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136 ドレスも袴も同じようなもの←違う
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『こちらでよろしいですか』
『…ありがとうございます』
メイドが持って来た紐は真っ赤なリボンだった。
絹だと判るそれは、きっと襷として使ってしまったら一度でくしゃくしゃになってしまうだろうが、華は(お買い上げすればいいか)と思い、深く考えることなく受け取った。
『まあ』
リボンを使い、シュシュシュっとものの10秒足らずで襷掛けした華に、見物人から声が上がる。
袖が上がり、肘から先が露になった華に、それは何かと誰かが襷について訊く前に、華が薙刀を手に取り騎士と合図を交わして離れた。
『おまたせしました。よろしくおねがいします』
距離をとってすぐに剣を構えた騎士に対して、相対する華はすっと一礼してから後下段に構えた。
『ほう…』
見物人からだけでなく、控えている使用人達からもため息が溢れる。
先ほど聞いた話の、華の国の教育の違いを誰もが思い出していた。
御前試合であってもなかなか太刀合い前に礼をするものはいないのだ。
しても貴人に対しての礼か。
相対する騎士はばつが悪そうに剣の構えを解いた。
『あー、そう言えば名乗っていませんでした。大公国騎士団親衛部隊所属カイザールと申します。失礼しました』
がしがしと頭を掻き恥ずかしそうにしてから直立不動、気をつけ姿勢を取った騎士…カイザールは、今更ながらに名乗りを上げた。
『カイザールさん』
すでに名を知られている華も名乗るべきか迷ったが、再びカイザールが構えるのを待って名乗った。
『千田 華。いきます』
合図などは無い。華はすすっと右から回り込んだ。
カイザールの武器は長剣。薙刀の使い方の実演なので、当てられるつもりで正眼に構えている。
受ける気満々で構えてはいたが、華の右後下段の構えではカイザールからは薙刀がよく見えない。初見の武器で間合いもよく分からないところから薙刀の刃が飛んで来てカンッと長剣に当たった。
(速い。が、力がないのか当てただけなのか…)
正に飛来してきた感の、薙刀を返して長剣を払う一撃目をカイザールは判断し受け流し、更に返した薙刀の刃が今度は左側から面に来るのを長剣で受け止める。
薙刀を上段に振りかぶって打ち込んだと思ったら誘うように刃をちらつかされ。
薙刀を肩に担いだと思ったら突きの連撃。対応して受けた長剣を隙あらば斬り落とそうとしてくる。
(基本、直立小走りで…手元でくるくる右から左からと…。これはただ突いたり当てたりするだけの従来の槍とは違うな…。何て言うか)
『優美ねえ…』
『まるで踊っているようだな』
受けているカイザールと同じことを見物しているロットバルト達も思っていた。
ドレスのスカートで足さばきは見えないのだが、基本受身にしていてあまり動かないカイザールと共に、通常の太刀合いで見るドタドタバタバタがとにかく無いのだ。
華本人は踵の高い靴でスムーズにすり足が出来ずにヒヤヒヤしていた。
細くはないが、そこそこ高さがある踵なので躓きそうになるし、何よりスカートの中でコツコツと足音がするのがみっともなく恥ずかしかったのだが、もちろん周囲からは分からない。
周囲からは華がろくに上下動も音も無くすすすっと動いているように見えるのだった。
『うおっ』
面に来た薙刀を長剣で受け止めたカイザールは突然目の前から華が消えて驚いた。
実際には華が薙刀を頭上に振りかぶったまま片膝を着いたのだが、小さな華がしゃがむと視界から一瞬消えたように思ったのだ。
驚いた瞬間に長剣が巻き込まれ、気が付いた時には手を離れ落とされていた。
『参りました』
カラーンと長剣が床に落ちるのと同時にカイザールは礼をした。
『ありがとうございます』
もちろん華も周囲の見物人もカイザールが始終受け身に徹していたことは分かっている。
しかし余計な事は言わずに華も礼をする。
『いや、見事見事!』
『凄い動きだったな』
『従来の槍とは違った動きだったな。演武のようだった』
拍手と共に口々に感想が来る。
女性陣は女性でも扱えそうな薙刀だけではなく、やはり襷が気になるようで、華は一度襷を解いて見せたりしていた。
『足元じゃなくて気になるのは袖なのね?』
『着物…日本のふく、ドレスよりこう、そで、おおきいです。スカートもひらかない。それかおなじ』
(ドレスのロングスカートも袴も着物の足元に比べたら同じようなものだよね)
この異界に来る前からほとんど山袴で過ごしている華は、この日綺麗なひらひらドレスを着て一瞬袴を思い出して、自分の残念な思考にちょっぴりがっかりとしてしまった。
更に、先ほどカイザールの長剣を落とし込んだ時に、真っ先に広間の寄せ木造りの床を心配した自分にもがっかりだった。
(もうちょっと女の子らしさを思い出した方がいい?)
