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『“学問を修め、有益な人間となり、進んで公共の利益の為に行動する”ーーか。これを掲げ実践すれば間違いなく国は発展するだろう』

 大公国のみならず、大陸中が発展しそうだと、ロットバルト侯爵やピエール前大公は言った。

 そして、まずは大公国内でこれらの技術を当たり前にする。

 その際、華の安全の為にも華の名を伏せ、ローレンス商会が矢面に立つ。
 身を立て名を揚げる事が出来なくなる事を許されよと。

 今回の招待はその説明の為でもあったようだ。

 華としては特に自分の功績とは思わないし、そうであったとしても立身出世…名を揚げる事がすべてではなく、世の中の為になるというその事実、実が大事なのだと拙い言葉で説明した。うまく伝わったのかどうかは華には分からなかったが。
 ただ、最近よく見るリアクションーーひどく感心した様子ではあった。

 その後も晩餐でもてなされ、華は遠慮なく箸を使わせてもらうことが出来た。

 別邸に宿泊することを勧められたが、一日中知らない人達と話して疲れただろうとアルベルトがそれを断り、予定通り代官邸に戻り宴と言う名のプチ勧業博覧会のようだったご招待イベントは無事に終了した。







 翌日、疲れているだろうからということで華は、アルベルトやファーナ、ルナリア、シアと共に遅めの朝食を摂って山に帰る予定だった。
 もう一、二泊くらい…とは言われたが、畑や北斗が気になると言って断ったのだ。

 ラインハルトは代官の仕事があるので通常通り出掛けたが、挨拶は昨夜済ませている。
 グレイルも通常通り出勤して行ったが、昨夜は華の帰宅を待ち構えていた。しかし疲れている華を煩わせないようにとファーナから指示を受けていた執事によって遠ざけられてしまって、結局華と顔を合わせていない。

 そのグレイルは昼前から東門にて華が出て来るのを待ち構えていた。

(数日前に見た光景だな…)

 この日までが東門当番な兵士タイラーは、無駄に居座る上司にやりにくさを感じつつ(早くどっか行ってくんねえかなあ)とばかり思っていた。

 数日前は街道を見張っていた挙動不審な騎士様は、今日は町から出ていく人を見張っている。
 魔獣退治以降、町の住人…特に東門付近の住人には慕われているようで、昼前にグレイルが東門に詰めているのに気付いた門前の宿屋の女が声を掛けていた。

『騎士様出掛けるのかい』

『ああ…。見送りだが』

 わざわざでかい馬を連れて門にいるグレイルに『頑張んな!』と激励したりしているのだ。

(面倒だからあんまり頑張られても迷惑なんだが~)

 なるべく楽をしたいタイラーにとっては迷惑な話だ。

 そして昼過ぎ、待ち人がやっと来たようだった。

『ハナ!もう帰るのか?なんで馬車じゃないんだ?』

 挨拶以外は話し掛ける事が禁止されているグレイルではあるが、出迎えの挨拶と同じく、見送りの挨拶だから許されるんだとばかりにシアの後ろに騎乗する華に駆け寄った。
 ここを逃すと次に華が町に来るまで会えないのだ。しかもいつ来るのかも分からない。グレイルは必死である。
 にも拘らず、グレイルに答えたのはこの隊のリーダーを任されているロイだった。
 行商時とは違い、護衛を兼ねた配達部隊にアレックスは参加していない。

『来るときに魔獣に出くわしたからな。あんなのはそうそう無いとは思うが念のために機動力優先にしたんだ』

 今回町に来るときに、魔獣が率いる狼の群れに出くわした事はグレイルも死体の回収を手伝ったので知っている。と言うか、それを狙って騎馬を連れて待ち構えていたのだ。

『だよな!俺も送る!』

『はあ!?ばっかなに言って『ハナ~!』』

『アイシャさん!』

 グレイルの申し出に瞬時に反応したシアだが、宿屋から華を呼び止める声に遮られた。
 最初に泊まった宿の娘・アイシャに声を掛けられて驚く華に、アイシャは両手に乗るくらいの包みを渡した。

『騎士様にね、今日町を出るって聞いたからさ。差し入れだよ。皆の分もあるから道中食べなね』

 差し入れだと渡された包みはずっしりしている。

『こんなにたくさん…』

『いいんだよ。昼に出した残り物で悪いんだけどね』

 そう言いつつ、アイシャは少し小声で華に言った。

『あのタケフミ、すっごく喜ばれてるんだよ。ほんとは内緒だって言われたんだけどね、ハナが宿に置いてくれって商会の旦那様に言ってくれたらしいじゃないか。お礼だよ』

『え~』

『あははっ。ハナ、良かったじゃない。足疲れた~って言ってたもんね?宿のお客さん、喜んでるんだってさ』

 貰っときな、とシアにも言われて有り難く包みを肩掛けかばんに仕舞う。宿の食事はとっても美味しかったので華としてはうれしい差し入れだ。

『お客だけじゃないよ。あたしだって愛用してるんだから。タケフミ!』

 華達がアイシャと話している間に『駄目だ』『送って行く』『駄目だ』『行く』と、延々と繰り返していたロイとグレイルだったが、結局エドワードの執り成しで、山牙王が出た辺りまでの同行となった。

 決してグレイルには華の住まいを知られないようにと気を配って配達をしているロイ達だが、実のところグレイルは華がどの辺りに住んでいるのか何となくだが把握していた。

 帝都から帰郷する際に見た山中の煙。
 恋しいひとの住まう場所はあの煙の下にあるのだろうと。
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