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128 お支度とPB
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華はその白亜の外観を見て、何年か前に取り壊された鹿鳴館を思い出したが、鹿鳴館よりも大きく立派だと思った。
華が小学校の頃まで日比谷を通ると黒門の奥に見えていた鹿鳴館は、明治政府の迎賓館として建てられたと習ったので当時としてはは大層立派な建物だったのだろうが、迎賓館として機能していたのは数年だけだった。その後は地震等で被災するものの、東京都心の土地不足を理由に数年前に解体されるまでは確かに残っていた建物は、老朽化もあったのだろう、華にはちょっと古臭い建物のように見えていた。
それ故に此方の建物がより立派で美しく見えているのかもしれない。
馬車がポーチに付けられて、順に降車する。
今回華が同乗した馬車には6人で乗って来ていた。
アルベルト・ファーナ夫妻とラインハルト・ルナリア夫妻、それとシア。
シアはファーナが社交の場等に出る時には、侍女役として付き添う事が多いらしい。行商先の異国等で饗応や接待があると付き添いをしたという話は以前から聞いていた。
今回シアは華の付き添い役としての参加で、もちろんドレスアップしている。
普段は動きやすい格好のシアが、ドレスを着て短いオレンジの髪を一部纏めてお飾りを付けた姿を見た華は、感激して拍手喝采だった。
『シアさんかっこいい!!』
もちろん華もファーナやルナリアにドレスで飾り立てられている。
少し伸びてきた髪も緩くウェーブされて毛先も軽く巻かれ、お化粧までされてしまった。
「ビスクドールみたい~!」
代官邸の客間に運び込まれた大きな姿見に映った華は、陶器の西洋人形のような仕上がりになっていた。
『ビスクドール?』
後ろから覗き込んでいたシアが尋ねるので、陶器で出来たお人形の説明をすると、華を飾り立てて満足した顔をしていたルナリアの目が再び燃え上がっていた。
陶器で出来た少女人形の説明には大して反応しなかったのに、人形に本物のドレスを着せるという説明で前のめりになって食い付いていた。
どうやらビスクドールっぽいものを作る気になったらしい。
今ならゴムでも作れるのでは…と思った華だったが、やはり陶器の方が肌が美しいよねと思い口を噤んだ。
そして華も、社交の場であるならば着物で参加をしたいと思っていたが、今回用意して貰った初夏のドレスを見て考えを改めていた。
(せっかくの着物で季節感無視とか絶対駄目だよね。絽や紗を手に入れないと……あるかな?)
華が着せて貰ったドレスは袖口や襟、スカートの裾等がレースで軽く、涼しげになっている。
着物を仕立てるにしても、夏はきっちり着けてても涼しげに見せたい。絽や紗が無かったら作って貰って来年仕立てようと考えていた。
いつの間にかファーナによって縮緬っぽい反物が出来上がっていたので、布地を開発するのも完全にお任せだ。
これまで華は、自分が欲しいものの話をしているだけで、開発にはほとんど関わっていない。
それなのに何か話す度に情報料として大金を渡されている。
それはいい。情報料だと言うので有り難く頂戴するし、試作品と言いつつ出来た物は無料で頂けているので、結局華の欲しい物がほとんどタダで手に入ってしまっている現状もまあ、いい。
しかし竹踏みを除く、華が情報料を貰ったすべての商品は現在絶賛生産中で、流通に乗せて販売が開始されるのはこれから…もう少し後らしい。
それこそ華には関係無いことなので、ご自由に作戦なりスケジュールなりを組んで貰えればいいのでは無いかと思っていたのだが。
どうやらそれらがローレンス商会で売り出されたら、なんと華に売上げの一部が入るというのだ。
(むしろこちらが開発料をお支払しなければいけないんじゃないの!?)
華は開発にあたってほとんど何もしていない、情報料を既に頂いていると抵抗をしたものの、利益の5分まで下げてもらうのが精一杯だった。
そして何やらマークを出してくれと言われ、華は当たり前のように千田家の家紋を描こうとして…描けなくてショックにうちひしがれた。
千田家の家紋は源氏車。
清和源氏の流れを汲む、御所車の車輪を図案化した家紋だった。
それがいざ描こうとすると、車輪の内部を何分割にしたものか覚えておらず、ダーツの的のような情緒の無い絵を描いてしまい、悔しさに思わず涙が滲んだ。
(自分の家紋も描けないなんて…!)
恥ずかしさにしばらく落ち込んだし、家紋の事を思うとまだ胸が痛む。
結局、丸に千の字のマークを描いて渡した。
丸は日の丸のつもりで、千は作って貰った筆で毛筆書き。
何に使うのかと思えば、華の関わった商品のブランドロゴにすると言う。
つまり、丸千マークの入った商品が売れれば華にその利益の5分が入るということになる。
ローレンス商会長のホーソンは5分が少なくて気に入らないようだが、華に言わせるとそもそも華にお金が入るのがおかしい。
しかし、他の人の情報で商品を作った時は売り上げの2割や3割が当たり前だとアルベルトに聞いて主張を引っ込めた。華のせいで他の人にお金が入らなくなったら困る。
今回の宴では、その丸千印商品の取り扱いについても相談があるらしい。
主催の侯爵様から。
(ローレンス商会取扱いのブランド商品として売るんじゃないの?)
