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60 武具店にて
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『ほら、貸しな。こんなのちょっと直すだけじゃないか。あんたは店番でもしてな』
新しいグローブを買いに武具店に来たグレイルは、何故か武具店の女将リーシャに店番をさせられていた。
『親指の付け根が…』
『ああ…。親指ごと切っちまってここは新しいのにしようかね』
見た目外れかかっている甲の金属部分だけでなく、磨耗して薄くなっている部分を言うと、その部分を切って付け替えるとか言う。
それはもう新しいグローブに買い換えた方が早いのでは…と思うグレイルを見透かしたようにリーシャのお小言が飛んできた。
『新しいのにするならするでいいけどね。これはあんたが帝国の偉いさんに推薦されて帝都に向かうときにルナから贈られたもんだろう。何年も親に顔も見せる暇もないくらい頑張った証拠だ、ほら』
お小言というよりは嫌味か、それとも褒められているのか。リーシャが切り取った親指の付け根のボロボロになった内側をグレイルに見せてくる。
『帝都で何があったかは知らないけどね、あんたの手に馴染んでるこいつが使える内はまだ使ってやりな』
そう言ってリーシャは外した金属部分の角の折れ曲がっているところを金槌で整え始めた。
『……』
グレイルが生まれ育ったこのルーシェッツの町にアランと共に帰ってきたのは10日程前。
この町の代官でもある父のラインハルトも母のルナリアも、数年ぶりに突然帰宅した息子に驚き、前もって連絡しろと叱られはしたものの、息子の帰宅自体は喜んだ。
しかし、その息子の帰宅が休暇等ではなく帝都を半ば追い出されての帰郷だと聞くと、父ラインハルトは翌日グレイルとアランを連れて、事情説明のために侯爵家の領都であるモルシェッツへ向かった。
このルーシェッツからモルシェッツの街までは馬車で4時間程。日帰りどころか休憩無しでも行ける距離だ。
しかし父ラインハルトの従兄弟でもある現侯爵のロットバルトに拝謁し、事の次第をアランの補足付きで説明すると、ロットバルト侯爵はこの大公国の首都である公都ラシネに使いを送り、翌日自らも謁見のために公都へ向かって行った。
当のグレイルたちはと言えば、侯爵が戻るまで侯爵邸に滞在することになった。
父ラインハルトはグレイルとアランを置いてさっさとルーシェッツへ帰ってしまったが。
侯爵が戻るまですることがない二人は、帝都の話をせがむ従兄弟の子供から逃げるために毎日領兵の訓練に参加して過ごしていたが、内心では大公殿下にまで話が行ってしまう程の大事になっていることに戦いていた。
数日後、公都から戻った侯爵は、グレイルたちにこのモルメーツ侯爵家の騎士にならないかと言ってきた。
領兵を率いる騎士団に入ってルーシェッツの町で兵の指揮を執れと言うのだ。
どうやら現在ルーシェッツの町には騎士はおらず、兵隊長がルーシェッツの町兵部隊を指揮しているらしい。
『大公殿下は帝国の近衛師団で勤めたお前たちを大公家の親衛部隊に入れたかったみたいだがな。親衛部隊ともなると帝国の皇族の方々の目にも留まってしまうだろう。御遠慮願ってきた』
『それは……はい』
そうしてアランと二人、そのまま騎士の任命やら騎士団への挨拶やら町兵部隊長の任命やら手続きやらを済ませて先程ルーシェッツに戻ってきた。
実家に一度戻ると言うアランと別れてグレイルは装備を調えるためにまっすぐこの武具店へやって来た。
鎧兜の装備は騎士団のものだが、インナーや武器はそれぞれのものだ。新しい職場に配属ということで傷んだグローブを新調しようと思ったのだが、修理になってしまった。
別に帝都であった嫌なことを忘れるために古いグローブを買い換えようとしたわけではないのだが、リーシャとしては友人が息子に贈ったグローブをとことんまで使って欲しいのだろう。
