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43 あかるいこころ

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「しょおわっ、しょーわ、しょーわのこどもよ、はあっ。ぼくたちは~」

 よいしょ、と、下りるときに結んできた蔦を掴みつつ、右手の槍逹を杖がわりに山を登って行く。
 背負子には買ったばかりの鍬がある。明日辺りから少しずつ階段を作って行こう。その前に、段差の上から橋を架ければ、川原に降りることなく直接川を渡れるようになるだろう。

(竹藪の道の前じゃなくて、流木の溜まっているカーブのところなら架けられそう)

「おおきなのぞみ、あかるいこころ…♪」

 ここに来て初めて人に会った華は興奮していた。

(まだ胸がどきどきしてる~)

 実のところ、麓に向けて探索を始めて1時間足らずで人の作った道を発見したときだって「ふああああっ!」と、よくわからない奇声をあげてしまったのだが。

 その後、道沿いを探索して人が拓いたらしき広場を見つけて、そこを目印に周辺を探索していたのだが、やはり直接山を下りるには急峻過ぎた。だからこそ里村などないし、だからこそこの道なのだろう。この道を通ってようやく山を越えられる、そんな道。

 だからといって、今日そのまま道の先に行くことはしなかった。
 この、どこに続いているのかわからない道を行くのなら、それこそ数日藤棚さんを空けてもいいように準備してからだと思ったからだ。

 しかし、道沿いを探索しただけでもいろいろ発見があった。

 柑橘類だと思われる果実がたわわに実った木。椿のような大きな花を咲かせている木。日当たりのいい斜面に群生しているクローバー。もしかして…と、クローバーを掻き分けて見ると、土筆がぴょこぴょこ出ていて、大喜びで摘み取ったし何株か採集もした。
 藤棚さんの周りで土筆が生えることを想像すると、によによ笑いが止まらなかった。


 そうこうしているうちに日が中天に差し掛かり、目印の広場に戻って山登り前の補給をしていると、なんと馬の足音が聞こえてきた。
 駆け足だったので、実際には聞こえてきたと思ったら姿が見えた、位だったのだが。

 外国人、聞いたことのない言葉、初めて見る貨幣。

 たくさん、驚くことばかりで。

(でも、最初に優しい人たちに会えて良かった)

 敵兵じゃなくても怖い人や悪い人はきっといる。そんなに悪い人でなかったとしても、華が独りでいたら悪い事を考える人もいるだろう。

 なのにあの人たちときたら。

 突然出現した露店を思い出して、華は笑ってしまう。

 そして覚えた言葉を言ってみる。

『お店。リーン。塩。布。これください』

(すごい。里村を見付けてもお買い物ができちゃう)

 蛇の皮もそうだ。
 “落ち化蛇”というらしいあの蛇の皮が高く売れたのには驚いた。
 鞣すのはきっと職人さんがいるのだろうけど、少し手袋を作るのに使ってしまったのに。
 ここにしかいない珍しい蛇だと言っていたが、いろいろ買ってもまだ手元には3千リーン近くある。その上鱗も高価買取りしてくれるとか。

「数百枚はあったよねえ…」

 総額いくらになるのか想像もつかない。
 お金も塩もうれしいが、それ以上にここの言葉を教えてもらえた。むしろ授業料が必要なのではないかと思う

 次の約束もした。
 その間も毎日降りて採集だったり階段を作ったりするつもりでいる。

「いかうよいかう、あしなみそろへて♪」
 たららら、たらら、たらららら…
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