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102 シアのお手柄?

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 ファーナは器の中で固まっている、濃いクリーム色をした物に包丁を入れる華を見守っていた。

(このフヅクエは書き物以外にも使えるのね)

 竹の床に直接座るのに始めは戸惑ったファーナだが、華がクッションを敷いてくれたのでそれほど苦ではない。
 行商の旅の中でも土間に敷物を敷いただけという地域はあった。
 華は靴を脱いで過ごす家に、床に腰を下ろす文化で育ったのだろう。
 このクッションも今は枯れ草が詰められているようだが、綿を栽培するのであれば、綿の収穫後綿入りになるのだろうと思っているファーナは、最初から華が綿を売ることを考えて畑を作ろうとしていることをまだ知らない。

 ファーナの目の前に置いた文机に小皿を並べて、八等分にしたプリンをケーキのようによそい、細かくしたドライフルーツをぱらぱらと載せる。
 断面を見ては小さく唸っているところを見ると、どうやら出来上がりに不満があるらしい。
 それでもこのプリンというおやつが好きなのだろう。にこにこしてファーナ達にプリンを差し出した。

『どうぞめしあがれ』

 先ほど竹で作っていたのは匙らしく、小皿に添えて差し出された物を受け取った。

『これが“プリン”ね。どこが駄目だったの?』

『これ!ぶつぶつ、だめ。いりません』

 遠慮なく華に失敗箇所を聞いているシアは、昨日一日でずいぶん仲良くなったように見える。
 華の語彙も増えてしかもちゃんと使いこなしているし、話し方もスムーズになっているのもシアのお陰だろう。

(女の子同士がいいと思ってシアを付けたけど、正解だったみたいね)

 いちばん華が慣れているからとロイを付けたり、年が近いとマールを付けたりしていたら、昨日一日で華の話し方がおかしな事になっていたかもしれないと思うと、シアで間違いなかったようだった。

『そうなの?いただくわね』

 お湯の沸いた鍋に卵とミルクの入った液を笊に乗せて置いただけでちゃんと液が固まって、このように切り分けることが出来ている。
 ファーナがプリンに匙を入れるとふるふるとして潰れそうで潰れない不思議な感触がする。

(クリームを熱で固めたということ?ううん、クリームを熱したら溶けるだけでしょう)

 口に入れると確かに甘くした卵とミルクの味がする。
 滑らかな舌触りがクリームっぽいが、ところどころボロボロと感じるところもある。これが華の言う要らないぶつぶつだと判る。

『おいしいわ。素朴な味ね』

 ごちゃごちゃと調味料の入らない素朴な味。それがファーナの感想だった。
 うんうんと頷いているシアもぺろりと食べてしまったようだった。

『アルベルトさんも!』

 華が小皿を外にいるアルベルトに持って行くのを見送って、ファーナは改めて藤棚さんの中を見回した。

 今はたくさんの吊られた肉に埋め尽くされているが、この小屋を華が作ったという。
 独りで、とは言ってないのだが、どう見ても一人暮らし。

『本当に華がこの家を作ったのかしら…。信じられないわ…』

 本当に小さな女の子独りでこの家を作ったと言うのなら、ちょっと立派過ぎる気がするのだ。

『ルナリアさんが町で暮らそうって言った時も“家がだいじ”って言っていましたもんね。特別思い入れがあるのは間違いないようですけど…』

『たとえば、ここで誰かを待っているとか、かしらね…』

 ここ半月ほど、ファーナの頭の中は華の事でいっぱいだった。
 華の持つ、見たことのない品々への興味はもちろんだが、華自身を連れて帰りたくて仕方なかった。
 夫のアルベルトは政治的な意味でも華に興味があるようだが、伊達に物心付く頃からファーナの“お店屋さん”に付き合わされていないと言うことか、商品開発の話を華に聞きたそうにしている。

 そこに降って沸いたような孫の一目惚れ事件。

 娘のルナリアと共に喜んだのも束の間、不用意に近付けるのは危険だという判断をせざるを得ない事態になってしまった。

 それでも、接触禁止ではなく監視付きでの接触可にしてしまったのだから孫に甘いと言われても仕方がない。
 まだ、華をどうにかして家の娘に出来ないかという夢を諦めきれないのだ。

『ここにグレイルを連れてきたりしたら馬車馬のように畑でも小屋でも作っちゃいそうですよね。華の為に…』

『…それ、いいわね』

『いや、駄目ですよ!』

 監視付きなら大丈夫ではないだろうか。シアの軽口に、そうファーナは考えたのだが、シアは反対らしい。

『今ここに来ることを許したら華に迷惑をかけて嫌われる未来しか見えません! せめてもう少し落ち着かせないと…!』

 あの凝視は端から見てても怖いんですから!と、思い出して震えるシアに、ファーナも確かに、と思い直した。

『せっかく魔獣討伐で格好良かったところを覚えてもらっていたんですよ。華もグレイルもどっちももう少し慣れてからの方が絶対いいですって!』
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