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149 魔法
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「まさか俺の名前じゃないだろうな」
「………………………」
「…ちっ」
そのまさかではあるのだが、本人にそう言われて舌打ちまでされては何も言えない。謝っても余計に気分を害してしまいそうだ。
それよりも。
「日本語……」
近くで見ると、鹿というより牛に近いような気がする姿。その口から、人の話す言葉…それも日本語が出てくるというのは何とも妙な感じではある。声の感じは若い男の声だった。
「ニホンゴと言うのがあんたの国の言葉の事なら、俺たちにはあまり関係無いと言っておこう。この大陸の人間の言葉だろうが別の言葉だろうがな」
どんな言葉であろうと通じるし伝える事が出来るらしい。何とも便利な事である。
「…俺たち?」
「ああ、あのでかい気狂いやあんたと一緒にいる贔屓とかな。そこのおちびは…人と話せるようになるのにはまだかかるだろうが」
「ひよひよっ!」
抗議するような小鳥の声が何となく「おちびじゃないもんっ!」と言っているようで少し和んだが、気になることがある。華と一緒にいると言っているからには贔屓とは北斗の事を指しているのだろうが、北斗の名前だろうか。しかし白い巨鳥の方は明らかに名前ではない。
「贔屓?北斗の事?北斗も言葉が話せるの?」
「あ~…。ああ、うん。そうだ。龍神の子で森亀に似た姿をしてるあいつ。まだ話せないのか人と話す気が無いのかは知らん」
本人に訊けと言われて華は北斗もこの近くにいる可能性に初めて気が付いた。
何故だか北斗はあちらに残っていると思い込んでいたが、あの場にいた小鳥も気弱さんもこちらに来ているのだ。だったら北斗だって…。
「北斗もこっちにいるの!?わたし…」
「いや、いないから。落ち着け。……あいつはこっちに来ていない。こっちにいれば俺もそのおちびにも分かる」
「ひよっ」
気弱さんの言葉に小鳥が同意するのを見て、華はしゅん…とした。
北斗は華が戻るまで藤棚さんで待っていてくれるだろうか。元々ついこの間まで野良だった北斗だ。もう藤棚さんにはいないかもしれない。
(でも待って…)
華達は空間の裂け目からこんなところに飛ばされたけど、あちらに残った北斗とあの白い鳥がすぐに戦闘を止めたとは思えない。
「ねえ!どうしよう!?北斗、あの白い鳥に食べられちゃってないかな!?」
「ひよっ!?」
「はあ?いや、だから落ち着けって。あの気狂いは腹が減っても贔屓…その北斗?って奴なんか食べないし、北斗って奴もあんなのに食べられるほど弱くもないだろ。…まあ、あれから戦いが続いていれば双方無傷とはいかないだろうがな」
そう言った気弱さんの足元から緑の草が数本、葉を付けながらにょきにょきと華のところまで伸びて来た。
「わ……」
華が伸びる草を見守っていると、先端の葉っぱがぽうっと緑の光を発しながら華の側頭部の傷に触れた。
すると、光の葉が触れた傷がたちどころに癒えて消えた。
「傷を癒す薬草だ。薬効を高めてあるから採っておけ」
「え。薬草の薬効がどうのとかの話じゃないよねこれって…」
「いいから」
目の前でにょきにょきと草が伸びていくのもおかしいのだが、煎じても塗っても貼ってもいない。光が傷に触れただけで傷が治ってしまったのだ。
どう考えても気弱さんが不思議な力で華の傷を治してくれたとしか思えない。
「ありがとう」
かなり無理やりだが、不思議な力を薬効の高い草のせいにしようとする気弱さんに合わせて葉っぱを数枚採りながら華がお礼を言うと、軽く鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。
「ね、さっきあっちから来たでしょう?川とかなかった?えっと…」
喉の渇きを思い出して気弱さんに訊いてみる華だったが、そういえば何て呼び掛けたらいいのか分からないことに気が付いた。気弱さんでは失礼すぎるしそもそも自分も名乗っていない。
「あの、わたし、千田 華っていうの。…あなたは?何て呼べばいい?」
華が改めて名前を尋ねると、気弱さんは驚いた顔をして口を開けたり閉じたりもごもごさせたりさせた後で、ぽつりと言った。
「ない」
「え?」
「名前などない。…昔俺の姿を見た人間はアピス…だとか言っていたが」
たぶんそれは種族的な名前だろうと気弱さんは言った。
華はその名に聞き覚えがあったし、なんなら気弱さんに似た石像も見たことがある。
「えっと、神獣神殿っていうところにアピスって幻獣の石像があるの。あなたにそっくりな」
華は思いきって訊いてみた。
「あなたは幻獣さんなの?」
気弱さんはさっき北斗の事を「龍神の子」と言った。
昨日北斗は不思議な力で石の礫を操っていた。
白い鳥も突風のような衝撃波で攻撃してきたし、小鳥も放電現象を起こしていた。
そして気弱さんも木の根を鞭のように操っていたし、先程は華の傷を治してくれた。
ロイが言っていた。
『幻獣は話せば分かる相手だ』と。それと『幻獣は魔法を使うらしい』とも。
