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77 お買い物

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 市場を歩きながら、シアが教えてくれる物の名前をノートに書いていく。

 そうして物の名前を教わりながら品物を見ていると、もう一度先ほどの種苗屋で買いたい物が出てくる。

『どうせ帰りにも通るんだから、最後に寄ればいいんじゃない?』

 シアが通りに戻る時に種苗屋に寄ればいいと言うので、そのまま露店を回る。

 如雨露や笊等の雑貨や土鍋やお玉、木の器等。今まで土器で代用してきた物や土器では作れなかった物を買っていく。
 陶器どころか土器にしても火の温度が足りないのだということは華にもそろそろ解ってきていた。ただ単に焚き火の火に放り込んでおけば出来るというものでもないらしい。
 やはり高温を維持出来る専用の窯が必要なのだ。

(器は買う物!)

 コップやお碗が何もないことに比べたら、華が作ったなんちゃって土器もずいぶん役に立った。しかし、こうして職人さんが作ったものを買えるのであれば買うべきだろう。
 すぐ壊れるお手製品を何度も作り直すより、むしろ物を買えるお金を稼ぐ方法を考えようとしての1つが綿の栽培だったのだ。

 もっとも、綿に関しては秋迄に防寒を考えないとと思ったのが最初なのだが。

 半月前は防空頭巾を被って焚き火の前で寒さを凌げていたが、それだけではどうしても寒い日もあった。
 山の上だし寒の戻りだとしても、春先でこれなら冬場はどうしようかと。

 床は処理が終わった岩熊の毛皮を敷くとして、綿も始めはローレンス商会が配達してくれるなら買おうと思ったのだが、配達してもらうには嵩張るし、栽培を始めるのに適した季節だということを思い出しての栽培計画だ。

 そしてお金を稼ぐ具体的な方法としてはもう1つ考えているのだが、明日山の上まで馬車で送ってもらえるのであれば、そちらも今日材料を買っていこうと思っていた。

 こまごまと買い物をしながら野菜や果物の名前を聞いていき、一度広場のベンチで軽くお昼ついでに休憩をする。

 木のテーブルのあるところで露店で買ったパンや果物等をつまみながら、シアにはノートに綴りを書いて貰う。
 教えて貰ってノートに書いた名前や言葉のカナを華が読み上げて、空欄をこちらの文字で埋めて貰うと、今日のお買い物だけでノート2ページ以上。
 コレは覚えがいがありそうだと華はによによしてしまう。

『たくさん覚えたのね…』

 その前のページを捲りながらシアがしみじみつぶやいて、そちらのページにも綴りを書いてくれる。

 書いて貰いながら、インクと紙をたくさん欲しいと言うと、ローレンス商会に置いてあると言う。ファーナの家に行く前にローレンス商会へ寄ることになりそうだった。

(昨日は結局お店には入らなかったから楽しみ!)

『たくさん書いたもんね。すぐに書くところがなくなっちゃいそう』

 シアは納得するように言うが、華はノートにするために紙とインクを必要としている訳ではなかった。
 写本をするための紙とインクなのだった。

 綿の栽培と平行して写本をする。
 どれだけのお金になるかは分からないが、少なくとも文字の勉強は出来る。
 紙とインクを仕入れるお金さえ下回らなければ、写本は華の蔵書と知識を増やしながら山でのんびり生活が出来るぴったりのお仕事作業なのではないかと思ったのだ。
 千枚通しと角布に出来そうな布切れさえあれば華でも和綴じは出来るが、製本や販路に関してはファーナに相談だ。





 休憩を終えて、再び露店の並びを順番に巡っていく。

 乾物屋では海藻は無かったが乾燥したオクラと茸とドライフルーツらしき物を購入。

 スパイスのお店ではお値段が気になり買い控え、品揃えの確認だけをした。

 豆類を扱うお店では大豆や小豆、他何種類かを少しずつ買い、ゴマや木の実もあったのでこれも購入。

 穀物のお店では黄色い玄米だがお米を買うことが出来た。
 安かったので頑張って10キロ買ったら、ファーナの家に配達してくれると言う。嬉しくて、今朝パンに入っていたライ麦も1キロ買ってしまった。

 そして市場の出口付近の露店にチーズやミルクを扱っている場所があった。
 美味しそうなチーズの欠片をシアと食べさせてもらって、2、3リットル程の缶に入ったミルクとチーズのブロックを華が買おうとすると、シアはこちらも配達して貰うように交渉する。

『明日の朝に新しいのを届けてもらお。いつもの配達のついでだしね』

 そのまま市場を出て最初の種苗屋へ行くと思ったが、シアに案内されて西門を出てしまった。

『ほら、見てハナ』

 西門の外には、東門より立派に見える街道と東門より多くの往き来する人や馬車、それと牧場が広がっていた。
 先ほどのチーズやミルクの露店はここのものなのだそうで、牛や豚、山羊や馬、鶏もいるらしい。

 華は知らないが、西門の外に広がる牧場は侯爵家が経営する官営牧場のひとつだった。

 ふたりで遠くに見える動物の名前を確認して町へ戻って行った。
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