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6 川を渡る

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川向こうの竹を採集したら一旦藤棚さんのところに戻ろう。

 そう決めて、華は石がごろごろしている川原に入り、川を覗いてみる。

 華のいる滝壺から流れ出ている川のあたりは岩だらけで、見える限りの川底にも石がごろごろしているがそんなに深くはなさそうだった。深いところでもおそらくは華の膝のあたりまで。
 川幅も数メートルで、途中に川の流れを分けて姿を出しているような大きな岩がいくつもあるので、伝って渡れそうだ。

 もんぺの裾を太ももまで捲り上げるが、靴を脱ごうかどうか迷ってしまう。
 この日、華は学校で畑を作る気でいたので、はりきってゴム底の地下足袋を履いて出てきたのである。このまま川に入れば当然脛まである布が濡れてしまう…。
 結局わずかに迷いはしたものの、地下足袋の中に履いている靴下だけカバンの中に入れて、再び地下足袋を履き直してから川を渡るのだった。

「つ、冷たい…」

(そうだった…。まだ3月だもの。雪解け水?冷たいはずだよ~)

 華にはこの山に来る前と『季節が違うかも』という発想はない。
 実際に山の様子は夏でも真冬でもなく、木々は葉を落としてはいるが気温は穏やかで、季節に関して華が違和感を抱くようなことはなにひとつなかったのだ。


 あまりの水の冷たさに急いで川を渡ってしまうとすぐさまこはぜを外して地下足袋を脱ぐ。先にカバンから手拭いを出して足を拭いてから地下足袋を絞って履き直す。冷たい。

「早く戻って焚き火しよっ!」

 足の冷たさにぴょこぴょこ足踏みしながら小刀こがたなを取り出す。
 竹やぶに近づかなくてもいくつかは川原の石の間から生えているので、ひとまずそれを伐っていこうと刃を当てるのだが、さすがに小刀程度ではなかなか切れない。竹自体は太さが2㎝無いほどなのだが、樹にちょっと印を付ける時のようにはいかなかった。

 結局早く戻って焚き火にあたりたい華は、ある程度の切り込みを入れると力任せに折るという方法で竹を採っていった。
 そうなると早いもので、華の身長よりも少し高いくらいの竹をばっさばっさと折り倒していく。

 20本程採ると川原に生えている竹は粗方無くなったので、華は拠点に戻る事にした。
 葉のついたままの竹を4、5本束ねて持って、岩を伝いながら川を渡る。
 何往復かしながら、どうにかしてここに橋を架けられないものかと真剣に考えていた。

(その前に藤棚さんを住めるお家にしないと…)

 その為に使えそうな蔦や竹には困らなさそうだが、今日はもう川を渡りたくはない華だった。

 最後の竹を持って川を渡る。
 竹は川に浸けずに岩の上を滑らせて先に川を渡す。華が川の中に立って竹がばらけないように岩の上を滑らせていると、地下足袋のふくらはぎに何かが触れた気がした。
 冷たい川の水で足の感覚が鈍くなってはいたが、川の流れを感じたのとは違って、流れの反対側から何かがぶつかった気がしたので足元を見てみても何もない。

 しかし、もしかしたらと思い川の中をじっと見つめていると、いた。

「お魚…」
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