【現行世界ヒーロー達→異世界で集結】『×クロスワールドエンカウンター』

喜太郎

文字の大きさ
上 下
18 / 80
シーズン1/第一章

ロームルスの秘剣⑦(アルトラセイバー vs. 魔人兄弟)

しおりを挟む

【街道に一人、立ち尽くすミア】


 ミアは、ぐっ、と剣を抱きしめた。
 布で丁寧にすき間なく包まれた、秘すべき魔剣だ。森の中へ視線を向ける少女の面持ちはとても切実なものだった。

 ザザザザザ、と、森の中で何かが素早く蠢く音が聞こえる。
 その姿は見えないが、枝を揺らし、木の葉が大量に舞い落ちているのが窺える。時折、太い木の幹になにか大きなものがぶつかるような鈍い音が聞こえたかと思うと、一転して、キン、と鋭利な響きが鳴るのだ。

 姿は見えない。だが、森の中に響き渡る音が、彼等の戦闘の激しさを語っている。
 ミアは、緊張の息を呑みつつ、森の中が静かになるのをただ待つ。心中、彼へエールを送る。

 ――ゴウタロウさん……!


        /


【森の中、戦う二人――】


 剛太郎は、慌てて身を引いた。
 なるべく距離を取るつもりだったが、背後に木があり、その太い幹に、どすん、と背がぶつかる。

 そんな彼の目――眼球のほんの数センチ先を、鋭い剣の切っ先が横切る。

 あと一瞬反応が遅れていれば、あるいは背後の木がもう少しだけ手前に生えていれば、容赦なく切り裂かれていた。危なかった――と、安堵する暇さえなく、魔人はすぐに、剛太郎の腹に向かってもう一方の剣で刺突を繰り出していた。


 大木を背に、逃げられない剛太郎。
 セドーが、ニヤリと笑う。

「くっ」

 ぐるん、と、丸い木の幹に沿わすように体を回す。
 間一髪、串刺しになるのを避けるが、わずかに横腹に剣先が接触した。スーツともども浅く皮膚を裂き、ピ、とわずかに血が吹く。

 そんな程度の傷では全く怯まない剛太郎は、そのまま回転の勢いを利用して蹴りを放った。

「ちィっ」

 刺突を避けられ、剣が木に突き刺さってしまっていたセドー。動けず、腹に蹴りを受ける。紫色の体が後方へ吹き飛び、近場に生えた別の木に衝突した。


「…………」
「…………」

 横腹を抑え、体勢を立て直すアルトラセイバー・剛太郎。ふーっ、ふーっ、と肩で息をしている。
 腹を蹴られ、苦しそうに顔を歪めるも、しかしすぐに愉快そうに笑う魔人傭兵・セドー。


 剛太郎は、弟のキシュをワンパンで伸してしまった後、兄のセドーと対峙した。

 狭い街道で衝突した二人は、すぐに流れのまま森の中へ舞台を移した。木々が生い茂る中ではあまり大きな立ち回りはできず、したがって一瞬一瞬の細かな動きが勝敗を決すような厳しい戦いとなっている。


 剛太郎は、たったいま横腹に受けたもの以外にもいくつも切り傷がある。
 それぞれ皮膚を浅く裂く程度で、派手に流血するようなものではないが、それは彼が敵の剣技を見極め、ギリギリで避けられているからだ。どれも、腕を斬り落としたり、腱を削いだり、腹を刺し貫いたり――といった致命傷を狙って放たれたものである。

 対して、セドーの方もすでに幾度となく剛太郎の攻撃を受けている。

 剣を振るうセドーに対してステゴロで挑む剛太郎の方が不利なように思えるが、そうではない。
 本来、剛太郎の拳や蹴りは一撃で敵を伸してしまうまさに必殺技だ。通常の人間の攻撃ではびくともしない魔人の体に対しても、ダークエネルギーをまとった剛太郎の攻撃は問答無用で威力を発揮する。実際、キシュがそうだった。

 それを受け続けながら倒れないセドーは、強靭な肉体を持つ魔人の中でいてさらに別格であることが窺える。


「いいねェ、想像以上だ。まさか俺を相手にここまでやるとはな……。お前、ホントに人間か? 実は魔人じゃないのか」
「どう見ても人間だろ! 普通に肌色だし!」

「どうだかな。ハーフじゃねえのか? ハーフってのァ肌の色は変えられるし、積極的に人間のフリして暮らすらしいからな。隠さなくてもいいぜ、どうせハーフなんだろ。素手で魔人と互角でやり合うなんて、そんな人間いるわけねえからな」
「…………」