その時は“魔法”の言葉の意味が分からなかったが、何となくこの不思議な力の事ではないかと華は思ったのだ。
「………………………」
「…ちっ」
そのまさかではあるのだが、本人にそう言われて舌打ちまでされては何も言えない。謝っても余計に気分を害してしまいそうだ。
それよりも。
「日本語……」
近くで見ると、鹿というより牛に近いような気がする姿。その口から、人の話す言葉…それも日本語が出てくるというのは何とも妙な感じではある。声の感じは若い男の声だった。
「ニホンゴと言うのがあんたの国の言葉の事なら、俺たちにはあまり関係無いと言っておこう。この大陸の人間の言葉だろうが別の言葉だろうがな」
どんな言葉であろうと通じるし伝える事が出来るらしい。何とも便利な事である。
「…俺たち?」
「ああ、あのでかい気狂いやあんたと一緒にいる贔屓とかな。そこのおちびは…人と話せるようになるのにはまだかかるだろうが」
「ひよひよっ!」
抗議するような小鳥の声が何となく「おちびじゃないもんっ!」と言っているようで少し和んだが、気になることがある。華と一緒にいると言っているからには贔屓とは北斗の事を指しているのだろうが、北斗の名前だろうか。しかし白い巨鳥の方は明らかに名前ではない。
「贔屓?北斗の事?北斗も言葉が話せるの?」
「あ~…。ああ、うん。そうだ。龍神の子で森亀に似た姿をしてるあいつ。まだ話せないのか人と話す気が無いのかは知らん」
本人に訊けと言われて華は北斗もこの近くにいる可能性に初めて気が付いた。
何故だか北斗はあちらに残っていると思い込んでいたが、あの場にいた小鳥も気弱さんもこちらに来ているのだ。だったら北斗だって…。
「北斗もこっちにいるの!?わたし…」
「いや、いないから。落ち着け。……あいつはこっちに来ていない。こっちにいれば俺もそのおちびにも分かる」
「ひよっ」
気弱さんの言葉に小鳥が同意するのを見て、華はしゅん…とした。
北斗は華が戻るまで藤棚さんで待っていてくれるだろうか。元々ついこの間まで野良だった北斗だ。もう藤棚さんにはいないかもしれない。
(でも待って…)
華達は空間の裂け目からこんなところに飛ばされたけど、あちらに残った北斗とあの白い鳥がすぐに戦闘を止めたとは思えない。
「ねえ!どうしよう!?北斗、あの白い鳥に食べられちゃってないかな!?」
「ひよっ!?」
「はあ?いや、だから落ち着けって。あの気狂いは腹が減っても贔屓…その北斗?って奴なんか食べないし、北斗って奴もあんなのに食べられるほど弱くもないだろ。…まあ、あれから戦いが続いていれば双方無傷とはいかないだろうがな」
そう言った気弱さんの足元から緑の草が数本、葉を付けながらにょきにょきと華のところまで伸びて来た。
「わ……」
華が伸びる草を見守っていると、先端の葉っぱがぽうっと緑の光を発しながら華の側頭部の傷に触れた。
すると、光の葉が触れた傷がたちどころに癒えて消えた。
「傷を癒す薬草だ。薬効を高めてあるから採っておけ」
「え。薬草の薬効がどうのとかの話じゃないよねこれって…」
「いいから」
目の前でにょきにょきと草が伸びていくのもおかしいのだが、煎じても塗っても貼ってもいない。光が傷に触れただけで傷が治ってしまったのだ。
どう考えても気弱さんが不思議な力で華の傷を治してくれたとしか思えない。
「ありがとう」
かなり無理やりだが、不思議な力を薬効の高い草のせいにしようとする気弱さんに合わせて葉っぱを数枚採りながら華がお礼を言うと、軽く鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。
「ね、さっきあっちから来たでしょう?川とかなかった?えっと…」
喉の渇きを思い出して気弱さんに訊いてみる華だったが、そういえば何て呼び掛けたらいいのか分からないことに気が付いた。気弱さんでは失礼すぎるしそもそも自分も名乗っていない。
「あの、わたし、千田 華っていうの。…あなたは?何て呼べばいい?」
華が改めて名前を尋ねると、気弱さんは驚いた顔をして口を開けたり閉じたりもごもごさせたりさせた後で、ぽつりと言った。
「ない」
「え?」
「名前などない。…昔俺の姿を見た人間はアピス…だとか言っていたが」
たぶんそれは種族的な名前だろうと気弱さんは言った。
華はその名に聞き覚えがあったし、なんなら気弱さんに似た石像も見たことがある。
「えっと、神獣神殿っていうところにアピスって幻獣の石像があるの。あなたにそっくりな」
華は思いきって訊いてみた。
「あなたは幻獣さんなの?」
気弱さんはさっき北斗の事を「龍神の子」と言った。
昨日北斗は不思議な力で石の礫を操っていた。
白い鳥も突風のような衝撃波で攻撃してきたし、小鳥も放電現象を起こしていた。
そして気弱さんも木の根を鞭のように操っていたし、先程は華の傷を治してくれた。
ロイが言っていた。
『幻獣は話せば分かる相手だ』と。それと『幻獣は魔法を使うらしい』とも。
その時は“魔法”の言葉の意味が分からなかったが、何となくこの不思議な力の事ではないかと華は思ったのだ。
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