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少年篇

帝国脱走⑥

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 窓から少し眩しい光が差し込みおぼろげな視界と、よく回らない頭を抱えながら
 もう朝かと思い少し体を起こした
 昨日は、夜遅くまでスセルと共に外の世界と、俺が体験した話を沢山して夜遅くまで話していたのだ
 目をこすりながら、今は何時くらいだろうかと辺りを見回す
 だがその瞬間にある違和感に気付いた
 その違和感は、朝だと思った光は人影と共に移動しているからだ
 俺が寝ている小屋の周りは辺りを覆いつくすような闇
 先ほどまで、光があった窓には満天の星がある
 
 俺は、その瞬間に一気に眠たい体に鞭を打ち警戒しながら臨戦体制をとった
 少しづつ小屋の扉に近づいてくる人の気配
 こういう時は普通なら怖くなるものかと思っていたのだが、怖いことが日常だったからなのか、戦争を経験したからだろうか
 どちらにしろ、もう少しこういう事とは無縁の人生を歩みたかった
 そんな事を考えてたら、ドアがゆっくりと開かれる
 
 「戦いに来たわけではない、殺気を抑えてはくれないかだろうか?」
 「誰だ?」
 
 男の声だ…………フードを深くまで被っていて顔は分からない
 気配が限りなく薄いが、その感覚はどこかスセルと同じような気配を漂わせている
 俺が警戒を解かないことに、諦めたのか男は手を挙げて、何もしないという意思表示をして、ゆっくりとフードをとった
 髪と目が黒く、少し顎髭を生やしていて少しダンディな顔をしている
 頬のほうには切り傷のような古傷があり、只者ではないことは確かだ
 
 「ふぅ、すまない。私はジークライア王国、国王直轄諜報員のナインだ。今日は、君に少し聞きたいことがあってここに来た。決して君を外装と思ってきたわけではない、信じてくれ」
 「…………そうですね。すみません、少しびっくりしたので…………」
 
 最近は居心地がいいことも多かったからかな、何を生きようとしているんだろうか
 今の俺は、ただの一奴隷だ……
 さて、このナインという諜報員の人は何をしに来たのか
 しかも国王直轄って事は上が国王しかいないってことだ
 こんな奴を使わせてまで、俺と接触する意味はなんだ?
 スセルはこのことを知らないだろうな
 知っていたら俺に言うはずだ、だから秘密裏に動いていることは確定だ
何が知りたいんだ? この国の兵力とかか? 
奴隷の俺がそんなこと知っていると思っているのだろうか
 じゃぁ、なんだ? 俺に関することかぁ…………
 
 「あなたがここに来た理由は、俺がジークライア王国に行くかどうかの意思確認ってところですか?」
 「やはり、分かったか。ただの七歳の子供には思えないな」
 「いえ、そんなことはありません。ですが、本当にそれだけのために?」
 「まぁ、もう少しあるがそんな感じだ。じゃぁ単刀直入に聞く、どうしたい?」
 
 俺は、その言葉を聞いた瞬間に下を向いて少し考えた
 正直なところこの奴隷の首輪が外れて自由に行動ができるのであれば、何でもいいと思っている…………スセルと共に
 親や帝国に復讐も考えたこともあるが、もうそんなことはどうでもいい
 明るい太陽の元を後ろ指をさされずに大手を振って歩ければ最高だ
 だが不安もあって、ジークライア王国で今と変わらない生活かもっとひどい生活かもしれないと考えてしまう
 聖女も近衛騎士の人たちも俺を騙そうとしているんだって
 そうでも思わないと、また辛い気持ちになると悲しい気持ちになると
 だけど、だけど…………人を全く信用しない、そんな寂しい人生は生きるな
 前世でよくばぁちゃんに言われた言葉だ
 
 「ここから連れてってください。俺は自由になりたい」
 「そうか…………そう答えてくれてよかったよ。よっしゃ、じゃぁ、後は俺たちに任せとけ王子・・さんよ」
 「ん? ちょっと今なんて」
 「あれ? もしかして、まだ説明されてなかったのか? お前は、ジークライア王国の第一王子だぞ? そもそも王子はお前しかいない」
 
 この瞬間の俺の思考は一気に停止し、呆然としていた
 人は本気でよくわからないびっくりすることがあると、何も考えられないどころか
 もう何が起きているか、理解できないんだなぁとこの時初めて気づいた
 なん……だと……俺が王子…………
 いや、いや、そんなわけがこれは夢なはずだ
 頬を思いっきり引っ張るがただ痛いだけで、目が覚める気配は一切しない
 そして諜報員のナインも聞こえていなかったと思ったのか
 お前は王子だぞ? と不思議そうな顔をして俺に追い打ちをかけてくる
 俺の思考は再び停止した
 
 「そんなに、びっくりすることもないだろう」
 「びっくりしますよ! 阿保なんですか!? はぁ、それより、僕を連れ戻したい理由は王位継承者がいないからですか?」
 
 俺の言葉を聞いたナインは再び頭をかしげて、俺のことを見ている
 まるでこいつは、何を言っているんだと言わんばかりの顔で
 俺もよくわからないから、首をかしげると、頭をかきながら溜息交じりに口を開く
 
 「はぁ、違うぞ? お前何にも知らないんだな」
 「え? でも、それ以外に何か理由ってありますか?」
 「単純に国王っていうか、お前のおじいちゃんが孫を救うんだって言って、来てんだからな。お前が国王になるかどうかは、お前に決めさせると言っていたぞ」
 
 本日三度目の理解の追い付かない内容
 俺のおじいちゃんって国王だったのかよ!!
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