【現行世界ヒーロー達→異世界で集結】『×クロスワールドエンカウンター』

喜太郎

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プロローグ

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 地響きと共に岩漿がんしょうが噴き出す。轟々ごうごうたる爆音を体の芯まで感じながら、男は口を開いた。

「まるで魔界だな、これは」

 上空から降り注ぐ陽光はなく、辺りを照らすのはむしろ地の底から湧き出るモノ。赤々とした溶岩と、その熱の煽りを受けて燃える枯れ木の火が、この暗い大地における光源だ。
 景色は、黒と赤ばかり。その中でいて、深い青色のスーツを着た男の姿は景色から浮き彫りになっていた。


「もしかして、お前の故郷もこんな感じなのか?」
 青い男――『アルトラセイバー』は、拳を打ち出しながらそう問うた。

「いや、こんなんじゃねえ。むしろ正反対だ。オレの国は氷の大陸にあんだからな」

 質問に答えたのは、青い服の男よりもさらに長身で、さらに大柄な男だった。その大男は、逆に赤い。服ではなく、肌が赤いのだ。


 背中合わせのようにして立つ二人。その周囲を、怪しい影が囲う。

「へえ。じゃあ、お前はそこで暮らすのはたいへんそうだな」
「あン? なんでだよ」
「なんでって……」

 アルトラセイバーは、言わなくとも分かるだろう、と言いたげな視線を赤い大男に向ける。そんな視線を受けているとは知らず、大男は――眼前に群がる敵へ意識を向けていた。
 赤い大男はぐっと拳を握り込んだ。すると、その拳の周りに炎が渦巻き始める。火元などどこにも見当たらないが、ゴウ、と、それは勢いよく燃え盛る。

「せェあああああ!」

 力強い声と共に、拳を突き出した。するとその炎が急激に膨れ上がり、ものすごい轟音とともに拳から打ち出された。敵に向けて直撃し、大きく爆発した。
 大男の前に群がっていた敵は、ことごとく砕け散り――骨片が舞う。

「骸骨の軍団って……。なんておあつらえ向きな」

 アルトラセイバーは少々呆れたように言いながら……内に眠るエネルギーを肉体へ巡らせた。
 そして常人ならざる速度で駆け、瞬時に敵――骸骨姿の兵士へ向けて距離を詰める。肉のないそいつが彼の接近に気付くより先に、すでにその拳が放たれていた。
 がしゃああん、と派手な音を立てて、骨が砕け散る。


「しかしキリがないな……」

 いくら倒しても、骸骨兵士は闇の中からぞろぞろとやって来る。
 陽の光のないこの場では遠くまで見通すこともできず、果たしてそいつらがどれほどの数いるのか、さらにどこから湧き出ているのかさえ定かでない。

「よし。俺に任せとけ、ゴウタロウ。俺様が地面をぶっ叩いてやる。派手にマグマを噴かせて、こいつらまとめて溶岩に沈めてやるよ」

「お、おいっ。待てよ、お前はマグマも平気だろうが、……俺は人間なんだぞ!」

「てめえでなんとか逃げなッ!」

 にやりと笑って叫ぶと、大男は両手を挙げる。頭の上で手を組み合わせると、まるでハンマーを打つように両手を地面に向けて振り下ろした。

 ずずん、と、地面が揺れる。

 彼の宣言通りだった。その一撃は地の底に響き渡り、灼熱たる溶岩の噴出を促した。二人の男の周囲に次々と湧き上がる炎。彼らを取り囲んでいた骸骨の軍団は炎に呑まれ溶けていくが……同時に彼らがマグマに取り囲まれていくことにもなる。四方八方を溶岩に包まれた状態ではもう逃げ場はない。

「やべえっ死ぬッ!」

 『ゴウタロウ』と、赤い男に名を呼ばれていた男は、思わずそう叫んだ。突き上がった溶岩が、まさに彼へと降りかかろうとしていた。


 ――と、そこへ。
 突如、空から人影が降り立った。

 飛来した彼に気付いたのと同時、ゴウタロウはすでにその手を掴まれていて、やにわに飛び立った。――直後、ゴウタロウが立っていた場所はどろりと溶岩に飲み込まれた。

 ゴウタロウは、その人物に腕を引かれて空へと引き上げられたのだ。



『まったくあの魔人は、なんて無茶な……』

 少しくぐもった声。若い男の声のようだが、どれほどの年齢かは判然としない。顔が隠されているのだ。
 頭まで完全に覆うそれはフルフェイスのヘルメットを被っているような状態であり、さらに体も同じように硬い素材のスーツで覆っている。しかし重厚さはなく、言うなれば体にフィットする軽量の鎧である。――それは、『アクロスーツ』。


