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114 そして…
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季節は初夏になり、華が山に来てから3か月が過ぎた。
夏になったら着ようと作っておいた白のセーラー服も、山の中は涼しくなかなか着るタイミングを逃していたが、この日は天気も良く気温も上がりそうだったので、ようやく袖を通して見た。
「やっぱりちょっと涼しいねえ」
華が呟けば、竹の間で寛ぐ亀の北斗が律儀に首をもたげて華の方を見る。
夏用として作ったセーラー服だが、山での生活なので長袖のままだが、衿の2本ラインは復活させた。以前は戦時下での物資の節約と言うことで、ラインは付けられなかったのだ。
本来ワンピースの制服なのだが、戦時下ではプリーツの上品なロングスカートも取り払われ、スカーフもリボンになった。
華は入学時からスカート部分を切った上だけのセーラー服だった。
戦況が悪化しても女子高生になった華はやっぱりセーラー服が着たくて、同級生達とは工場にも婦人用の国民服でもあるもんぺの上に、セーラー服を着て勤労に行っていた。
ここで暮らすようになっても、卒業する3月までは制服を着ていようと思って作った夏用セーラー服である。
華は3月に(自主的に)卒業するまでは学生を名乗るつもりでいるのだ。
山での生活なので、下はもちろんもんぺ…山袴なのだが、実は本来のワンピース型の制服も作ってある。
こちらは町に行ったときに着る予定で作った物だ。
プリーツにはまだしつけをしたままだが、そのままカバンに入れる。
(お屋敷でアイロン借りられたらいいな)
藤棚さんではやかんをアイロン代わりに使っているが、今日は町にお呼ばれをしているのだ。
どうもアルベルトの甥が華に会いたいと言っているとか。
シアの話では、とても偉い立場の人物らしく、県知事や藩主のような…つまりは領主なのだと華は理解したのだが。
(それって華族…西洋っぽいこの御土地柄だと貴族って言うのかな。なんじゃない?ってことはファーナさん達も貴族なの?)
町に広大な別邸があって、今回そこで宴も催されるらしい。
もちろん華も御招待頂いている。
シアによると、ファーナとルナリアが華のドレス一式を用意していると言う。
それを聞いた華は、セーラー服を自作している場合じゃなかったと悔しがってシアを困惑させた。
(着物!着物を仕立てるべきだったのに…!)
国の、つまりは民族衣装を着て出席したかったのだと華が言うと、『また機会はあるよ』と言ってくれた。
しかし、諸外国の外交官をおもてなしする鹿鳴館やパリ万博に臨む日本人のような気持ちでより一層言葉を覚えるのに貪欲になった華に、相手をするシアが言ったのだ。
『戦いに行くみたいな気迫だね…』
と。
『ハナは招待された側なんだから、気楽に楽しんでくればそれで良いんだよ』
それを聞いて華は反省した。
別に不利益を被っていて改善したいわけでも、日本の威信をかけて国力を見せつけられる訳でもなかった。戦争している訳でもしたい訳でもなく。
ここにたった独りでいる華に、ただの華として招待頂いた、ただそれだけ。
(気楽に楽しんでくればそれでいい、か)
ちょっと鼻息荒かったかも…。と反省した華だった。
何よりシアに引かれるのは悲しい。
もちろん、常識はずれなことをしてファーナ達に迷惑をかける訳にもいかないので宴での諸注意などは確認したが、華が特別に覚えなければいけないこちらの常識はなかったことから、やはり言葉を覚えるのが一番の準備になった。
華が町に行くのはこれで3度目。
それまでにロイ達に若木の枝を集めてもらったり、自分で集めたりして紙を作ってみたりもしたが、一月前に町に行ったときにには、華が自分で作るより断然使いやすい紙が出来上がっていた。
これにより、華の中では「紙は買うもの!」と決定したのだが、現状試作品として大量の紙を貰ってしまっている。それどころか情報料と称して大金が渡されてしまった。
ひとまずそのお金で写本の続きをするための羊皮紙を買った華だった…。
そしてゴムも、華が望んだように商会の力で研究されていて、一月前にはゴムの木がいくつか持ち込まれ、町の近郊で栽培が始まったところだった。
しかしこれからゴム製品を作るはずが、華のネコ車のタイヤには既に試作品としてゴムが被せてあるのだ。
うすうす気が付いてはいたが、ローレンス商会は試作品と言えば華が何でもごねる事なく受け取ると思っている節がある。