グレイルが何となく壁に並んだ武器を眺めていると、小柄な少女が武具店に入ってきた。
新しいグローブを買いに武具店に来たグレイルは、何故か武具店の女将リーシャに店番をさせられていた。
『親指の付け根が…』
『ああ…。親指ごと切っちまってここは新しいのにしようかね』
見た目外れかかっている甲の金属部分だけでなく、磨耗して薄くなっている部分を言うと、その部分を切って付け替えるとか言う。
それはもう新しいグローブに買い換えた方が早いのでは…と思うグレイルを見透かしたようにリーシャのお小言が飛んできた。
『新しいのにするならするでいいけどね。これはあんたが帝国の偉いさんに推薦されて帝都に向かうときにルナから贈られたもんだろう。何年も親に顔も見せる暇もないくらい頑張った証拠だ、ほら』
お小言というよりは嫌味か、それとも褒められているのか。リーシャが切り取った親指の付け根のボロボロになった内側をグレイルに見せてくる。
『帝都で何があったかは知らないけどね、あんたの手に馴染んでるこいつが使える内はまだ使ってやりな』
そう言ってリーシャは外した金属部分の角の折れ曲がっているところを金槌で整え始めた。
『……』
グレイルが生まれ育ったこのルーシェッツの町にアランと共に帰ってきたのは10日程前。
この町の代官でもある父のラインハルトも母のルナリアも、数年ぶりに突然帰宅した息子に驚き、前もって連絡しろと叱られはしたものの、息子の帰宅自体は喜んだ。
しかし、その息子の帰宅が休暇等ではなく帝都を半ば追い出されての帰郷だと聞くと、父ラインハルトは翌日グレイルとアランを連れて、事情説明のために侯爵家の領都であるモルシェッツへ向かった。
このルーシェッツからモルシェッツの街までは馬車で4時間程。日帰りどころか休憩無しでも行ける距離だ。
しかし父ラインハルトの従兄弟でもある現侯爵のロットバルトに拝謁し、事の次第をアランの補足付きで説明すると、ロットバルト侯爵はこの大公国の首都である公都ラシネに使いを送り、翌日自らも謁見のために公都へ向かって行った。
当のグレイルたちはと言えば、侯爵が戻るまで侯爵邸に滞在することになった。
父ラインハルトはグレイルとアランを置いてさっさとルーシェッツへ帰ってしまったが。
侯爵が戻るまですることがない二人は、帝都の話をせがむ従兄弟の子供から逃げるために毎日領兵の訓練に参加して過ごしていたが、内心では大公殿下にまで話が行ってしまう程の大事になっていることに戦いていた。
数日後、公都から戻った侯爵は、グレイルたちにこのモルメーツ侯爵家の騎士にならないかと言ってきた。
領兵を率いる騎士団に入ってルーシェッツの町で兵の指揮を執れと言うのだ。
どうやら現在ルーシェッツの町には騎士はおらず、兵隊長がルーシェッツの町兵部隊を指揮しているらしい。
『大公殿下は帝国の近衛師団で勤めたお前たちを大公家の親衛部隊に入れたかったみたいだがな。親衛部隊ともなると帝国の皇族の方々の目にも留まってしまうだろう。御遠慮願ってきた』
『それは……はい』
そうしてアランと二人、そのまま騎士の任命やら騎士団への挨拶やら町兵部隊長の任命やら手続きやらを済ませて先程ルーシェッツに戻ってきた。
実家に一度戻ると言うアランと別れてグレイルは装備を調えるためにまっすぐこの武具店へやって来た。
鎧兜の装備は騎士団のものだが、インナーや武器はそれぞれのものだ。新しい職場に配属ということで傷んだグローブを新調しようと思ったのだが、修理になってしまった。
別に帝都であった嫌なことを忘れるために古いグローブを買い換えようとしたわけではないのだが、リーシャとしては友人が息子に贈ったグローブをとことんまで使って欲しいのだろう。
グレイルが何となく壁に並んだ武器を眺めていると、小柄な少女が武具店に入ってきた。
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