「さ、サンキュー」
 危うく死ぬところだった。ゴウタロウはふう、と息を突きつつ彼に礼を言った。

『辺りを周回してみましたけど、この荒れ果てた土地がずっと延々続いていました』

 彼の着用する『アクロスーツ』は、ふくらはぎ部分から反重力作用のエネルギー波を放出して空を飛ぶことが出来る。ちなみに『アクロスーツ』の飛行高度に限度はない。なにせ、宇宙空間さえも飛べるのだから。


「延々って……」
『ここはそもそも【ヤツ】が造り出したなんです。理論上、果てのない無限の空間も作れるし、あの骸骨の軍団だって無限に湧き続ける』
「まじかよ。じゃあ、どうすればいいんだ」
『それはやはり、その元を断つしか……』

 アクロスーツの青年がそこまで言ったところで、突然、重い衝撃が彼を襲った。

 大きな岩だ。……見ると、地上に骸骨兵の群れがいる。やつらが、マグマで熱せられた巨大な岩を投石機によって打ち出したのだ。巨岩は見事、飛行する青年を直撃した。
 青年はスーツの保護によりダメージはないが、……その反動で飛行機能の制御を失い、地上へ向けて落下した。途中で掴んでいた腕が放され、ゴウタロウは宙へと投げ出されてしまう。



「う、お、わあああああああ」
 彼は、空など飛べない。
 ものすごい勢いで迫って来る岩肌の地面。もうあと数秒もかからず、顔面から地面に接触してしまう。この勢いでは、頭蓋がカチ割れるだろう。そうなれば即死だ。

 ――ふわり、と。
 真っ逆さまに墜落していた体が、突然、動きを止めた。

「お……?」
 空中で停止したゴウタロウの体は、そのままゆっくり、ゆっくりと地に降り立った。


 ほ、と一息ついた彼のもとに、小さな影が歩み寄る。

「あ、あぶなった、ね。ゴータロウ……」

 そう言ったのは、少年だ。まだ十歳にも達していないだろうか。幼く、且つどこか弱々しい顔立ちは、少女ともとれるような中性的な雰囲気を持っている。……あと少年の外見については特筆すべき点は他にも見受けられるが、ここでは割愛する。

 ゴウタロウの落下を防いだのはこの少年だ。ゴウタロウは、少年に礼を言う。
 だが、落下死を回避して安堵しているのも束の間……ガシャ、ガシャ、と不穏な足音が辺りを囲む。
 またも、骸骨兵だ。

「ひっ……」
 少年は、不気味な姿の敵に身を震わせながらも……きっと勇んだ目つきに変わり、そしてその小さな手を敵に向けて掲げる。

 すると、骸骨兵が数体まとめて、ふわり、と宙に浮く。
 少年が腕を高く上げれば、それに合わせて次第に高く浮き……今度は少年がぱっと手を落とすと、骸骨は途端に重力を受けて落下し、岩肌に叩きつけられて砕け散る。その要領を繰り返し、数体ごとまとめて敵を倒していく少年。


 ゴウタロウも骸骨兵をなぎ倒していく。
 空こそ飛べないが、彼の身体能力は並の人間の比ではない。その身の内に秘めたるエネルギーは、彼自身でもすべては扱い切れぬほど膨大な規模のものなのだ。その一部を体に巡らせるだけで、目にもとまらぬ速度で動き、骸骨兵の軽い体など拳一つでバラバラに破壊する。


 周囲を取り囲む骸骨兵を次々に打ち倒す男と少年。……だが、眼前ばかりに気を取られていた。
 上空から、さきほど『アクロスーツ』の青年を攻撃したものと同じく、灼熱の大岩が投げ込まれてきたのだ。しかも、一層大きい。