ローレンス商会の販売戦略について領主から相談があるという事に首を傾げる華だった。
華が小学校の頃まで日比谷を通ると黒門の奥に見えていた鹿鳴館は、明治政府の迎賓館として建てられたと習ったので当時としてはは大層立派な建物だったのだろうが、迎賓館として機能していたのは数年だけだった。その後は地震等で被災するものの、東京都心の土地不足を理由に数年前に解体されるまでは確かに残っていた建物は、老朽化もあったのだろう、華にはちょっと古臭い建物のように見えていた。
それ故に此方の建物がより立派で美しく見えているのかもしれない。
馬車がポーチに付けられて、順に降車する。
今回華が同乗した馬車には6人で乗って来ていた。
アルベルト・ファーナ夫妻とラインハルト・ルナリア夫妻、それとシア。
シアはファーナが社交の場等に出る時には、侍女役として付き添う事が多いらしい。行商先の異国等で饗応や接待があると付き添いをしたという話は以前から聞いていた。
今回シアは華の付き添い役としての参加で、もちろんドレスアップしている。
普段は動きやすい格好のシアが、ドレスを着て短いオレンジの髪を一部纏めてお飾りを付けた姿を見た華は、感激して拍手喝采だった。
『シアさんかっこいい!!』
もちろん華もファーナやルナリアにドレスで飾り立てられている。
少し伸びてきた髪も緩くウェーブされて毛先も軽く巻かれ、お化粧までされてしまった。
「ビスクドールみたい~!」
代官邸の客間に運び込まれた大きな姿見に映った華は、陶器の西洋人形のような仕上がりになっていた。
『ビスクドール?』
後ろから覗き込んでいたシアが尋ねるので、陶器で出来たお人形の説明をすると、華を飾り立てて満足した顔をしていたルナリアの目が再び燃え上がっていた。
陶器で出来た少女人形の説明には大して反応しなかったのに、人形に本物のドレスを着せるという説明で前のめりになって食い付いていた。
どうやらビスクドールっぽいものを作る気になったらしい。
今ならゴムでも作れるのでは…と思った華だったが、やはり陶器の方が肌が美しいよねと思い口を噤んだ。
そして華も、社交の場であるならば着物で参加をしたいと思っていたが、今回用意して貰った初夏のドレスを見て考えを改めていた。
(せっかくの着物で季節感無視とか絶対駄目だよね。絽や紗を手に入れないと……あるかな?)
華が着せて貰ったドレスは袖口や襟、スカートの裾等がレースで軽く、涼しげになっている。
着物を仕立てるにしても、夏はきっちり着けてても涼しげに見せたい。絽や紗が無かったら作って貰って来年仕立てようと考えていた。
いつの間にかファーナによって縮緬っぽい反物が出来上がっていたので、布地を開発するのも完全にお任せだ。
これまで華は、自分が欲しいものの話をしているだけで、開発にはほとんど関わっていない。
それなのに何か話す度に情報料として大金を渡されている。
それはいい。情報料だと言うので有り難く頂戴するし、試作品と言いつつ出来た物は無料で頂けているので、結局華の欲しい物がほとんどタダで手に入ってしまっている現状もまあ、いい。
しかし竹踏みを除く、華が情報料を貰ったすべての商品は現在絶賛生産中で、流通に乗せて販売が開始されるのはこれから…もう少し後らしい。
それこそ華には関係無いことなので、ご自由に作戦なりスケジュールなりを組んで貰えればいいのでは無いかと思っていたのだが。
どうやらそれらがローレンス商会で売り出されたら、なんと華に売上げの一部が入るというのだ。
(むしろこちらが開発料をお支払しなければいけないんじゃないの!?)
華は開発にあたってほとんど何もしていない、情報料を既に頂いていると抵抗をしたものの、利益の5分まで下げてもらうのが精一杯だった。
そして何やらマークを出してくれと言われ、華は当たり前のように千田家の家紋を描こうとして…描けなくてショックにうちひしがれた。
千田家の家紋は源氏車。
清和源氏の流れを汲む、御所車の車輪を図案化した家紋だった。
それがいざ描こうとすると、車輪の内部を何分割にしたものか覚えておらず、ダーツの的のような情緒の無い絵を描いてしまい、悔しさに思わず涙が滲んだ。
(自分の家紋も描けないなんて…!)
恥ずかしさにしばらく落ち込んだし、家紋の事を思うとまだ胸が痛む。
結局、丸に千の字のマークを描いて渡した。
丸は日の丸のつもりで、千は作って貰った筆で毛筆書き。
何に使うのかと思えば、華の関わった商品のブランドロゴにすると言う。
つまり、丸千マークの入った商品が売れれば華にその利益の5分が入るということになる。
ローレンス商会長のホーソンは5分が少なくて気に入らないようだが、華に言わせるとそもそも華にお金が入るのがおかしい。
しかし、他の人の情報で商品を作った時は売り上げの2割や3割が当たり前だとアルベルトに聞いて主張を引っ込めた。華のせいで他の人にお金が入らなくなったら困る。
今回の宴では、その丸千印商品の取り扱いについても相談があるらしい。
主催の侯爵様から。
(ローレンス商会取扱いのブランド商品として売るんじゃないの?)
ローレンス商会の販売戦略について領主から相談があるという事に首を傾げる華だった。
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