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67 非常召集
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東門に向かって走るグレイルは違和感を覚えた。
東から人が逃げていたと思ったのに、門に近付けば近付くほど何故か人が増え、東門の周りは人だかりで押し合い圧し合いするほどだった。
『大型魔獣だって?』
『見えねーぞ!』
『怖いねえ』
『こっちに来てるって?』
皆一様に、門の外の魔獣を一目見ようと頭を左右に揺らしている。
(見物人…!?馬鹿な!!)
魔獣の中でも大型と付くものは例外無く力が強く、この町を囲う塀程度は一度の突進で簡単に破壊されてしまう。
(それに…)
グレイルの視界にある門前の宿。
これではあの子が避難出来ないではないか!
群衆に押し潰されて「あーれー」となっている小さな少女を想像して、目の前の野次馬どもへの怒りが頂点に達したグレイルは大きく息を吸い込んだ。
『道を空けろ!!!』
ざわめきが止まり、グレイルに近いところから群衆が左右に別れていく。
『道を空けろ!道を空けろ!!』
只、怒鳴るのではなく、命じるつもりで声を出しながら進む。
元よりそのつもりでここへ来た。
(着任は2日後の予定だったがまあいい。やってやる!)
野次馬が退けば東門まではほんの20メートルもない距離だ。まだ開いたままの門と、野次馬を相手にしながら門の外を気にしておろおろしている兵士たちが見える。
この町の門兵は各門5名。町中警らの兵はない。何かあれば住人が門兵を呼びに来るからだ。それと非番が常時4名と兵士長で総勢25名。領主別邸にはあと数人領兵がいるはずだが、それは数に入れないでおく。
現在東門担当の5名全員が揃っているのが確認できた。
もちろん、つい先ほどグレイルに絡んできた2人もいる。
門前に立つやいなや宣言する。
『モルメーツ侯爵家が一門、騎士グレイル!有事により予定に先駆けてこれより魔獣討伐の指揮を執る!!』
グレイルの出で立ちはモルシェッツから戻ってきたままの旅装に剣を佩いただけで、全くもって騎士には見えないが、例の兵士を始め、野次馬の中にはグレイルの顔を見知っている者もちらほらいるようだった。
とりあえず5名の兵士たちから異論は出ないようだ。自分達だけではどうにも出来ない事は分かっているのだろう。
『状況の説明を』
『は、はい!』
いつの間にか門を塞ぐように横一で整列した兵士の、一番端の年配の兵士に状況の説明を求める。
『大型魔獣が出たと聞いている。何故門を閉じて避難を促さない』
『まっ、まだ人が!街道にっ』
(見た方が早いか)
門を塞いでいる兵士をすり抜け町の外へ出る。
山裾から広がる東南の森から出て来たのだろうか、馬の何倍も大きな魔獣が3頭、特徴のある長い頭を振り回して暴れている。
(バルミラか。なるほど…。まっすぐに町に向かっている訳じゃないから呑気な見物人がいるのか…。くそっ、何やってるんだ!)
街道を見ると、荷車を押した親子がいるだけで、他はもう町に入ったのか見当たらない。そして深い轍にでも嵌まってしまったのか、荷車は一向に動いていないのだ。
『2名!来い!!』
グレイルは直ぐ様荷車に向けて走った。
荷車を引いているのは老婆で、親子だと思ったが、押しているのは孫だろうか。10才になるかどうかの子供だった。
『急げ!いいから町へ入れ!』
懸命に荷車を引っ張る老婆をひょいっと持ち上げて荷車の外に出し、びっくりする子供と一緒に町の方へ押し出す。
『押すぞ!引け!』
グレイルの後から来た兵士と3人で、あっさり荷車と老婆と子供を門の中に入れ、門扉を閉じるよう命じる。
この町の山脈側、東門と南門には魔獣の襲撃もあることから、鉄の入った門扉が使われている。閂もかけさせながら指示を出す。
『非常召集を掛ける。3名は手分けして各門へ走り、各門2名を残して東門に集合させろ。1名は代官所内詰所へ向い兵士長に状況説明の後、非番の者を召集。残り1名はここに残りバルミラ…大型魔獣の監視を続ける。行け!』
グレイルがひとつ手を打つと、指示をしながら分けた人員で散っていく。魔獣の監視には一番年配に見える兵士を残した。
グレイルは閉じた門扉の前に仁王立ちになり、再び道を塞ぎそうになる野次馬を牽制しながら兵士が集まるのを待つ態勢になる。
(見てたな…)
荷車を押す時に、宿の二階で手を叩いて喜んでいる少女が小さく見えた。
すぐに塀で見えなくなってしまったが、門前のこの位置なら顔を上げればきっとまた少女の姿を見ることが出来るだろう。しかしそれをぐっと堪えて代わりに目の前の野次馬を睨む。
(今はバルミラ討伐だ。必ずこちらに向かって来る。その前に討伐しないと…。アランもきっとすぐに来るがもう少し手が欲しいな…)
グレイルが魔獣討伐の手立てを考えていると、塀の上に人影が跳び移ってきたのが見えた。
『久しぶりー!』
『元気そうだね。グレイル』
幼馴染みの姉弟だった。
東から人が逃げていたと思ったのに、門に近付けば近付くほど何故か人が増え、東門の周りは人だかりで押し合い圧し合いするほどだった。
『大型魔獣だって?』
『見えねーぞ!』
『怖いねえ』
『こっちに来てるって?』
皆一様に、門の外の魔獣を一目見ようと頭を左右に揺らしている。
(見物人…!?馬鹿な!!)