 ただでさえ暗がりの景色が、巨岩に頭上を覆われてより濃い闇になった。少年の『力』ならばそれを浮遊させることができるはずだが、いかんせん、気付くのが遅れたのだ。真上から迫る灼熱の岩。間に合わない。


 ――と。そこへ。
 突然、多量の水が押し寄せてきた。
 ざばああ、と激しい水音を立てるそれは、押しあがる水柱となって、熱せられた巨岩に突進した。瞬く間に水蒸気が広がるとともに、水流の勢いで岩が跳ね返された。


「う……けほ、けほっ」
 立ち込める煙に少年がむせ返る中、その傍に二つの人影が浮かび上がった。
 歩み寄った二人に気付き、少年が顔を綻ばせる。


 やがて水蒸気が静まっていき、足元に漂う程度となった。少年のそばに立っているのは、二人の少女。漂う水蒸気は、まるでステージショウの演出のために焚かれるスモークのように見える。

「あぶないとこだったね」
「ほんと、間一髪だよ」

 少女らは、少年よりもわずかに背が高いほど。
 二人の少女は、全く瓜二つの顔をしている。一見して分かるのは髪の長さの違いと、あと――彼女らは二人とも目の下にホクロがあるのだが、それぞれ位置が右目か左目かの違いがある。それらを除いては、全く見分けがつかないほど同じ顔。二人の少女は、双子である。


「お前たち……。ありがとう、助かった」

「この子は私たちが守るから」
 双子の片割れが、少年の肩に優しく手を置きつつ、言う。
「アルトアセイバーさんは先へ行って。向こうでみんなが戦ってるの」

 少女が指差した先に、ゴウタロウは目を向ける。やはり暗く、遠くまでは見通せないが……確かに、耳をすませば激しい戦闘音が聞こえる。
 それに、彼にはその胸の内に宿るとある『意思』によって、遠くの気配を察知することもできる。見えずとも、馴染みのある人物たちが三人、この先にいるのが分かった。

 少女に促されるまま、ゴウタロウは駆け出した。目指す方向にも骸の群れが立ちはだかっていたが、彼は特に臆することもなく突進していった。


「大見得切ったけど……やっぱこのガイコツたち、苦手だなあ……」
 双子の片割れが、不安そうにそう言った。

「だいじょーぶ。私がついてるから。……二人でやれば、こんなの一瞬で片付くよ」
「ぼっ、僕も、戦うよ!」

 不安を吐露する少女に対し、もう一人の少女と、そして二人よりさらに幼い少年が頼もしい眼差しで言うのだ。三人はコクと頷き示し合わせ、そして駆け出す。

「じゃあ……いくよ!」
「うんっ」

 『水』を操り、また特殊な術を扱う双子たち、そしてある意味少女らに縁深い少年も――子供たちは、その力を存分に振るい、不気味な骸骨兵軍団を圧倒していく。
 暗い空間に、骨片が砕け散る音と、そして銃声が響くのだ……。


        /


「やっばいね。さすがに、キリがねーわ」
 魔女は、あまり余裕のなさそうな笑みで、そう言った。

 『魔女』。やたらツバの広い黒いとんがり帽子を目深にかぶった彼女は、まさしく魔女である。帽子の上には、なにか黒い塊が載っている。


「数が多すぎる。……おそらく敵は無限に湧き続けるのではないか。まずいぞ、このままではこちらが消耗するばかりだ」
 軽い口調の魔女に対して言葉を返したのは、対照的に硬い口調の女性だった。服装から一見してそうだと判断できないが、彼女も同じく『魔女』だ。

 二人は、魔女。二人そろって、毛先が肩にかかるほどの髪の長さ――セミショートである。得意の魔法を以って骸骨軍団を撃破していく。


 二人の魔女の付近に、もう一人、男がいる。黒いローブを羽織っている男は、まるで闇に溶け込んでいるかのよう。時折、遠くで溶岩が吹き上がる。赤々と照り光る溶岩に煽られ、彼の姿が浮かび上がるが……そのシルエットは少しおかしい。

 彼の体からは、鋭い刃が突き出ている。

 ゆっくりと沿った刃は、鎌のようだ。しかし柄がない。彼の体から直接刃が『生えている』。……常時、両の前腕部から大型の鎌の刃が出ていて、それを振るって敵を切り刻んでいく。腕以外でも、体の各所から刃を突き出して敵を刺し貫く。

