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138 その使い方

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(寄せ木のいい造りの床が~)

 ゴムの塊を叩き付けられた事による床の状態を心配しているのはもちろん華だけで、誰もが騎士の剣で切れなかったゴムの塊を、華が刀で切れた謎を知りたがっていた。

『まるで魔法…風の刃のようだな』

『これは…この剣よりもそのカタナの方が優れている、ということか?』

 それともーーー。

『いえ、確かに切れ味は保証しますが…その、騎士様の剣より切れ味がいいかどうかは…』

 ピエールの御下問を受けてもカイザールの長剣の切れ味などラジネに分かるはずもない。ただ、ラジネの作る他の剣より、この刀の切れ味の方が特別いいという訳ではないとラジネは言った。
 確かに特別な鉄で作った刀は切れ味が鋭く仕上がったが、他の剣だって手入れ次第では刀に劣る物ではないのだ。

 実際に華に刀を借りて、カイザールが再びゴムの塊を斬ってもやはり真っ二つにはならなかった。
 カイザールが華にコツを訊くが、斬る技、刃の先に力を乗せる技術を上手く伝えることが出来ない。

 カイザールのみならず、この世界では優れた武器を作ること使う事は腐心されて来たが、あまり武術、武器術といった使用面での技術は磨かれて来なかったのだ。
 良い武器。力、膂力。速さ。
 そういった単純な分かりやすい力で優劣が付くことが一般的なので、武器を効率的に使い、効率的にダメージを与えるような剣技を編み出したり特殊武器を使いこなしたりする者が現れると、すぐに国や貴族に取り立てられる。
 そしてその技は秘匿されることが多く、受け継がれることが少ない。
 せいぜい太刀合いや戦場でその技を目の当たりにした者達が見よう見真似から研鑽していく程度で、それがモノになることはあまり無いのだ。

『ふむ…』

 剣技を持っている者は、どちらかというと体が華奢だったり小さかったりする者が多いという。
 それは体格の不利を技術で補おうとした結果である事は察せられるが、華にはそれは当たらないとピエールには思われた。
 明らかに確立された“型”があったからだ。
 恐らく武家だと言った華の家系で継承されて来たものだろうと。

 実際には家系どころか数多くの流派で無手を含めて磨かれてきた歴史があるのだが、そんな事はこの場の誰もが思いもよらない。
 逆に華の方も、これまで稽古してきた技が、国に取り立てられたり機密扱いになるようなものだとは思ってもいないのだった。

 その後の和弓の実演でも、室内距離ではあるが蝋燭の火を撃ち抜いて見せたり、日本では神事や儀式に弓が用いられる事、弦を弾く行為が魔を祓うと云われているというような事を華が話すと、やはり皆が文化の違いに驚いていた。

 ただ、草原の国と呼ばれている地域の一部の部族で似たような弓を使う神事がある、とはアルベルトの話である。
 騎馬の得意な部族が祭りで流鏑馬のような事をするのだそうだ。

 武器の話題が終わり、ラジネがほっとした顔で壁に張り付くように下がった後も、木のチップ…パルプで作られた紙や鉛筆等の筆記用具、消しゴムや輪ゴム等のゴム製品、縮緬やパイル地等の布や毛糸、猫車や書見台のような物まで、華が関わった物として次々と紹介されていった。

 説明するのはいつの間にか広間に来ていたローレンス商会の商会長であるホーソンだったが、すべて丸千印の商品として紹介している。
 つまり、華が一切関わったつもりの無い毛糸やタオル等も丸千印…売り上げに応じて華にお金が入って来るのだ。
 本当に自分が手にしていいお金なのかいまだに疑問に思う華だったが、それならば社会に貢献するような使い方をしようと思い始めていた。

(万年筆とかタオルとか、今まで無かったのなら絶対物凄い売れる物だもんね)

 輪ゴムひとつとってもこんな便利な物はあっという間に広まるだろう。パンツに入れるゴム紐を教えてあげるだけでもきっと人々の生活が一新するだろう。

 そう思うから、華はこれらの商品の供給体制が整わない現状での販売を見合わせている商会の方針に賛成していた。
 といっても、お伺いはされるものの、華は一貫して商会の良いようにしてくださいと言うのみだったが。

 しかし。

 広間からサロンに移り、そこで華は改まったロットバルト侯爵から要請されたのだ。

 これらの商品を、内需の拡大による国力増強のためと、国外に対する外交カードに使う事を承認して欲しいと。
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