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33 見ればわかる
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『見事だな』
『ああ…すげえな。尊敬するわ…』
商隊の護衛メンバーと丁稚のカイは、手分けして昼餐の準備と馬の世話をしていた。
商隊といっても隊の主は商会長の叔母であるファーナで、他はファーナの夫のアルベルトと従業員のカイ、それと護衛のみ。護衛の方が人数が多いが、護衛も全員商会の従業員なので、今のように少女の相手をするために丁稚のカイと護衛チームの紅一点であるシアが入れ替わったりすることもある。
この休憩所を目指す商隊に、先行役のロイが先客の少女が独りでいることを報せてきた時は全員が驚いていた。
山脈を抜けるこの街道はそもそも利用者が少ない。大公国とオールズマール王国を直接繋ぐ唯一の街道ではあるが、この二国間での国交はほぼ無いことと、神龍湖に沿って遠回りすれば山越えをしなくてもいい街道があることで、この街道ですれ違う人間がいることがまず珍しいのだ。
利用者が少ないために街道は草ぼうぼう、休憩所のすぐ先にある渓に架かる橋も壊れていてもしばらく気付かれないこともある。
敢えてそこに轍を残したがるファーナたち行商人がいなければ、早々に草木に埋もれて無くなってしまうのではないかと思われる街道なので、そこにある休憩場所も、山脈の中にようやくあるちょっとした空間をさらに木を少し伐ったりして拡げただけの草っ原(小)で、切り倒された木が転がしてあるだけの小屋も何もない場所だった。
そんな場所にカイより小さな少女が独りでいるというだけでも驚きなのに、ロイによると、異国の言葉を話すらしい。
(((何故……⁉)))
『意味わからん』
『妖精さんにでも会ったんじゃね?』
『狐狸の妖獣の類いに騙される昔話があってね?』
『…真面目に役目を果たしている俺様に酷いなお前ら…』
ロイの(小さな可愛い少女の)報告を聞いて、俄然張り切ったのはファーナだ。
早くはやく急げいそげ(逃がすな)とばかりに隊を進めようとする。
因みに、幌馬車2台はそれぞれ二頭立てなので、山道でもへっちゃらで進んで行ける。
ファーナの勢いに全員が不安になった。特にロイが。
『奥様ー⁉聞いてました?女の子独りしかいないんですってば』
『あ~、ファーナ。ちょっと落ち着こうか。ロイ、その子はこちらの規模は知らないよね?』
ファーナの隣で手綱を握る夫のアルベルトが、馬を駆り立てようとするファーナをなだめてロイに尋ねるが、ロイの返答は予想を外れていた。
『いえ、怖がらせるといけないと思ってこちらの編成は伝えてあります』
『は?どうやってだい?』
『異国の言葉を話す子にどうやって隊の編成を伝えるんだ』
『あー。えーと、絵とか、描いて?地面に』
『『『なるほどー!』』』
ロイの説明に全員が納得したが、納得しただけでは済まなかったのがファーナだった。
意思の疎通ができると知ると、早くはやく急げいそげが始まった。
なだめるのに失敗したアルベルトはそれでも休憩場所までの道程で、ファーナの勢いはおそらく少女を怖がらせるだろうから少し落ち着けと諭し、先頭の護衛アレックスと前の馬車の護衛シアの位置を入れ換えたりした。
あまり意味がなかったが。
『まあ!まあ、まあ!ロイの言った通りだわ!なんてかわいらしいお嬢さんなの~!』
勢い良く捲し立てられた少女は、急接近する老女に向かってゆっくりお辞儀をした。
落ち着け。そこでトマレ。
数秒。またゆっくり頭を上げた少女の姿を見れば、全員がその動作…お辞儀に込められた意図を理解できた。ファーナも含め。
爪先と指を揃えたゆっくりとした美しい動作は、ファーナたちの知る“頭を下げる”だけのそれとはまったく違っていた。
