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過去を乗り越えて

冒険者達への弔い

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「お願いですか?、、、聞くだけなら聞きますけど、期待にそえるかは分かりませんよ。」

「まぁ、聞け。俺の役目もすぐ終わるんだが、今回緊急依頼で亡くなった冒険者41名を何らかの形で弔ってやりてぇんだ。その案をコウに聞きたいんだが、何か案はないか?」

 急に案なんて言われてぱっとはでないな。弔いか、、、精霊流しとかは死者の魂を弔うとかだった気がするな。でもこの世界で受け入れられるのか?

「いい案ですか、、、急に聞かれてもぱっとは思いつきませんね。俺が知ってるのは、精霊流しとかですかね?」

「精霊流し?それは何なんだ?」

「そうですね、精霊流しは小さな船に灯を燈して川に流して魂を弔う風習ですね。夜に流すので多くの精霊船が流れる様子は幻想的な風景ですよ。」

「ほー、なかなかいいな。だが、湿っぽいイベントだけだと冒険者の奴等が飽きるからな。」

「それならその前に薪を組んで、大きな焚き火をして、お酒を飲みながら生前の冒険者の話を肴にワイワイとやってから精霊流しとかならいいんじゃないですか?緊急依頼の慰労を兼ねてやったら冒険者の皆さんも喜ぶと思いますからね。」

「おー、それはいいな。そうしよう。それじゃあ明後日やるから明後日の昼位にまた来てくれ。」

 おいおい、明後日って急すぎないか?準備は間に合うのかよ。

「明後日って早すぎませんか?準備とか時間がかかりますよね?」

「コウさん、本来なら準備に時間をとりたいんですが、4日後から勇者様のお披露目で10日程お祭りになります。お祭り中はギルドも仕事があるので、そうなると明後日位に冒険者の方を弔ってやりたいんです。準備を急がないと間に合わないのは重々わかっているので、今から急いで取り掛かります。」

 ティアナさんが答えたということは、これから2日間はティアナさんも忙しくなるのか、、、一緒にいれないのは少し残念である。

 それから少し話をした後、俺はギルドを後にした。聞きたいことはもう少しあったのだが、準備のことを考えると、今からギルドは鬼のように忙しくなるのでまた今度にすることにした。
 それにしてもギルドマスターの交代か、豪快で悪い人じゃないんだがな。

 ギルドの用事も済んだので、次はザックの元へと向かうことにした。


 ザックの服屋へとやって来た、そして俺は遂に完成した3着の服を取り出す。

「ザックさん、おはようございます。やっとザックさんの試験の服が完成したので持ってきました。」

 本当に時間がかかったが、自分の中で満足できる物ができたと思う。遅すぎて呆れられたかなとザックの顔を見ると、ザックは幽霊を見るような目で俺を見ている。そして、恐る恐るザックが口を開いた。

「お、お前、、、本当に、コウか?」

「もー、ザックさん、俺の顔を忘れたんですか?いくら最近会えてなかったからってボケるには早いですよ。」

「まだボケてないわ!本当にコウのようだな、、、お化けとかじゃないよな。」

「何言ってるんですか、生きてるに決まってるじゃないですか。ほら~、足だって付いているでしょ。」

「何だ生きていたのか~良かったぞ。噂じゃ助からないような怪我をして、命はないと聞いたからな。やっと俺の気持ちが落ち着いた所だったから、本当に驚いたぞ。それにしても生きていて本当に良かった。」

 ザックはそう呟きながら俺の肩を抱きしめ、目を瞑る。そしてザックの目尻から一粒の涙が溢れる。その様子にザックの愛情が伝わり、心配をかけたことへの申し訳無さが俺の胸を締め付ける。

「心配をかけてしまって本当にごめんなさい。」

「謝るなよ、お前の頑張りは聞いている。それにこうして無事に会いに来てくれただけで俺は満足だ。」

 ザックの言葉に涙腺が緩んでしまう。
 少し時間も経ち、2人の気持ちが落ち着いた所でザックが照れを隠すようにぶっきらぼうに言葉を発した。

「それで、完成したのか?」

「はい、今自分が作れる中で最高の出来だとおもいます。」

「見せてみろ!」

 そう言われ、俺は収納から3着の服を取り出した。材料は全て同じ絹の素材だ。そこから染め上げとデザインを工夫してみた。
 まず1着目はミミのワンピースだ、色はピンクの