 敵軍の群れの中に身を投じ、舞を踊るように軽やかに動き回って次々と骸骨を解体していく。
 その様は非常に鮮やかであるあまり、いっそ猟奇的にさえ見える。鎌の刃で骸を斬り裂いて行く彼は、まるで『死神』だ。


 三人は、かなり集中的に敵に取り囲まれているようだった。魔女の魔法と死神の乱舞にもはや隙はないが、しかしあまりに敵の数が多い。このままでジリ貧である。


「いくらなんでも多すぎんだけど……。アタシらでも、さすがにこのままじゃ魔力が持たないよ」
 切実な顔で、魔女がそう言った。……すると、彼女の帽子のツバに載っていた黒い塊が、もぞ、と動いた。

『まったく、仕方ないな』

 そいつは、帽子の上からぴょんと飛び降りると、四本足で地面に着地した。……小さな犬である。手乗りサイズの、かなり小さな子犬だ。

『今日はもう動き回ったんだ。これ以上働くつもりはなかったが……』
 子犬は、その愛くるしい顔とは裏腹に低い男の声で、気だるげに言うのだ。

「ケルちゃん!」
『ご主人のためだ、仕方ねえ。……その代わり、今晩のごはんは奮発してもらうぞ』
「よしゃ、おやすみ前のブラッシングまで任せなさい!」

 魔女が頷くと、子犬は鋭い犬歯をのぞかせながらにやりと笑んだ。


 ――途端に、その体はむくむくと膨れ上がり始める。急増する重量を受け、地面にびし、と亀裂が入る。やがて黒い犬は、象ほどの大きさになった。

 グルルルル、と、唸り声が上がる。妙なことにそれは、何匹かの声が重なっているかのように聞こえた。

 力強く、後ろ足で地を蹴りつける。黒い獣は、大きく口を開けながら骸骨の群衆に突っ込んでいくのだ。踏みつけ、噛みつき、尻尾で叩き、目まぐるしい勢いで蹴散らしていく。


 巨大な犬の暴れっぷりを、ほお、と感心するように眺める魔女二人。……そんな彼女らのもとに、ふと、男が駆け寄ってきた。

「おー、ケルベロスか。あの犬が暴れてくれるなら心強い」
 ふう、と息をつきながらそう言ったのは、ゴウタロウだ。

「あ、ゴウさん。向こうは大丈夫?」
「おう。子供たちも無事だ」
「みなが無事なら良いが……。しかし、このままでは我々も危ない。敵はいくらでも湧き続けるぞ、ゴウタロウ」
「そーだよ、ゴウさん。ケルちゃんもそのうち疲れちゃうし、死神クンも頑張ってくれてるけど……さすがにあの人も体力に限界くるっしょ」

 ゴウタロウは、少し離れたところで乱舞を続けている死神へ目を向ける。果たして、彼に体力の限界というのはあるのだろうか……とゴウタロウは思うが、その疑問はひとまず置いておき、現状打破について思案する。


「やはり、どうにかして元から断たねばならないだろうな」
 魔女の片割れが、静かな口調でそう言った。

「元から?」

「この世界は、ヤツが造り出している。……【エルピス】。アイツを潰さない限り、終わらない」
 そう言いながら彼女は、非常に信頼を込めた眼差しでゴウタロウを見る。
「この果てしない荒野の……どこかにいるはずだ。なんとか探し出さなければならん」

「そう言っても。一体どこにいるんだ」
 果てしなく続く闇を見据えながら、ゴウタロウと魔女は溜め息を吐く。



 ――と、そのとき。空から飛来する一人の男。

『ヤツだ! 見つけました!』

 さきほど撃墜された『アクロスーツ』の青年だった。どうやら無事だったらしい。青年は、遠く先を指差しながら言う。


 ゴウタロウは、彼が差した先を見る。陽の光のないこの場ではやはり遠くの景色は見えないが……うっすらと影が見えた。
 暗闇の中でもさらに色濃く影が浮かんでいる。あれは……山だろうか。それほど高くはないが、岩山か。なるほどあの山の頂上に敵将がいるわけだ。


