ひゅん、と飛んでいったのを見た。あまりに早くてよくわからなかったが、とにかく『黒い何か』が剛太郎の拳から放たれて、それが離れた位置にいるセドーを吹き飛ばした。
 ……いや、正確には吹き飛ばした、というより、『殴り飛ばした』という感じだった。


((待ちくたびれたぞ))
 剛太郎が頭の中でそう言うと、む、と頬を膨らませたような雰囲気でミュウが言葉を返す。

《だって、加減が難しいんだもの》

「…………、なんだ、お前。何をした?」

 むくり、と体を起こしたセドーが、怪訝な顔で剛太郎を見る。


 ……剛太郎の体から、黒いオーラがもうもうと立ち上っている。
 それは、可視化されるまでに凝縮された、『ダークエネルギー』だ。


 ――今までずっと、剛太郎の戦法といえば、いわゆる『ヒットアンドアウェイ』だった。
 ミュウのエネルギー供給を受けて強化された肉体を生かし、目にもとまらぬ動きで攻撃を躱し、敵の懐に潜りこんで拳を打ち込む、そしてまた距離を取る。そういう戦い方だ。

 だが、セドーの四刀流には一切の隙がなく、その懐に潜りこむことができなかった。その剣さばきは避け斬ることも許されず、その身に何度も斬撃を受けた。……接近戦では、勝ち目がないのだ。


 剛太郎の脳裏によぎるのは、かつて――四体目の宇宙人が襲来してきたとき。

 なにやら、ふよふよと上空に漂って一向に降りてこない円盤機にしびれを切らし、『なんとか遠距離攻撃が出来ないのか』とミュウに聞いたのだ。

 ダークエネルギーを凝縮し、それを放出する。
 可視化されるまでにダークエネルギーを集中させるには、当然、まず剛太郎の体に大量のエネルギーを注ぎ込む必要がある。
 それは、常態的に彼の体に流れ込んでいる分や、通常の戦闘モードで供給される量からは比にならないほどの膨大なエネルギー量だ。

 しかし、それほど大量のダークエネルギーを一挙に流し込んだのでは、人間の体ではとてもではないが耐えられない。だから、少しずつエネルギーを注がなければならない。繊細な作業らしく、集中を要するため時間がかかる。


《ていうか、うまく加減してできたのをまず褒めてほしいわ。一気にいっぱい注いじゃったら、あなた、気絶してぶっ倒れちゃうんだから》

 痛い思い出だ。四体目の宇宙人を前にしたとき、ミュウが加減をせずに一息にエネルギーを流し込んだものだから、そのまま剛太郎は耐えられずに気を失った。
 ……それから、色々あって、その敵を倒すにはたいへんな苦労をしたものだった。かつて人知れず繰り広げられた、『アルトラセイバー』の戦いである。


((何とか間に合って、助かった))

 セドーが『裏の手』を出し、ヒットアンドアウェイの戦法では通用しない以上、多少のリスクがあっても、この戦法をとるしかなかった。リスクもあるし、チャージが完了するまでに時間もかかる。

((名付けて、アルトラセイバーの『フルチャージ・モード』かな))
《名づける必要あんの?》
((そりゃあな。こういうのは具体的な名前をつけてるかどうかで、気分がガラリと変わるもんなんだ))


 これは剛太郎の、『』である。
 ミュウのこの繊細なエネルギー供給の完了がもう少しでも遅かったら、セドーに斬り殺されていただろう。


「――ちっ、なにか飛び道具でも持ってたってのか?」

 言いつつ、セドーが大勢を立て直し、また剛太郎に向かって行こうとした。
 ――だが、すかさず剛太郎はまた右拳を振りぬいた。まとわれていた黒いオーラ・ダークエネルギーが、『拳』の形を成して放たれる。剛太郎が振りぬいた速度のまま、敵に向けて一直線に飛んでいく。


「別に、飛び道具を持ってた、ってわけじゃない。……道具を飛ばしてるんじゃないからな」

 ばぁん、と派手な音がする。エネルギーの塊がセドーに直撃し、爆発とも言える勢いで霧散する。


「ぐッは――」
 腹にそれを受けるセドー。

「…………、な、なんだ、その力は。全身にまとう黒い魔力……。お前、もしや『闇の精霊』使いか……?」
 驚愕の表情で、剛太郎を見据えるセドー。


「……うん? ……まあ、そうだな。そんなとこだ」
《誰が闇の精霊よ》

 む、とするミュウを後目に、剛太郎は相対する魔人に向けて言う。


「さすがだな、魔人は。このぐらいじゃ倒れないのか。……じゃあ小出しにせずに、一気にぶちかましてやるよ」

 言いつつ、右腕をぐぐぐぐ……と引いていく。
 身に纏う黒いオーラ――可視化されるまで凝縮されたダークエネルギーが、彼の右拳にさらに集中していく。

 ギシ、キシシ……と、氷にゆっくり亀裂が入るような音が鳴る。

 当然ながら、この場に氷などない。亀裂が入っているのは、空間そのもの――。セドーの目に映る剛太郎の姿が、少しゆがむ。


 剛太郎の体で扱える限界一杯のダークエネルギー。
 あくまでミュウの持つ総量のほんの一握りではあれども、しかしそれは空間を歪ませるほどの強大なエネルギーである。


「ちッ」
 セドーはすさまじいほどのエネルギーを察し、それが放たれる前になんとか敵の首を刎ねてしまおうと剣を握って駆け出す――が、

「おせえっっ」
 剛太郎には、その動きは緩慢に見えた。


 彼は、拳を撃ち抜く。

 向かって来るセドーと、数メートルの距離があった。だが、二人の間にある『その空間ごと』、殴った……。

 ずん――低く、重い音が響く。
 音が先で、刹那の間を置いて次に、目に見える黒いエネルギーが、空間のたわみごと押し寄せる。
 あまりに巨大で、分厚い。まさに壁だ。
 セドーの視界は黒いエネルギオーの奔流で埋め尽くされ――そして、暗幕が降りるように意識を失った。


 ――――――――っド、……ぉぉぉぉぉおおん……、


 地響きのような音が森中に広がる。

 辺り一帯、黒い霧に包まれていたが、風に流されてすぐに晴れていく。……そこに立つのは、二人。
 呆気にとられた表情で突っ立つミアと、右拳を突き出した状態でどっしりと構え立つ剛太郎。

 二人の魔人が倒れている。
 魔人兄弟、弟のキシュと、そして兄のセドー。


「…………、ふうっ」

 息を吐き、緊張の糸がほどけたようにだらりと腕を落とす剛太郎。

「よっし、……なんとか勝ったな……」


「ゴウタロウさん!」
 ミアが、急いで剛太郎のもとに駆け寄って来る。

「怪我はないか、ミア」
「私は大丈夫だけどっ。でも、ゴウタロウさんの方こそ怪我だらけで……!」
「はは、大丈夫、大丈夫。これくらい、別に……」

 と、言いながら、剛太郎はふらりと体をよろけさせ、……そのままパタリと、地面に倒れ込んだのだった。


「ゴウタロウさんっ!? だいじょうぶ!? ししし、しっかりッ!」

 ミアが、あわてて剛太郎の肩を揺らす。
 かくんかくん、と首が揺れるが、返事はない。……膨大なダークエネルギーの運用で、意識が限界を迎えてしまったのだった。


《……あーあ、カッコつかないわね、まったく》
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