まったくもってその通りなので有り難く受け取るのだが。
夏になったら着ようと作っておいた白のセーラー服も、山の中は涼しくなかなか着るタイミングを逃していたが、この日は天気も良く気温も上がりそうだったので、ようやく袖を通して見た。
「やっぱりちょっと涼しいねえ」
華が呟けば、竹の間で寛ぐ亀の北斗が律儀に首をもたげて華の方を見る。
夏用として作ったセーラー服だが、山での生活なので長袖のままだが、衿の2本ラインは復活させた。以前は戦時下での物資の節約と言うことで、ラインは付けられなかったのだ。
本来ワンピースの制服なのだが、戦時下ではプリーツの上品なロングスカートも取り払われ、スカーフもリボンになった。
華は入学時からスカート部分を切った上だけのセーラー服だった。
戦況が悪化しても女子高生になった華はやっぱりセーラー服が着たくて、同級生達とは工場にも婦人用の国民服でもあるもんぺの上に、セーラー服を着て勤労に行っていた。
ここで暮らすようになっても、卒業する3月までは制服を着ていようと思って作った夏用セーラー服である。
華は3月に(自主的に)卒業するまでは学生を名乗るつもりでいるのだ。
山での生活なので、下はもちろんもんぺ…山袴なのだが、実は本来のワンピース型の制服も作ってある。
こちらは町に行ったときに着る予定で作った物だ。
プリーツにはまだしつけをしたままだが、そのままカバンに入れる。
(お屋敷でアイロン借りられたらいいな)
藤棚さんではやかんをアイロン代わりに使っているが、今日は町にお呼ばれをしているのだ。
どうもアルベルトの甥が華に会いたいと言っているとか。
シアの話では、とても偉い立場の人物らしく、県知事や藩主のような…つまりは領主なのだと華は理解したのだが。
(それって華族…西洋っぽいこの御土地柄だと貴族って言うのかな。なんじゃない?ってことはファーナさん達も貴族なの?)
町に広大な別邸があって、今回そこで宴も催されるらしい。
もちろん華も御招待頂いている。
シアによると、ファーナとルナリアが華のドレス一式を用意していると言う。
それを聞いた華は、セーラー服を自作している場合じゃなかったと悔しがってシアを困惑させた。
(着物!着物を仕立てるべきだったのに…!)
国の、つまりは民族衣装を着て出席したかったのだと華が言うと、『また機会はあるよ』と言ってくれた。
しかし、諸外国の外交官をおもてなしする鹿鳴館やパリ万博に臨む日本人のような気持ちでより一層言葉を覚えるのに貪欲になった華に、相手をするシアが言ったのだ。
『戦いに行くみたいな気迫だね…』
と。
『ハナは招待された側なんだから、気楽に楽しんでくればそれで良いんだよ』
それを聞いて華は反省した。
別に不利益を被っていて改善したいわけでも、日本の威信をかけて国力を見せつけられる訳でもなかった。戦争している訳でもしたい訳でもなく。
ここにたった独りでいる華に、ただの華として招待頂いた、ただそれだけ。
(気楽に楽しんでくればそれでいい、か)
ちょっと鼻息荒かったかも…。と反省した華だった。
何よりシアに引かれるのは悲しい。
もちろん、常識はずれなことをしてファーナ達に迷惑をかける訳にもいかないので宴での諸注意などは確認したが、華が特別に覚えなければいけないこちらの常識はなかったことから、やはり言葉を覚えるのが一番の準備になった。
華が町に行くのはこれで3度目。
それまでにロイ達に若木の枝を集めてもらったり、自分で集めたりして紙を作ってみたりもしたが、一月前に町に行ったときにには、華が自分で作るより断然使いやすい紙が出来上がっていた。
これにより、華の中では「紙は買うもの!」と決定したのだが、現状試作品として大量の紙を貰ってしまっている。それどころか情報料と称して大金が渡されてしまった。
ひとまずそのお金で写本の続きをするための羊皮紙を買った華だった…。
そしてゴムも、華が望んだように商会の力で研究されていて、一月前にはゴムの木がいくつか持ち込まれ、町の近郊で栽培が始まったところだった。
しかしこれからゴム製品を作るはずが、華のネコ車のタイヤには既に試作品としてゴムが被せてあるのだ。
うすうす気が付いてはいたが、ローレンス商会は試作品と言えば華が何でもごねる事なく受け取ると思っている節がある。
まったくもってその通りなので有り難く受け取るのだが。
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