魔獣の中でも大型と付くものは例外無く力が強く、この町を囲う塀程度は一度の突進で簡単に破壊されてしまう。
(それに…)
グレイルの視界にある門前の宿。
これではあの子が避難出来ないではないか!
群衆に押し潰されて「あーれー」となっている小さな少女を想像して、目の前の野次馬どもへの怒りが頂点に達したグレイルは大きく息を吸い込んだ。
『道を空けろ!!!』
ざわめきが止まり、グレイルに近いところから群衆が左右に別れていく。
『道を空けろ!道を空けろ!!』
只、怒鳴るのではなく、命じるつもりで声を出しながら進む。
元よりそのつもりでここへ来た。
(着任は2日後の予定だったがまあいい。やってやる!)
野次馬が退けば東門まではほんの20メートルもない距離だ。まだ開いたままの門と、野次馬を相手にしながら門の外を気にしておろおろしている兵士たちが見える。
この町の門兵は各門5名。町中警らの兵はない。何かあれば住人が門兵を呼びに来るからだ。それと非番が常時4名と兵士長で総勢25名。領主別邸にはあと数人領兵がいるはずだが、それは数に入れないでおく。
現在東門担当の5名全員が揃っているのが確認できた。
もちろん、つい先ほどグレイルに絡んできた2人もいる。
門前に立つやいなや宣言する。
『モルメーツ侯爵家が一門、騎士グレイル!有事により予定に先駆けてこれより魔獣討伐の指揮を執る!!』
グレイルの出で立ちはモルシェッツから戻ってきたままの旅装に剣を佩いただけで、全くもって騎士には見えないが、例の兵士を始め、野次馬の中にはグレイルの顔を見知っている者もちらほらいるようだった。
とりあえず5名の兵士たちから異論は出ないようだ。自分達だけではどうにも出来ない事は分かっているのだろう。
『状況の説明を』
『は、はい!』
いつの間にか門を塞ぐように横一で整列した兵士の、一番端の年配の兵士に状況の説明を求める。
『大型魔獣が出たと聞いている。何故門を閉じて避難を促さない』
『まっ、まだ人が!街道にっ』
(見た方が早いか)
門を塞いでいる兵士をすり抜け町の外へ出る。
山裾から広がる東南の森から出て来たのだろうか、馬の何倍も大きな魔獣が3頭、特徴のある長い頭を振り回して暴れている。
(バルミラか。なるほど…。まっすぐに町に向かっている訳じゃないから呑気な見物人がいるのか…。くそっ、何やってるんだ!)
街道を見ると、荷車を押した親子がいるだけで、他はもう町に入ったのか見当たらない。そして深い轍にでも嵌まってしまったのか、荷車は一向に動いていないのだ。
『2名!来い!!』
グレイルは直ぐ様荷車に向けて走った。
荷車を引いているのは老婆で、親子だと思ったが、押しているのは孫だろうか。10才になるかどうかの子供だった。
『急げ!いいから町へ入れ!』
懸命に荷車を引っ張る老婆をひょいっと持ち上げて荷車の外に出し、びっくりする子供と一緒に町の方へ押し出す。
『押すぞ!引け!』
グレイルの後から来た兵士と3人で、あっさり荷車と老婆と子供を門の中に入れ、門扉を閉じるよう命じる。
この町の山脈側、東門と南門には魔獣の襲撃もあることから、鉄の入った門扉が使われている。閂もかけさせながら指示を出す。
『非常召集を掛ける。3名は手分けして各門へ走り、各門2名を残して東門に集合させろ。1名は代官所内詰所へ向い兵士長に状況説明の後、非番の者を召集。残り1名はここに残りバルミラ…大型魔獣の監視を続ける。行け!』
グレイルがひとつ手を打つと、指示をしながら分けた人員で散っていく。魔獣の監視には一番年配に見える兵士を残した。
グレイルは閉じた門扉の前に仁王立ちになり、再び道を塞ぎそうになる野次馬を牽制しながら兵士が集まるのを待つ態勢になる。
(見てたな…)
荷車を押す時に、宿の二階で手を叩いて喜んでいる少女が小さく見えた。
すぐに塀で見えなくなってしまったが、門前のこの位置なら顔を上げればきっとまた少女の姿を見ることが出来るだろう。しかしそれをぐっと堪えて代わりに目の前の野次馬を睨む。
(今はバルミラ討伐だ。必ずこちらに向かって来る。その前に討伐しないと…。アランもきっとすぐに来るがもう少し手が欲しいな…)
グレイルが魔獣討伐の手立てを考えていると、塀の上に人影が跳び移ってきたのが見えた。
『久しぶりー!』
『元気そうだね。グレイル』
幼馴染みの姉弟だった。
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