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112 幻獣に非ず

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『それはもしかしたら幻獣ではなくて、聖獣様かもしれません』

 ルーシェッツの神獣神殿の神官セザールは言った。

 華から白い大きな鳥を見たと聞いた翌日、ロイはファーナの遣いとしてルーシェッツの神獣神殿の神官に話を聞きに来ていた。お供にマールを連れてきている。

 前日の夜ではあったが面会の予約をしていたお陰で、神官に時間を取って貰うことが出来た。
 こんなときに日頃の寄進が効いてくる。

 ロイは鳥型の幻獣と言えばグリフォンぐらいしか知らないが、それを言うとセザールは『グリフォンは鳥なのでしょうか…』と宣った。
 どうやら神獣の研究機関でもある神獣神殿の見解では、グリフォンは『翼のある幻獣』という位置付けらしい。

『あきらかに鳥、と言われるとベンヌという幻獣がいますが、青鷺の姿だと言われています。白となると…』

 そもそも姿を見せない、目撃例が少ないのが幻獣なのだと言う。

『神獣様はいらっしゃいます。折に触れそのお姿をお見せになり時にはお言葉も授けられます。眷属である幻獣を遣わす事もあるようです。…しかし、神獣様の眷属だと言われている幻獣ですが、そうでない…つまり、神獣様の眷属でないものも多いようなのです』

 伝えられているが、実在するかは不明なものもいるらしい。
 要は幻獣に関してはよく分かっていないと言うのがセザールの話だった。

『聖獣というのは?』

 ロイが聞き慣れない言葉の事を訊く。
 そもそも巨大な鳥の巣と白い羽、それと周囲の魔獣すら寄り付かない状況を見て、思い当たる大型魔獣もいなかったことから自然と『幻獣ではないか』と思った次第である。
 実はロイ達の知らない聖獣なるものがいるのであれば、あの山に棲む鳥はそれなのだろうか。

『神獣様の御子や子孫を我々は聖獣様とお呼びしています』

『『は?』』

 神獣の子は神獣ではないのか。

 そんなロイとマールの疑問に、セザールはさもありなんと頷いた。

『そもそも我々人が勝手に呼んでいるだけなのですよ、結局。神獣様は守護獣様とも言われます。それは神獣様が帝国や聖王国を守護しているからです。神獣様のご加護庇護の下、我々は神獣様をお祀りしていますが、しかし帝国から遠く離れた地では別の神を崇めていることもあるのです』

 それは行商隊として帝国圏外の国に行ったこともあるロイも知っているが、マールは初めて聞く話のようだった。

『我々神獣神殿の分類ではありますが、見境なく人を襲ったり暴れたりするものを魔獣と言い、それらは大きく発達した牙や角があるのが特長で、一説では“魔よりの獣”とも言われています。幻獣にも大きな牙や角を持つものがいますが、幻獣には魔獣とは違い高い知性があり、人の話を理解するのだそうです。中には魔法を使うものもいるとか』

『魔法!?』

『はい。ですから、幻獣と呼ばれる存在の中には実は聖獣様…神獣様の御子や子孫が数多くいらっしゃるのではないかと』

『……』

『や、でもさ。神獣の子供ってことは龍の姿とかしてるだろ?小さくても龍を見て幻獣って思う奴なんかいねーよな?』

 あの羽の主が神獣の子孫…神殿の言うところの聖獣なのかもしれないと考え込むロイの横で、マールがもっともなことを言う。
 それは、やはり神獣の子は神獣ではないのかと言う話になってしまうのだが。

『いえ。神獣様…例えば龍神の御子が必ずしも龍の姿であるとは限らないそうです。例外なく力のある存在ではあるそうですが。ですから神獣の御子、聖獣様がどこぞの国と守護の契約を結ぶと、守護聖獣と呼ばれることもあります。まあ、我々神殿が言っているだけですが』

 セザールはそう言って笑うが、神獣神殿は世界中どこにでもある。それこそ神獣でない神を崇めるような国にでもあるのだ。

『ところで、その白い巨鳥はどこで見たのでしょうか』

 セザールの質問には、山の中でそれも自分達が見たわけではないとはぐらかしたロイ達だった。





 そして翌日のミルクの配達日。

 神獣の子、神殿の言うところの聖獣かもしれない存在が住んでいるかもしれないと、今更ではあるが、いくらか緊張して藤棚さんへやって来たいつもの4人だったが、畑を開墾する時に伐ったベンチ代わりの丸太の上で寛ぐ亀を見て脱力するのだった。
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