「なんだァ。ヤロウ、ずっと高みの見物してたってわけかよ。冗談じゃねェな」
 ぬ、と。後ろから顔を出したのは赤い男。


「ふー。ようやく向こうは片付いたよ」
「で、アレがラスボス?」
「お、おっきい……」
 双子の少女と、少年も後ろに続く。


 周辺の骸骨兵をあらかた狩り終えたのか、死神然とした男もみなものもとへやって来た。さらに、グルルルル……と唸り声を上げつつ、大きな犬も魔女のそばにすり寄る。



 九人と、一匹。遠くに見える山を見据え、彼らは整列する。
 ゴウタロウが魔界のようだと揶揄した、この闇の世界。最後の戦いのためにこの場へと臨んだメンバーだ。

 彼らが一様に見据える山……心なしか、次第に大きくなっていくように見えた。


「いや違うんだ。あれは山じゃない」
 『アクロスーツ』の青年が、近付いて来る大きな影を見上げながら言う。
「あれは、敵の本体だ。【エルピス】。……『はこ』のエネルギーを使って、この闇の世界を造り出した張本人です」

 ずずん、ずずん……と。地響きが広がる。それは足音だ。


「なんてお誂え向きな……」
 ついそう漏らしたのはゴウタロウ。
 対峙しているのは、ビルほどの大きさの怪物だ。人型ではあるが、その巨大さと身にまとうおぞましいオーラから、到底人間とは呼べない。怪物、である。


「冗談じゃねェな。まるで俺の親父だ」
 呆れたように言う、赤い男。


「見かけだけじゃない。あいつは、『匣』の力を利用してここを造っている。当然、ヤツ自身、相当な魔力を扱えるだろう」
 頭まですっぽりと覆うマスクのせいでその表情は窺えないが、空飛ぶスーツを着用する青年の口ぶりはかなり緊迫感を含んでいる。


「あれがここのボスかー……」
「いかにもラスボスってかんじ」
「…………」
 同じ背で立ち並ぶ双子姉妹は、きゅっと手を握り合わせる。彼女らのそばに立つ少年は、強大な敵を前にしてもはや言葉もない。


「うーん、これは……。がいてくれたらよかったんだけどね。こんなに大きい敵じゃあ、こっちもデカイので対抗しないとフェアじゃないし」
「そうだな。確かに『アレ』がいてくれれば心強いが、……彼は外で待機しているのだ。仕方ない」
 魔女二人が巨大な敵を見上げながら言う。とある人物と、その人物が扱える巨大なモノについて語っているのだが、残念ながらそれらは今この場にはいない。『彼』は、外での待機組だ。


「…………」
 腕に鎌の刃を生やす男は、ローブのフードを目深にかぶっているため表情は窺えない。だがおそらく彼も、巨大な敵の出現に辟易へきえきしているだろう。



 九人と、一匹。眼前にそびえ立つ巨大な敵を見据え、彼らは動きを止める。
 だが、怯んではいられない。

「どんだけでかくても、ここへきて退けない。……みんな、時間を稼いでくれないか」

 そう言って、ゴウタロウは腰に据えたモノに手を伸ばした。

 怯むわけにはいかない。

「――『あいつ』の死を無駄にするわけにはいかないからな……」
 ゴウタロウは、誰にも聞こえないほどの小さな声でつぶやく。


《そうね。まさしく『あの人』は世界を救った英雄だもの。その死を無駄にはできないわよね。……あなたも『本気』を出すわけね?》

 澄んだ、女性の声が聞こえた。
 ただしその声は、ゴウタロウにのみ聞こえる声だ。他の者には、彼女の声は聞こえない。

((ああ。やってやるぜ))
 ゴウタロウは、頭の中で、そう言った。


 彼らは敵へ立ち向かう。

 精霊の力と魔法の力、
 巨大化する獣あるいは武装化された人体、
 さらには大いなる海の力に果てなき宇宙の力まで――あらゆる力がそこには結集されている。

 それらは、一筋縄で結ばれた絆ではない。

 様々な運命が複雑に絡み合い、交差した末、彼らはこの場に集結している。
 異なる世界を股に掛けた、長い戦いの歴史が彼らの魂には刻まれているのだ――。
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