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『…………うん、なるほど』

『凄いね…。何て言っているのか分からないけど、すごく分かりやすい説明だね…。何て言っているのか分からないけど。木の内側を鍋でどろどろになるまで煮てシート状にして乾かすのか…。時々首を傾げている様子から、細かいところが分からないんだねってところまでよく分かる説明だ』

『ええ、何て言っているのか分からないけど』

『ねばねばしたものを入れるのか…』

 全員が華の言葉が一切分からないながらも説明が分かりやすい不思議を感じていた。
 図解もあるが、何よりーー。

((((擬音スゴイ…!))))

 擬音の威力を思い知った面々だった。





『ハナのお買い物はこれで終わりかしら?終わりなら家でお茶でもどう?お菓子も用意してあるのよ』

 華を早く自宅に連れて行きたいファーナがそんな提案をする。

 ゴムと紙の制作を商会に依頼して、後は完全にお任せ姿勢の華だったが、ファーナの家に行く前にもう一ヵ所寄りたい場所があった。

「あと本が欲しいです。本屋さんって何て言うのかな。シアさん、え~と』

『本ね。本。本か~。う~ん…』

 華がノートを本に見立ててパラパラする様子に、シアには華の欲しい物がすぐに分かったのだが、例外なく高価な本は店売りではなく、通常仕入れ問屋に直接欲しい本を伝えて探して貰う。
 もちろんこのローレンス商会でもその業務はしているのだが、とにかく高価なので華が欲しい本というのが買えるとはシアには思えないのだ。

 何故なら先程華が手持ちのお金で買えるだけ買った一番安い紙が30枚。
 100頁の本を買おうと思ったら、内容を除くその紙代だけでも華には買えない値段だし、写本され製本され流通され販売された本となると…。

 シアが困ってファーナ達を見ると、誰も慌てたりしていない。

『ハナさん、何の本が必要ですか?』

(え!?商会長、ハナに本買ってあげちゃうの!?太っ腹!!…でもハナ本があっても読めないよね?)

『なんでも。ことば、おぼえる。文字、え~と』

『言葉と文字の勉強ですね』

『べんきょう』

 勉強用に本なら何でもいいと言う華に、ホーソンは1冊の本を差し出した。

『この本はハナさんに差し上げるために用意した本です。子供の読み物ですが、ハナさんが勉強するのに役立てて貰おうと思いまして』

 それほど分厚いわけではないが、表紙に布が張られたしっかりとしたハードカバーの本を差し出されて、華は戸惑った。
 聞き取り間違いだろうか。

(くれるって言った?それとも貸すってこと?)

『家にあった物で中古で申し訳ありませんが』

『ハナ、くれるって。貰って大丈夫だよ』

 シアには華が戸惑っているのがよく分かったが、ホーソンが華にこの本を用意した意味も理解出来たので、本を手に取り華に渡すと、戸惑いながらも華はお礼を言って本を受け取った。

『わたし、この本、おぼえる。本、書く。おなじ。売る、できる、ですか?』

『ハナ、“売れますか”よ。“売れる?”でもいいけど』

『売れますか?』

 うんうんと頷きながら、やっぱり華は丁寧語でお話しするんだねとシアは思いながらも驚いていた。

『おなじ本、…書きます。売れますか?』

『そうそう!すごいすごい!』

 手を叩いての称賛に、華の顔も綻ぶ。

『えっと、ハナ?もしかして、さっき紙を買ったのって、写本をするため?』
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