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130 学生という身分

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 まずは軽く昼食を、と言うことで食事が始まった。

『ガクセイ?』

『はい。前は寺子屋という私塾……小さな、おしえるところがたくさんありました。今はがっこう。くにのきまりで、たくさんにんずう。くにの子ども、みんながっこうでべんきょうします』

 前大公であるピエールが話すと、華に緊張する様子が見られるので主にロットバルトが華に日本の事を華自身に絡めて聞いている。

 ファーナはその様子をにこやかに見守っているが、内心は華が心配で仕方なかった。
 華には特別なカトラリーも用意してあるし、元より食事のマナーに関しては心配していない。話の内容についてだった。

 昨日、この招待に際して主催の侯爵やこの国の事について話しておいた方が良いと思い、勉強会を開いた流れで華の国の事について知ることが出来た。

 大陸の言葉でない事から予想はしていたが、聞いたことの無い日本という国の名前が出てきた。
 何故この国に来たのかを問うと、気が付いたらここにいたと言う。
 極東の島国らしい大陸の外からこんな大陸の中心に近いところまで、どう頑張っても一月以上はかかる。気が付いたらなんて事はあり得ない。

 記憶障害だろうかとの予想を裏付けるように、日本という国は数年前から他国と戦争をしているのだという。
 その他国もファーナが聞いたことの無い国だったが、どうも1国対1国の戦争では無いらしい。複数の国々が戦争中だなんて、大陸の外はいったいどうなっているのかと想像するだけでも恐ろしく感じる。しかも華自身が敵の攻撃を受けたとの事。
 前線の兵士でもない華の様な女の子が敵の攻撃を受けるなんて、余程旗色が悪いとしか思えない。

 華は士族という軍人の家系との事だったが、だからだろうか。
 知っている言葉でファーナ達に故郷の説明を一生懸命してくれていたが、泣きそうな顔をする瞬間はあったものの、決して涙は溢さなかった。端で聞いていたルナリアは泣いていたが。

 今日のこの集まりの趣旨は、侯爵領のみならず大公国の発展に多大な影響を及ぼすであろう知識の提供者を招き、侯爵自身が饗応して面識を得ると共に、今後の事について話し合うというもの。
 主役が異国の少女なので完全に身内のみの筈だったが、前大公であるピエールまで参加するとはファーナは聞いていなかった。
 大公国の今後に関わる案件だから、というのは解る。それだけ華が重要視されているという事なのは。

 当然の事ながら話題の中心は専ら主役の華について。

 ファーナが心配しているのは、デリカシーの無いおじさんにいろいろ詮索されて、華が傷付くのではないかという事だった。
 その詮索おじさんが二人に増えたのだ。
 ファーナ達だって独りぼっちの華に気を使ってこれまで華の事情や家族の事を聞くのを控えていたというのに。

 今日の招待は侯爵が華と話をすることが前提だった。
 華の言葉の習得状況から、そろそろ知らないおじさんとも話が出来るだろうと思われたのは勿論だが、現在極秘扱いにしている数々の商品が物になってきて、今後についての話し合いが必要になってきたからでもある。
 華は商品開発後については完全に他人事を決め込んでいるが、そういうわけにもいかないのだ。

 商品開発についての話ならまだいいが、華自身の事については気を使って話して欲しいと切実に思っていたところ、昨日華自身から華の事情について聞くことが出来た。
 侯爵が到着したとの報告を受けて途中抜けしたアルベルトによってそれらは報告されている筈なので話題は選んでくれる筈だが、侯爵が不用意に余計な事を言って華を泣かせてしまわないかと内心はらはらしているファーナだった。

 ファーナの心配を余所に、食事をしながらロットバルトが華にまず聞いたのが、華の学生という身分についてだった。

 大公国では貴族の子供の数も少ないので、12才~15才くらいの貴族の子供を宮殿の一角に集めて教育しているが、それ以外は町にある簡単な読み書き計算を子供に教える学校くらいで、それらに通っていたところで学生とは名乗らない。
 大公国で学生と言えば、帝都のアカデメイアーという総合学術機関に留学している者くらいだろう。
 17才だという少女が学生を名乗っているとなれば、その国の教育について関心を持つのは当然だった。特にこれだけいろいろ有益な事を知っているとなれば尚の事。

 それについて華は、学制という教育制度について語った。
 しかしその学制以前ですら国中の至るところに寺子屋という大小の私塾があったと言う。
 それらが学制によって学校にまとめられ、時代によって新しくなり、現在は学校令というものになっているのだと。

 内容を聞くと、大公国のみならず帝国とも大きく違うと言うことがよく分かる。
 子供の教育に関する考え方、姿勢がそもそも違うのだ。

 この場のほとんどの人間は国政に関わっている。
 皆がその違いに唸った。
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