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八(二)
しおりを挟む「あーー・・・最高。」
周りは竹林のようになって、壁に包囲されているので海が眺められたりするわけではないが、木陰のさわやかな夏の風に吹かれ夏空を仰ぎながら浸かる温泉は、最高以外の言葉が見つからなかった。
社長、あのときは殺意を抱いたものだが、こうなるともはや感謝の念が湧いてくる。みんなが都会の雑居ビルにある狭いオフィスで、クーラー病にかかりながら猫背でせわしなく働くあいだ、俺ひとりに、こんなに開放的で素晴らしい海辺の休暇をありがとう。俺はこれからもあんたについてく、そう思った。
こういう古い場所だから、当然のごとくうつむいて立ってる赤い着物の貞子ヘアーの女を廊下で見かけたが、砂浜のゾンビに比べりゃ屁でもない。なんせただ立ってるだけなんだからな。まあ、夜になったら枕元とかに来るんだろう。
だが俺は宿泊客じゃないので何の心配もいらない。そのとき、風呂場に音もなく人影があらわれた。屁でもないと言っときながらあの女かと思ってビビったが、人影は手ぬぐいを片手にしたアラタであった。
「な、なんだ……驚いた。」
「あの廊下の女性かと思ったでしょう。」
「……おう。」
なぜだ。野郎の裸なのに、直視できなかった。
アラタの身体は透き通るように真っ白で細い。例えは非常に悪いが、夜釣りで釣ったイカのような透明さと細さだった。同居はしてるが裸を見たことはない。アラタは夏だからとだらしない格好もしない。せいぜい寝てるときに寝巻きの浴衣が少しはだけるくらいだ。俺は時々明け方目がさめると、それをそっと直してる。
掛け湯をする後ろ姿。うなじから尻にかけてのライン。危険な曲線だ。だがこうして見てみると、アラタはやっぱりものすごく年下なんじゃないかと感じる。青年というより、まだ少年だ。大人の男としての厚みや角ばった部分が無く、薄っぺらい肉体の肩や肘や腰の骨のおうとつに、ほんのわずかな男らしさがのぞく程度だ。
つま先から順にゆっくりと湯に入り、不自然に目をそらす俺の隣で、アラタが息を吐いた。
「気持ちいい……。」
大仏を見て大きいとつぶやいたときと同じ、なぜだか妙にいやらしく感じる。
俺の心がすさんでいるせいだろうか。だけどアラタも、いちいちどきりとさせる仕草が妙にうまい。うまいと言っても故意じゃないが、俺の下心を度々くすぐるのには参る。
「アラタ、いつも冷えてるもんな。身体。」
「そうですか?」
「手とかさ……冷え性?」
「そうかもしれないです。」
湯の中でそっと手を触ってみる。セクハラというかチカンみたいな触り方だが、アラタは気味悪がりもせず、俺の手を弱く握り返した。すでに手をつないで長谷の長い道のりを歩いたせいか、もう俺の手に抵抗は無いようだった。
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