少女に突撃しそうだったファーナの足が止まった。
『ああ…すげえな。尊敬するわ…』
商隊の護衛メンバーと丁稚のカイは、手分けして昼餐の準備と馬の世話をしていた。
商隊といっても隊の主は商会長の叔母であるファーナで、他はファーナの夫のアルベルトと従業員のカイ、それと護衛のみ。護衛の方が人数が多いが、護衛も全員商会の従業員なので、今のように少女の相手をするために丁稚のカイと護衛チームの紅一点であるシアが入れ替わったりすることもある。
この休憩所を目指す商隊に、先行役のロイが先客の少女が独りでいることを報せてきた時は全員が驚いていた。
山脈を抜けるこの街道はそもそも利用者が少ない。大公国とオールズマール王国を直接繋ぐ唯一の街道ではあるが、この二国間での国交はほぼ無いことと、神龍湖に沿って遠回りすれば山越えをしなくてもいい街道があることで、この街道ですれ違う人間がいることがまず珍しいのだ。
利用者が少ないために街道は草ぼうぼう、休憩所のすぐ先にある渓に架かる橋も壊れていてもしばらく気付かれないこともある。
敢えてそこに轍を残したがるファーナたち行商人がいなければ、早々に草木に埋もれて無くなってしまうのではないかと思われる街道なので、そこにある休憩場所も、山脈の中にようやくあるちょっとした空間をさらに木を少し伐ったりして拡げただけの草っ原(小)で、切り倒された木が転がしてあるだけの小屋も何もない場所だった。
そんな場所にカイより小さな少女が独りでいるというだけでも驚きなのに、ロイによると、異国の言葉を話すらしい。
(((何故……⁉)))
『意味わからん』
『妖精さんにでも会ったんじゃね?』
『狐狸の妖獣の類いに騙される昔話があってね?』
『…真面目に役目を果たしている俺様に酷いなお前ら…』
ロイの(小さな可愛い少女の)報告を聞いて、俄然張り切ったのはファーナだ。
早くはやく急げいそげ(逃がすな)とばかりに隊を進めようとする。
因みに、幌馬車2台はそれぞれ二頭立てなので、山道でもへっちゃらで進んで行ける。
ファーナの勢いに全員が不安になった。特にロイが。
『奥様ー⁉聞いてました?女の子独りしかいないんですってば』
『あ~、ファーナ。ちょっと落ち着こうか。ロイ、その子はこちらの規模は知らないよね?』
ファーナの隣で手綱を握る夫のアルベルトが、馬を駆り立てようとするファーナをなだめてロイに尋ねるが、ロイの返答は予想を外れていた。
『いえ、怖がらせるといけないと思ってこちらの編成は伝えてあります』
『は?どうやってだい?』
『異国の言葉を話す子にどうやって隊の編成を伝えるんだ』
『あー。えーと、絵とか、描いて?地面に』
『『『なるほどー!』』』
ロイの説明に全員が納得したが、納得しただけでは済まなかったのがファーナだった。
意思の疎通ができると知ると、早くはやく急げいそげが始まった。
なだめるのに失敗したアルベルトはそれでも休憩場所までの道程で、ファーナの勢いはおそらく少女を怖がらせるだろうから少し落ち着けと諭し、先頭の護衛アレックスと前の馬車の護衛シアの位置を入れ換えたりした。
あまり意味がなかったが。
『まあ!まあ、まあ!ロイの言った通りだわ!なんてかわいらしいお嬢さんなの~!』
勢い良く捲し立てられた少女は、急接近する老女に向かってゆっくりお辞儀をした。
落ち着け。そこでトマレ。
数秒。またゆっくり頭を上げた少女の姿を見れば、全員がその動作…お辞儀に込められた意図を理解できた。ファーナも含め。
爪先と指を揃えたゆっくりとした美しい動作は、ファーナたちの知る“頭を下げる”だけのそれとはまったく違っていた。
少女に突撃しそうだったファーナの足が止まった。
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