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27 山中の煙

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「狼煙か?」

 山合に煙が見えた気がしてグレイルは目をすがめる。
 隣の騎馬の男はその呟きを聞いて前方の山を見上げる。山脈のこちら側で上げる狼煙とは…?
 ふたりして馬を進めながら見ていると、確かに立ち上る煙が見える。

「いや…。ちがうな」

 はっきりと見えてきたその煙は狼煙ではないようで、グレイルは自分でそれを否定した。
 しかし誰かがそこにいて火を起こしているのは間違いない。

「あんなところで何してるんだ…?」

「何って…。こんな町も村もないしかもあんな山の中に何があるって?樵だってあんなところまではいかないだろうし」

 煙が見えているのは山の中腹よりも上の方で、この周囲には町どころか村もない。そんな場所で狩りやら採集やらはしないだろう。
 強いて言うならば、神龍湖へ注ぐ川の源流があの辺りにあるのではと云われているのを思い出すくらいだ。

「山賊でも住み着いているんじゃないだろうな」

「それならこの先で襲撃されるかもな。賊でも捕まえて手土産にすれば少しは帰りやすくなるんじゃないのか?」

「……」

 隣の騎馬の男…アランに言われ、帰郷に関するグレイルの複雑な心境がこの幼馴染には丸ばれであることを悟るが、まあいつものことでもあった。

「…お前だって…。なんでお前まで師団を抜けるんだ。せっかく…」

「ばっか。俺はお前に引っ付いて師団に入ったの。そもそもお前が行くのでなけりゃ帝都にだって行かねっつの。って何度もいってんだろ!」

 キレ気味に返される。
 同じこと何度も言わせんなと。
 しかし師団にいられなくなったのも、何年も住んだ帝都を出て帰郷するのもグレイルは自分のこと…自分の疵だと思っている。いくら幼馴染といえどそんなものにまで付き合う義理はないはずなのだ。グレイルに付き合って帝都に行ったのだとしても、師団にまで入ったのはアラン自身が努力を重ねた結果なのだから。
 それなのに今まで築いてきた地位を簡単に捨てようとする…いや、捨ててしまったのだこの男は。付き合いだなどと言って。

「なんで怒ってんだ…」

「怒るっつーの!俺はずっと怒ってんだ!なんで馬鹿皇子の仕出かしたことでお前が責任とらされるんだ。侍従も近衛もみんなお前一人に泥被せやがって…!子供じゃあるまいし責任くらい本人にとらせろよ‼」

(いや、俺達からしてみたらまだまだ子供だろう)

 どうやらグレイルが理不尽に追い出されたことにずっと腹を立ててくれていたようだった。
 確かに帝国の皇子ともあれば、ただの・・・子供ではない。
 その振りかざす力に押し流されて、どうやらここまでずっと俯き加減で過ごしていたようだと自覚する。
 急ぎの旅ではないとはいえ、馬の歩みも遅かった。どんだけだ。

(こんなの俺らしくないな!)

 自分の為に腹を立ててくれる友に、気付かせて貰った。
 自分に恥ずべきことは何一つない。
 進む道の先には懐かしき故郷。
 大層な土産もいらない。胸を張って帰ろう。

「もういいから少し急ごうぜ。急げば日が暮れる前には町に入れるだろう」

 いまだにぷりぷりとお怒りの友を宥めて急ごうと声を掛ける。

「よくねーよ!」

 友のお怒りは当分継続のようだ。
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