〔完結〕かつて召喚聖女が滅びから救った世界に聖女として召喚されました。

ちょこぼーらー

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10 かつて召喚聖女が滅びから救った世界

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 かつて召喚されて世界を滅びから救った聖女の意識が入っているという青い石はそれほど大きくない。
 まるで、聖女の瞳からぽろりと溢れた涙みたいだね。

「この娘の身体は今まで通り私が預かるけど、意識だけでも一緒に連れていってあげて? 眠ったままの意識だけど」

「いいね! 一緒に楽しく旅をしていたら起きたくなるかもね!」

 ネックレスの石に移された微睡んでいる前の聖女。怖かったね。帰れないって聞いて、悲しかったね。
 帰れないのは本当だけど、これから楽しいことをたくさん経験して少しでも慰められればいいと思う。

「その時は神殿にでも来てね」

 間違っても教会になんか行かないように。なんて言うからまだオコ継続中みたい。
 聞くと、かつて聖女召喚したのは神殿だけど、滅びの際に神殿組織も無くなって、その生き残りが現在の教会組織を立ち上げたんだそう。現在教会一強なのも、世界中にあった神殿がほとんど廃墟遺跡になっていることにも御立腹みたい。
 わたしたちは各地の神殿を自由に使っていいって言うから、神殿巡りをするのも楽しそうだ。

「うん。自分が救った世界だもんね。眠ったままの意識じゃなくてちゃんと堪能させてあげたい」

 そうして、遠い国の神殿遺跡まで五色の雲で移動して、そこから異世界旅行に出発したんだ。











 かつて召喚を行い集団自決をした者たちの魂は輪廻の輪に入らず、神様によって留められている。

 聖女の魂が目覚めてからその処遇を決めるためらしい。
 五色の雲で来たお迎えの一団。精霊さんたちの後ろの方に連れられて来ていたからちょっと言わずにはいられなかった。

「召喚した詫びの方法が集団自決って、それは詫びではなくて脅迫です。命を盾に要求を強制する行為です」

 お怒りはごもっとも? 本当にわかってる?
 あなた達の命なんて貰っても嬉しくないし、あなた達の命をいくら差し出されたところで嫌がらせにしかならないし怒りが収まったりなんてしないんだよ。
 そうじゃなくて。

 わたしたちの家族に詫びて。心から。

 わたしたちはこの世界で生きていく。
 描いていた未来も世界も家族も奪われたけれど、それでもこの世界で新しい未来を生きていく。
 これからきっと、いろんな場所を巡って美味しいものを食べて綺麗な景色を見て楽しいことをたくさんするよ。大変な事もあると思う。たぶん時には嫌な目にあったりするよね、生きていれば。元の世界にいてもそれは同じだけど。

 でもわたしたちが突然消えて、残された家族はどうなるの?
 ここではどうか知らないけど、あちらの世界で、わたしたちの住んでいた国で、女子高生が消えたって、大変な事だよ?
 10年20年とか全国的に探されて、その間もその後もお父さんやお母さんがどんな気持ちで……っ!

 って言っていたら涙が溢れてまたひとしきり泣いてしまった……。

 わたしを召喚したのはこの人達じゃないけど、もう親孝行も出来ないんだなって思ったら涙が止まらなかった。

 召喚した人達は土下座してずっと謝っているし、見守っていた精霊さんたちは……もらい泣き!? いっしょに泣き出しちゃってる精霊さんもいるし、神様までまた謝ってくるし……。

「ごめんね。帰してあげられなくて」

「もういいよ。いや、よくはないんだけど、神様はもう謝らなくていいよ」

 チートな能力いろいろ付けてくれたしね。

 チートな能力って言えば、ラノベ的チートであちらの世界の物が買える能力ってあったよねって思ったけどやっぱりというか駄目だった。

「お取り寄せ? なんだいそれは」

「こーゆーの」

「それが出来るなら日本に帰してあげられるんだけどねえ」

「ごもっとも」

 そりゃそうだね。
 付けてもらった能力も、元々持っている能力の超強化版みたいなのがほとんどだったし。
 でもその時にもまた神様に謝られてしまって却って申し訳なかったな。

「ごめんね。帰してあげられなくて」

 って。

 元々、自然発生的に生まれた神様は世界の滅びを受け入れていたらしい。
 世界の分身のような存在。人に身体とは別に意識…心とか魂があるように、世界という身体の意識のような存在。特に何も思うこともなく、在りのままにすべてを受け入れる、見ているだけの存在だったんだって。

 それが、滅びを前に聖女召喚されてから、聖女を通して初めて人の感情に触れ、意思が芽生え、意志を覚えた。

 無意味な召喚に怒ったりざまあしたいとか、あちらの人っぽいこと言うなあって思っていたけど、わたしたちの心を読んで言動に影響を受けているなら然もありなんだった。

 これからわたしは、わたしたちは世界を巡る旅に出る。

 神様はついて来れないけど馬と鷹の神獣になった精霊さんがいっしょだし、使いきれないくらいの金品とスキルがある。

「チートってやつだ。これで無双出来ちゃうね(笑)」

「いろいろ貰っちゃったね。ありがとう。これで異世界の世界旅行、楽しんできます」

「目立つかもしれないけどね」

「大丈夫! もし旅先で王族やら貴族やらに目をつけられても「この国の王家に拐われて家に帰れなくなったので旅をしています。だから王候貴族とは関わりたくないの……」とか泣きながら周り中に触れ回って回避する予定だから! それでも退かないときはブッ飛ばすし!」

「ふふっ。世界中にこの国の非道が知れ渡っちゃうね! ざまあ~」

 神様、影響受けすぎ。






 それから世界中を旅して巡った。

 あちこちで神殿の遺跡がないか聞いてまわって、オリジナルの地図を作りながら聖地巡礼の旅みたいになっている。
 お金も能力もある上にしがらみがないから、したい時に気兼ね無く人助けをしたり悪い奴をぶっ飛ばしたり。
 いちどお手伝いで露店の売り子のアルバイトもした。
 ある町では素敵な池のある広場で歌を歌った。道行く人達もノリノリで手拍子してくれて、思いっきり歌って楽しかった。池が噴水だったらもっと素敵なのにって言ったら神獣さんが、噴水は消失した技術なんだって教えてくれた。

 世界を旅していると、滅びの前の遺跡が神殿以外にもけっこうあるのがわかる。
 ある村なんか、水道橋だった遺跡を石材として家々が造られていた。
 でも村に井戸は小さいのひとつしか無いんだよ。
 人々は、昔の人達が現在よりも高度な技術を持っていて、現在よりもずっと快適な暮らしをしていた事を知っている。
 立ち寄った神殿遺跡で神様にそう言う旅の話をして、また旅に出る。

 そうして気ままにいろんなところを旅して2年くらい経つと、ネックレスの石の色が時々深い青から透明感のある水色に変化するようになってきた。

「もうすぐだね」

 着替えとか、旅の荷物をもうひとりぶん揃えて神殿に行こう。
 眠りから覚めて、自分の身体に戻ったら、きっといっしょに異世界旅をしてくれるよね。


 かつてあなたが滅びから救った世界を。
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