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ⅶ
しおりを挟む私はクロ。
赤子のころに梅水神社の柿の木の下で、取っ手のついたカゴに入れられて泣いていた。泣いてたのは落ちた柿が頭にごつんと当たったから。
私を見つけたシロは、自分のなわばりで赤子の私があんまりにもやかましいから、ノドに噛みついて喰い殺そうとしたという。だがそれを陰で見ていた社長に制されて、どうにか喰われずに生きながらえたのだ。
私の母はサノ。
ひとりで死んで私を置いてきぼりにしたが、影も形もない私を、真っ白に光る手であの暗闇から救い出してくれたのも、彼。
死はいつも、キツネにも人間にも平等に、この背中に張り付いている。すなわち我々は生きているのではなく、生かされている。
私は私ではない。
当然のことだ。誰しも自分などではない。生きる意志とは、意思と無関係に生み出されてから根付くのだ。
私は、あらゆるものに生かされてここまでやって来た。
喜びも悲しみも、ひとりぼっちのあの暗闇では、永ごう感じることなどできなかった。
天地もない恐怖の中に沈んでいたからこそわかる。私は自分で生きてきたのではなく、生み出され、そして生かされてきのだ。
往来で出会った全ての人を、私は永遠に忘れない。消えてしまおうとも、必ずどこかで繋がって、私のもとに帰ってくる。
ゲーテと笑い合う西の横顔に浮かぶ、愛しい平八の面影を見る。
クロはそれをぼんやり眺めて少し微笑むと、遠い過去をまぶたの裏側に映すように、そっと目を閉じた。
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