《まあ、似たようなものじゃない? 少なくともあなたは普通の人間ではないもの》

 脳内で、ミュウがぽつりと言う。
 エネルギー生命体である彼女を頭の中に棲まわせ、そして彼女の持つダークエネルギーの供給を受けて戦う――そんな剛太郎は、確かにすでに普通の人間の枠組みには収まっているとは言えないかもしれない。


《もう随分とエネルギーをあなたの体に流してる。まだ余裕はあるけど、あまり長引かせるのは良くないわよ》
((……ああ。分かってる))

 声に出さずミュウに返事をすると、剛太郎はキッ、と表情を引き締めなおした。

 それを次なる攻撃の合図と受け取り、セドーも構える。

 剣を向ける敵に対し、臆することなく突撃していく剛太郎。セドーは両剣をバツの字に交差させて待ち受けるのだ。
 両者が、また激突した。


        /


【再び、街道のミア】


 剛太郎が魔人と衝突し、そのまま森の中へ入って行って、十分ほど経ったろうか。
 ミアは依然、心配そうな面持ちで激しい戦闘の音だけを聞いている。

 本来、ここで彼女が律儀に待つ意味はないかもしれない。なにせ、そもそもの目的はダフニスの町にある、騎士団の駐屯所へこの剣を持っていくこと。あの魔人を倒すことではない。必ずしも魔人と剛太郎の戦いの決着がつくまで見届ける必要はないのだ。

 でも、戦ってくれている彼をおいて先に行くことなどできるわけがない。

 それに、……仮に、仮にだが、剛太郎が魔人にやられてしまった場合、敵はすぐに自分を追いかけて来る。今のうちに先に町へ向かっていったところで、魔人の足ではやがて追いつかれることは必至だ。

 だから、ミアは待つ。剛太郎があの魔人に勝ってくれることを祈り、待つのだ。


「…………ゴウタロウさん」

 つい先ほど出会ったばかりで、突然、護衛として雇わせてくれとお願いしたのに、こうして懸命に戦ってくれている。魔人を相手に戦うなど、まさに命がけだ。一体なぜ彼はそこまでしてくれるのだろう。

 ちょうど、少女が、そんなことをふと思ったときだった。

 森の中から、人影が飛び出してきた。


「ぐはっっっ」

 ……、紫色の肌。魔人だ。
 木々の間から街道に突き抜けて、反対側に生えた木の幹に激しくぶつかった。何かに勢いよく突き飛ばされたようである。


 魔人に次いで、ゆっくりと街道へ歩み出て来る男――剛太郎だ。

「ゴウタロウさん!」


 少女は、ぱっ、と顔を明るくし、彼の名を呼んだ。だがすぐに、その表情を曇らせる。
 剛太郎が、全身傷だらけだったからだ。

 悲痛そうな顔で駆け寄ろうとするミアを、剛太郎は手で制止した。


「まだだ。離れてて」

 彼の顔は、少女の方を向いていない。木の幹に背から衝突した魔人の方に視線を向けている。敵から目を逸らすわけにはいかない。――吹き飛ばした敵は、それでも怯むことなく闘志を燃やし、剛太郎を見据えているのだ。


「くっく……、はははっ! 全く、人間の動きじゃねえ」

 多少よろめきながらも、なおも愉快そうに笑う魔人・セドー。


「なにが愉しいんだよ……。俺もかなりやられてるが、でも正直、お前のほうがダメージは大きい筈だ。このまま続けても勝負は見えてるぞ」

 剛太郎は少々呆れた様子で言う。


 そう、ほぼ互角で、だからこそたった十分程度の戦いですっかり消耗しきっている二人だが、スピードではわずかに剛太郎が上回っている。

 剛太郎はあちこちに切り傷を受けつつも、すべて浅く済ませている。
 対してセドーは剛太郎の攻撃をモロに受けている。どうやら彼は魔人の中でも格別にタフなようだが、しかしこのまま戦い続けても劣勢は覆らない。


「なにが愉しいかって……? ハハ、妙なことを言うな、お前は」
 そんな状況の中で、セドーに焦りは見られない。

「逆に聞くが、お前は愉しくねえってのか?」
「……どういうことだよ」

「オイオイ、とぼけんじゃねえよ。愉しいだろ。お前だって、戦うのが愉しいだろ。愉しくねえわけねえ。そんなのあり得ねえぜ?」
「…………」

 セドーの言葉に対し、剛太郎は黙している。――その胸中に何を思っているのか。


「……まあ、お前のことは別にいい。俺は、まだまだじっくりと愉しませてもらうぜ」

 セドーはそう言いつつ、ちら、と少し離れた地面に視線を向けた。
 ――その視線の先には、二本の剣があった。


「? あれって……」
 セドーがそこへ視線を向けたのを、剛太郎も気づいた。
 セドーが道中に拾ってここへ持ってきた兵士の剣だ。

「なんだよ、そっちの方の剣に持ち替えるのか? どっちかと言えば、あんたの黒い剣の方が良さそうだけど」
「ああ、そうさ。俺の剣の方が上物だ。別に、持ち替えるわけじゃないさ」
「は?」

