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3 天の目

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「わたくしは〈和国〉の皇孫です。この国の聖女などと……」

 ふっ、と困り顔で笑って見せる。

「人違いでありましょう」

 はよ帰せ、と。





 う~ん。やっぱり扇子欲しいな。レッスンだったらエア小物が使えるけど、これは本番。あ、愚か者には見えない扇子とかいいね! 他の設定の真実味が薄れるからここではやらないけど。

「ワコク……の、コウソン?」

 あら、通じない?
 言葉が普通に通じているからラノベ的言語理解みたいなものだと思ったんだけど、即興で作った設定だから通じないのかな?
 はっ! そうだよアレ言いたい! ステー……

「皇孫……。ワ国とはそちらの世界の帝国、で、御座いますか?」

 あ、通じたね。
 王様には通じなかったけど、ヒムラート宰相には理解できたみたい。
 ぷぷ、言葉がちょっと丁寧になってるよ。よしよし。

「はあ? 帝国だと!?」

 宰相が通訳してくれてようやく王様も教皇もはっとした顔をしている。突然の情報投下だったからね。鈍いとか思わないよ。

 わたしも突然だったんだよ。普通に歩いていただけだったんだよ。

 思い知れ。

「さよう。帝国とは言わないが、〈和国〉はすめらぎ御座おわす皇国……。皇尊すめらがみこと、第126代現皇はわたくしの祖父にあたります」

「………………」

 考えてる考えてる。
 わたしはでっち上げだけど、実際有り得るよね。本人の意思無しで勝手に召喚してるんだから、それが他国の御姫様や皇子だった、なんて事。

 さあ、盛るよ!

「異界のあなた方はご存じないでしょうが、わたくしの住むあちらの世界196か国中、君主制国家は30ほど。その中でも〈和国〉の皇室は現存する最古の王室なのですよ。末のわたくしは内親王・八重洲媛と称します」

 御姫様だからね。
 自国を誇りまくるよ!

 ていうか、ほぼ日本の話を名称変えて話しているだけだから、八重洲媛の設定を作り込めばいいだけだもんね。
 もっとも、皇国とか聞いたここの人達は絶対王政だと思っているに違いないけど。議院内閣制とか教えても理解出来なさそう、って思うのは偏見かな?

「我が《和国》の皇統の重要性がお分かりになられましたなら、この身の即時返還を。そしてわたくしと我が国への謝罪を求めます」

 はよ帰せ。

「謝罪だとっ!?」

「当然でしょう。他国の、〈和国〉の皇族を拐っておいて謝罪のひとつもしないのですかこの国は? さすが、国を挙げて他国から少女を拉致して無理矢理働かせようなどと考える国ですね」

 わー、めっちゃ怒ってる(笑)
 唾飛ばして無礼者とか叫んでるし。汚いな…。無礼者はそっちでしょ。

 暴れだしそうな王様を宰相と教皇で宥めている。
 謝罪するのは自分じゃないとでも思っているのかな、この二人。
 もちろんこの部屋……広間? にいる聖職者や兵士っぽい人達にも謝罪は要求するよ?

 でもヒムラート宰相と教皇サーガがどこか余裕そうな理由ってーーー。

「残念ながら帰る方法はありません。聖女召喚とはこちらから召喚するのみ……一方通行なのです。そのワ国からの迎えとやらも来ることはないでしょう」

 ヒムラート宰相のにやにや嗤いムカつく!!
 教皇サーガも余裕ぶって頷いているけど、ヘンリック王は分かりやすく「はっ、そうだった!」って顔をしてからやっぱりにやにや嗤い。
 〈和国〉からコンタクト出来なければただの小娘だと思っているんだよね?

 一方通行で帰れないと明言されたことはショックだけど、今は考えないで置いておく。予想してなかった訳じゃないから。
 帰る方法があっても言わないって事もあると思うし、この人達の言うことは信用出来ないから今は考えない。演技に集中!

「ふ~ん、あ、そう」って顔で、素での動揺は絶対に見せちゃだめ。

 にやにや嗤うおっさんたちから視線を逸らさず、ゆっくり天を指差す。



「我らには天の目がある」



 決まった⭐キラーン

 腕は真っ直ぐ。美しく伸ばす。天井の向こうに衛星があるつもりで。

 こういう一見簡単なポーズをかっこ良く見せるって意外と難しいんだよね~。





「て、天の、…目!?」

「GPSと言う、位置を把握するものです。その天の目でのわたくしの位置情報があって、それでも迎えは来ないと?」

 この世界では衛星飛んで無いと思うけど! 
 位置情報を掴むのと異世界間を往き来するのは全然別の話だけど!

 要はそれが可能な程の技術力があると思わせればいい。

 あまり吹かし過ぎると疑われるからほどほどにしないとだけど。その見極めが難しいんだよね…。
 相手が理解出来なさすぎると荒唐無稽だと思われて、一笑に付される可能性だってある。
 まるっと信じられるなんて事は有り得ないから、半信半疑くらいでいてもらうのがちょうどいい。


 わたしの演技で「まさか、本当に?」くらいに思わせてやろうじゃない!
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