上 下
98 / 154

97 山へ

しおりを挟む
 翌朝、それほど早くもない時間に、華はファーナ達と町を出た。

 行商の幌馬車1台に、前日の戦利品と完成した文机と書見台、もちろん今朝搾ったばかりのミルクも積んである。
 ミルクは売っていた一番小さな缶でも2、3リットル位あったので、ミルクは欲しいが量がちょっと…と思っていた華にとって、少しだけ分けてもらえたのは大変有り難かった。

 ついでにと、取れたての鶏卵までいただいてしまって大喜びの華だった。

(プリン!作ろう!!)

 華は藤棚さんに帰ったら真っ先に大好きなプリンを作ろうと思った。

(探したらキャッサバも見付かるかも知れないけど、生えてても見分け付かないよね…。今度市場に行ったら探してみよう)

 米代わりや嵩増しで使われていたキャッサバだったが、華はそのタピオカが入ったプリンが大好きなのだ。
 無いものは仕方がないし、そもそもお砂糖も白くないので、まずはある材料でプリンを美味しく作れるようにしようと思うのだった。

『また来てちょうだいね』

 すぐにね。きっとよ。と朝食の時から何度も言うルナリアに、寂しいのかなと、同じく見送りに出てきたその息子のグレイルをちらりと見る。

(また見てる…)

 夕べもそうだが、何故だかグレイルは気が付くと華をじっと見詰めているのだ。
 その様子は明らかに普通じゃない。

 もしかしてーー。

(ルナリアさんには死に別れた娘さんがいたんじゃないかな…)

 夕べから何となく思っていたが、ルナリアが最初に『お母様と呼んでね』と言い、若い娘さん用の衣装がいくつも用意してあった。
 そしてグレイルの止まない凝視。

(きっと、わたしにそっくりな娘さん…グレイルさんの姉妹がいたんだ。ファーナさんやアルベルトさんも孫可愛がりしてるもんね…)

 そう、疑問に答えを導き出したのだ。
 身代わりにしているとは思わないが、町に来たら顔見せには来ようと決めた華だった。親切にしてもらっていることは間違いないないのだし…、と。

 もちろんグレイルは一人息子なのだが、同じ黒髪とグレイルの異常な凝視で納得のいく理由を考え、思い込んでしまったのだ。
 ファーナに許されたグレイルが華に告白できるようになるまでは、この思い込みが解けることはないだろう。

 別れを惜しむ夫妻とグレイル、それと文机や書見台などを持ってきてくれたホーソンに見送られて、屋敷に近い北門からいつもの護衛チームと馬車が出ていく。

 右手に町の塀を見ながらぐるりと回り込んで東の街道に入り、山道へ入って行く。
 二頭立ての幌馬車は、山道へ入っても大して速度も落とさないで進んでいく。
 同時出発で華が歩いていたら、きっと倍以上の時間がかかった事だろう。

 途中に一度休憩をしたが、普段、あの休憩場所くらいまでなら休憩無しで進むらしい。今回は馬車に乗り慣れていない華のために休憩をとったらしい。

 そして山を登ったり下ったり登ったりしながらお昼過ぎ。
 町から数時間ほどで藤棚さんの近くの休憩場所まで戻って来たのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

砕けた愛は、戻らない。

豆狸
恋愛
「殿下からお前に伝言がある。もう殿下のことを見るな、とのことだ」 なろう様でも公開中です。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

【完結】逃げ出した先は異世界!二度目の人生は平凡で愛ある人生を望んでいるのに、平凡では終われない

絆結
恋愛
10歳の時に両親と妹を一度に事故で亡くし、親戚中での押し付け合いの末、叔母夫婦に引き取られた主人公。 暴力、暴言、実子との差別は当たり前。従姉妹からの執拗な嫌がらせの末暴行されそうになり逃げだした先は異世界。 ─転写─ それは元の世界の自分の存在を全て消し去り、新たな別の世界の人物として魂を写すこと。 その人の持つ資産の全てを貰い受ける代わりに、別世界に創られた"器"にその魂を転写する。 前の人生の記憶は持ったまま、全く別の身体で生まれ変わる。 資産の多さに応じて、身体的特徴や年齢、性別、転写後の生活基盤を得ることができる。 転写された先は、地球上ではないどこか。 もしかしたら、私たちの知る宇宙の内でもないかもしれない。 ゲームや本の中の世界なのか、はたまた死後の夢なのか、全く分からないけれど、私たちの知るどんな世界に似ているかと言えば、西洋風のお伽話や乙女ゲームの感覚に近いらしい。 国を治める王族が居て、それを守る騎士が居る。 そんな国が幾つもある世界――。 そんな世界で私が望んだものは、冒険でもなく、成り上がり人生でもなく、シンデレラストーリーでもなく『平凡で愛ある人生』。 たった一人でいいから自分を愛してくれる人がいる、そんな人生を今度こそ! なのに"生きていくため"に身についた力が新たな世界での"平凡"の邪魔をする――。 ずーっと人の顔色を窺って生きてきた。 家族を亡くしてからずーっと。 ずーっと、考えて、顔色を窺ってきた。 でも応えてもらえなかった─。 そしてある時ふと気が付いた。 人の顔を見れば、おおよその考えていそうなことが判る─。 特に、疾しいことを考えている時は、幾ら取り繕っていても判る。 "人を見る目"──。 この目のおかげで信頼できる人に出逢えた。 けれどこの目のせいで──。 この作品は 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。

112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。 目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。  死にたくない。あんな最期になりたくない。  そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

異世界で一番の紳士たれ!

だんぞう
ファンタジー
十五歳の誕生日をぼっちで過ごしていた利照はその夜、熱を出して布団にくるまり、目覚めると見知らぬ世界でリテルとして生きていた。 リテルの記憶を参照はできるものの、主観も思考も利照の側にあることに混乱しているさなか、幼馴染のケティが彼のベッドのすぐ隣へと座る。 リテルの記憶の中から彼女との約束を思いだし、戸惑いながらもケティと触れ合った直後、自身の身に降り掛かった災難のため、村人を助けるため、単身、魔女に会いに行くことにした彼は、魔女の館で興奮するほどの学びを体験する。 異世界で優しくされながらも感じる疎外感。命を脅かされる危険な出会い。どこかで元の世界とのつながりを感じながら、時には理不尽な禍に耐えながらも、自分の運命を切り拓いてゆく物語。

処理中です...