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9 〈和国〉への帰還(ふり)

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 五色の雲から駕籠が降りて来てわたしの前でその扉を開けた。

 漆黒の漆塗りを覆い隠すほどのきらびやかな蒔絵。所々に施された螺鈿が虹色に輝いている。
 建物の扉のようにしっかりとした造りの扉の中にも、絵巻物風の装飾が施されている。

 担いでいるのは大奥の御女中さん風の精霊さんたち。
 屋内みたいに裾を引いているから、駕籠を担いでいるっていうのに優雅だね。

 神々しい瑞雲から降りて来た一団が、豪奢な駕籠を囲んで片膝を突いて貴人……八重洲媛@わたしを迎えている。

 それを見ている召喚の関係者以外の人達、皆さん驚き畏れおののきながらも有り難がっているみたいだ。不味い。これでは教会への寄進が増えてしまう。

 ちょっと。
 なんで召喚関係者まで有り難がっちゃってるの?
 トリオなんて微妙に誇らしげなんだけど!

 もうまともに取り合わずにとっとと豪華に去ってから神罰どかーんの予定だったけど、これははっきり言っておいた方がいいやつ。

 舞台のように大きく声を張って周囲に声を響かせる。
 商業でハコが大きくなるとマイクが当たり前だけど、普通の舞台にマイクなんてない。舞台で普通の台詞を叫ばずに遠くまで届かせるにはやっぱり技術が必要で。
 わたしは出来るんだな。もちろん。

 数歩先にある駕籠の扉の前で立ち止まって。
 もうトリオの顔なんか見たくないけど、お育ちの良い御姫様設定だから後ろを向いたまま話すなんて事しないのよ? 仕方がないから振り返る。



「この度のこと。わたくしは大変迷惑で不愉快な思いをいたしました。
 もう二度と。
 聖女召喚などといって少女を拐ってくることが無いように願います」

「…………」

 1、2、3。返事がない。
 もう構わずに御女中さんの介添えでさっさと駕籠に乗り込む。

 ようやくはっとしたように「お待ちをッ」とかいっているけど扉は閉まった後だ。この声はヒムラート宰相かな。後は使者役の神様に任せるよ。賠償がどうの、報復がどうのと聞こえる。たくさん脅かしてやんなさい。

 間を置かず、くいっと駕籠が持ち上がる。
 縦格子の窓を少しずらすとすでに雲の上? ドライアイイスを焚いたスモークみたいだね。そもそも動いていないから揺れないけど、空が動いているのを見ると雲が動いているのがわかる。

 駕籠の中からだとまるで飛行機の窓の景色だけど、地上からはちゃんとイメージ通りになったかな?
 わたしが神様にリクエストしたのは、仏様の来迎とかかぐや姫の月への帰還みたいな演出。もし妨害されるような事があったら帝の兵たちのように無力化する予定だったけど、まったく必要無かったね。
 神秘的な五色の雲が効いたね!

 すっごく綺麗だったからね。
 いやなこと、忘れそうになるくらい。

「おまたせ~。脅して来たよ」

 駕籠の外から神様の声がしたので外に出た。
 精霊さんたちは片膝を突いて礼をしたままだ。

「ざまあ出来た?」

「う~ん。すごい狼狽えていたからザマミロとは思ったけど、そんなにすっきりするもんじゃないんだね」

 まあ、そうだよね。

「じゃあ、予定通り。はい」

 そう言って神様が手を振ると、バリバリドーンと轟音が鳴り響いた。

 予定通りなら王宮と、あの中央大教会に神罰と言う名の雷が落ちているはず。
 わかりやすく神罰って言えば雷だよねって提案させていただきました⭐





 これから神様の雲が向かうのは遠い国。
 もう瑞雲じゃなく、普通の雲モードでもいいと思うんだけど、何事かが有ったこと、つまり神様の介入が有ったことをアピールしたいから五色のままらしい。瑞雲が来た方角を辿れば神罰を受けた国があるって寸法だ。

 実は賠償もわかりやすくお金で接収済みらしい。いつの間に……。
 て言うか、これ全部わたしが貰っちゃっていいのかな?

「いいんだよ! 慰謝料ってやつ。これから世界中を旅して回るんだから、お金はいくら有ったっていいんだよ」

 そう、これからわたしはこの世界を旅して回るんだ。
 定住したくなったらそこに住んで、また旅がしたくなったら旅をする。

「でもこんなにたくさん持てないよ……」

「ふふふ~」

 亜空間収納を始め、いろいろチートな能力を貰いました。

「ステータスって言ってたよね。能力の見える化? 数値化は難しいけど、架空のボードに反映しているように見せかける事は出来そうだよ」

 それと。
 神様は先触れで来た方の御女中さん二人を側に呼んだ。

「旅のお伴に連れて行ってね。女の子のひとり旅なんて危険だよ」

 御女中さん風の精霊さんは、綺麗な茶色に近い月毛の馬と大きな鷹になった。
 なにそれ二人ともめっちゃかっこいい!!

 神様が言うにはこちらが本性なんだそう。

「よろしくね」

 ひとり旅もたくさんのお金と神様がくれたラノベ的スキルがあれば大丈夫だとは思うけど、やっぱり寂しくなると思うんだ。この世界にたった独りを自覚して、きっと孤独に感じてしまう。この国を、世界を恨んでしまうかもしれない。
 でも事情も分かってるこの二人が一緒にいてくれるなら平気だね。

「あとはこれも」

 神様が差し出したのは、深い青の石の付いたネックレス。青い石がマーブル入っていて地球みたい。


「この石の中には前の聖女ちゃんの意識が眠っているんだよ」
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