山暮しのせいか、戦時体制とはまた違った思考になっているようだった。
『…ありがとうございます』
メイドが持って来た紐は真っ赤なリボンだった。
絹だと判るそれは、きっと襷として使ってしまったら一度でくしゃくしゃになってしまうだろうが、華は(お買い上げすればいいか)と思い、深く考えることなく受け取った。
『まあ』
リボンを使い、シュシュシュっとものの10秒足らずで襷掛けした華に、見物人から声が上がる。
袖が上がり、肘から先が露になった華に、それは何かと誰かが襷について訊く前に、華が薙刀を手に取り騎士と合図を交わして離れた。
『おまたせしました。よろしくおねがいします』
距離をとってすぐに剣を構えた騎士に対して、相対する華はすっと一礼してから後下段に構えた。
『ほう…』
見物人からだけでなく、控えている使用人達からもため息が溢れる。
先ほど聞いた話の、華の国の教育の違いを誰もが思い出していた。
御前試合であってもなかなか太刀合い前に礼をするものはいないのだ。
しても貴人に対しての礼か。
相対する騎士はばつが悪そうに剣の構えを解いた。
『あー、そう言えば名乗っていませんでした。大公国騎士団親衛部隊所属カイザールと申します。失礼しました』
がしがしと頭を掻き恥ずかしそうにしてから直立不動、気をつけ姿勢を取った騎士…カイザールは、今更ながらに名乗りを上げた。
『カイザールさん』
すでに名を知られている華も名乗るべきか迷ったが、再びカイザールが構えるのを待って名乗った。
『千田 華。いきます』
合図などは無い。華はすすっと右から回り込んだ。
カイザールの武器は長剣。薙刀の使い方の実演なので、当てられるつもりで正眼に構えている。
受ける気満々で構えてはいたが、華の右後下段の構えではカイザールからは薙刀がよく見えない。初見の武器で間合いもよく分からないところから薙刀の刃が飛んで来てカンッと長剣に当たった。
(速い。が、力がないのか当てただけなのか…)
正に飛来してきた感の、薙刀を返して長剣を払う一撃目をカイザールは判断し受け流し、更に返した薙刀の刃が今度は左側から面に来るのを長剣で受け止める。
薙刀を上段に振りかぶって打ち込んだと思ったら誘うように刃をちらつかされ。
薙刀を肩に担いだと思ったら突きの連撃。対応して受けた長剣を隙あらば斬り落とそうとしてくる。
(基本、直立小走りで…手元でくるくる右から左からと…。これはただ突いたり当てたりするだけの従来の槍とは違うな…。何て言うか)
『優美ねえ…』
『まるで踊っているようだな』
受けているカイザールと同じことを見物しているロットバルト達も思っていた。
ドレスのスカートで足さばきは見えないのだが、基本受身にしていてあまり動かないカイザールと共に、通常の太刀合いで見るドタドタバタバタがとにかく無いのだ。
華本人は踵の高い靴でスムーズにすり足が出来ずにヒヤヒヤしていた。
細くはないが、そこそこ高さがある踵なので躓きそうになるし、何よりスカートの中でコツコツと足音がするのがみっともなく恥ずかしかったのだが、もちろん周囲からは分からない。
周囲からは華がろくに上下動も音も無くすすすっと動いているように見えるのだった。
『うおっ』
面に来た薙刀を長剣で受け止めたカイザールは突然目の前から華が消えて驚いた。
実際には華が薙刀を頭上に振りかぶったまま片膝を着いたのだが、小さな華がしゃがむと視界から一瞬消えたように思ったのだ。
驚いた瞬間に長剣が巻き込まれ、気が付いた時には手を離れ落とされていた。
『参りました』
カラーンと長剣が床に落ちるのと同時にカイザールは礼をした。
『ありがとうございます』
もちろん華も周囲の見物人もカイザールが始終受け身に徹していたことは分かっている。
しかし余計な事は言わずに華も礼をする。
『いや、見事見事!』
『凄い動きだったな』
『従来の槍とは違った動きだったな。演武のようだった』
拍手と共に口々に感想が来る。
女性陣は女性でも扱えそうな薙刀だけではなく、やはり襷が気になるようで、華は一度襷を解いて見せたりしていた。
『足元じゃなくて気になるのは袖なのね?』
『着物…日本のふく、ドレスよりこう、そで、おおきいです。スカートもひらかない。それかおなじ』
(ドレスのロングスカートも袴も着物の足元に比べたら同じようなものだよね)
この異界に来る前からほとんど山袴で過ごしている華は、この日綺麗なひらひらドレスを着て一瞬袴を思い出して、自分の残念な思考にちょっぴりがっかりとしてしまった。
更に、先ほどカイザールの長剣を落とし込んだ時に、真っ先に広間の寄せ木造りの床を心配した自分にもがっかりだった。
(もうちょっと女の子らしさを思い出した方がいい?)
山暮しのせいか、戦時体制とはまた違った思考になっているようだった。
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