 敵の言っていることの意味が分からず、眉をひそめる剛太郎。


「本当は、使いたくなかったんだがな……。人間相手にこれを使うのはフェアじゃない、戦士の理念に反する。……だが、お前は強いからな。強者相手に、本気を出さないってのも又、理念に反する」

 そう言うと、セドーは膝に手を突いてかがむようにし、全身をわなわなと振るわせ始めた。

 ぐうううぅぅ……と、体を力ませながら、なにやら苦しそうな声を上げる。

 次の瞬間、メキ、と、骨が軋むような音が聞こえた。――いや、それは比喩ではなく、本当に骨の音だった。セドーの肩甲骨が、メキメキと音を立てて伸び始めたのだ。


「はっ!?」
 異様な光景を前にして、思わず目を見開く剛太郎。

「うそっ……」
 剛太郎から少し離れた位置でそれを見ていたミアも、息を呑む。


 ぐぐぐぐ、と骨が隆起し、それに引っ張られて皮膚も伸びていく。
 徐々に、細く伸びていく。
 途中で丸い膨らみができた――すなわち、関節だ。そのまま伸び続け、伸びきったところで先端が平らになり、そこから更に細く五本に分岐した――すなわち、指だ。

 たった十秒ほどの間だったが、あまりに衝撃的で不気味な光景だったので、もっとゆっくりとした変身のように見えた。
 ――そう、変身だ。
 魔人は、両の肩から一本ずつ、新たな腕を生やしたのだ。


「な、な、なんじゃありゃっ……」
 あんぐり、と口を開けた剛太郎が、慌てた様子で振り返ってミアの方を見る。

「ミ、ミ、ミアっ! お前、魔人の体格は人間と同じって言ってなかったか? ……あれのどこが、人間と同じだよっ!?」

 確かに、剛太郎がミアに魔人について聞いたとき、少女はそう言っていた。

「え、ええっ!? だ、だ、だって、私、魔人を見るのは初めてなんだもん。でも確かに、魔人も体格は人間と同じだって、そう聞いていたから……」

 ミアも、剛太郎と同じように驚いている。


「いや、それは間違いだな。確かに、人間と変わらない体の場合もあるが……、部族によって違うんだ。俺たちストゥグの魔人は、こうして体を変形させられる。腕を、もうワンセット持っているのさ」

 そう言って、ニヤリ、と笑ったセドーは、地面に落ちる二本の剣を拾い上げる。


 元々の両腕に、自身の黒剣。
 新たに生やした両腕に、兵士の剣。

 ――四本の剣を構える魔人。切っ先の一つを剛太郎に向け、言う。


「あんたは強いからな。悪いが、『裏の手』を使わせてもらうぜ。……さあ、仕切り直しだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

転生しても山あり谷あり!

tukisirokou
ファンタジー
「転生前も山あり谷ありの人生だったのに転生しても山あり谷ありの人生なんて!!」 兎にも角にも今世は “おばあちゃんになったら縁側で日向ぼっこしながら猫とたわむる!” を最終目標に主人公が行く先々の困難を負けずに頑張る物語・・・?

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

千変万化の最強王〜底辺探索者だった俺は自宅にできたダンジョンで世界最強になって無双する〜

星影 迅
ファンタジー
およそ30年前、地球にはダンジョンが出現した。それは人々に希望や憧れを与え、そして同時に、絶望と恐怖も与えた──。 最弱探索者高校の底辺である宝晶千縁は今日もスライムのみを狩る生活をしていた。夏休みが迫る中、千縁はこのままじゃ“目的”を達成できる日は来ない、と命をかける覚悟をする。 千縁が心から強くなりたいと、そう願った時──自宅のリビングにダンジョンが出現していた! そこでスキルに目覚めた千縁は、自らの目標のため、我が道を歩き出す……! 7つの人格を宿し、7つの性格を操る主人公の1読で7回楽しめる現代ファンタジー、開幕! コメントでキャラを呼ぶと返事をくれるかも!(,,> <,,) カクヨムにて先行連載中!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...