「ほ~、美しいな。材料は絹だが、染め付け済の物を使ったのか。ここまで見事に染め付けた絹は初めて見るな。こんな上物、どこで手に入れたんだ?」

「絹は買いましたが、色がなかったので自分で試行錯誤して染めました。」

 俺の言葉にザックはビックリした表情で俺の顔とワンピースを交互に見ている。1から探さないといけない色付けのための染料探しは大変だったが、後は既存のやり方でやっただけなのでそこまで時間はかからなかったし、もっといい染料とかもあると思うが、いい色がでたとは思っている。

別に俺が考えたやり方と言う訳ではないから、全然すごくないんだがな。

「これをお前が染めたのか!本当か!?」

「ザックさんに嘘を付く訳ないじゃないですか、染め方を教えましょうか?」

「何、教えてくれるのか!?」

「俺もザックさんにいろいろ教わったので、当然ですよ。」

 俺もザックにこれだけいろいろ教えて貰っているのだ、ザックが教えて欲しいと言えば喜んで教える。

「いや、駄目だ。師匠だからと弟子の努力をタダで教えてもらうわけにはいかない。」

「何を言ってるんですかザックさん、俺が教えてもいいって言ってるんですからいいじゃないですか。」

「馬鹿野郎、職人は自分の知識を安売りしないんだよ!お前はこれから職人の端くれだ、先人の築いてきた知識や秘伝は安売りしちゃいけねぇ、それだけは忘れるな。そして知識を人に与えるならしっかりと対価を貰え、そうじゃねぇと他の同業者にも迷惑をかけるからな。これは師匠としての言葉だ、これから職人となるなら覚えておけ!」

「は、はい。」

 俺はザックの圧力に気圧され、はいしか言えなかった。それにしても俺を職人と認めてくれるのか、少し嬉しいな。
 そして後2着もザックへと見せた。

「合格だコウ、まだ縫い目の粗い所もあるがこれだけの物を作れるなら職人としてやっていけるだろう。技量は基礎をもっと磨けば俺を超えれるだろう。デザインに関しては俺よりもセンスがある、自身をもって頑張れ。今日からお前は職人だ、俺がお前の師匠だと自慢できるように活躍してくれ。」

 ザックはそう言うとおもむろに奥から革の入れ物を俺へと差し出す。革の服には針に鋏の紋章が描かれている。「開けろ」と言われ、革の入れ物を開けてみる。すると中には布切り鋏等、裁縫に必要な道具が入っていた。道具は良い物だということがすぐにわかった。良い職人道具は高い、特にこの世界では一点物になる、こんな高価な物を貰っても大丈夫だろうか?

「ザックさん、本当に貰ってもいいんですか?」

「馬鹿野郎!1人前になった弟子への師匠からの最後の贈り物だ、貰っていいに決まってるだろ。お前も弟子をとったら、弟子が1人前になった時は同じように贈ってやれ。これでお前もロメルス一門の仲間入りだ。」

 こういう伝統はなんかいいな。俺もザックが誇れるような職人になろう。そして俺も将来、ザックのような師匠になろう、また1つ目標ができたな。

「ありがとうございます、ザックさんに教えて貰ったからここまでの物を作れるようになりました。本当にありがとうございました。」

「やめろよ、辛気臭くなるだろ。俺もお前が弟子でよかったよ。だが無理はするなよ、今回みたいなことがなんべんもあったら心臓がもたねぇからな。」

「今度から、気をつけます。」

「おう、そうしてくれ!それでコウは染め付けの技術を秘匿するつもりはないんだろ?」

 さっきは教えてもらわないと言っていたのに、急にどうしたんだろう?

「そうですけど、急にどうしたんですか?」

「それならよかった。今からお前に新しい技術がどれだけの価値があるかを教えてやる。ついて来い!」

 こうして俺は訳がわからないまま、行き先も伝えられずにザックについていくこととなった。

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